別紙

最高裁刑一第001805号
平成20年11月4日

国税庁課税部審理室長

 大久保 修身 殿

最高裁判所事務総局刑事局長
小川 正持

 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(平成16年法律第63号。以下「裁判員法」という。)については、本年7月15日に施行された名簿調製に関する部分を除き、平成21年5月21日に施行されるところです。
 裁判所から呼出しを受けた裁判員候補者及び選任予定裁判員は、裁判員等選任手続の期日に出頭しなければならないとされています(裁判員法第29条第1項、第97条第5項)。この呼出しに応じて出頭した裁判員候補者及び選任予定裁判員には、裁判員の参加する刑事裁判に関する規則(平成19年最高裁判所規則第7号)第6条ないし第9条に定めるところにより、旅費、日当及び宿泊料(以下「旅費等」という。)を支給することとなります(裁判員法第29条第2項、第97条第5項)。また、同様に、裁判員及び補充裁判員についても、旅費等を支給することとなります(同法第11条)。
 そこで、裁判員、補充裁判員並びに裁判員等選任手続の期日に出頭した裁判員候補者及び選任予定裁判員(以下「裁判員等」という。)に対して支給される旅費等については、下記のとおり取り扱って差し支えないか照会します。

1  裁判員等に対して支給される旅費等については、その合計額を雑所得に係る総収入金額に算入する。

2  実際に負担した旅費及び宿泊料、その他裁判員等が出頭するのに直接要した費用の額の合計額については、旅費等に係る雑所得の金額の計算上必要経費に算入する。

(理由)

  • (1) 裁判員等に支給される旅費等の性質
     裁判員候補者又は選任予定裁判員である者は裁判所に出頭する義務を負い、また、裁判員又は補充裁判員である者は同出頭義務の外に、審理に立ち会う等の職務を担う。
     裁判員等である者には、その義務を履行することないし職務を遂行することによって損失が生じることから、これを一定の限度内で弁償・補償するため、裁判員法第11条、第29条第2項及び第97条第5項において、旅費等を支給することとされている。また、旅費等のうち日当の支給については、裁判員等が上記の義務を履行・遂行するため、あるいは履行・遂行したことによって、出頭に要した旅費及び宿泊費以外の積極的な損失(出頭に要した諸雑費の支出)並びに消極的な損失(出頭しなければ別途得られるであろう収入の喪失、いわゆる逸失利益)が発生するので、これらの弁償・補償を一定の限度内で行おうとするものであるとされている。
     したがって、裁判員等に対して支給される旅費等の性質は、実費弁償的なものであり、労務の対価(報酬)としての性質は有していないものと考えられる。
     なお、裁判員及び補充裁判員については、非常勤の裁判所職員であるところ、非常勤の裁判所職員には、裁判所職員臨時措置法において準用される一般職の職員の給与に関する法律第22条により手当又は給与を支給されることとされている(手当については民事調停法第9条、家事審判法第22条の3等を参照)が、裁判員法第11条はその特則であると解され、裁判員及び補充裁判員にはこれらは支給されない。これは、裁判員及び補充裁判員は、特別な知識・能力・経験等を要件とせず国民一般から無作為に抽出された者の中から選任されることを考慮したものであるとされている。
  • (2) 裁判員及び補充裁判員の職務の特性
     裁判員及び補充裁判員は、特別な知識・能力・経験等を要件とせず国民一般から無作為に抽出された者の中から選任され(裁判員法第13条)、一定の事由に該当しない限りは、その辞退を申立てることができないこととされており(裁判員法第16条)、また、正当な事由がなく出頭しないときは10万円以下の過料に処することとされていることから(裁判員法第112条第4号、第5号)、裁判員及び補充裁判員がその職務を遂行することは一種の義務であって、雇用契約又はこれに類する契約に基づき行うものではないということができる。
     また、裁判員は、独立してその職権を行うとされていることから(裁判員法第8条)、使用者からの指揮命令に服して行うものでもないということができる。
  • (3) 裁判員等に対して支給される旅費等の所得区分
     以上のとおり、裁判員等に対して支給される旅費等は、労務提供の対価として使用者から受ける給付とはいえないから給与所得には該当せず、また、実費弁償的な対価としての性質を有していることから一時所得にも該当しない。
     したがって、裁判員等に対して支給される旅費等は、給与所得及び一時所得のいずれにも該当しないから、雑所得として取り扱われるものと考える(所得税法第35条第1項)。
  • (4) 旅費等に係る雑所得の金額の計算方法
     雑所得の金額は、その年中の雑所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とされている(所得税法第35条第2項第2号)。
     したがって、旅費等に係る雑所得の金額の計算上、その年中に支給を受けた旅費等の合計額を総収入金額に算入し、実際に負担した旅費及び宿泊料、その他裁判員等が出頭するのに直接要した費用の額の合計額を必要経費に算入することとなる。