1 照会の趣旨

 がんに関する情報については、がん登録等の推進に関する法律(平成25年法律第111号。以下「がん登録推進法」といいます。)に基づき、日本でがんと診断された全ての人のがんに関する情報を国で一括してデータベースに記録・保存し(以下「全国がん登録」といいます。)、がんの罹患、診療、転帰等の状況の把握及び分析、がんに係る調査研究に活用しています。
 全国がん登録によって集められた情報については、厚生労働大臣は、がん登録推進法第17条第1項《厚生労働大臣による利用等》に基づき、国のがん対策の企画立案又は実施に必要ながんに係る調査研究のため、日本でがんと診断された全ての人のがんに関する情報を自ら利用又は同項各号に掲げる者に提供することができるとするとともに、がん登録推進法第21条第3項及び第4項《その他の提供》に基づき、がんに係る調査研究を行う者(以下「がん研究者」といいます。)に対しても、厚生労働大臣が当該情報を提供することができることとされています。
 また、当該情報の提供については、その権限及び事務の一部が厚生労働大臣から国立研究開発法人国立がん研究センター(以下「国立がん研究センター」といいます。)に委任されており、がん研究者が当該情報の提供を受ける場合には、がん登録推進法第41条第1項《手数料》の定めるところにより、国立がん研究センターに所定の手数料を納める必要があります。
 この場合、当該手数料は、消費税が非課税となる行政手数料に該当するものと解して差し支えないか伺います。

2 照会に係る取引等の事実関係

(1) 全国がん登録データベースに登録される情報について

 国内におけるがんの罹患、診療、転帰等に関する情報は、厚生労働大臣から委任を受けた国立がん研究センターが整備する全国がん登録データベースに記録し、保存されます。
 全国がん登録データベースに記録されている情報には、がんに罹患した方の氏名・性別・生年月日・住所のほか、がんと診断された日やがんの発見経緯・種類・進行度・治療内容や、その方の生存確認情報等が記録される「全国がん登録情報」と、がんに罹患した方に関する情報を当該がんに罹患した方の識別(他の情報との照合による識別を含みます。)ができないように加工された「特定匿名化情報」の二つがあります。
 これらの情報は、国立がん研究センターの役員又は職員が職務上作成し、又は取得した個人情報であって、当該役員又は職員が組織的に利用するものとして、国立がん研究センターが保有しているものであることから国立がん研究センターの法人文書(独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律第2条第2項《定義》に規定する法人文書のことをいいます。)に該当します。

(2) がん研究者への全国がん登録情報及び匿名化情報の提供について

 がん登録推進法第21条第3項及び第4項の規定により、厚生労働大臣は、がん研究者が行うがんに係る調査研究が、がん医療の質の向上等に資するものであるときは、当該がんに係る調査研究に必要な限度で、全国がん登録データベースを用いて、全国がん登録情報及び匿名化情報(全国がん登録情報の匿名化を行った情報及び特定匿名化情報のことをいいます。以下同じです。)の提供を行うことができるとされています。
 また、がん登録推進法第23条第1項《厚生労働大臣の権限及び事務の委任》の規定により、全国がん登録情報及び匿名化情報の提供に係る厚生労働大臣の権限及び事務は、全国がん登録情報の提供の決定に係るものを除き、国立がん研究センターに委任して行わせるものとされています。
 この場合、がん登録推進法第21条第7項(第23条第2項の規定により読み替えて適用する場合を含みます。)の規定により、全国がん登録情報の提供については厚生労働大臣の名により、また、匿名化情報の提供については国立がん研究センターの長の名によりそれぞれ行われることとなりますが、その提供に係る事務は、いずれも国立がん研究センターが行います。
 また、全国がん登録情報及び匿名化情報の提供は、光ディスクに記録したものの交付により行われます。
 なお、全国がん登録情報については、がん登録推進法第35条《開示等の制限》の規定により、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律第4章《開示、訂正及び利用停止》、独立行政法人個人情報保護法第4章《開示、訂正及び利用停止》その他の個人情報の保護に関する法令(条例を含みます。)の規定に関わらず、これらの規定による開示、訂正(追加又は削除を含みます。)、利用の停止、消去又は提供の停止を求めることができないこととされています。

(3) 全国がん登録情報及び匿名化情報の提供に係る手数料について

 国立がん研究センターから全国がん登録情報等の提供を受けるがん研究者は、がん登録推進法第41条の規定により、実費を勘案して政令で定める額の手数料を国立がん研究センターに納めなければならないこととされています。

3 上記2の事実関係に対して照会者の求める見解となることの理由

(1)  公文書の交付等に係る手数料に関する消費税の非課税規定等

 国、地方公共団体、消費税法別表第三に掲げる法人(以下「別表第三法人」といいます。)その他法令に基づき国若しくは地方公共団体の委託若しくは指定を受けた者が、法令に基づき行う公文書及び公文書に類するもの(記章、標識その他これらに類するものを含みます。)の交付(再交付及び書換交付を含みます。)、更新、訂正、閲覧及び謄写に係る役務の提供で、その手数料その他の料金の徴収が法令に基づくものは、消費税が非課税とされています(消費税法第6条第1項、別表第一第5号イ及びロ、消費税法施行令第12条第2項第1号ハ)。
 なお、「料金の徴収が法令に基づくもの」とは、「手数料を徴収することができる」又は「手数料を支払わなければならない」等の規定をいい、「別途手数料に関する事項を定める」又は「手数料の額は〇〇〇円とする」との規定は含まれないと解されています(消費税法基本通達6−5−2)。

(2)  照会者の求める見解となることの理由

 国立がん研究センターは、所得税法別表第一の独立行政法人の項の規定に基づく所得税を課さない法人として指定されていますので、消費税法上の別表第三法人に該当します。
 また、上記2(2)のとおり、国立がん研究センターは、がん登録推進法の規定に基づき厚生労働大臣の委任を受けて全国がん登録情報及び匿名化情報の提供を行っており、また、その提供に係る手数料については、上記2(3)のとおり、その徴収の根拠が法令上に規定されています。
 そのため、照会の手数料が非課税となるかどうかは、国立がん研究センターが提供する全国がん登録情報及び匿名化情報が消費税法上の公文書又は公文書に類するものに該当するか否により判断されますので、以下検討します。

イ 公文書又は公文書に類するものの範囲について
 公文書については、消費税関係法令上、特に定義規定は設けられていませんが、行政文書は、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書(図画及び電磁的記録を含みます。以下同じです。)であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものが該当するものと考えられており、行政文書が消費税法上の公文書に該当すると考えられます。
 また、消費税の創設・導入事務に携わったという元国税当局の担当者(大島隆夫氏・木村剛志氏)が著した書籍である「消費税法の考え方・読み方(五訂版)」の61頁によれば、公文書に類するものについては、「例えば法別表三の法人,国等の委託又は指定を受けた者が作成する,公文書そのものではないが公文書としての内容を持っている文書,あるいは文書の形態を採っていない記章,標識等」がこれに該当する旨の説明がなされていることから、法令に基づき、独立行政法人などの別表第三法人の役員又は職員が職務上作成等する文書であって、当該役員又は職員が組織的に用いるものとして、当該独立行政法人等が保有しているものについては、消費税関係法令上、公文書に類するものに該当するものと解されます。

ロ 全国がん登録情報等の公文書又は公文書に類するものへの該当性について
 全国がん登録情報及び特定匿名化情報は、がん登録推進法の規定に基づき、国立がん研究センターが整備する全国がん登録データベースに記録・保存され、国立がん研究センターの役員又は職員が職務上作成又は取得し、当該役員又は職員が組織的に利用するものとして、国立がん研究センターが保有するものであるため、この全国がん登録データベースに記録・保存された全国がん登録情報及び特定匿名化情報は、上記2(1)のとおり、国立がん研究センターの法人文書に該当します。なお、がん登録推進法第21条第4項の規定に基づき、全国がん登録情報の匿名化を行った情報も、法人文書である全国がん登録情報をがんに罹患した方の識別ができないように匿名化したものですので、この匿名化を行った情報も法人文書に該当するものと認められます。
 また、全国がん登録情報をがん研究者に提供する場合には、上記2(2)のとおり、厚生労働大臣名による提供が行われますが、これは全国がん登録情報の提供の決定については、厚生労働省に設置されている厚生科学審議会の意見を聴かなければならないこととされていることに伴うものであり、その手続の一環として、厚生労働大臣の名を用いて国立がん研究センターが保有する全国がん登録情報の提供を行うものにすぎないことから、全国がん登録情報が、国立がん研究センターの法人文書に該当することに変わりはありません。
 したがって、がん研究者に提供される全国がん登録情報及び匿名化情報は、国立がん研究センターの法人文書として、がん登録推進法の規定に基づき、国立がん研究センターの役員又は職員が職務上作成等する文書であって、当該役員又は職員が組織的に用いるものとして、消費税法の別表第三法人である国立がん研究センターが保有しているものであることから、消費税法令上、公文書に類するものに該当するものと解されます。

(3) 結論

 以上のことから、照会の全国がん登録情報及び匿名化情報の提供は、消費税法令上の公文書に類するものの交付に該当するため、がん登録推進法第41条第1項の規定に基づき、国立がん研究センターががん研究者から徴収するその提供に係る手数料については、消費税が非課税となる行政手数料に該当するものと解されます。