平成23年11月25日

国税庁課税部長 殿

東京電力株式会社

1 照会の趣旨

今般の福島第一・第二原子力発電所の事故(以下「本件事故」といいます。)により被害を受けられた方々に対しまして、現在、被害の状況に応じて賠償金のお支払を開始しているところです。
 本件事故による賠償に関しては、原子力損害賠償紛争審査会において、本年8月5日に「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」(以下「中間指針」といいます。)が取りまとめられました。
 当社におきましても、この中間指針の内容を踏まえ、確定した損害に対する賠償に向けた取組を進めることとしており、中間指針に示された損害の類型や損害の類型ごとの損害項目、その範囲等に従い、8月30日に避難等対象者への賠償基準を、9月21日に法人及び個人の事業に関する賠償基準をそれぞれ定め、公表しています。
 今後、これらの賠償基準に従って、被害を受けられた方々に順次賠償金をお支払していくこととなりますが、賠償金を受けられた場合の税の取扱いを明らかにしておくことにより、被害を受けられた方々に出来る限りご不便をお掛けすることのないよう、個人の方が賠償金を受け取られた場合の所得税の課税関係について、下記のとおりの取扱いでよろしいか照会いたします。

〔避難等対象者への賠償金(事業に関するものを除きます。以下同じ。)〕

  • (1)避難生活等による精神的損害、避難・帰宅費用、一時立入費用、生命・身体的損害、検査費用(人)、家事用の資産に係る検査費用(物)としてお支払する賠償金については、非課税所得に該当し、所得税の課税関係は生じない。
  • (2)就労不能損害としてお支払する賠償金のうち、給与等の減収分に対する賠償金(転居費用及び通勤費増加額としてお支払する部分を除いたもの)については、一時所得に係る収入金額となる。

〔個人の事業に関する賠償金〕

  • (3)営業損害、業務用の資産又は棚卸資産に係る検査費用(物)としてお支払する賠償金については、事業所得等に係る収入金額となる。
  • (4)上記(3)の場合において、事業所得等に係る収入金額として算入すべき時期は、一般的には、被害を受けられた方が賠償金のお支払に関する合意書を当社あて送付したことにより、当社との間で合意が成立したときとなるが、継続して、その補償対象期間に応じそれぞれの年分の事業所得等に係る収入金額に算入し、これに基づいて申告しても、差し支えない。

2 照会に係る取引等の事実関係

(1) 賠償金の請求からお支払までの標準的な流れ

被害を受けられた個人の方に係る賠償金のご請求及びお支払は、概ね次の手順で行われることを予定しております。

賠償金の請求からお支払までの標準的な流れフロー図

なお、賠償金のご請求対象期間は、第1回目が本年3月11日から8月31日まで、第2回目が9月1日から11月30日までとし、以降、3か月ごとにご請求をしていただき、お支払していく予定です。
また、ご請求をされた方にお送りする「お支払い予定額のお知らせ」には、補償対象期間及び精算する仮払補償金の額が記載されるほか、その算定明細書には、下記(2)の損害項目ごとのお支払金額が明記されます。

(2) 賠償金のお支払対象となる項目

〔避難等対象者への賠償金〕
損害項目 賠償内容
避難生活等による精神的損害 「避難等」によって被られた精神的苦痛に対する損害  
避難・帰宅費用 交通費 宿泊費 家財道具移動費用
一時立入費用 交通費 宿泊費 家財道具移動費用 除染費用
生命・身体的損害 医療費 入通院慰謝料 証明書類取得費用 交通費 宿泊費 生命・身体的損害による就労不能損害
就労不能損害 給与等の減収分(就労不能に係る損害) 転居費用(家財道具移動費用、交通費、宿泊費、礼金・仲介手数料) 通勤費増加額
検査費用(人) 検査費用(健康診断費用、放射線検査費用) 交通費 宿泊費
検査費用(物) 検査費用  

(注) 中間指針で示された「財物価値の喪失又は減少等」については、避難等対象区域の解除日程が確定していないことや除染方法が明らかになっていないことなどから、本件事故の収束を踏まえつつ、継続的に検討を行った上で、改めてお示しすることとしています(個人の事業に関する賠償金も同じです。)。

〔個人の事業に関する賠償金〕
損害項目 賠償内容
営業損害 避難指示等、航行危険区域等の設定、出荷制限指示等、操業自粛要請等、政府が本件事故に関し行う指示等、風評被害、間接被害による減収分(逸失利益) 追加的費用
(放射線検査費用農作物・商品等の廃棄費用 等)
検査費用(物) 出荷制限指示等、政府が本件事故に関し行う指示等に基づく検査費用

3 照会者の求める見解となることの理由

(1) 損害賠償金に係る所得税法の規定

  • イ 所得税法上、損害賠償金のうち次のものは非課税とされています(所法9丸1十七、所令30一、二)。
    • (イ) 心身に加えられた損害につき支払を受ける慰謝料その他の損害賠償金(その損害に基因して勤務又は業務に従事することができなかったことによる給与又は収益の補償として受けるものを含みます。)
    • (ロ) 不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金
  • ロ 一方、損害賠償金であっても、次のものは非課税所得に該当せず、事業所得等の収入金額に算入することとされています(所令30本文かっこ書、94丸1)。
    • (イ) 業務の全部又は一部の休止、転換又は廃止その他の事由によりその業務の収益の補償として取得する補償金
    • (ロ) 棚卸資産等につき損失を受けたことにより取得する損害賠償金
    • (ハ) 各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額をほてんするためのもの

(2) 当社がお支払する賠償金の課税関係(概要を別紙にまとめています。)

当社がお支払する賠償金について、その賠償内容及び上記(1)の損害賠償金に係る所得税法の規定を踏まえると、次のとおり取り扱われることになると考えられます。
 なお、上記2(2)の(注)で述べたとおり、「財物価値の喪失又は減少等」に関する賠償基準については、現在、本件事故の収束を踏まえつつ、継続的に検討を行っているため、具体的な賠償の内容が確定した後、必要に応じて改めて照会することとしたいと考えております。

〔避難等対象者への賠償金〕

イ 避難生活等による精神的損害
避難生活等による精神的損害に対する賠償金は、避難等によって被られた精神的苦痛に対する損害について、避難の状況や期間に応じてお支払するものであり、心身に加えられた損害につき支払を受ける慰謝料その他の損害賠償金(所令30一)に該当し、非課税となります。
ロ 避難・帰宅費用
避難・帰宅費用に係る賠償金は、避難等対象者の方が避難又はご帰宅に伴い負担された交通費、宿泊費、家財道具の移動費用についてお支払するものであり、不法行為その他突発的な事故により資産(財産)に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金(所令30二)に該当し、非課税となります。
ハ 一時立入費用
一時立入費用に係る賠償金は、避難等対象者の方が、一時立入の際に負担された交通費、宿泊費、家財道具の移動費用、除染費用についてお支払するものであり、不法行為その他突発的な事故により資産(財産)に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金(所令30二)に該当し、非課税となります。
ニ 生命・身体的損害
生命・身体的損害に対する賠償金は、避難等対象者の方が避難等を余儀なくされたために
  • (イ) 傷害を負い、健康状態が悪化し、疾病にかかり、あるいは死亡された場合
  • (ロ) 健康状態の悪化等を防止するために医療費等を支払った場合
に該当することとなったときに、その生じた損害の内容に応じて、
  • (a) 医療費及びその付随費用
  • (b) 傷害、健康状態の悪化若しくは疾病により就労不能となった場合の給与等の減収分(生命・身体的損害による就労不能損害)
  • (c) 入通院慰謝料
をお支払するものです。
 これらの賠償金は、心身に加えられた損害につき支払を受ける慰謝料その他の損害賠償金、又は心身に加えられた損害に基因して勤務又は業務に従事することができなかったことによる給与又は収益の補償として受けるもの(所令30一)に該当し、非課税となります。

(注) 「放射線被曝による損害」については、ご請求があった場合は個別に対応を協議させていただくこととしているため、上記2(2)の損害項目には掲げておりませんが、この場合に支払われる賠償金は、生命・身体的損害に対するものですので、上記と同様に心身に加えられた損害につき支払われるものに該当し、非課税となります。

ホ 就労不能損害
就労不能損害に対する賠償金は、避難等対象区域に住居又は勤務先があり、本件事故により就労不能となったことによる給与等の減収分や転居費用及び通勤費増加額をお支払するものです。
 就労不能損害に対する賠償金のうち、給与等の減収分に対する賠償金は、被害を受けたられた方の逸失利益を補償するものであるため、上記(1)イの(イ)又は(ロ)の非課税所得には該当しません。この場合、給与等の減収分に対する賠償金であっても、雇用主以外の者から支払われるものであることから、給与所得には該当せず、一時所得に係る収入金額になると考えられます。
 また、一時所得に係る収入金額として算入すべき時期は、被害を受けられた方が賠償金のお支払に関する合意書を当社あて送付したことにより、当社との間で合意等が成立したときになると考えられます。
 なお、一時所得の金額の計算においては、特別控除として50万円が控除され、さらに控除後の金額の2分の1が課税対象となるため、一般的には給与所得として課税される場合よりも税負担は軽減されることになると考えられます。
 一方、就労不能損害に対する賠償金のうち、転居費用及び通勤費増加額に係る賠償金は、勤務場所の変更や転職などにより支出した費用の実費弁済として支払われるものですので、課税関係は生じません。
ヘ 検査費用(人)
検査費用(人)に係る賠償金は、避難等対象者の方が、本件事故が生じたことにより受診・負担された健康診断費用及び放射線検査費用、検査に伴う交通費及び宿泊費についてお支払するものであり、心身に加えられた損害につき支払を受ける慰謝料その他の損害賠償金(所令30一)に該当し、非課税となります。
ト 検査費用(物)のうち家事用の資産に係るもの
検査費用(物)に係る賠償金は、本件事故時に避難等対象区域にお住まいの方が所有している「避難等対象区域」の財物(業務用資産や棚卸資産を除きます。)につき、本件事故が生じたことにより負担された放射線検査費用についてお支払するものであり、不法行為その他突発的な事故により資産(財産)に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金(所令30二)に該当し、非課税となります。

〔個人の事業に関する賠償金〕

チ 営業損害
営業損害に対する賠償金は、避難指示等、航行危険区域等の設定、出荷制限指示等、操業自粛要請等、政府が本件事故に関し行う指示等、風評被害又は間接被害による減収分(逸失利益)、及び放射線検査費用、農作物や商品等の廃棄費用等の追加的費用についてお支払するものです。
 そのため、上記(1)ロの(イ)から(ハ)の事業所得等を生ずべき業務の収益の補償、棚卸資産等の損失に対する損害賠償金又は追加的費用として必要経費に算入される金額をほてんするためのもの(所令30本文かっこ書、94丸1)に該当し、事業所得等に係る収入金額となります。
 なお、その賠償金が事業所得等に係る収入金額となるとしても、追加的費用に係るものは、追加的費用が必要経費として収入金額から控除されるので、実質的に課税は生じないこととなるほか、逸失利益に対するものについても、減価償却費等の必要経費を控除した残額が所得として課税対象となりますので、本件事故による被害がなかった場合の所得計算と異なるものではないと理解しております。
リ 検査費用(物)のうち業務用の資産又は棚卸資産に係るもの
検査費用(物)に係る賠償金は、出荷制限指示等に基づく検査費用についてお支払するものであり、上記(1)ロの(ハ)の必要経費に算入される金額をほてんするためのもの(所令30本文かっこ書)に該当し、事業所得等に係る収入金額となりますが、その検査費用が必要経費として収入金額から控除されるため、実質的に課税は生じないこととなります。

(3) 賠償金が事業所得等の収入金額となる場合の算入すべき時期

賠償金の事業所得等に係る収入金額として算入すべき時期については、権利確定という観点からは、一般的には、被害を受けられた方が賠償金のお支払に関する合意書を当社あて送付したことにより、当社との間で合意等が成立したときになると考えられます。
 ただし、被害を受けられた個人事業主の方が、継続して、その補償対象期間に応じそれぞれの年分の事業所得等に係る収入金額に算入し、これに基づいて申告したとしても、費用と収益の期間対応という観点からすれば、このような取扱いをすることも、差し支えないと考えられます。