(別紙)
2生産第489号
令和2年6月8日
国税庁課税部審理室
審理室長 北村 厚 殿
近年、異常気象の頻発等により野菜の作柄変動が激しくなり、大幅な価格の低落又は高騰が増加しているため、緊急需給調整事業を迅速かつ適切に実施し、円滑な出荷量の調整を通じた価格の安定化を図ることで、生産者の経営の安定化と消費者への安定供給を実現していく必要があります。
一方、緊急需給調整の一つの手段である土壌還元について、食品として利用しない性質上、もったいない等の社会的な批判を招き易いため、食品として最大限の活用を図った上で実施することが、社会的な理解を得る上でも重要となっています。
さらに、近年、企業等から食品の無償提供を受け、こども食堂等の福祉施設等へ効率的に食品を提供するフードバンクが確立し、野菜等の生鮮食品の取り扱いも始めていることから、こうしたフードバンク等の福祉団体への提供が有効利用用途(需給調整として行われる食品以外の用途又は社会福祉等を目的とした施設などで使用すること等をいいます。)として効率的かつ望ましい活用方法であると考えられます。
このような状況の下、緊急需給調整事業の市場隔離(有効利用用途分として行われる野菜の無償提供)において生産者、農協及び各出荷団体が負担する費用の法人税法上の取扱いにつき、次のとおり解して差し支えないか、ご照会申し上げます。
内国法人である野菜の生産者、農協及び各出荷団体が、野菜需給均衡総合推進対策事業実施要領に定める生産出荷団体緊急需給調整事業(以下「緊急需給調整事業」といいます。)として行う野菜の無償提供に要する費用については、寄附金以外の費用として、その提供時の損金の額に算入することができます。
農林水産省では、野菜の需給動向にかんがみ、需給均衡に向けた生産出荷団体等の自主的な取組みを助長することにより、野菜の需給均衡を総合的に推進するとともに、特に需給の安定を図る野菜について、価格変動に対処するための緊急需給調整を実施すること及び供給の確保を図ることにより、野菜全体にわたり需要に見合った安定的な供給を確保し、もって価格の安定を図ることを目的として「野菜需給均衡総合推進対策事業実施要領」(以下「実施要領」といいます。)を定めています。
緊急需給調整事業とは、実施要領に定める「登録出荷団体等」や「共同出荷組織等」に該当する野菜の生産者や出荷団体等が、重要野菜(注1)及び調整野菜(注2)についての供給計画を作成し、登録出荷団体等にあっては重要野菜又は調整野菜の卸売価格、共同出荷組織等にあっては重要野菜の卸売価格が著しく低落し、若しくは低落するおそれがあると見込まれる場合又は著しく高騰し、若しくは高騰するおそれがあると見込まれる場合には、相互に協議して、産地調整や加工用販売又は市場隔離などの緊急需給調整を実施する事業をいいます。
緊急需給調整事業として行われる市場隔離には、供給過剰により廃棄予定となった野菜を土壌に鍬き込む等の土壌還元が含まれますが、食品として利用しない性質上、もったいない等の社会的な批判を招き易いという問題があります。
そこで、農林水産省としては、市場隔離を行う野菜の有効利用用途として、フードバンク等の福祉団体へ無償提供を行う仕組みを設けています。
具体的な仕組みは、次のとおりです。
(緊急需給調整事業に関係する団体等)
全国生産出荷団体(以下「全農本所」といいます。)、生産者、農協及び県出荷団体(県農協・県連・全農各県本部・商協連等を指し、以下「県団体」といいます。)は、農林水産省の関係通知等に基づいて、緊急需給調整事業の円滑な実施を図ることとされています。
一般的に、法人が資産(食品)を寄附した場合には、その寄附は一般の寄附金として一定の限度額までしか損金算入することができません(法人税法第37条)。
一方で、フードバンクへの食品の提供に関しては、農林水産省が公表した「フードバンク活動における食品の取扱い等に関する手引き」を参考にして、食品提供者とフードバンクの間に、提供した食品の転売等の禁止や、その食品の取扱いに関する情報の記録及び保存、結果の報告などのルールを定めた合意書を取り交わすことにより、提供した食品が目的外に使用されないことが担保されている場合には、その取引は実質的に商品廃棄の一環で行われる取引であり、その提供に要した費用は寄附金以外の費用として取り扱うことができることとされています。
緊急需給調整事業は、野菜の需給均衡を総合的に推進し、特に需給の安定を図る野菜の価格変動に対処するために実施する事業ですが、その一手段である市場隔離は、農林水産省の指導の下、全農本所から通知される指図書に基づいて、生産者、農協、県団体が一体となって、廃棄予定の野菜を福祉団体へ無償提供するものです。
無償提供に当たっては、県団体が福祉団体との間に「食品等の提供・譲渡に関する合意書」を取り交わし、提供された食品の転売等の禁止や、その食品の取扱いに関する情報の記録及び保存、結果の報告などのルールを定めて、提供した食品が目的外に使用されないことが担保されています。
したがって、本件の野菜の無償提供は、実質的に廃棄処理の一環で行われる取引と考えられます。
また、無償提供に当たって、生産者以外の者(農協、県団体及び全農本所)が負担することになる費用(冷蔵庫代、輸送費用、人件費等)は、重要野菜等の豊作・供給過剰・価格低迷を受けた緊急需給調整事業として市場隔離である有効利用用途を行う場合に発生する費用であり、市場の円滑な出荷量の調整を通じて価格の安定化を図るために、緊急需給調整事業に関係する団体等が負担すべき費用と考えられます。
加えて、それぞれの者が負担する費用は、原則として、通常の生産・出荷の際に発生する費用をそれぞれが負担することとしていますが、これは、無償提供に当たって通常の野菜の物流ルートを活用し、効率的に提供を行うことで、緊急需給調整事業のために発生するコストを最小限に抑えることを理由としています。
以上のことから、内国法人である野菜の生産者、農協及び各出荷団体が、緊急需給調整事業として行う野菜の無償提供に要する費用については、寄附金以外の費用として、その提供時の損金の額に算入して差し支えないものと考えられます。