別添
令和3年3月26日
国税庁 課税部長
重藤 哲郎 殿
金融庁 総合政策局長
中島 淳一
2014年7月の金融安定理事会(FSB)による提言に基づき、金利指標改革がグローバルに進められています。そうした中、ロンドン銀行間取引金利(London Interbank Offered Rate。以下、「LIBOR」といいます。)の公表が2021年12月末をもって恒久的に停止(以下、「LIBORの恒久的停止」といいます。)され、LIBOR(又はLIBORをベースとする金利スワップレート)を参照している契約においては、参照する金利指標の置換が行われる可能性が高まっています。
LIBORは、5つの主要な通貨(米ドル、英ポンド、スイスフラン、ユーロ、日本円)について公表されています(以下、日本円のLIBORについては「円LIBOR」といいます。)。LIBORを参照する取引は、広範に行われており、本邦の金融機関が参照している取引を見ると、満期が2021年末を越えるものについて、運用が約97兆円、調達が約17兆円、デリバティブの想定元本が約3,200兆円にのぼっております(※注1)。このため、LIBORの恒久的停止は、幅広い市場参加者や取引に多大な影響が生じる可能性があります。
こうした状況を踏まえ、本邦では、「日本円金利指標に関する検討委員会」(事務局:日本銀行)において、円LIBORの代替として利用する金利指標(以下、「代替金利指標」といいます。)の検討や会計面を含めた論点整理が行われ、2回の市中協議が実施されています。加えて、企業会計基準委員会(ASBJ)は、金利指標改革に起因するLIBORの置換が企業自身の意思決定に基づくものではなく、企業から見ると不可避的に生じる事象であることに鑑み、グローバルな状況も踏まえ、2020年9月29日に実務対応報告第40号「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」(※注2)(以下、「本実務対応報告」といいます。)を公表し、LIBORを参照する金融商品について必要と考えられるヘッジ会計に関する会計処理及び開示上の取扱いを明確化しました。本実務対応報告では、LIBORを参照する金融商品においてヘッジ会計を適用している場合、一定の要件のもとで2023年3月31日以前に終了する事業年度までヘッジ会計の継続を可能とする特例的な取扱い等が認められています。
そこで、ヘッジ処理に当たって、LIBOR(又はLIBORをベースとする金利スワップレート)を参照している金融商品に、本実務対応報告に基づき特例的な会計処理等を行った場合、法人税法等の関連法令(繰延ヘッジ処理による利益額又は損失額の繰延べ等)や法令解釈通達に基づく税務処理については、本実務対応報告と平仄を合わせた取扱いが認められると考えてよろしいか伺います。
本実務対応報告の概要は、以下のとおりです。
[適用時期等]
LIBORを参照する金融商品について、本実務対応報告に従い契約の経済効果が金利指標置換の前後で概ね同等となることを意図した契約条件の変更や契約の切替を行う場合の法人税の取扱いは、以下の理解でよいか伺います。
なお、本実務対応報告が繰延ヘッジ処理・時価ヘッジ処理等幅広い範囲を対象としていることから、類型化して照会を行います。
(※1)各通貨のリスク・フリー・レート(※注6)
米ドル | 国債GCレポO/N物レート(SOFR) |
英ポンド |
無担保O/N物レート(SONIA) |
スイスフラン |
GCレポO/N物レート(SARON) |
ユーロ |
無担保O/N物レート(€STR) |
日本円 |
無担保コールO/N物レート(TONA) |
(※2)例えば、以下の計算方法(別紙(PDF/269KB))により算出します。
・ 計算式:元本×D/α×複利利率
D:利息計算のカレンダー日数
α:1年の日数(360日、又は365日)
複利利率:別紙(PDF/269KB)をご参照ください
照会事項 |
関係法令等(いずれも法人税関係) |
照会事項 |
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照会事項 |
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照会事項 |
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照会事項 |
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なお、上記の照会内容は、次の事項を前提とします。
■本照会の対象範囲等
本照会は、本実務対応報告の適用対象と同様に、金利指標改革に起因して公表が停止される見通しであるLIBORを参照する金融商品について金利指標を置き換える場合を前提として、「契約の経済効果が金利指標置換の前後で概ね同等となることを意図した金融商品の契約上のキャッシュ・フローの基礎となる金利指標を変更する契約条件の変更のみが行われる金融商品」及び「契約条件の変更と同様の経済効果をもたらす契約の切替に関する金融商品」を対象としています。(以下、金利指標改革に起因して参照する金利指標を置き換える際に、契約前後で経済的効果が概ね同等になることを意図して行われた契約条件の変更(又は契約の切替)を「本件契約条件の変更等」といいます。)
本照会は、本実務対応報告に基づく特例的な会計処理を行うことを前提とします。
なお、本実務対応報告の公表後、新たにLIBOR を参照する契約を締結する場合についても、当該契約に係る金融商品を対象に含むものとします。
また、本実務対応報告公表から約1年後に、金利指標置換後の取扱いについて再度確認する予定であるが、この結果も含め、特例の適用期限については、税務処理についても本実務対応報告上の期限と揃えられることを前提とします。
(1)照会事項関係
繰延ヘッジ処理及び時価ヘッジ処理については、デリバティブ取引等の「期末時」及び「決済時」に有効性判定を行うこととされています(法人税法施行令第121条、第121条の7)。この点、「決済時」とは、法人税基本通達2−3−49(注)(1)によると、「デリバティブ取引等について手仕舞約定等が成立した場合における当該手仕舞約定等に係る決済の時」とされています。
しかし、本件契約条件の変更等は、LIBORの公表が恒久的に停止され、代替金利指標への置換を余儀なくされることからやむを得ず行うものであり、形式的に中途解約と新規契約の締結といった法形式が採られても、実質的にその契約の経済効果が金利指標置換の前後で概ね同等となるような契約を継続することにより引き続きヘッジ対象資産等損失額を減少させる目的で行われるものであれば、ここでいう手仕舞約定等は成立していないと考えることができることから、「決済時」に該当しません。
さらに、金利指標の置換は、取引当事者が契約締結時に想定していなかった事象に対して、実質的に既存のデリバティブ取引の経済的効果を維持するための合理的な対応であり、新たな条件でデリバティブ取引を行う意図はありません。このため、本件契約条件の変更等が行われた場合は、「デリバティブ取引等を行った時」に該当しないと考えられます。
また、売買目的外有価証券の含み損益のうちデリバティブ取引等に係る利益額又は損失額に対応する部分の金額(ヘッジ対象有価証券評価差額)については、当該デリバティブ取引等を当該事業年度開始の前に決済した場合と、決済していない場合に応じて定められています(法人税法施行令第121条の9)。これについても、本件契約条件の変更等が行われた場合は、「決済」に該当しないため、「決済をしていない場合」として取り扱うこととなると考えられます。
さらに、時価ヘッジ処理を適用した場合の翌期における洗替処理については、「ヘッジ対象有価証券損失額を減少させるために行ったデリバティブ取引等の決済をした日の属する事業年度を除く」こととされています(法人税法施行令第121条の11)。金利指標の置換を行った場合においても、本件契約条件の変更等は、同様に「決済」に該当しないため、本件契約条件の変更等をした事業年度を除く必要はないと考えられます。
なお、期末時及び決済時に加えて、法人税基本通達2-3-49においては、「法人が当該有効性判定を6か月に一度等規則性のある一事業年度以内の一定期間ごとに継続的に行うこととする旨を繰延ヘッジ処理に関する帳簿書類に記載しているときは、これを認める。」とされています。本件契約条件の変更等が行われた場合も、特段6か月の起点等の変更はなく、当該運用を継続することが認められると考えられます。
(2)照会事項関係
繰延ヘッジ処理及び時価ヘッジ処理において特別な有効性判定等を行うに当たっては、納税地の所轄税務署長の承認を受けるために申請書の提出が必要とされています(法人税法施行令第121条の4、第121条の10)。
また、オプション取引を行った場合の繰延ヘッジ処理及び時価ヘッジ処理の有効性判定については、届出書を提出することにより、法人税法施行令第121条第1項各号又は第121条の7第1項の方法に代えて同令第121条の3の2第1項各号又は第121条の9の2第1項の方法によることができることとされています(法人税法施行令第121条の3の2、第121条の9の2)。
この点、本件契約条件の変更等は、LIBORの公表が恒久的に停止され、代替金利指標への置換を余儀なくされることから、その契約の経済効果が金利指標置換の前後で概ね同等となるように代替金利指標に置き換えるものであり、同様の方法を継続する観点から行われるものです。このため、改めて有効性判定の変更申請書又は変更届出書を提出する必要はないと考えられます。
(3)照会事項関係
ヘッジの有効性判定については、繰延ヘッジ処理及び時価ヘッジ処理ともに、ヘッジが有効と認められる場合が規定されています(法人税法施行令第121条の2、第121条の8)(※注7)。
この点、本件契約条件の変更等においては、金利指標の置換により、ヘッジ対象とヘッジ手段の代替金利指標が異なること等に起因し、金利指標置換後に必ずしも有効性が満たされないケースが生じえます。これについて、これまでも有効性判定の数値が一時的な要因により異常値と認められる場合に繰延ヘッジ処理の適用を継続するという会計処理(日本公認会計士協会 2000年1月31日会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」(以下、「金融商品実務指針」という。)第156項、第323項)を受けて、税務上も同様の取扱い(法人税基本通達2−3−50)が認められているところです。
本実務対応報告については、代替金利指標が市場で活発な取引が行われるか不明であることといった金利指標置換後の金利指標の選択に関する実務や企業のヘッジ行動について不確実な点が多いことから、適切な適用範囲を定めたうえで時限的にヘッジ有効性の判定に関する特例的な取扱いが定められました。このため、税務上において、ヘッジの有効性割合がおおむね100分の80未満又は100分の125超となる場合であったとしても、有効性を満たしているものとして取り扱うことは、認められるものと考えられます(※注8)。
(4)照会事項関係
イ)について
本実務対応報告では、金利指標置換時について当初のヘッジ会計開始時にヘッジ文書で記載した内容の変更をしたとしてもヘッジ会計を継続する取扱いが認められています。法人税法施行規則第27条の8各項及び第27条の9各項で定める帳簿記載要件の記載日は、「デリバティブ取引等を行った日」とされていますが、取引当事者が契約締結時に想定していなかった金利指標の置換を受けて、その置き換えられた金利指標を帳簿書類に記載したとしても、「デリバティブ取引等を行った日」に記載していたものとの取扱いが認められるものと考えられます。
ロ)について
金利スワップの特例処理について、金利指標の置換が特に本実務対応報告第11項(3)から(5)までの条件に影響する可能性があるものの、金利指標改革に起因する契約条件の変更等のみを原因として、金利スワップの受払条件の変更が想定されること若しくはヘッジ対象及びヘッジ手段の金利指標が一時的に異なることをもって、金利スワップの特例処理の要件を満たさないとしてこれを認めないことは、有用な財務情報の提供につながらないと考えられます。
このため、本実務対応報告では、ヘッジ対象及びヘッジ手段の参照する金利指標が金利指標改革の影響を受けず、既存の金利指標から変更されないとみなすことができることとされています。法人税法施行規則第27条の7第2項において、金利スワップの特例処理の「デリバティブ取引の範囲等」に関する要件(※注9)が定められていますが、本件契約条件の変更等は、その契約の経済効果が金利指標置換の前後で概ね同等となるように代替金利指標に置き換えるものであれば、税務上の取扱いについても本実務対応報告と同様になるものと考えられます。
ハ)について
法人税基本通達2-3-57では、包括ヘッジ処理の要件の1つとして「個々の資産又は負債が共通のリスク要因(金利の変動、為替相場の変動等の損失を発生させる要因をいう。)による共通の損失の発生の可能性にさらされていることが明らかであるとき」と定められています。本件契約条件の変更等においては、金利指標の置換により、個々の資産又は負債の代替金利指標が異なること等に起因し、必ずしも要件が満たされないケースが生じえます。この場合であっても、包括ヘッジの処理は、上記金利スワップの特例処理と同様の理由により、認められるものと考えられます。
二)ついて
金利指標改革の結果、貸出金・借入金やデリバティブ等においては、金利適用開始時点であらかじめ適用利率が確定している(いわゆる「前決め」の金利である)LIBORから、金利支払日の直前に適用利率が確定する(いわゆる「後決め」の金利である)O/N RFR(後決め)へ置換するケースがあります。「前決め」の金利を参照している場合、事業年度末に計上する貸出金・借入金の未収・未払利息(又はデリバティブに係るヘッジ会計における経過利息)は、当該利息の計算期間全体の金額を基に、計算期間の経過に応じ、当該事業年度に係る金額を按分計算し、それを同事業年度の益金(又は損金)の額に算入しています。
これに対して、「後決め」の金利を参照している場合には、事業年度末時点における当該利息の計算期間全体の金額が確定していないため按分計算ができません。この場合における未収・未払利息(又は経過利息)の計上にあたっては、未収・未払利息の計算方法が統一的に定められていないことから、日本円金利指標に関する検討委員会など、各通貨の検討体や国際スワップ・デリバティブズ協会(ISDA)において整理されている合理的と認められる計算方法(別紙(PDF/269KB))で当該事業年度に係る金額を見積もって行われることになります(※注10)。
この場合における当該事業年度に係る確定申告等に当たり申告時期までに数値が確定するケースは稀であるほか、この合理的と認められる計算方法によった場合の見積額と確定額との差額は僅少と考えられるため、税務上もこの見積額に基づき課税所得金額の計算を行うことが認められるものと考えられます。
なお、こうした対応を行う場合には、見積額と確定額との差額は、その確定した日の属する事業年度等の益金の額又は損金の額に算入することが適切と考えられます。
ホ)について
金利指標の置換に当たって、LIBORと代替金利指標の性質や水準が異なることに起因して生じる差分については、契約前後で取引当事者間の経済効果が概ね同等となるようスプレッド調整が行われます。例えば、フォールバック時は、日本円金利指標に関する検討委員会で推奨されている過去5年中央値アプローチなど、各通貨の検討体やISDAにおいて整理されている計算方法を用いてスプレッド調整を行うといった、合理的と認められる方法(※注11)に基づいて行うことになります。
その際、スプレッド調整を金利指標の置換時点における合理的な方法に基づいて行った場合でも、指標が異なる以上、契約前後の経済効果が完全に一致するとは限らないため、不可避的にLIBORと代替金利指標の差分が生ずる可能性があります。
しかしながら、金利指標の置換時点において、過去5年中央値アプローチなど客観的な指標に基づく経済合理性のある方法に基づいてスプレッド調整が行われている場合には、当該差分について金銭のやり取りが行われなくても法人税法第37条で定める寄附金の額(※注12)に当たらないものと考えられます。
[※注]
以上