(別紙)
令和4年6月16日
国税庁 課税部
審理室長 上竹 良彦 殿
中小企業庁事業環境部金融課長
神ア 忠彦
中小企業に対する再生計画策定支援等の中小企業再生支援業務を実施するため、これまで、中小企業再生支援協議会は、産業競争力強化法第134条の認定を受けた認定支援機関として、中小企業者(産業競争力強化法第2条第22項に規定する中小企業者をいい、常時使用する従業員数が300人以下の医療法人を含みます。以下同じです。)からの相談に対応し、再生計画の策定支援を行ってきました。
本年3月4日、中小企業者のコロナ資金繰り支援の継続と収益力改善・事業再生・再チャレンジの促進に向けて、「中小企業活性化パッケージ」(経済産業省・金融庁・財務省)が策定され、中小企業者の収益力改善・事業再生・再チャレンジの一元的な支援体制の構築のため「中小企業再生支援協議会」は、その関連機関である「経営改善支援センター」と統合され、本年4月1日、新たに「中小企業活性化協議会」(以下「協議会」といいます。)が設置されることとなりました。
今般、協議会の設置に当たり、協議会が行う各種支援事業について、その設置・運営体制や各種支援の内容等を定めた「中小企業活性化協議会実施基本要領」(以下「本基本要領」といいます。)を新たに作成しました。このうち、協議会が再生支援を実施する場合、また、再チャレンジ支援として経営者保証に関するガイドラインに基づく保証債務整理の支援を実施する場合、本基本要領「別冊2 再生支援実施要領」(以下「本要領」といいます。)及び「別冊4 中小企業活性化協議会等の支援による経営者保証に関するガイドラインに基づく保証債務の整理手順」(以下「本整理手順」といいます。)に定める具体的な内容及び手続等に基づき行われることとされ、また、それらの実務上留意すべき具体的な事項が各Q&Aに定められています(※)。
本要領は、従来の中小企業再生支援協議会事業実施基本要領を基礎とし、本年3月4日に公表された「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」の「中小企業の事業再生等の私的整理手続(中小企業版私的整理手続)」を参照して作成したものであるところ、本要領に基づき策定された再生計画により債権放棄等(債権放棄及び債務の株式化をいいます。以下同じです。)が行われた場合の債権者及び債務者における税務上の取扱いについて、次の1及び2のとおりで問題がないかご照会申し上げます。
また、本要領に基づき債務者の再生支援を行う場合においては、保証人のみならず物上保証人が存在する場面も想定されるところ、本整理手順に基づき債務者の主債務と保証人の保証債務の一体整理を図る場合で、保証人や物上保証人がその個人資産を譲渡等したときの当該保証人や物上保証人の税務上の取扱いについて、次の3のとおりで問題がないか、ご照会申し上げます。
(※) 本要領に係るQ&Aとして、「再生支援実施要領Q&A」(以下「本要領QA」といいます。)、本整理手順に係るQ&Aとして、「中小企業活性化協議会等の支援による経営者保証に関するガイドラインに基づく保証債務の整理手順Q&A」(以下「本整理手順QA」といいます。)がそれぞれ定められています。
債権者である企業が取引先等を再生するために債権放棄等をした場合の税務上の取扱いについては、法人税基本通達9―4―2において合理的な再建計画に基づくものである等その債権放棄等について相当の理由があるときは、その債権放棄等により供与される経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとされ、その経済的利益の供与による損失の額は、税務上損金の額に算入することができます。
本要領によりUの手順に従い、全ての対象債権者の同意を得て策定された再生計画について、同通達に沿って検討するとVのとおりであり、同通達の支援額の合理性、支援者による適切な再建管理、支援者の範囲の相当性及び支援割合の合理性等のいずれも有すると考えられます。
このことを前提とすれば、本要領に基づき策定された再生計画により債権放棄等が行われた場合には、原則として、同通達にいう合理的な再建計画に基づく債権放棄等であると考えられます。
債務者である企業が債務免除等を受けた場合、法人税基本通達12−3−1(3)では、「債務の免除等が多数の債権者によって協議の上決められる等その決定について恣意性がなく、かつ、その内容に合理性があると認められる資産の整理があったこと」が認められるときには、法人税法施行令第117条の3第3号の再生手続開始の決定に準ずる事実等に該当する旨を定めており、法人税法第59条第3項《会社更生等による債務免除等があった場合の欠損金の損金算入》の適用があることになります。
本要領に基づく手続によりUの手順に従って再生計画が策定され当該再生計画に基づき債務免除等を受けた場合には、同通達に沿って検討するとWのとおりであり、同通達の「債務の免除等が多数の債権者によって協議の上決められる等その決定について恣意性がなく、かつ、その内容に合理性があると認められる資産の整理があったこと」に該当することから、原則として、法人税法第59条第3項の適用があるものと考えられます。
なお、本要領に基づく手続は、債務者の有する資産及び負債の価額の評定に関する事項等が定められていないため、法人税法施行令第24条の2第1項第1号に規定する「債務処理を行うための手続についての準則」には該当しないことから、資産の評価益又は評価損の益金算入又は損金算入の規定(法法25、33)の適用については、本照会の対象外としています。
所得税法第64条第2項は、保証人が保証債務を履行するために資産(棚卸資産等を除きます。)を譲渡した場合において、その履行に伴う「求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」は、その行使することができないこととなった金額(不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入される金額を除きます。)をその譲渡があった年分の譲渡所得等の金額の計算上、なかったものとみなすと規定されています。
本要領及び本整理手順に基づき債務者の主たる債務と保証債務の一体整理を図る場合において、これらの手順等に従って策定された再生計画及び保証人の保証債務に係る弁済計画に基づき、経営責任の明確化等の観点から、代表者等(※)である保証人が保証債務を履行するためにその有する資産を譲渡し、書面によりその履行に伴う求償権を放棄したときは、その求償権の放棄によっても、対象債務者がなお債務超過の状態にある限り、Xのとおり、原則として、同項に規定する「求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」に該当すると考えられます。
(※)代表者等とは、対象債務者の代表権を有する会長及び社長その他経営責任を問われる者をいいます。
(参考) 本要領及び本整理手順に基づき一体整理を行う場合に保証債務の免除を受けた場合の保証人の税務上の取扱いについては、「『経営者保証に関するガイドライン』に基づく保証債務の整理に係る課税関係の整理」(平成26年1月16日制定)と同様になると考えられますので、本照会の対象外とします。
本要領に基づく手続の対象となる債務者の要件は、次の(1)とされ、対象債務者の債務と保証人の保証債務の一体整理を行う場合の保証人の要件は次の(2)とされています。
本要領に基づく手続の対象となる対象債権者は、対象債務者の取引金融機関等の債権者であって再生計画が成立した場合に金融支援の要請を受けることが予定されている債権者とされています【本要領2(1)】。
統括責任者とは、中小企業や事業の再生等に相当の知見と経験を有する者の中から地域の実情を考慮し、認定支援機関の長が選任する者をいい、協議会の再生支援等を行う支援業務部門に配置され、金融機関等及びその子会社からの出向者は選任できないこととなっています【本基本要領3(2)】。
また、統括責任者が再生支援に係る職務を執行するに当たり、対象債務者又は対象債権者等との間に利害関係を有する場合、認定支援機関の長は、統括責任者補佐(中小企業や収益力改善、経営改善、事業再生、再チャレンジ、経営企画、マーケティング、事業計画の立案等に知見を有する者の中から地域の実情を考慮し、認定支援機関の長が選任します。)の中から統括責任者の職務を代理する者を定めることとされています【本基本要領3(2)】。
統括責任者は、対象債務者からの申出を受けて、主要債権者(対象債権者のうち対象債務者に対する債権額が上位のシェアを占める債権者をいいます。)の意向を踏まえて、再生支援を行うことが不相当でないと判断した場合には、再生支援案件ごとに編成される個別支援チームに参画した弁護士等を活用し、対象債務者の財務面(資産負債及び損益の状況)及び事業面(これらを併せて以下「財務面等」といいます。)の調査分析・検証を踏まえた再生計画策定の支援等を行い、策定された再生計画案の内容の相当性及び実行可能性等について、調査し、対象債権者に報告して再生計画案について合意形成を図ることとなります【本要領2(2)、(4)、(6)、(7)】。
本要領に基づく金融支援は、債権放棄等のほかリスケジュール等の様々な手法が考えられますが、債権放棄等を伴う再生計画を策定する場合には、以下の手順を経て当該再生計画が成立することが想定されます。
本要領に基づく手続により対象債務者は、上記U3のとおり、認定支援機関に設置された支援業務部門が配置する統括責任者と協議し、当該統括責任者が主要債権者の意向等を踏まえて、対象債務者の再生計画策定の支援等を行うこととなります。
統括責任者は、作成された再生計画案について、個別支援チームに参画した弁護士等を活用しつつ、対象債務者及び対象債権者から中立公正な立場で、再生計画案の実行可能性や支援額の適正性等について調査を行い、その結果を対象債権者に報告し、対象債権者の合意形成を図り、最終的に全ての対象債権者が再生計画案に同意することで成立することになります。このような段階的手続が踏まれることにより、計画の適正性・実行可能性や支援額の合理性について担保されているものと考えます。
このように本要領に基づいて策定される再生計画に基づく債権放棄等は、恣意性が排除され、その内容の合理性も担保されていると考えられることから、法人税基本通達12―3―1(3)の「債務の免除等が多数の債権者によって協議の上決められる等その決定について恣意性がなく、かつ、その内容に合理性があると認められる資産の整理があったこと」に該当するものと考えます。
したがって、法人税法施行令第117条の3第3号の再生手続開始の決定に準ずる事実に該当し、法人税法第59条第3項の適用があるものと考えます。
(注) 【 】は参照すべき本基本要領、本要領及び本整理手順並びに各QAの該当部分を示しています。
以上