(別紙)

平成22年11月17日

国税庁 課税部
審理室長 飯島 信幸 殿

経済産業省 資源エネルギー庁
資源・燃料部 石油精製備蓄課長 及川  洋

1. 照会の経緯

 標題の件については、平成21年11月4日付「中東の産油国との共同プロジェクトにおける外国法人に対する法人税の取扱いについて(照会)」(21資燃部第14号)により、次に記載する内容を国税庁に照会し、同月6日に「貴見のとおりで差し支えない」旨の文書回答をいただいたところです。

[前回照会に係る事実の概要]
 中東の産油国(以下「A国」といいます。)の原油を日本国内に所在するタンクに貯蔵させるプロジェクト(以下「原プロジェクト」といいます。)が進行していました。
 この原プロジェクトを実施する場合、A国政府が50%以上出資している外国法人(以下「A国出資法人」といいます。)が日本国内に所在するタンクに原油を貯蔵することとなります。
 今後、A国以外の国との間で同様のプロジェクトを実施することも考えられますので、原プロジェクトの実施主体として原油を貯蔵するA国出資法人の課税関係を整理すべく、要旨次のとおり照会を行いました。
[前回の照会事項]
 原プロジェクトを実施した場合において、A国出資法人は、法人税法第141条(外国法人に係る各事業年度の所得に対する法人税の課税標準)第1号又は第3号の規定により日本の法人税が課税されることはないと解して差し支えありませんか。
(注) 原プロジェクトは、現時点においては既に実行されています。

 このたび、A国とは異なる中東の産油国(以下「C国」といいます。)との間で、C国の原油を日本国内に所在する原油タンク(以下「原油タンク」といいます。)に貯蔵させるプロジェクト(以下「新プロジェクト」といいます。)が進行しています。
 この新プロジェクトは、原プロジェクトに類似するものですが、新プロジェクトの実施主体であり、C国が50%以上出資している外国法人(以下「C国出資法人」といいます。)には、C国出資法人の100%子会社が日本国内に支店を有しているなど、原プロジェクトとは相違する事実関係もあります。
 このため、前回照会と同様に、新プロジェクトの実施主体として原油を貯蔵するC国出資法人の課税関係を整理すべく、本件の照会を行うこととしたところです。

2. C国との新プロジェクトの概要

  1. (1) C国出資法人は、C国の原油を日本国内に貯蔵するために原油タンクを日本法人(以下「D法人」といいます。)から借りるとともに、その原油タンクにおける原油の荷揚げ、保管・管理等の業務もD法人に委託します。
     なお、D法人は、委託を受けた原油の荷揚げ、保管・管理等の業務に関し、C国出資法人から詳細な指示や包括的な支配を受けることはありません。
  2. (2) C国出資法人が日本及び極東地域をはじめとする全世界の顧客に貯蔵原油を売却する場合、その取引に係る注文の取得、協議、契約の締結等の売却に関する一切の行為は、C国などの日本国外で行われます。C国出資法人が日本国内に営業所等を置いて貯蔵原油の売却に関する行為等を行うことはありません。
  3. (3) C国出資法人の100%子会社(外国法人に該当し、以下「100%子会社」といいます。)の支店が日本国内に存在しており、この日本支店はC国出資法人に対してサービスを提供してサービス・フィーを受けています。ただし、この日本支店の業務は、次に掲げるような業務に限られ、新プロジェクトに係る注文の取得、協議などの貯蔵原油の売却に関する行為は一切行いません。また、上記のサービス・フィーは、独立企業間価格であることを今回の照会の前提とします。
    • 1 マーケティング支援活動
      • ・ 原油及び石油精製品等の潜在的な顧客情報の収集及びその情報のC国出資法人への提供
      • ・ C国出資法人が取り扱っている原油及び石油精製品等の内容とその標準的な取引条件の宣伝・広報及び関連する資料や情報の潜在的な顧客への提供
      • ・ C国出資法人と潜在的な顧客との間の契約の交渉や締結における連絡、通信及び潜在的な顧客からの情報の受領
    • 2 購入支援活動
       C国出資法人が日本の取引先から受ける製品の販売やサービスの提供に関する情報提供、検査及び配船手配
    • 3 その他補助的サービス
       原油及び石油精製品等の市場や関連情勢に関する情報の収集・分析及びその情報のC国出資法人への提供、並びにC国出資法人の活動の広報・宣伝
  4. (4) 100%子会社の日本支店以外においても、C国出資法人のために、その事業に関し契約を締結する権限を有する者や、日本において注文の取得、協議等の行為を行う者などの貯蔵原油の売却に関する行為を行う者は、(日本国内には)存在しません。
  5. (5) C国出資法人が日本及び極東地域をはじめとする全世界の顧客に貯蔵原油を売却した場合、C国出資法人は、貯蔵原油の払出し等の業務を上記(1)のとおりD法人に委託しています。
     この貯蔵原油の払出し等の業務に当たり、C国出資法人はD法人に対して、数量等について指示を行い、D法人はその指示に基づいてのみ払出し等の業務を行います。ただし、D法人は、それらの業務に関し、C国出資法人から詳細な指示や包括的な支配を受けることはありません。
  6. (6) C国出資法人と貯蔵原油の払出し等の業務を委託されたD法人との間に資本関係及び人的関係はなく、両者は独立した第三者の関係にあります。新プロジェクトにおいてC国出資法人がD法人に支払う業務委託に係る報酬は、取扱数量等に連動した独立企業間価格です。
     また、D法人は、本件業務の遂行に当たって一定の区域内において油濁事故等が起きて原油が流出した場合には、流出した原油分を返還する責任を負います。

3. 照会事項

 新プロジェクトを実施した場合において、C国出資法人は、法人税法第141条(外国法人に係る各事業年度の所得に対する法人税の課税標準)第1号又は第3号の規定により日本の法人税が課税されることはないと解して差し支えありませんか。

○ 法人税法(抜すい)

(外国法人に係る各事業年度の所得に対する法人税の課税標準)
第百四十一条 外国法人に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の課税標準は、各事業年度の所得のうち次の各号に掲げる外国法人の区分に応じ当該各号に掲げる国内源泉所得に係る所得の金額とする。

  1. 一 国内に支店、工場その他事業を行なう一定の場所で政令で定めるものを有する外国法人 すべての国内源泉所得
  2. 二 国内において建設、据付け、組立てその他の作業又はその作業の指揮監督の役務の提供(以下この号において「建設作業等」という。)を一年を超えて行う外国法人(前号に該当する外国法人を除く。) 次に掲げる国内源泉所得
    1. イ 第百三十八条第一号から第三号まで(国内源泉所得)に掲げる国内源泉所得
    2. ロ 第百三十八条第四号から第十一号までに掲げる国内源泉所得のうち、その外国法人が国内において行う建設作業等に係る事業に帰せられるもの
  3. 三 国内に自己のために契約を締結する権限のある者その他これに準ずる者で政令で定めるもの(以下この号において「代理人等」という。)を置く外国法人(第一号に該当する外国法人を除く。) 次に掲げる国内源泉所得
    1. イ 第百三十八条第一号から第三号までに掲げる国内源泉所得
    2. ロ 第百三十八条第四号から第十一号までに掲げる国内源泉所得のうち、その外国法人が国内においてその代理人等を通じて行う事業に帰せられるもの
  4. 四 前三号に掲げる外国法人以外の外国法人 次に掲げる国内源泉所得
    1. イ 第百三十八条第一号に掲げる国内源泉所得のうち、国内にある資産の運用若しくは保有又は国内にある不動産の譲渡により生ずるものその他政令で定めるもの
    2. ロ 第百三十八条第二号及び第三号に掲げる国内源泉所得

(注) 外国法人に対する法人税の課税標準は、法人税法第141条第1号から第4号までにおいて、外国法人の区分に応じてそれぞれの課税標準が規定されています。このうち同条第2号に規定される外国法人の区分にC国出資法人が該当することはなく、C国出資法人が同条第4号に規定される課税標準を有することもありません。このため、本照会は、同条第1号又は第3号の規定によりC国出資法人に対して日本の法人税が課されることがないことを確認するものとしています。

4. 理由

  1. (1) 法人税法第141条第1号の規定による課税を受けないことについて
    1. イ 法人税法第141条第1号の規定の適用対象となる外国法人は、「国内に支店、工場その他事業を行なう一定の場所で政令で定めるもの」(以下「1号PE」といいます。)を有する外国法人とされるとともに、この1号PEに該当する場所が法人税法施行令第185条(外国法人の有する支店その他事業を行なう一定の場所)第1項第1号から第3号までに掲げられているところです。
       また、同条第2項第1号から第3号までに、1号PEに含まれない場所が掲げられているところです。
      ○ 法人税法施行令(抜すい)
      (外国法人の有する支店その他事業を行なう一定の場所)
      第百八十五条 法第百四十一条第一号(外国法人に係る法人税の課税標準)に規定する政令で定める場所は、次に掲げる場所とする。
      一 支店、出張所その他の事業所若しくは事務所、工場又は倉庫(倉庫業者がその事業の用に供するものに限る。)
      二 鉱山、採石場その他の天然資源を採取する場所
      三 その他事業を行なう一定の場所で前二号に掲げる場所に準ずるもの
      2 次に掲げる場所は、前項の場所に含まれないものとする。
      一 外国法人がその資産を購入する業務のためにのみ使用する一定の場所
      二 外国法人がその資産を保管するためにのみ使用する一定の場所
      三 外国法人が広告、宣伝、情報の提供、市場調査、基礎的研究その他その事業の遂行にとつて補助的な機能を有する事業上の活動を行なうためにのみ使用する一定の場所
    2. ロ C国出資法人がC国の原油を貯蔵する日本国内に所在する原油タンクが、C国出資法人にとって、1号PEに該当するかどうかについて検討すれば、原油タンクは、同条第1項第3号にいう「その他事業を行なう一定の場所で前二号に掲げる場所に準ずるもの」に該当する可能性があります。
    3. ハ しかしながら、C国出資法人は、日本及び極東地域をはじめとする全世界の顧客との間で売買契約が成立した場合に、通常は顧客がC国から配送することとしている原油を、日本国内の原油タンクに保管しているに過ぎません。
    4. ニ C国出資法人が日本及び極東地域をはじめとする全世界の顧客に貯蔵原油を売却する場合、その取引に係る注文の取得、協議、契約の締結等の売却に関する一切の行為は、C国などの日本国外で行われ、C国出資法人が日本国内に営業所等を置いて行うことはありません。
    5. ホ これらのことからすれば、原油タンクはC国出資法人の原油を保管している場所に過ぎず、1号PEに含まれないものとして同条第2項第2号に掲げられている「その資産を保管するためにのみ使用する一定の場所」に該当するものと認められます。
    6. ヘ 以上より、D法人から借用して原油を保管する原油タンクは、C国出資法人にとって、1号PEに該当しないこととなります。
  2. (2) 法人税法第141条第3号の規定による課税を受けないことについて
    1. イ 法人税法第141条第3号の規定の適用対象となる外国法人は、「国内に自己のために契約を締結する権限のある者その他これに準ずる者で政令で定めるもの」(以下「3号PE」といいます。)を置く外国法人とされるとともに、この3号PEに該当するものが法人税法施行令第186条(外国法人の置く代理人等)第1号から第3号までに掲げられています。
      ○ 法人税法施行令(抜すい)
      (外国法人の置く代理人等)
      第百八十六条 法第百四十一条第三号(外国法人に係る法人税の課税標準)に規定する政令で定める者は、次の各号に掲げる者(その者が、その事業に係る業務を、当該各号に規定する外国法人に対し独立して行い、かつ、通常の方法により行う場合における当該者を除く。)とする。
      一 外国法人のために、その事業に関し契約(その外国法人が資産を購入するための契約を除く。以下この条において同じ。)を締結する権限を有し、かつ、これを常習的に行使する者(その外国法人の事業と同一又は類似の事業を営み、かつ、その事業の性質上欠くことができない必要に基づきその外国法人のために当該契約の締結に係る業務を行う者を除く。)
      二 外国法人のために、顧客の通常の要求に応ずる程度の数量の資産を保管し、かつ、当該資産を顧客の要求に応じて引き渡す者
      三 専ら又は主として一の外国法人(その外国法人の主要な株主等その他その外国法人と特殊の関係のある者を含む。)のために、常習的に、その事業に関し契約を締結するための注文の取得、協議その他の行為のうちの重要な部分をする者
    2. ロ 原油タンクの払出し等の受託者として新プロジェクトに参画するD法人は、次の事実関係から検討すれば、同条各号に掲げられているいずれの者にも該当せず、3号PEには該当しないこととなります。
      • 1 D法人は、原油の積込み、管理・保管等の業務を委託されているに過ぎず、C国出資法人のために、その事業に関し契約を締結する権限を有していませんから、D法人が同条第1号に掲げられた者に該当することはありません。
      • 1 貯蔵原油の払出しの場面を例にしますと、D法人は、C国出資法人のために貯蔵原油を顧客の直接の要求に応じて自らの判断で払出しをすることはなく、C国出資法人からの相手方、払出数量等に係る指示に基づいてのみ引き渡すことになりますから、同条第2号に掲げられた者に該当することはありません。
      • 3 D法人は、C国出資法人のために日本及び極東地域をはじめとする全世界の顧客との間で、その事業に関し契約を締結するための注文の取得、協議その他の行為を行わないことから、同条第3号に掲げられた者に該当することはありません。
    3. ハ 新プロジェクトにおいて、D法人は、原油タンクの貸主として立場を有していますが、貸主が同条各号に掲げられているいずれの者にも該当しないことは明らかです。したがって、D法人は、C国出資法人にとって、3号PEに該当しないこととなります。
  3. (3)100%子会社の日本支店について
     上記2(3)のとおり、C国出資法人の100%子会社の支店が日本国内に存在しますが、子会社とはいえC国出資法人とは別の法人格を有しております。
     また、100%子会社の日本支店は、新プロジェクトに係る注文の取得、協議等の行為を行うなどの貯蔵原油の売却に関する行為は一切行いません。
     これらのことからすれば、100%子会社の日本支店がC国出資法人にとって1号PE及び3号PEのいずれにも該当することはないと考えられます。
  4. (4)結論
     上記(1)から(3)までのとおり、C国出資法人は、1号PE及び3号PEのいずれも有していないことから、法人税法第141条第1号又は第3号の規定により日本の法人税が課税されることはないと解しております。