別紙

医政総発第1104001号
平成20年11月4日

国税庁課税部審理室長

 大久保 修身 殿

厚生労働省医政局総務課長
深田 修

 産科医療補償制度(以下「本件制度」といいます。)は、安心して産科医療を受けられる環境整備の一環として、分娩に係る医療事故により脳性麻痺となった児及びその家族の経済的負担を速やかに補償するとともに、事故原因の分析を行い、将来の同種事故の防止に資する情報を提供することなどにより、紛争の防止・早期解決及び産科医療の質の向上を図る仕組みです。
 本件制度においては、産科医療補償制度補償約款の規定に基づき、分娩に係る医療事故により脳性麻痺となった児に対して一定の補償金(以下「本件補償金」といいます。)が支払われることになっています。
 そこで、本件補償金については、所得税法第9条第16号及び所得税法施行令第30条に規定する非課税所得として取り扱って差し支えないか伺います。
 なお、本件制度の概要及び本件補償金が非課税所得として取り扱われる理由は、下記のとおりです。

1 本件制度の概要

(1) 本件制度の仕組み

  • 1 分娩を取り扱う病院、診療所及び助産所(以下「分娩機関」といいます。)は、本件制度の運営組織である日本医療機能評価機構(以下「運営組織」といいます。)が損害保険会社との間で締結する産科医療補償責任保険契約への被保険者としての加入を運営組織に申請します。
    (注) 「産科医療補償責任保険契約」とは、保険契約者を運営組織、被保険者及び保険金受取人を分娩機関として、分娩機関が自院の管理下における分娩で脳性麻痺の児が出生した場合(無過失である場合に限ります。)に保険金を受け取る損害保険契約です。
  • 2 妊産婦は、出産を予定している分娩機関が本件制度に加入しているか否か、また、本件制度の補償内容を確認します。その上で分娩機関は、自院で出産を予定している妊産婦の情報を運営組織に登録します。
  • 3 分娩機関は、運営組織を通じて損害保険会社に保険料を支払います。この保険料は、分娩費用の一部として最終的に妊産婦が負担することとなります。
  • 4 出生した児が脳性麻痺となった場合には、産科医療補償制度補償約款の規定に基づき分娩機関が児に対して本件補償金を支払います。この場合、本件補償金には、分娩機関が産科医療補償責任保険契約に基づいて支払を受ける保険金(以下「本件保険金」という。)が充てられます。

(2) 本件補償金の額
 準備一時金(600万円)と補償分割金(120万円×20回)の合計額(3,000万円)となります。

(3) 本件補償金の支払方法

  • 1 脳性麻痺となった児又はその保護者は、運営組織に対して本件補償金の支払を請求します。
  • 2 運営組織は、分娩機関から保険金請求の業務委託を受け、損害保険会社に対して本件保険金の支払を請求します。
  • 3 分娩機関は、本件保険金を本件補償金に充てるために、別添の「産科医療補償責任保険金請求書」(PDFファイル/114KB)により、脳性麻痺となった児名義の金融機関の口座を本件保険金の支払先に指定します。
  • 4 損害保険会社が、指定された口座に本件保険金を振り込むことにより、本件補償金の支払が履行されます。

(4) 損害賠償金との調整
 本件制度においては、分娩機関が妊産婦又は児に対して損害賠償責任を負う場合には、保険金は支払われないこととされています。しかしながら、損害賠償責任を負うかどうかが判明するまで相当の期間を要することから、通常は、その間に既に本件補償金が支払われています。このため、分娩機関が損害賠償責任を負う場合には、既に支払われた本件補償金は分娩機関が妊産婦又は児に対し支払うべき損害賠償金に充てられます。この場合、分娩機関は、既に支払われた本件補償金(本件保険金に相当する金額)を損害保険会社に対し返還する義務を負うこととされています。

2 本件補償金が非課税所得として取り扱われる理由

(1) 非課税所得とされる損害保険金等
 損害保険契約に基づき支払を受ける保険金及び損害賠償金(これらに類するものを含む。)で、心身に加えられた損害に基因して取得するものは、非課税所得とされています(所法91十六)。これには、損害保険契約に基づく保険金及び生命保険契約に基づく給付金で、身体の傷害に基因して支払を受けるものその他これらに類するものが含まれるものとされています(所令30本文・一)。

(2) 本件補償金について
 本件制度は、次の理由から損害保険契約に類するものと認められますので、本件補償金は「損害保険契約に基づき身体の傷害に基因して支払を受けるものに類するもの」として、非課税所得として取り扱うのが相当と考えられます(所法91十六、所令30本文・一)。

  • 1 本件制度においては、分娩機関が運営組織を通じて損害保険会社に支払う保険料は、分娩費用の一部として、最終的に妊産婦が負担することになります。また、分娩機関は、運営組織が損害保険会社との間で締結する産科医療補償責任保険契約への被保険者としての加入を運営組織に申請することになっています。これにより、分娩機関は本件保険金を本件補償金に充てるために、脳性麻痺となった児名義の金融機関の口座を本件保険金の支払先に指定し、損害保険会社から児に対して、直接、本件補償金が支払われることになります。これら一連の手続は、被保険者及び保険金受取人を児とする損害保険契約と同視することができます。
  • 2 損害保険契約においては、保険価額(損害額)を超えた保険契約は無効とされており(旧商法631)、また、同一の目的物について数個の損害保険契約が併存する場合に、これらの契約の保険金の額の合計額が保険価額(損害額)を超過するときは、保険金の額の調整が行われることになっています(旧商法632)。本件制度では、分娩機関が妊産婦又は児に対して損害賠償責任を負う場合には本件保険金(本件補償金)は支払われず、本件補償金と損害賠償金が重複して支払われることはないから、損害保険契約に類する契約であると考えられます。
    (注) 損害賠償責任を負う場合には、既に支払われている本件補償金に相当する金額が損害賠償金の額から控除されます。

以上

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