環保企発 第100423002号
平成22年4月23日

国税庁課税部長
岡本 榮一 殿

環境省総合環境政策局
環境保健部長 はら のりひさ

1 照会の趣旨

 水俣病問題に関しては、これまで公害健康被害の補償等に関する法律(以下、「補償法」という。)に基づき認定された方々に対するチッソ株式会社及び昭和電工株式会社からの補償、平成7年の政治解決等により、補償・救済が図られてきたところですが、いわゆる水俣病関西訴訟についての平成16年の最高裁判所判決を機に、今なお新たに水俣病問題をめぐって多くの方々が救済を求めており、こうした事態を看過することはできないことから、救済を必要とする方々を水俣病被害者と受け止め、その救済を図るため、「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法」(以下、「特措法」という。)が制定され、平成21年7月15日に公布・施行され、「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法の救済措置の方針」(以下、「救済措置の方針」という。)が平成22年4月16日に閣議決定されました。
 本年5月以降、救済措置の方針に従い、申請、診断、判定等の手続を経て、対象となった者(以下、「一時金等対象者」という。)に対して、関係事業者(水俣病が生ずる原因となったメチル水銀を排出した事業者:チッソ株式会社又は昭和電工株式会社をいう。以下同じ。)から一時金が支給されるとともに、関係県(熊本県、鹿児島県及び新潟県)から療養費(医療費の自己負担分やはり・きゅう・温泉療養費)及び療養手当(通院・入院という事実がある場合に定額を支給するもの)が支給されます。また、亡くなられた方については、公的な診断資料による申請、判定の手続を経て、亡くなられた方の遺族に対して一時金を支給することが適当と判定された場合の遺族(以下、「一時金対象遺族」という。)に対して、関係事業者から一時金が支給されます。このほか、一時金等対象者となる程度の感覚障害を有しないまでも、一定の感覚障害を有する方で、水俣病にも見られる症状のいずれかを有すると判定された方など(以下、「療養費対象者」という。)に対しては、関係県から療養費が支給されます。
 また、平成22年3月15日にノーモア・ミナマタ国家賠償等訴訟において熊本地方裁判所から示され、同29日原告・被告双方が受入れを表明した和解所見に基づき和解が成立した場合には、そこで対象となった者に対して、特措法に基づく救済措置の方針で定めるものと同様の一時金、療養費及び療養手当が支給されます。
 これらの一時金、療養費及び療養手当の課税関係について、下記のとおり解して差し支えないか照会します。

(1) 関係事業者から一時金等対象者が支給を受けた一時金及び関係県から一時金等対象者が支給を受けた療養費・療養手当、関係事業者から一時金対象遺族が支給を受けた一時金、並びに関係県から療養費対象者が支給を受けた療養費は、所得税法第9条第1項第17号及び同法施行令第30条に規定する非課税所得に該当する。

(2) 一時金対象遺族が支給を受ける一時金は、亡くなられた方の相続財産に該当せず、また、みなし相続財産にも該当しないため、相続税の課税価格に算入されない。

(3) 熊本地方裁判所の和解所見に基づき和解が成立することにより、対象者となった者に対して支給される一時金、療養費及び療養手当についても、上記(1)及び(2)と同様に、非課税所得(遺族に支給される場合も相続税の課税価格に算入されない。)に該当する。

2 照会に係る取引等の事実関係

(1) 特措法に基づく措置の内容
 今般の救済措置等については、特措法及び救済措置の方針に基づき、次のとおりの内容で実施することとしています。

1 基本的な考え方

イ 特措法の趣旨等

 特措法は、その前文にあるとおり、「これまで水俣病問題については、平成7年の政治解決等により紛争の解決が図られてきたところであるが、平成16年のいわゆる関西訴訟最高裁判所判決を機に、新たに水俣病問題をめぐって多くの方々が救済を求めており、その解決には、長期間を要することが見込まれている。」、「こうした事態をこのまま看過することはできず、公害健康被害の補償等に関する法律に基づく判断条件を満たさないものの救済を必要とする方々を水俣病被害者として受け止め、その救済を図ることとする。」といった趣旨により制定されたものです。
 また、「この法律による救済及び水俣病問題の解決は、・・・関係事業者が救済に係る費用の負担について責任を果たす・・・ことを旨として行われなければならない。」(特措法3)、「政府は、関係県の意見を聴いて、過去に通常起こり得る程度を超えるメチル水銀のばく露を受けた可能性があり、かつ、四肢末梢優位の感覚障害を有する者及び全身性の感覚障害を有する者その他の四肢末梢優位の感覚障害を有する者に準ずる者を早期に救済するため、一時金、療養費及び療養手当の支給に関する方針を定め、公表するものとする。」(特措法51)、「政府、関係県及び関係事業者は、相互に連携を図りながら、水俣病問題の解決に向けて・・(救済措置の実施や水俣病に係る紛争の解決等)・・に早期に取り組まなければならない。」(特措法71)とされています。

ロ 救済措置の方針

 救済措置の方針では、次の内容が記載されています。

(イ) 関係事業者は、一時金等対象者及び一時金対象遺族に対して、一時金(下記2)を支給する。

(ロ) 関係県は、一時金等対象者に療養費及び療養手当(下記3)、療養費対象者に療養費を支給する(政府は関係県による療養費及び療養手当の支給に関し、予算の範囲内で必要な支援を行う(特措法58・63)。)。

2 一時金の内容

イ 一時金の額等

(イ) 一時金等対象者1人当たりの金額210万円

(ロ) 一時金等対象者であって、次の団体に所属する者に関しては、上記(イ)の1人当たりの金額のほかに一定の金額を加算することとし、その総額は所属する団体ごとに次に定める金額。

  • 水俣病出水の会 20億円
  • 水俣病被害者芦北の会 1億6千万円
  • 水俣病被害者獅子島の会 4千万円

(注) 水俣病出水の会に対しては、上記金額のほか、社会福祉法人を設立し、鹿児島県出水市又は近隣市町村において、胎児性水俣病患者等の地域生活支援事業を行うための施設整備費及び運営費に充てる金額として9億5千万円を同団体に所属している一時金等対象者に加算することとしていますが、当該金員についても、上記金額と同様、一時金等対象者に帰属するものです。

ロ 支給方法

 一時金のうち、上記イ(イ)の210万円については関係事業者から一時金等対象者に支給し、上記イ(ロ)の加算する金額については各団体に一括して支給する。

ハ 一時金の性格

 一時金は、特措法に基づき、過去に通常起こり得る程度を超えるメチル水銀のばく露を受けた可能性があり、四肢末梢優位の感覚障害を有する者やそれに準ずる者を早期に救済するために補償法に基づく判断条件を満たさないものの救済を必要とする方々を水俣病被害者として受け止め支給するものです。関係事業者としては、判決など企業の排出したメチル水銀と個々人の健康障害との因果関係の有無を確定させる方法によらず、話し合いにより解決を図るため、救済に係る費用負担についての責任を果たすべく支払うものです。
 なお、一時金のうち上記イ(ロ)の加算する金額は、あくまでも一時金等対象者に対する上記イ(イ)の一時金(210万円)に加算されるものであって、団体の合意(会員の総意)により団体として一括受給し、団体が各人に対して配分するものであり、一時金等対象者に対するものであることに変わりはありません。

3 療養費及び療養手当の内容

イ 療養費及び療養手当の額等

(イ) 療養費
 医療費の自己負担分のほか、はり又はきゅうの施術を受けたときや温泉療養を行ったときは、月7,500円を上限にその要した費用

(ロ) 療養手当

  • 入院の場合は1月につき17,700円
  • 通院の場合は1月につき15,900円(70歳以上)又は12,900円(70歳未満)

ロ 支給方法

 関係県が支給する。

ハ 療養費及び療養手当の性格

 一時金等対象者に支給される療養費及び療養手当は、特措法に基づき、過去に通常起こり得る程度を超えるメチル水銀のばく露を受けた可能性があり、四肢末梢優位の感覚障害を有する者やそれに準ずる者を早期に救済するために補償法に基づく判断条件を満たさないものの救済を必要とする方々などを水俣病被害者として受け止め支給するものです。そうした方々に水俣病被害者として安心して治療を受けていただけるよう、療養費については社会保険の自己負担分等を、療養手当についてはメチル水銀のばく露を受けたこと等により発症すると考えられる症状に関連して、社会保険各法の規定による療養を受けるため、通院及び入院をした場合に定額を、関係県が支給するものです。
 また、療養費対象者に支給される療養費は、一時金等対象者となる程度の感覚障害を有しないまでも、一定の感覚障害を有する方で、水俣病にも見られる症状のいずれかを有すると判定された方などに対して、関係県から療養費が支給されるものです。この場合の療養費の内容や性格については、一時金等対象者に対するそれと同様のものとなっています。

(2) 和解所見に基づく措置の内容
 救済措置の方針とは別に、現在熊本地方裁判所に係属している国家賠償等訴訟における和解協議において、平成22年3月15日に熊本地方裁判所から和解所見が示され、同29日に原告・被告双方が受入れを表明したことにより、今後、和解所見に基づき和解が成立した場合には、対象となった者に対して、上記(1)2及び3の特措法に基づく救済措置の方針で定めるものと同様の判定基準等により、一時金、療養費及び療養手当が支給されることになります。
 この場合の一時金等については、判決など企業の排出したメチル水銀と個々人の健康障害との因果関係の有無を確定させる方法によらず、支給されるものです。

3 照会者の求める見解となることの理由

 所得税法上、「心身又は資産に加えられた損害につき支払を受ける相当の見舞金」(これらに類するものを含む。)は、所得税を課さないこととされています(所法91十七、所令30三)。
 その上で、一時金及び療養費・療養手当についての課税関係については、以下のとおりと考えます。

(1) 一時金について
 一時金は、上記2(1)2ハのとおり、特措法に基づき、メチル水銀による一定の感覚障害を有すると認められる者を早期に救済するため、メチル水銀を排出した企業が救済に係る費用負担の責任を果たすべく支給するものであることから、上記所得税法第9条第1項第17号及び同法施行令第30条に規定する非課税所得に該当するものと考えます。
 一方、一時金対象遺族に支給される一時金についても、一時金等対象者に対して支給されるものと同様、特措法に基づき過去に通常起こり得る程度を超えるメチル水銀のばく露を受けた可能性があり、四肢末梢優位の感覚障害やそれに準ずる感覚障害に苦しんでこられた方の遺族に対し直接支給されるものです。
 したがって、一時金は、遺族が相続により取得した権利に基づいて支給されるものではなく、あくまでも遺族に対する見舞金に相当するものとして遺族に直接支給されるものですので、相続財産には該当しないものです。また、一時金として支給されるものであり定期金ではないため、相続税法第3条第1項第6号に規定するみなし相続財産にも該当しません。
 以上のことから、一時金対象遺族に支給される一時金は、亡くなられた方の相続財産に該当せず、また、みなし相続財産にも該当しないため、相続税の課税価格に算入されないことから、支給を受けた遺族において所得税の課税関係が生じることとなりますが、一時金対象遺族に支給される場合であっても、一時金等対象者に対する支給におけるのと同様に非課税所得に該当するものと考えます。

(2) 療養費及び療養手当について
 療養費及び療養手当についても、上記2(1)3ハのとおり、特措法に基づき関係県が一定の感覚障害を有する者に支給するものであることから、一時金と同様に非課税所得に該当するものと考えます。

(3) 和解所見に基づく措置について
 平成22年3月15日にノーモア・ミナマタ国家賠償等訴訟の和解協議において、熊本地方裁判所から示され、同29日原告・被告双方が受入れを表明した和解所見に基づき和解が成立することにより支払われる一時金、療養費及び療養手当についても、上記2(2)のとおり、特措法に基づく救済措置の方針で定めるものと同様の判定基準、金額であるとともに、和解による最終的解決を実現するために、関係事業者の排出したメチル水銀と各人の感覚障害との因果関係の有無を確定させずに支給するものであることを踏まえると、上記(1)及び(2)と同様に非課税所得(遺族に支給される場合も相続税の課税価格に算入されない。)に該当するものと考えます。