(別紙)
健発0630第2号
平成23年6月30日

国税庁課税部長
 西村 善嗣 殿

厚生労働省健康局長
外山 千也

1 照会の趣旨

現在、全国の10地方裁判所において係属しているいわゆるB型肝炎訴訟については、札幌地裁から示された所見に基づき、本年6月28日に国と全国原告団・弁護団の間で基本合意書が締結されたところです。今後、裁判所における原告の方それぞれの証拠調べ等を経て、国と和解が成立した方(以下「和解対象者」といいます。)から順次、和解金等(下記2(2)イの(イ)から(ホ)に掲げるものをいいます。以下同じ。)をお支払いすることとなります。
 これらの和解金等の課税関係について、下記のとおり解して差し支えないか照会します。

  • (1) 和解対象者が支払を受ける和解金等について、所得税の課税関係は生じない。
  • (2) 和解対象遺族(和解対象者のうち、亡くなられた方の遺族に対して和解金等を支払うことが相当と判定された場合の当該遺族。以下同じ。)が支払を受ける和解金等について、相続税の課税関係は生じない。

2 照会に係る取引等の事実関係

今回の和解については、上記基本合意書に基づき、次のとおりの内容で実施することとしています。

(1) 基本合意書の趣旨

B型肝炎訴訟においては、先行訴訟である平成18年最高裁判決において、集団予防接種等(集団予防接種及びツベルクリン反応検査をいいます。以下同じ。)における注射器(注射針及び注射筒等。以下同じ。)の連続使用によるB型肝炎ウイルスの感染について国の責任が認められ、これと同様の状況にあるとして、現在、700名以上の原告の方が、全国で訴訟を提起されているところです。
 国は、昨年5月に和解協議の席について以来、裁判所の仲介の下、和解協議を進めてきましたが、平成23年1月11日に札幌地裁より「国の集団予防接種等に関する厚生行政の過誤による被害の救済策」として第一次所見が示され、その中で、「本事案について、国が損害賠償責任を負うべき場合のあることは、既に最高裁判所の判例によって、明らかにされている」とされ、第一次所見で示されなかった論点についても同年4月19日に第二次所見が示されました。
 その後、6月28日にこれらの所見を基とした「基本合意書」を国と全国原告団・弁護団の間で締結したところです。
 今後、この「基本合意書」に基づいて、各原告と個別に和解協議を進め、和解が成立した方(和解対象者)から順次、国から和解金等を支払うこととなります。

(2) 基本合意書の内容

イ 和解金等の額等

  • (イ) 病態の区分に応じて支払う和解金の額
     和解対象者の病態等の区分に応じ、次に掲げる金額(和解対象遺族に係る事案にあっては、相続分により按分した金額)を支払います。
    和解金額 1死亡、肝がん又は肝硬変(重度) 3600万円
    2肝硬変(軽度) 2500万円
    3慢性肝炎(5又は6に該当する方を除く) 1250万円
    4無症候性キャリア(7に該当する方を除く) 600万円
    除斥期間(20年)を経過した方の取扱い 慢性肝炎 5現在も慢性肝炎の状態にある方等 300万円
    6現在は治癒している方(5に該当しない方) 150万円
    7無症候性キャリア 50万円
    • (注1) 無症候性キャリアとは、B型肝炎ウイルスに感染しているものの、慢性肝炎等の症状が現われていない方をいいます。
    • (注2) 上記表2から4までに該当するとしてそれに応じて同表右欄の和解金の支払を受けた方が、その後の症状の進展により同表における上位の病態の区分に新たに該当することとなった場合において、その事由の立証があったときには、その方に対し、新たな病態等の区分に応じた同表右欄の和解金と支払済みの和解金との差額を支払います。
    • (注3) 上記表5から7までに該当するとしてそれに応じて同表右欄の和解金の支払を受けた方が、その後の症状の進展により同表における上位の病態の区分に新たに該当することとなった場合において、その事由の立証があったときには、その方に対し、新たな病態等の区分に応じた同表右欄の和解金を支払います。
  • (ロ) 除斥期間を経過した無症候性キャリアである和解対象者に対しては、上記(イ)に加え、和解成立後の定期検査等に係る以下の1から4までの費用を支払います。
     ただし、以下の費用について、社会保険の給付がある場合には、自己負担分に限り、別途、公費により助成がされた場合には、当該助成された費用を除いた額とし、1から3までの費用は、医科診療報酬点数表及び使用薬剤の薬価(薬価基準)によるものとします。
    • 1 当該和解対象者が慢性肝炎の発症を確認するため、所定の定期検査を受けた際の検査費用及び初・再診料に係る費用
    • 2 当該和解対象者が子を出産した場合にその子に対するB型肝炎ウイルスの母子感染を防止するために実施する所定のワクチンの投与等及び検査費用並びに初・再診料に係る費用
    • 3 和解成立後に新たに当該和解対象者の同居家族になった者(前記2の子を除く。)に対するB型肝炎ウイルス感染を防止するために実施する所定のワクチンの投与及びこれに附帯する検査が行われた場合のその投与及び検査費用
    • 4 前記1の定期検査を受けるための交通費その他の費用として、年2回を限度として定期検査1回につき1万5000円
  • (ハ) 母子感染、父子感染及びジェノタイプに関する検査費用の支払
    • 1 原告の父親及び原告の各B型肝炎ウイルスの塩基配列検査結果を用いて因果関係を判断した場合には、国は、6万5000円を当該検査等に要した費用相当額(父親の血液検査費用を含む。)として支給します。
    • 2 原告の母親及び原告の各B型肝炎ウイルスの塩基配列検査結果を用いて因果関係を判断した場合には、国は、6万3000円を当該検査等に要した費用相当額として支給します。
    • 3 B型肝炎ウイルスのジェノタイプの検査結果を用いて因果関係を判断した場合には、国は、検査の種類に応じ、以下の金額を検査費用相当額として、支給します。
      検査の種類 1件当たりの支給額
      HBVジェノタイプ判定検査(社会保険の給付がある場合) 2300円
      HBVジェノタイプ判定検査(社会保険の給付がない場合) 8500円
      HBVサブジェノタイプ判定検査 15000円
    • 4 母子感染、父子感染及びジェノタイプに関する検査等に要した費用について、上記1ないし3で示した金額を超えた場合、当事者双方は、上記の金額との差額分を支給することの可否について、基本合意書に基づき協議の上、支給が可とされた場合には、当該差額分を支給します。
  • (ニ) 弁護士費用相当額の支払
     国は、和解対象者に対し、弁護士費用相当額として、前記(イ)の和解金に対する4%(平成23年1月11日以前に提訴した和解対象者については10%)の割合による金員を支払います。
  • (ホ) その他の費用の支払
     国は、全国B型肝炎訴訟原告団(代表者)に対し、既存訴訟に係る問題の解決のため、5億円を支払います(以下、当該原告団に支払われる金員を「団体加算金」といいます。)。

ロ 支給方法

上記イの和解金等のうち、(イ)から(ニ)までについては、和解調書に基づき、国から和解対象者に支払い、(ホ)については、和解調書に基づき、国から全国B型肝炎訴訟原告団を代表する者に対して一括して支払います。

ハ 和解金等の性格

和解金等は、基本合意書を踏まえ、過去の集団予防接種等における注射器の連続使用に起因しB型肝炎ウイルスに感染したと認められた方に対し支払うものです。
 なお、和解金等のうち上記イ(ホ)の団体加算金は、本件訴訟を含む同種の訴訟の解決に貢献したことなどを考慮し、既存訴訟に係る問題解決のため原告団に対し支払うこととされているものですが、原告団はB型肝炎訴訟の各原告によって構成される団体であり、原告団を通じて各原告に配分されるものです。このように、団体加算金は原告団に各和解対象者への配分を委ねている形にはなりますが、あくまでも和解対象者に対する支払を念頭においたものであることに変わりはありません。

3 照会者の求める見解となることの理由

(1) 和解対象者に係る課税関係

所得税法上、心身に加えられた損害につき支払を受ける慰謝料その他の損害賠償金、心身に加えられた損害につき支払を受ける相当の見舞金及びこれらに類するものについては非課税とされています。(所法91十七、所令30一、三)
 その上で、和解金等についての課税関係については、以下のとおりと考えます。

イ 和解金(上記2(2)イ(イ))

和解金は、上記2(2)ハのとおり、基本合意書を踏まえ、過去の集団予防接種等における注射器の連続使用に起因しB型肝炎ウイルスに感染したと認められた方に対し支払われるものであり、損害賠償金又は見舞金としての性格を持つものと考えられることから、所得税法第9条第1項第17号及び同法施行令第30条に規定する非課税所得に該当するものと考えます。

ロ 除斥期間を経過した無症候性キャリアに支払われる検査費用等(上記2(2)イ(ロ))

当該検査費用等は、除斥期間を経過した無症候性キャリアである和解対象者に支払われるものであり、B型肝炎ウイルスの感染が認められる場合に、その発症の確認のための定期検査、母子感染又は同居家族への感染の防止のためのワクチン投与等及び検査、定期検査を受けるための交通費等の費用に充てるためのものとして支払われるものです。また、検査の結果、発症が認められた場合には、上記2(2)イ(イ)に掲げる病態の区分に応じて損害賠償金としての性格を持つものと考えられる和解金が支払われることになります。
 いずれにしても、上記イの和解金と同様に非課税所得に該当するものと考えます。

ハ 母子感染、父子感染及びジェノタイプに関する検査費用(上記2(2)イ(ハ))

当該検査費用は、B型肝炎ウイルスの感染が各原告との個別の和解協議の前提となる過去の集団予防接種等における注射器の連続使用に起因するものであるかどうかを確認するためのものであり、これに起因するものであることが判明した場合、国から和解対象者に対し実費相当額が支払われるものです。
当該検査費用は、基本合意書において国が負担すべきものとされており、和解対象者は、一時的に立て替えているにすぎないものであることから、当該検査費用について所得税の課税関係は生じないと考えます。

ニ 弁護士費用相当額(上記2(2)イ(ニ))

和解対象者が支出した弁護士費用は、B型肝炎訴訟を通じて支払を受けることとなった和解金を得るためのものであり、いわばその必要経費に相当するものです。
 また、上記イのとおり当該和解金は非課税所得に該当するものであるところ、当該弁護士費用相当額は、その非課税所得に係る必要経費相当額を補てんするためのものですので、当該弁護士費用相当額について所得税の課税関係は生じないものと考えます。

ホ その他の費用(上記2(2)イ(ホ))

原告団に対し支払う団体加算金は、上記2(2)ハのとおり、原告団を通じて和解対象者に支払われることを念頭においたものであるところ、当該和解対象者は過去の集団予防接種等における注射器の連続使用に起因しB型肝炎ウイルスに感染したと認められた方であることから、上記イの和解金と同様に非課税所得に該当するものと考えます。

(2) 和解対象遺族に係る課税関係

和解対象遺族に支払われる和解金等についても、和解対象者に対して支払われるものと同様、基本合意書に基づき、和解対象者が過去の集団予防接種等における注射器の連続使用に起因しB型肝炎ウイルスに感染したと認められたため支払われるものであり、この和解金等は、損害賠償金又は見舞金等に相当するものとして遺族に対し直接支払われるものですので、相続財産には該当しないものです。また、一時金として支払われるものであり定期金ではないため、相続税法第3条第1項第6号に規定するみなし相続財産にも該当しません。
 以上のことから、和解対象遺族に支払われる和解金等については、亡くなられた方の相続財産に該当せず、また、みなし相続財産にも該当しないため、相続税の課税価格に算入されないことから、相続税の課税関係は生じないものと考えます。したがって、和解対象遺族において所得税の課税関係が問題になるところですが、和解対象遺族に支払われる場合であっても、和解対象者に対する支払におけるのと同様に所得税の課税関係は生じないものと考えます。