別紙

平成20年2月6日

国税庁課税部審理室長
岡南 啓司 殿

社団法人 信託協会
専務理事 新原 芳明

【照会の趣旨】

 当協会加盟会社におきましては、企業が社内預金者に対して負担する社内預金の元金の払戻債務の履行を確保するため、賃金の支払の確保等に関する法律第3条に規定する保全措置として、企業を委託者兼収益受益者、社内預金者を元本受益者とし、会社破綻等の一定の事由が生じたときに元本受益権が行使される単独運用信託(以下「社内預金引当信託」といいます。)を取り扱っております(別紙1「概要図」(PDF/71KB)参照)。
 今回、社内預金引当信託契約について、元本受益者は会社破綻等の一定の事由が生じるまでは受益権を有しないこととするなど新信託法の施行に伴う内容の見直しを行うことといたしました。つきましては、この見直し後の契約に基づく元本受益者である社内預金者に係る課税関係につき、次のとおり取り扱って差し支えないか照会します。

1 社内預金引当信託の設定時においては、元本受益者である社内預金者に課税関係は生じない。
 (理由)
 受益者等課税信託においては、受益者(受益者としての権利を現に有するものに限る。)が当該信託の信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなし、かつ、当該信託財産に帰せられる収益及び費用は当該受益者の収益及び費用とみなして、所得税法の規定を適用することとされています(所法131本文)。また、信託の変更をする権限(軽微な変更をする権限として一定のものを除く。)を現に有し、かつ、当該信託の信託財産の給付を受けることとされている者(受益者を除く。)は、受益者とみなすこととされています(所法132)。
 社内預金引当信託は、受益者等課税信託に該当し、その設定時において、元本受益者は、会社破綻等の一定の事由が生じるまでは受益権を有しないこととされていますので(信託契約第6条)、所得税法第13条第1項本文に定める「受益者(受益者としての権利を現に有するものに限る)」に該当せず(所基通13-7参照)、また信託契約の変更権限を現に有しないことから同条第2項に定める受益者とみなされる者(みなし受益者)にも該当しません。このため、社内預金引当信託が設定されたとしても、元本受益者が信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなされることはありません。
 したがって、税務上、会社破綻等の一定の事由が生じるまでは、信託拠出された財産の元本受益者である社内預金者に対する移転はないこととなりますので、当該社内預金者に課税関係は生じないと考えます。
 なお、委託者である企業は、収益受益者としての権利を現に有していますので、会社破綻等の一定の事由が生じるまでは、唯一の受益者として当該社内預金引当信託の信託財産に属する資産及び負債の全部を有するものとみなして、法人税法の規定を適用することとなると考えます(法法121、法基通14-4-1)。

2 会社破綻等の一定の事由が生じ、信託契約第17条に定めるところにより元本受益権が行使され、元本受益者である社内預金者が信託財産から弁済を受けた場合、当該元本受益者の社内預金元本額以下の部分の金額については、当該元本受益者である社内預金者の所得税法上の課税所得にはならない。
 (理由)
 受益者等課税信託においては、受益者(受益者としての権利を現に有するもの限り、みなし受益者を含む。以下同じ。)が二以上ある場合には、信託財産に属する資産及び負債の全部をそれぞれの受益者がその有する権利の内容に応じて有するものとされ(所令524)、信託に新たに受益者が存するに至った場合には、当該信託の受益者であった者から当該新たに受益者となる者に対して当該信託に関する権利に係る資産の移転があったものとされると解しています(所法67の34参照)。
 照会の社内預金引当信託においては、委託者である企業が破綻等をし、当該企業が社内預金元金の返還請求に応じなかったときに元本受益権が行使され、元本受益者である社内預金者は、社内預金元本額以下の部分の金額を信託財産から支払を受けることとなります(信託契約第6条、第16条、第19条)。一方で、社内預金引当信託は、社内預金の保全措置として一定の事由が生じた場合における信託財産による弁済を目的とするものですので(信託契約本文)、当該元本受益者である社内預金者が当該企業に対して有する社内預金返還請求権は、信託財産から支払を受けた金額を限度として消滅することとなります。
 このことは、税務上、社内預金引当信託に新たに受益者(元本受益者)が存するに至ったことによって、社内預金返還請求権の消滅の対価として、受益者であった企業から新たに受益者となった社内預金者に対する信託の権利の内容に応じた金銭の給付とみることができます。
 したがって、当該元本受益者である社内預金者は、社内預金の保全目的で設定された信託の目的に従った金銭の払戻しを受けるにすぎず、信託財産から弁済を受けた社内預金元本額以下の部分の金額については、当該元本受益者である社内預金者の所得税法上の課税所得にならないと考えます。

【個別の取引等の事実関係】
 別添「社内預金引当信託契約書」(PDF/149KB)のとおり。