経済産業省

平成16・06・10経局第3号
平成 16 年 6 月 14 日

国税庁課税部長 西江 章 殿

経済産業省大臣官房審議官(産業資金担当) 桑田 始

 ベンチャー企業は、新規産業の担い手であり、良質な雇用を確保するなどわが国経済の活性化をもたらす重要な役割を担うことから、資金需要が旺盛な創業期及び成長期における円滑な自己資金の調達環境を整備することにより、その育成を図ることが経済活性化の観点からは必要不可欠であります。
 このような観点から、エンジェル税制の導入等の様々な施策により、個人投資家が投資事業有限責任組合や民法上の任意組合を通じてベンチャー企業に対する投資を行う環境の整備が進められてきたところであります。
 投資事業有限責任組合に係る税務上の取扱いについては、民法上の任意組合と同様の取扱い(法人税基本通達14−1−1、14−1−2及び所得税基本通達36・37共−19、36・37共−20)が適用される(平10課審4−20、課審3−41)こととされておりますが、ベンチャー投資等を行う投資事業有限責任組合や民法上の任意組合(以下「投資組合」という。)を通じて得た所得に関し、個人投資家が、所得税基本通達36・37共−20(任意組合の事業に係る利益等の額の計算)に記載されている(1)の方法により所得金額の計算を行っている場合において、その所得区分及び投資組合の運営から発生した諸経費の取扱いについて、それぞれ下記のとおりで差し支えないか、ご照会申し上げます。

1. 投資組合を通じて個人投資家が得た所得の所得区分

 個人投資家がベンチャー投資等を行う投資組合を通じて得る所得には、株式等の譲渡に係る所得をはじめとして利子所得や配当所得等の様々な所得がありますが、各投資家における所得の金額の計算上、投資組合において発生する所得をその属性に応じて所得税法に規定する各種所得に区分することが必要となります。
 ところで、個人投資家が得た株式等の譲渡に係る所得が、株式等の譲渡による雑所得(以下「株雑所得」という。)若しくは株式等の譲渡による事業所得(以下「株事業所得」という。)に該当するか又は株式等の譲渡による譲渡所得に該当するかについては、租税特別措置法取扱通達37の10−2(株式等の譲渡に係る所得区分)において、当該株式等の譲渡が営利を目的として継続的に行われているかどうかにより判定することとされております。
 ベンチャー投資等を行う投資組合は、株式公開をめざすベンチャー企業等の株式等に対して投資し、これを売却することによるキャピタルゲインの獲得を目的として組成される共同事業体であり、組合存続期間にわたって、複数のベンチャー企業等に対して投資及びその回収を行っており、営利を目的として継続的に株式等の譲渡を行っているものと考えられます。
 従って、下記の全ての要件が充足され、かつ、投資組合契約書等に記載されている場合においては、出資者が共同で営利を目的として継続的に行う株式等の譲渡を行うものと位置づけられ、個人投資家が当該投資組合を通じて得た株式等の譲渡に係る所得は、株雑所得又は株事業所得(以下「株雑所得等」という。)に該当するものと考えられます。

  1. 1 株式等への投資を主たる目的事業としていること
  2. 2 各組合員において収益の区分把握が可能であること
  3. 3 民法上の任意組合が前提とする共同事業性が担保されていること
  4. 4 投資組合が営利目的で組成されていること
  5. 5 投資対象が単一銘柄に限定されないこと
  6. 6 投資組合の存続期間が概ね5年以上であること

2. 個人投資家における投資組合の運営経費等の税務上の取扱い

 個人投資家が投資組合において発生する所得の属性に応じて区分した各種所得から所得税法に規定する必要経費を控除するに当たって、株式等への投資を主たる目的事業とする投資組合が上記1の1から6の要件を充足する場合、当該組合から発生した株式等の譲渡に係る所得は株雑所得等に該当し、個人投資家は当該組合の運営上発生する経費を所得の金額の計算上、必要経費として控除することとなります。
 また、投資組合の主たる目的事業として、株式等への投資のほかに複数の事業を行っていることも考えられますが、このような場合においては、各種の事業に直接結び付けることができる費用については当該所得から必要経費として控除し、結び付けることができない費用については各組合員が投資組合契約に基づいて負担すべき額(通常は投資口数に応じた金額)を下記の計算により按分して各種所得の金額の計算上、必要経費として控除することが相当と考えます。

  1. (1) 無限責任組合員等に対する管理報酬及びこれに準ずる費用
    無限責任組合員等に対する管理報酬は、投資組合の主たる目的事業(例えば、投資先企業の育成と株式公開によるキャピタルゲインの獲得等)を行うために組成された投資組合の運営費用として毎期徴収されるものであり、その金額の計算は投資組合の純資産額又は出資約束金総額の一定率とすることが一般的です。
     このように管理報酬は投資組合の規模に応じて発生する義務的経費であり、その目的もキャピタルゲインの獲得等の投資組合が主たる目的とする複数の事業から生じる収入に間接的に貢献していることから、投資組合が主たる目的とする複数の事業へ投下した財産の合計額に対するそれぞれの事業へ投下した財産額の比率によって管理報酬の総額を按分することにより、各種所得の金額の計算上、控除する必要経費を算定することが合理的と思われます。
     この場合、例えば、以下のような計算方法に従って算出された金額を投資組合の主たる目的事業から生ずる各種所得の金額の計算上、必要経費として控除している場合には、合理的な処理として認められるものと考えます。なお、キャピタルゲインの獲得を目的として保有する株式や新株予約権付社債から発生する配当収入や利子収入等、事業資産の保有に伴って副次的に収入が発生する場合がありますが、下記の計算においては当該資産を保有する主たる目的によって事業資産を区分することが相当と考えます(結果として、配当収入や利子収入等、事業資産の保有により副次的に発生する収入には、管理報酬は配分されないこととなります)。

    投資組合が主たる目的とする各事業(注1)に係る経費額(注3)=管理報酬総額×((投資組合が主たる目的とする事業(注1)に投下された事業資産(注2、注3)の期首残高+同期末残高)÷2)÷((投資組合が主たる目的とするすべての事業(注1)に投下された事業資産残高合計額(注2)の期首残高+同期末残高)÷2)

    1. (注1) 投資組合の目的事業に未投入の資金や、投資の回収後分配までの過程において一時的に保有する資金(余裕資金)の運用も投資組合の事業目的となるが、投資組合の運営費用は余裕資金の運用から生ずる収入を得るために発生するものではない。従って、時価の大幅な変動差益の獲得等によって投資組合の運営成績を高めることを目的とするような余裕資金の運用でない限り、投資組合の主たる目的とする事業に該当せず、余裕資金は按分計算の対象に含めないことが相当である。
    2. (注2) 各事業年度における管理報酬の性格は、無限責任組合員等が組合運営のために行う役務提供の対価であり、各事業に対する役務提供割合は各事業への投下資本金額の比率と相関関係が深いものと推定される。従って、貸借対照表において事業資産に対して含み損益や引当金が計上されていたとしても、按分計算に用いる資産の金額は、含み損益や引当金の影響を受けず、かつ、組合員にとっての検証が容易な会計上の取得原価を用いることが相当である。
    3. (注3) 例えば、株式等の譲渡に係る所得に按分される経費額を計算する場合には、株式等の譲渡収入を獲得する目的で投下された事業資産の金額を右辺の分子の金額とする。

     同様に、投資組合の運営における義務的経費である監査報酬等の費用についても、上記の算式に基づいて各種所得に対応する必要経費を算定することが相当と考えられます。

     各組合員が当該取扱いに従って所得金額の計算を行う場合、同一の投資組合に出資する各組合員間での公平性を確保するとともに、管理報酬の計算過程が組合財産の投下実態を適切に反映したものである必要があります。よって、当該取扱いを適用するに当たっては、組合財産の投下目的を正確に知りうる立場にある無限責任組合員等が、当該財産を目的事業単位で区分・集計し、各組合員の各種所得に対応する管理報酬及びこれに準ずる費用の負担額について、その計算過程及び計算結果を各組合員に示すことが前提となります。

     なお、上記の算式に基づいて各種所得に経費が按分されることにより、例えば、投資組合において株式等の譲渡収入がない事業年度においても、株式等の譲渡に係る所得に経費が按分されることが考えられますが、当該按分された経費は、株式等の譲渡収入を得るための必要経費であるため、各個人投資家の株式等の譲渡に係る他の所得との通算が可能であるものと考えます。

  1. (2) 無限責任組合員等に対する成功報酬
    株式等への投資を主たる事業とする投資組合においては、無限責任組合員等に対する成功報酬は、無限責任組合員等が投資組合の投資先企業を適切に指導・育成した結果、投資先企業が株式公開を達成することにより得られた利益に対する報酬として、投資組合契約書に定める計算式に従って算出した額が支払われるものです。
     成功報酬の計算規定は投資組合契約によって様々ですが、投資組合の主たる目的事業として株式等への投資のほかにも複数の事業を掲げている場合、各種所得の金額の計算上、必要経費として控除すべき金額は、成功報酬の計算が投資組合の目的とする事業毎に行われるか否かによって、それぞれ下記のとおり取り扱うことが相当と考えます。
    1. 1 成功報酬の計算が投資組合の目的とする事業単位で行われる場合
      投資組合契約書において成功報酬の計算が投資組合の目的とする事業単位で行われることとされている場合には、成功報酬と事業との対応関係が明確であるため、成功報酬はその計算対象となった事業に係る経費として取り扱うことが相当と考えます。
       従って、例えば、株式等のキャピタルゲインを対象に成功報酬を算出することとしている場合には、当該算出額を株雑所得等の金額の計算上、必要経費として控除することとなります。
    2. 2 成功報酬の計算が投資組合活動から生じた収入全体を対象として算出することとしている場合
       投資組合契約書において成功報酬の計算が投資組合全体を計算単位として規定されている場合には、当該成功報酬は投資組合の主たる事業からの収入の獲得に間接的に貢献しているものであり、管理報酬と同等の性質を有すると考えられます。
       従って、この場合には、管理報酬に準じた方法(投資組合の主たる目的事業資産の比率によって按分する方法)によって、投資組合が主たる目的とする各事業に係る成功報酬の金額をそれぞれ計算し、各種所得の金額の計算上、必要経費として控除することが相当と考えます。
  1. (3) 株式等に係る所得を算定する上での留意事項
    個人投資家の株式等に係る譲渡所得等は、租税特別措置法取扱通達37の10−3(株式等に係る譲渡所得等の金額の計算)に掲げる順序によって計算することとなりますが、この通達による計算の前段階として、適用される税率や損失の繰越についての取扱い等が異なる区分毎に収入金額及び取得費等の金額を計算・集計することが必要となります。この場合、区分集計すべき単位としては、未公開株式及び上場株式の別があり、租税特別措置法第37条の13の3(特定中小会社が発行した株式に係る譲渡所得等の課税の特例)の規定の適用を受ける株式がある場合には、当該規定の適用を受ける株式についても区分集計することが必要です。
     従って、上記(1)及び(2)により株雑所得等の必要経費として取り扱うこととした組合運営経費についても、各区分別に把握することが必要となりますが、当該経費の区分把握方法は個々の株式売却取引との個別的な対応関係の有無により、以下のとおり取り扱うことが相当と考えます。
    1. 1 個々の株式売却取引との個別的な対応関係がある必要経費
      上記(2)により必要経費として把握した成功報酬のうち、投資組合契約において銘柄毎にキャピタルゲインの一定割合を無限責任組合員等が受領することとしている等、個々の株式売却取引との個別的な対応関係が明確なものについては、当該費用はその原因となった株式売却取引に対する必要経費として取り扱うことが相当と考えます。
    2. 2 1以外の必要経費
      1以外の成功報酬や、上記(1)により必要経費として把握した管理報酬及びこれに準ずる費用については、株雑所得等の獲得のために必要な間接費と考えられるため、組合運営の成果である株式売却収入に対応させることが合理的と思われます。従って、各区分の株式売却収入の合計額の比率に応じて、各区分に配分することが相当と考えます。
       なお、株式売却収入が発生しなかった年度においては、未公開株式の株雑所得等に係る必要経費として取り扱うことが相当と考えます。