国土企第2号
平成17年6月28日

国税庁課税部審理室長
上斗米 明 殿

国土交通省土地・水資源局
土地政策課土地市場企画室長
藤井 健

 定期借地権の設定時において、借地権者が借地権設定者に対して、借地に係る契約期間の賃料の一部又は全部を一括前払いの一時金(以下「前払賃料」といいます。)として支払う場合の借地権者及び借地権設定者の所得計算上の取扱いについては、平成17年1月7日付の文書回答「定期借地権の賃料の一部又は全部を前払いとして一括して授受した場合における税務上の取扱いについて」により、一定の書式例に準拠した定期借地権設定契約書により契約し、契約期間にわたって保管している場合で、その取引の実態も当該契約書に沿うものであるときは、当該前払賃料は、借地権者にとっては「前払費用」として、借地権設定者にとっては「前受収益」として取り扱われることが明らかにされました。
 ところで、上記の文書回答に示された定期借地権(以下「前払賃料方式による定期借地権」といいます。)が設定された場合に、その後、借地権者が死亡して相続人が当該権利を相続したときの相続税における財産評価の方法などについて若干の疑義が生じております。 そこで、前払賃料方式による定期借地権が設定されている場合の相続税の財産評価及び所得税の経済的利益に係る課税等について、下記のとおり取り扱って差し支えないか、お伺い申し上げます。

1 前払賃料方式による定期借地権が設定されている場合の相続税の取扱い

(1) 定期借地権の財産評価及び前払賃料の未経過分相当額の取扱い
 相続、贈与又は遺贈(以下「相続等」という。)により取得した前払賃料方式による定期借地権の価額を財産評価基本通達27−2((定期借地権等の評価))のただし書きの定めにより評価する場合には、前払賃料の額を同項の算式に定める「定期借地権等の設定の時における借地権者に帰属する経済的利益」の額に含めて、課税時期(相続開始時)における定期借地権等の価額を評価する。
 なお、前払賃料のうち課税時期における未経過分に相当する金額(以下「前払賃料の未経過分相当額」という。)については、定期借地権の評価額に反映されるため、定期借地権と別の相続財産として計上する必要はない。

(理由)

イ 前払賃料方式による定期借地権の評価
 相続等により取得した定期借地権等の価額は、課税時期における自用地としての価額に、次の算式により計算した数値を乗じて計算した金額によって評価することとされている(財産評価基本通達27−2)。

(算式)

(定期借地権等の設定の時における借地権者に帰属する経済的利益の総額÷定期借地権等の設定の時におけるその宅地の通常の取引価額)×(課税時期におけるその定期借地権等の残存期間年数に応ずる基準年利利率による複利年金現価率÷定期借地権等の設定期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率)

 上記算式中の「定期借地権等の設定の時における借地権者に帰属する経済的利益の総額」の計算に当たっては、「定期借地権等の設定に際し、借地権者から借地権設定者に対し、権利金、協力金、礼金などその名称のいかんを問わず借地契約の終了の時に返還を要しないものとされる金銭の支払いがある場合」には、「課税時期において支払われるべき金額」を当該経済的利益の額とすると定められている(財産評価基本通達27−3(1))。
 ところで、前払賃料は、借地契約の終了の時にはその未経過分相当額は零となり返還を要しないものであるから、定期借地権の設定に際して当該一時金の支払があった場合には、当該一時金の額そのものを財産評価基本通達27−3((定期借地権等の設定の時における借地権者に帰属する経済的利益の総額の計算))の(1)に定める経済的利益の額に含めて評価することとなる。

ロ 前払賃料の未経過分相当額の取扱い
 課税時期において借地権者が有する前払賃料の未経過分相当額に係る債権は、借地契約の存続を前提とすれば、返還を受けることができないものであり、被相続人等が前払賃料を支払っていたことによる権利は、存続期間に応じた定期借地権の権利の価額に反映されることとなる。
 したがって、相続税の課税価格の計算上は、当該債権を定期借地権と別個の財産として計上する必要はないものと考えられる。

(注1) 保証金については、契約終了時においても返還を要するものであるため、相続税の課税価格の計算上、借地権者にとっては債権額を、借地権設定者にとっては債務額を計上することとなるが、その場合でも、契約終了時に返還を要する金額について課税時期から契約終了時までの期間に応じた複利現価率で割り引いた価額によることとされており、これに対して前払賃料は契約終了時に返還を要する金額はないから、債権債務額は算定されない。

(2) 定期借地権の目的となっている宅地の評価及び前払賃料の未経過分相当額の取扱い
 相続等により取得した前払賃料方式による定期借地権の目的となっている宅地の価額は、財産評価基本通達25((貸宅地の評価))の(2)により、原則として、自用地としての価額から上記(1)により評価した課税時期における定期借地権等の価額を控除した金額によって評価する。

 なお、財産評価基本通達25(2)ただし書き及び平成10年8年25日付課評2−8「一般定期借地権の目的となっている宅地の評価に関する取扱いについて」は、前払賃料方式による定期借地権の目的となっている宅地の評価にも適用されることとなる。
 また、前払賃料のうち、課税時期における契約期間の残余の期間に充当されるべき金額(前払賃料の未経過分相当額)については、定期借地権の付着した宅地として評価上減額されるため、別の債務として控除することはできない。

(理由)

イ 定期借地権の目的となっている宅地の評価
 定期借地権の目的となっている宅地を相続等により取得した場合の当該宅地の価額は、財産評価基本通達25の(2)により、原則として、その宅地の自用地としての価額から、財産評価基本通達27−2((定期借地権等の評価))の定めにより評価したその定期借地権等の価額を控除した金額によって評価することとなる。
 ところで、前払賃料方式による定期借地権等の価額については、上記(1)のとおり評価することとなるため、前払賃料方式による定期借地権の目的となっている宅地の価額は、原則として、定期借地権の設定に際して授受された前払賃料の額を財産評価基本通達27−3の(1)に定める「定期借地権等の設定の時における借地権者に帰属する経済的利益」の額として評価した定期借地権等の価額を自用地としての価額から控除して評価することとなる。
  ただし、財産評価基本通達25(2)のただし書きに定めるとおり、自用地としての価額から控除すべき定期借地権等の価額が、定期借地権の残存期間に応じる一定の割合を自用地価額に乗じて計算した金額を下回る場合には、当該割合を乗じて計算した金額を控除した金額によって評価する。
 なお、借地借家法第22条の規定による一般定期借地権の目的となっている宅地の評価については、当分の間、上記の定めによらず、平成10年8月25日付課評2−8「一般定期借地権の目的となっている宅地の評価に関する取扱いについて」の取扱いにより評価することとなる。

ロ 前払賃料の未経過分相当額の取扱い
 課税時期において借地権設定者が「前受収益」として計上している前払賃料の未経過分相当額については、借地契約の存続を前提とする限り返還を要しないものであるから相続税法第14条に規定する「確実と認められる」債務とはいえず、被相続人等が前払賃料を受領していることにより、上記のとおり定期借地権の目的となっている宅地として評価上減額されるのであるから、相続税の課税価格の計算上は、債務として控除することはできない。

(注2) (注1)参照

2 借地権設定者が受領する前払賃料に係る経済的利益に対する所得税の取扱い

 個人である借地権設定者が、前払賃料方式による定期借地権の設定に伴い受領する前払賃料については、その経済的利益を毎年の不動産所得に計上しなくて差し支えない。

(理由)
  定期借地権の設定に伴って借地権設定者が借地権者から預託を受ける保証金(借地人がその返還請求権を有するものをいい、その名称のいかんを問わない。)の経済的利益については、一定の場合を除き、各年分の不動産所得の計算上、収入金額に算入することとされている。
 前払賃料については、借地権設定者は、いまだ役務提供をしていない未経過分(前払賃料の未経過分相当額)を「前受収益」に計上することとなるが、当該一時金は、契約期間にわたる賃料に充てられることによりいずれその全額が不動産所得の収入金額に計上されるものであり、借地契約の継続を前提とする限り返還義務がなく期間満了時には返還を要しないものであるから、当該一時金は上記の取扱いの対象となる保証金には該当せず、その経済的利益に係る所得税の課税は要しないものと考えられる。

(注3) 定期借地権の設定に伴って借地権設定者が借地権者から預託を受ける保証金(借地人がその返還請求権を有するものをいい、その名称のいかんを問わない。)の経済的利益については、所得税の課税上、次に掲げる区分に応じ、それぞれ次に掲げるとおり取り扱われている。

1 当該保証金が業務用資金として運用され又は業務用資産の取得に充てられている場合
当該保証金について各年に生じる経済的利益の額を不動産所得の金額の計算上収入金額に算入するとともに、同額を、当該業務に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入する。

2 当該保証金が、預貯金、公社債等の金融資産に運用されている場合
当該保証金による経済的利益に係る所得の金額については、その計算を要しない。

3 1及び2以外の場合
  当該保証金について各年に生じる経済的利益の額を、当該保証金を返還するまでの各年分の不動産所得の金額の計算上収入金額に算入する。

3 前払賃料を一括して支払うための資金に係る住宅借入金等特別控除の特例等の適用

 前払賃料の支払に充てるための借入金又は父等からの資金贈与については、租税特別措置法第41条に規定する住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の特例(以下「住宅借入金等特別控除の特例」という。)又は同法第70条の3に規定する特定の贈与者から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税の特例若しくは同法70条の3の2に規定する住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税に係る贈与税の特別控除の特例(以下、これらの特例を併せて「住宅取得等資金贈与の特例」という。)の適用はない。

(理由)
  前払賃料方式により定期借地権を設定するに際して、前払賃料の支払に充てるための資金を借入金等により調達した場合の住宅借入金等特別控除の特例又は当該資金を父等から贈与により取得した場合の住宅取得等資金贈与の特例の適用の可否が問題となる。
 これらの特例は、「土地の上に存する権利の取得に要する資金」に充てるための借入金(住宅借入金等特別控除の特例)又は「土地の上に存する権利の取得のための対価」に充てるための住宅取得等資金の贈与(住宅取得等資金贈与の特例)について適用されることとされている。
 しかし、前払賃料として支払われる一時金は、相続税における財産評価に当たっては、借地人に帰属する経済的利益として定期借地権の評価額に反映されるという側面はあるものの、「土地の上に存する権利の取得の対価」には該当しないとして、賃料として支払うことを明確にしたものである。また、そのため、自己の住宅の取得に伴ってその敷地に係る前払賃料を支払う借地権者にとっては、当該一時金は時の経過とともに家事費として費消されるものであって、借地権の取得価額を構成するものではない(将来、借地権を譲渡した場合の取得価額を構成しない。)。
 したがって、土地の上に存する権利の取得の対価ということはできないため、これらの特例の適用はないこととなる。
 なお、租税特別措置法第41条の4に規定する不動産所得に係る損益通算の特例についても「土地の上に存する権利を取得するために要した負債」について適用されることとされており、当該一時金の支払に充てるための借入金は、上記と同様の考え方により、土地の上に存する権利を取得するために要した負債ということはできないことから、本特例の適用はないこととなる。

以上