(別紙)

平成23年3月7日

国税庁課税部
審理室長
飯島 信幸 殿

環境省地球環境局
地球温暖化対策課市場メカニズム室長
上田 康治

1 照会の趣旨

 気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書(以下「京都議定書」といいます。)(注1)に基づく温室効果ガス排出削減の取組に関して、政府や企業は国内での自助努力に加えて京都議定書に基づく京都メカニズムを活用して排出クレジット(以下「京都クレジット」(注2)といいます。)を購入することとしており、国際連合の同条約事務局(以下「国連」といいます。)の管理下で先進国(以下「附属書T国」といいます。)に設置された電子システムによる国別登録簿(以下「登録簿システム」(注3)といいます。)を介した取引が活発に行われています。
 京都議定書においては、二酸化炭素等の温室効果ガスの排出削減に関して、附属書T国に対する法的拘束力のある数値約束を課し、その全体で温室効果ガスの排出量を基準年(概ね1990年)における排出量と比較して、第一約束期間(2008年から2012年までの5年間)の平均排出量について少なくとも5%削減することを定めており、我が国は、基準年比で6%削減するという約束を負っています。
 この6%削減の義務を達成するための我が国における温室効果ガス排出削減の取組の一つとして、産業、運輸、業務、家庭といったあらゆる分野において、市民、企業等の社会の構成員が主体的に排出削減を進めることができる「カーボン・オフセット」の取組が活発化しています。2010年12月末現在、例えば、国際会議の開催に伴う温室効果ガスの排出をカーボン・オフセットする等の国内における取組事例は、新聞報道等から確認できるものだけでも1,000件を超えており、なかでも、現在のところ京都クレジットを活用したものがそのうちの多くを占めている状況です。
 このような状況を踏まえ、カーボン・オフセットを目的とした京都クレジットの取引が行われた場合、オフセット・プロバイダーである内国法人(以下「オフセット・プロバイダー」(注4)といいます。)を介してカーボン・オフセットに取り組む内国法人(以下「取組法人」といいます。)における法人税及び消費税の取扱いにつき、それぞれ次のとおり解して差し支えないかご照会申し上げます。

(注)

  • 1 地球温暖化防止に向けた具体的な方針を示す国際的枠組みとして、1997年12月に京都において採択され、2005年2月に発効しています。
  • 2 京都クレジットとは、既に国税庁ホームページで公表されている文書回答事例「京都メカニズムを活用したクレジットの取引に係る税務上の取扱い」(平成21年2月24日国税庁回答)において、資産性を有し、これを政府保有口座に償却を目的として移転した場合には国等に対する寄附金に該当すること、内国法人が有償で譲渡する場合には消費税の課税の対象となることが明らかにされているもので、登録簿システムによって管理されています。
  • 3 我が国の登録簿システムでは、政府用の保有口座(以下「政府保有口座」といいます。)と政府の承認を受けてクレジットを保有・取引する民間事業者用の保有口座(以下「民間保有口座」といいます。)が設置され、民間保有口座から政府保有口座への移転が完了した時点で国等に対する寄附を行ったこととして取り扱われることが上記文書回答で明らかにされています。なお、京都クレジットは、政府保有口座からこれとは別に設置された償却口座に移転されることにより、京都議定書の排出削減に係る約束達成に用いられたことになります。
  • 4 ここにいうオフセット・プロバイダーとは、民間保有口座を有し、例えば、民間保有口座を有しない者との間で業務委託契約を締結し、その者の委託に従い、京都クレジットを自らの民間保有口座から政府保有口座へ移転する業務を行う者をいいます。なお、「我が国におけるカーボン・オフセットのあり方について(指針)」(平成20年2月環境省)(以下「環境省指針」といいます。)においては、「市民、企業等がカーボン・オフセットを実施する際に必要なクレジットの提供及びカーボン・オフセットの取組を支援又は取組の一部を実施するサービスを行う事業者」と定義されています。
  • 5 本件照会における業務委託契約とは、オフセット・プロバイダーと取組法人との間で締結されるもので、当該業務委託契約の締結時にオフセット・プロバイダーが保有する京都クレジットを取組法人が取得すること及びオフセット・プロバイダーが取組法人の指示に基づき当該京都クレジットの償却を目的として政府保有口座に移転することを委託するものである。

[照会事項]

(1) 法人税について

1 取組法人が、京都クレジットを保有するオフセット・プロバイダーとの間で当該京都クレジットの取得及び償却を目的とする移転についての業務委託契約を締結した場合、当該取組法人は、その契約の成立時点において当該京都クレジットの処分権限を有することとなるため、実質的に当該京都クレジットの所有者となる。
 したがって、当該取組法人は、実質的に所有するその京都クレジットが当該業務委託契約に従ってオフセット・プロバイダーの民間保有口座から政府保有口座へ移転された日に当該京都クレジットを国に対して寄附したこととなり、その移転された日を含む事業年度において、原則として、当該京都クレジットの価額に相当する金額を国等に対する寄附金の額として損金の額に算入する。
 この場合の当該京都クレジットの価額とは時価をいうこととなり、当該京都クレジットが政府保有口座に移転された日に近い売買実例等を参考にして適正に算定することとなるが、売買実例の把握が容易でないこと等により時価の算定が困難である場合には、取組法人の帳簿価額を当該京都クレジットの時価として取り扱う。

2 上記1の業務委託契約に、民間保有口座から政府保有口座への移転に係る手数料(以下「移転手数料」といいます。)が京都クレジットの取得費用とは別に定められている場合には、当該京都クレジットの価額に相当する金額を国等に対する寄附金の額として損金の額に算入するのとは別に、当該手数料はその移転が完了した日を含む事業年度において損金の額に算入することとなる。

3 上記1の業務委託契約に、移転手数料が京都クレジットの取得費用とは別に定められていない場合には、当該手数料は、京都クレジットの帳簿価額を構成することとなる。

(2) 消費税について

4 上記(1)1又は3の場合、取組法人が取得した京都クレジットは、業務委託契約の成立した日の属する課税期間における課税仕入れに該当し、仕入税額控除の対象となる。

5 上記(1)2の場合、取組法人が支払う移転手数料は、当該京都クレジットの民間保有口座から政府保有口座への移転が完了した日の属する課税期間における課税仕入れに該当し、仕入税額控除の対象となる。

(注) 当該課税仕入れの日の属する課税期間における課税売上割合が95%未満で消費税法第30条第2項第1号《個別対応方式》により当該課税期間の仕入控除税額を計算する場合においては、当該京都クレジットの取得費用及び移転手数料は、同号ロに規定する「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れ」(以下「共通用課税仕入れ」といいます。)に区分される。

2 照会に係る取引等の事実関係

(1) カーボン・オフセットの定義
 カーボン・オフセットとは、環境省指針において「市民、企業、NPO/NGO、自治体、政府等の社会の構成員が、自らの温室効果ガスの排出量を認識し、主体的にこれを削減する努力を行うとともに、削減が困難な部分の排出量について、他の場所で実現した温室効果ガスの排出削減・吸収量等(以下「クレジット」といいます。)を購入すること又は他の場所で排出削減・吸収を実現するプロジェクトや活動を実施すること等により、その排出量の全部又は一部を埋め合わせること」と定められています。
 平成20年3月に閣議決定された「京都議定書目標達成計画」においては、京都議定書における我が国の目標達成のための国民運動の一環として、カーボン・オフセットの取組を普及するものとされております。

(2) カーボン・オフセットの具体例
 カーボン・オフセットの具体例としては、例えば、国際会議やスポーツイベント等の主催者が取組法人となり、オフセット・プロバイダーへ委託してその開催に伴って排出される温室効果ガスの量に相当する京都クレジットを政府保有口座に償却を目的として移転することが考えられます。
 この場合において、取組法人は次のような手順によりカーボン・オフセットの取組を行うこととなります。

1 取組法人は、会議やイベントの開催に伴って排出される温室効果ガスの量を一定の指標に基づき算定する。

2 取組法人は、京都クレジットを保有するオフセット・プロバイダーとの間で業務委託契約を締結し、上記1により算定された温室効果ガスの量に相当する京都クレジットを取得するとともに、当該京都クレジットの償却を目的とした政府保有口座への移転を委託する。

3 オフセット・プロバイダーは、上記業務委託契約に基づき、取組法人からの指示に従って、当該京都クレジットを自らの民間保有口座から政府保有口座へ移転する。

4 オフセット・プロバイダーは、当該京都クレジットの移転が完了した場合には、取組法人に対してその旨を記載した移転結果の通知書を交付する。

3 照会者の求める見解となることの理由

(1) 照会事項1について
 既に国税庁ホームページで公表されている文書回答事例「京都メカニズムを活用したクレジットの取引に係る税務上の取扱い」において、京都クレジットは資産性を有するものであるとされています。
 また、その登録簿システムにおいては、京都クレジットの全てに1トン単位の識別番号が割り振られ、発行、保有等の各種取引が記録・管理されており、内国法人が京都クレジットを保有した場合には、当該内国法人の保有口座に該当する京都クレジットの識別番号が記録されることになります。
 上記2(2)の具体例に当てはめると、オフセット・プロバイダーと取組法人との間で業務委託契約を締結したとしても、登録簿システム上は、契約の対象となる京都クレジットは依然としてオフセット・プロバイダーの保有口座に記録されていることになります。
 しかし、このようなカーボン・オフセットの取組においては、オフセット・プロバイダーは、業務委託契約に基づく取組法人からの指示に従い、契約の対象となった京都クレジットを政府保有口座に移転するものであり、登録簿システム上京都クレジットがオフセット・プロバイダーの保有口座に記録されていたとしても、当該業務委託契約成立以降、当該京都クレジットに対する処分権限は取組法人が有していることになります。具体的な手続からみても、取組法人は、(a)オフセット・プロバイダーとの間で締結する業務委託契約書に基づき、(b)オフセット・プロバイダーに対して償却指示書を発出し、(c)登録簿システムから得られる移転結果の通知書をオフセット・プロバイダーから受領するのが一般的であり、(a)から(c)までに掲げる書類を突合することにより、業務委託契約締結時点で、当該取組法人が京都クレジットに対する処分権限を有することが確認でき、当該取組法人が当該京都クレジットの所有者といえます。
 なお、文書回答事例「京都メカニズムを活用したクレジットの取引に係る税務上の取扱い」においては、内国法人が償却を目的として京都クレジットを政府保有口座に移転した場合には、国等に対する寄附金に該当するとしています。したがって、取組法人がオフセット・プロバイダーから取得した京都クレジットについても、その業務委託契約に従って、オフセット・プロバイダーの民間保有口座から政府保有口座へ移転された日に、取組法人が当該京都クレジットを国に対して寄附したこととなり、その移転された日を含む事業年度において、原則として、当該京都クレジットの価額に相当する金額を国等に対する寄附金の額として損金の額に算入することになると考えられます。
 ところで、この場合の当該京都クレジットの価額は、売買実例等を参考として適正に算定した京都クレジットの時価による必要がありますが、現状において我が国にクレジットの取引市場が形成されておらず、取組法人において、第三者間で行われる売買実例等の指標を把握することが容易ではないことも考えられます。
 このような場合であっても、京都クレジットの政府保有口座への無償移転が国等に対する寄附金として損金算入されることを考えると、売買実例の把握が容易でないこと等により時価の算定が困難である場合には、取組法人における京都クレジットの帳簿価額を当該京都クレジットの時価とみて処理することとしても課税上の弊害は特段生じないものと考えられます。

(2) 照会事項2について
 業務委託契約において、移転手数料が京都クレジットの取得費用とは別に定められている場合には、当該移転手数料部分は口座移転に係る役務提供の対価であると解されますので、京都クレジットの政府保有口座への移転が完了した日(役務提供終了日)において、当該京都クレジットの価額に相当する金額を国等に対する寄附金の額として損金の額に算入するのとは別に、その移転が完了した日を含む事業年度において損金の額に算入することとなると考えられます。
 なお、業務委託契約において、民間保有口座から政府保有口座への移転業務以外の役務提供に関する手数料が設定されている場合が考えられますが、このような手数料については、その役務提供の内容に応じて取り扱うことが相当と考えられます。

(3) 照会事項3について
 業務委託契約において、移転手数料が京都クレジットの取得費用とは別に定められていない場合には、当該手数料部分は役務提供の対価であるにもかかわらずオフセット・プロバイダーにおける京都クレジットの譲渡利益に含まれることになり、この手数料部分までを取組法人における京都クレジットの帳簿価額を構成するものとして取り扱えば、京都クレジットの政府保有口座への移転に伴い、オフセット・プロバイダーに対する役務提供の対価である当該手数料相当額も取組法人から国等へ寄附したこととなり、正確な処理と言えるかどうか疑問があります。
 しかしながら、取組法人において当該手数料相当額を把握することができないことに加え、仮に当該手数料相当額を区分したとしても、その手数料相当額は、上記(2)のとおり、京都クレジットを政府保有口座に移転した日(京都クレジットの国等への寄附をした日)において損金の額に算入することとなります。
 したがって、当該手数料相当額を京都クレジットの取得のために要した費用と解して、オフセット・プロバイダーから取組法人へ移転した京都クレジットの帳簿価額を構成するものとし、当該手数料相当額を区分計上する必要はないものと考えられます。

(4) 照会事項4について
 消費税法における「課税仕入れ」とは、事業者が事業として他の者から資産の譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供を受けることとされており、免税及び非課税となるもの、給与を対価とする役務の提供は除くこととされています(消法21十二)。
 上記(1)又は(3)のとおり、業務委託契約の成立により取組法人はオフセット・プロバイダーから京都クレジットを実質的に取得するものであり、これは、事業として他の者から資産を譲り受けるものですから、当該京都クレジットの取得は課税仕入れに該当します。そして、課税仕入れを行った日は京都クレジットを取得した日、すなわち業務委託契約の成立した日となりますから、この日の属する課税期間における仕入税額控除の対象になると考えられます。
 なお、当該京都クレジットは、国に無償で譲渡するために取得するものであり、資産の譲渡等に該当しない取引に要する課税仕入れに該当するものですから、消費税法第30条第2項第1号に規定する個別対応方式により仕入控除税額の計算を行う場合には、一般的には共通用課税仕入れに区分されると考えられます。

(5) 照会事項5について
 上記(2)のとおり、移転手数料は、オフセット・プロバイダーが取組法人から京都クレジットを民間保有口座から政府保有口座に移転させることの委託を受け、その対価として収受するものですから、消費税の課税の対象となります。
 したがって、取組法人においては、上記(4)と同様に課税仕入れに該当し、そして、課税仕入れを行った日は役務の提供を受けた日、すなわち政府保有口座への当該京都クレジットの移転が完了した日となりますから、この日の属する課税期間における仕入税額控除の対象になると考えられます。
 なお、消費税法第30条第2項第1号に規定する個別対応方式により仕入税額控除の計算を行う場合には、上記(4)と同様に共通用課税仕入れに区分されるものと考えられます。
 また、移転手数料以外の手数料については、その役務提供の内容に応じて取り扱うことが相当と考えます。

4 参考(オフセット・プロバイダー側の処理)

 上記3の「照会者の求める見解となることの理由」は、照会事項ごとの取組法人における処理について記載していますが、取組法人との取引を行うオフセット・プロバイダー側の処理についても照会事項ごとに整理すれば、以下のとおりとなると考えております。

(1) 法人税について

1 オフセット・プロバイダーが取組法人との間で業務委託契約を締結した場合には、その契約の成立時点において棚卸資産である京都クレジットを取組法人に販売したこととなる。

2 上記1の業務委託契約において、移転手数料が京都クレジットの取得費用とは別に定められている場合には、その移転が完了した日において手数料収入を計上することとなる。

3 上記1の業務委託契約において、移転手数料が京都クレジットの取得費用とは別に定められていない場合には、上記1の京都クレジットの販売価額から当該手数料部分だけを役務提供の対価として区分計上する必要はなく、その販売価額の全額を収入に計上することとなる。

(2) 消費税について

4 上記(1)1又は3の場合、オフセット・プロバイダーが販売した京都クレジットは、その契約が成立した日の属する課税期間における課税売上げとなる。

5 上記(1)2の場合、オフセット・プロバイダーが収受する移転手数料は、当該京都クレジットの民間保有口座から政府保有口座への移転が完了した日の属する課税期間における課税売上げとなる。