29政第248号
平成29年8月1日

国税庁課税部 審理室長 殿

農林水産省 大臣官房政策課長

1 照会の趣旨

平成29年5月に成立した農業競争力強化支援法(以下「競争力強化法」という。)においては、我が国の農業が将来にわたって持続的に発展していくためには、良質かつ低廉な農業資材の供給及び農産物流通等の合理化を図ることが重要であることに鑑み、国は農業資材事業又は農産物流通等事業(以下、これらの事業を併せて「農業生産関連事業」という。)における事業再編を促進することとしております。
 この農業生産関連事業のうち、生産性が低いこと等により事業再編の促進が特に必要と認められる事業分野(事業再編促進対象事業)については、事業再編計画を作成し、主務大臣(農林水産大臣及び農業生産関連事業を所管する大臣)の認定を受けた事業者に対して、金融・税制等の支援措置を講ずることとしております。
 このうち、一般に比べて利益率が低く資金繰りが厳しい状況にあるなど、財務状況の悪い事業者については、事業の継続及び再建を目的として債権放棄を受けることにより財務状況を改善させる内容を含む事業再編計画(以下「債権放棄を伴う事業再編計画」という。)を作成することとなります。
 債権放棄を伴う事業再編計画においては、通常、事業や施設等の抜本的な絞り込みが行われ、今後事業の用に供さない資産を処分することが想定されますが、そのような資産については、会計上、その評価損の計上が必要になります。
 他方、法人税法では、原則として、資産の評価損は、損金の額に算入しないこととされており(法法331)、内国法人の有する資産につき、一定の事実が生じた場合において、評価換えをしたときには、例外的に評価損の計上が認められているところです(法法332)。
 本照会では、主務大臣の認定を受けた債権放棄を伴う事業再編計画の作成において資産評定が行われ、当該資産の評価換えをした場合には、上記の一定の事実が生じたと認められ、当該評価換えに係る評価損の額は損金の額に算入されると解して差し支えないか、御照会申し上げます。

2 照会に係る取引等の事実関係

債権放棄を伴う事業再編計画の認定に際しては、農業競争力強化支援法施行規則(以下「競争力強化法規則」という。)が定める次の一連の手続が実施されます。

イ 債権放棄についての合意

主務大臣への申請に当たっては、事業者と事業再編債権者(事業再編に係る資金計画に記載された債権放棄に合意した債権者をいう。)との間に当該債権放棄についての明確な合意があることが前提とされています。

ロ 主務大臣への申請

事業者が事業再編計画の認定を受けようとする場合、主務大臣への申請書の提出を求めていますが(競争力強化法181、競争力強化法規則41)、その申請に当たっては、(@)上記イの債権放棄に係る明確な合意があることを証する書類及び(A)事業者の事業の継続及び再建を内容とする計画に係る専門家(債権放棄を受ける事業者の事業の継続及び再建を内容とする計画に係る法律、税務、金融、企業の財務、資産の評価等に関する専門的な知識経験を有する者をいう。)による調査報告書の添付を求めております(競争力強化法規則43四、六)。
 (A)の報告書は、「私的整理ガイドライン」(平成13年9月に、私的整理に関するガイドライン研究会が策定・公表した債務者の私的整理に関する準則)で作成される専門家アドバイザーによる調査報告書と同様のものを想定しており、会社の概況、財産及び損益の状況の推移、経営が困難になった原因、計画の作成において行われる資産評定に基づく実態的な会社財産の状況、再建計画の具体的内容、資産・負債・損益の今後の見通し等について記載されるものです。
 債権放棄を伴う事業再編計画は、事業者と事業再編債権者との間の合意を前提にしていますが、この報告書の提出を求めることにより、企業再建に係る専門家の関与を義務付けて再建計画の客観性・確実性を高めることを目的としています。

ハ 認定

主務大臣は、事業者から事業再編計画の提出を受けた場合、速やかに内容を審査し、競争力強化法第18条第6項各号のいずれにも該当すると認められるときは、これを認定することとしています(競争力強化法186、競争力強化法規則61)。

ニ 債権放棄合意日から1月以内の一定の日を仮決算日とする決算書の提出

認定を受けた事業者は、債権放棄について事業再編債権者との間で合意した日(以下「債権放棄合意日」という。)以後1月以内の一定の日における財産目録、貸借対照表及び当該一定の日を含む事業年度開始日から当該一定の日までの損益計算書(事業再編に関連する再建計画の決定に伴い、一般に公正妥当な会計処理に従って必要とされる評価損の計上その他適切な会計処理を反映したものに限る。)を、当該債権放棄合意日以後4月以内に主務大臣に提出しなければならないとされています(競争力強化法規則182)。

ホ 年次報告、貸借対照表及び損益計算書の提出と監査

主務大臣への債権放棄を伴う事業再編計画の実施状況の報告にあっては、実施期間のうち最初の3年間については、報告書の提出を求める(競争力強化法規則181及び3)とともに、次の書類の添付を求めています(競争力強化法規則184二)。
(イ) 公認会計士又は監査法人の監査証明を受けた貸借対照表及び損益計算書
(ロ) 認定事業再編事業者の各月の売上額の推移を示す書類
(ハ) 認定事業再編事業者の各月の有利子負債残高の額の推移を示す書類
(ニ) 認定事業再編事業者の各月の現預金残高の額の推移を示す書類
(イ)の貸借対照表及び損益計算書は、一般に公正妥当な会計処理に従って作成されますので、債権放棄を伴う事業再編計画において今後事業の用に供さない資産として処分することが想定されるものは、「固定資産の減損に係る会計基準」などに従って、通常、評価損が計上されます。

へ 認定の取消し及び罰則

主務大臣は、ニ及びホの報告を受ける中で、事業者に対して適切な行政指導及び助言を行うとともに、認定事業再編計画に従って事業再編を実施していない、又は認定事業再編計画が競争力強化法第18条第6項各号のいずれかに該当しないものとなったと認める場合には、計画変更の指示や認定の取消しを実施することとしております(競争力強化法1923及び33)。また、実施状況の報告をせず、又は虚偽の報告をした場合には、罰則を設けております(競争力強化法37)。

3 理由(照会者の求める見解となることの理由)

(1) 資産の評価損に係る税務上の取扱い(法法33ほか)

法人税法では、原則として、資産の評価損は、損金の額に算入しないこととされていますが(法法331)、内国法人の有する資産につき、一定の事実が生じた場合において、その内国法人が当該資産の評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額したときは、その減額した部分の金額のうちその評価換えの直前の帳簿価額とその評価換えをした事業年度終了の時における当該資産の価額との差額に達するまでの金額は、損金の額に算入するとされています(法法332)。
 この場合の一定の事実とは、物損等の事実及び法的整理の事実(更生手続における評定が行われることに準ずる特別の事実をいう。以下同じ。)とされているところ(法令681)、この「法的整理の事実」として、民事再生法の規定による再生手続開始の決定があったことにより、同法第124条第1項(財産の価額の評定等)の評定が行われることが例示されています(法基通9−1−3の3)。これは、民事再生法における評定も会社更生法における評定と同様に、裁判所という公的機関の関与を含めた一連の法的手続の下、その手続開始後遅滞なく、対象者(民事再生法の場合は再生債務者)に属する一切の財産につき、手続開始の時における価額を評定しなければならないとされていることによるものと理解しております。
 また、旧産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法(以下「旧産活法」といいます。)の規定による債権放棄を含む事業再構築計画等が認定された場合には、第三者による債務者の資産の再評価を行って財産目録及び貸借対照表を主務大臣に提出することとされていますが、平成15年4月17日付国税庁文書回答「産業活力再生特別措置法において債権放棄を含む計画が認定された場合の資産評価損の計上に係る税務上の取扱いについて」を踏まえると、この場合の評定についても、民事再生法の規定による再生手続開始の決定の場合と同様に、「法的整理の事実」に該当するものと考えられます。
 このように、法的整理の事実が生じた場合に評価損の損金算入を認めているのは、更生手続開始の決定又は再生手続開始の決定などがあったことにより、法令の規定に基づいて資産評定が行われた上で、会社更生法の規定に基づき又は再生手続など一連の法的手続の下、会社法及び企業会計に基づき資産の評価換えが行われるものについては、評価損計上の任意性が排除されるという理由によるものと考えられます。

(2) 法令への当てはめ

法人税法施行令第68条第1項に規定する「法的整理の事実」には、民事再生法の規定による再生手続開始の決定があった場合や旧産活法の規定による債権放棄を含む事業再構築計画等が認定された場合のそれぞれの評定が該当するところ、競争力強化法の規定による債権放棄を伴う事業再編計画の認定に際しては、上記2ロ及びニのとおり、主務大臣という公的機関の関与を含めた一連の法的手続の下、事業者の再建をその内容に含む事業再編計画の作成において、事業再編促進対象事業者(申請者)に属する一切の財産につき、評定を行うことが義務付けられていることからすれば、この評定は、会社更生法等、民事再生法及び旧産活法に係る評定と概ね同様に、事業者の再建の一環として公的機関の関与を含めた一連の法的手続に従って強制的に行われるものと考えられます。したがって、債権放棄を伴う事業再編計画の認定に伴い、当該計画の作成において資産評定が行われることは、同項に規定する法的整理の事実に該当するものと考えられます。
 また、上記2ホのとおり、債権放棄を伴う事業再編計画が認定された場合には、公的機関の関与を含めた一連の法的手続の下、一般に公正妥当な会計処理に従って資産の評価換えをして損失計上が行われるため、評価損計上の任意性が排除されるものと考えられます。さらに、この要請に従わない場合には、上記2ヘのとおり、認定を取り消すなどしてその実行性を担保する仕組みとされています。
 以上のことからすれば、主務大臣の認定を受けた債権放棄を伴う事業再編計画の作成において資産評定が行われた場合には、法的整理の事実が生じたと認められ、当該資産の評価換えをして評価損を計上したときには、当該評価損の額は損金の額に算入されると考えられます。