別紙

法務省矯総第7068号
平成19年12月13日

国税庁課税部審理室長

岡南 啓司 殿

法務省矯正局

総務課長 中川 清明

1 照会事項

 複数社出資による特別目的会社である事業者(以下「SPC」という。)と国(以下「法務省」という。)との間で、民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(平成11年法律第117号。以下「PFI法」という。)に基づき、賃貸借契約の形態を採らない施設の整備及び維持管理の業務を受託する事業(以下「PFI事業」という。)において、SPCが法務省から受領するPFI事業に係る費用(以下「PFI事業費」という。)について、法人税法及び消費税法上、次のとおり取り扱って差し支えないでしょうか。

1 SPCが整備する刑務所施設及び公務員宿舎は、これらの施設に係る法務省に対する所有権移転の仮登記時にSPCから法務省に譲渡があり、その譲渡収益(PFI事業費のうち施設の整備等に必要な初期投資費用及びその資金調達に伴う利息相当額に係る部分(以下「PFI建設等事業費」という。))及びこれに係る費用につき譲渡者たるSPCが一定の延払基準の方法により経理して、法人税法第63条《長期割賦販売等に係る資産の譲渡等の時期の特例》及び消費税法第16条《長期割賦販売等に係る資産の譲渡等の時期の特例》の規定を適用する。

2 SPCは、このPFI建設等事業費である施設の整備等に必要な初期投資費用及び初期投資に係る資金調達に伴う利息相当額の合計額全体を、消費税法上、資産の譲渡に係る対価の額として処理する。

《概要図》
概要図

2 事実関係

(1) 事業(概要)
 照会の事業は、SPCがPFI法に基づく法務省との契約により刑務所施設と併設する公務員宿舎施設の整備と、契約期間中(18年間)の両施設の維持管理の業務を受託するものです。
 また、その施設の契約形態は賃貸借ではなく、公務員宿舎においては、本件契約上、国が使用すると規定しており、刑務所施設については、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(平成17年法律第50号)第3条に規定する刑事施設であって、国家公務員である刑事施設の長がこれを管理運営するものとしています。
 なお、施設の完成後においては、本件契約上SPCが所有権を有していますが、法務省の条件付所有権移転仮登記がなされており、本件契約終了時には法務省へ所有権が移転することとなっています。

(注) 本件契約とは、平成17年6月21日付けで締結された「美称社会復帰促進センター整備・運営事業施設の整備、維持管理及び運営に関する契約書」をいいます。以下同じ。

(2) PFI事業費の支払
 PFI事業費は、施設整備及び維持管理・運営業務に係る一切の対価によって構成され、一体の対価として法務省がSPCに72回払(年4回×18年)により支払うこととなっています。
 また、当該PFI事業費は、施設の完成(平成19年)後に支払が開始されます。

(注) 当該PFI事業費のうち、PFI建設等事業費を除く維持管理・運営業務に係る部分は、SPCによる契約期間中(18年間)の役務の提供に係る報酬(又は対価)に該当するものであり、一定の期間(四半期)ごとに支払を受けることとなっていることから、契約期間の経過に応じて益金の額に計上する(又は資産の譲渡等があったものとする)ことに疑義がなく、今回の照会事項とはしていません。

(3) PFI事業費の減額
 契約期間の中途において、SPCの提供するサービスが要求水準等の内容を満たしていないと判断した場合には、SPCに対して支払うPFI事業費を減額します。この場合、PFI事業費は、本事業に係るSPCの提供するサービスに対して一体として支払うものであることから、PFI事業費のうち、施設の整備等に必要な初期投資費用、初期投資に係る資金調達に伴う利息相当額及び施設の維持管理・運営に必要な費用として細分化せずにPFI事業費全額に基づき違約金等を算出し、PFI事業費全体を減額することとなっています。

3 検討

(1) 長期割賦販売等に係る資産の譲渡等の時期の特例の適用

イ 制度の概要
 内国法人が、次に掲げる要件を満たす長期割賦販売等に該当する資産の販売若しくは譲渡、工事(製造を含むものとし、長期大規模工事に該当するものを除く。)の請負又は役務の提供(以下「資産の販売等」という。)をした場合において、その資産の販売等に係る収益の額及び費用の額につき、その資産の販売等に係る目的物又は役務の引渡し又は提供の日の属する事業年度以後の各事業年度の確定した決算において一定の延払基準の方法により経理したときは、その経理した収益の額及び費用の額は、当該各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額及び損金の額に算入することとされています(法法631)。

[長期割賦販売等の要件]

1 月賦、年賦その他の賦払の方法により3回以上に分割して対価の支払を受けること。

2 その資産の販売等に係る目的物又は役務の引渡し又は提供の期日の翌日から最後の賦払金の支払の期日までの期間が2年以上であること。

3 当該契約において定められているその資産の販売等の目的物の引渡しの期日までに支払の期日の到来する賦払金の額の合計額がその資産の販売等の対価の額の3分の2以下となっていること。

 また、内国法人が、法人税法第63条第1項に規定する長期割賦販売等に該当する資産の譲渡等を行った場合において、この規定の適用を受けるため当該長期割賦販売等に係る対価の額につきこの規定に規定する延払基準の方法により経理することとしているときは、消費税についても、長期割賦販売等に係る資産の譲渡等の時期の特例の規定の適用があるものとされています(消法1612)。

ロ 本件PFI事業における施設の引渡しが長期割賦販売等に該当する資産の販売等となるかどうかの判定

(イ) 問題の所在
 本件契約は、刑務所施設及びこれに併設する公務員宿舎の整備と、契約期間中(18年間)の両施設の維持管理の業務を法務省からSPCが受託するものです。
 これらの施設(以下「本件施設」という。)は、本件施設完成直後においてSPCが所有権を取得するものの、法務省に対する所有権移転の仮登記を行い、刑務所施設及び公務員宿舎として使用収益可能となっています(本件契約3412、351、4412、492)。
 なお、本件契約の終了時又は解除時において、本件施設の所有権は法務省へ完全に移転することとなっています(本件契約694、本件契約(別紙19)21、42)。
 すなわち、本件契約による本件施設の譲渡は、当該契約終了(又は解除)後に所有権が法務省に完全に移転することを条件とした条件付譲渡契約に従って行う取引であることから、その譲渡(引渡し)時期を法務省が使用収益をできるようになる完成直後(仮登記時)とするのか、それとも所有権が完全に法務省に移転することになる契約終了時(完全移転時)とするのかという疑義が生じるところです。

(ロ) 本件施設の譲渡(引渡し)時期
 本件施設の譲渡は契約に基づき本件施設を建設・整備するものであることから、建設請負に類似するものと考えられるところです。
 建設請負による収益の額は、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日において収益計上するものとされており(法基通2−1−5)、所有権移転の日に収益計上するような取扱いとはなっていません。
 また、本件施設の譲渡は割賦販売法上の割賦販売に該当するものではありませんが(割賦販売法施行令別表第一)、同法においては、割賦販売の目的となった商品の所有権は、賦払金の全部の支払の義務が履行される時までは割賦販売業者に留保されたものと推定されるにもかかわらず(割賦販売法7)、税務上は、原則として商品の引渡時にその販売があったものとして収益計上がされているところです(法基通2−1−1、法631)。
 これらのことからすれば、本件施設の譲渡についても、本件施設が公務員宿舎及び刑務所施設として使用収益できることとなった時に仮登記することから、当該仮登記時に譲渡(引渡し)を行ったと解することが相当と思料します。
 なお、本件施設の譲渡に付された条件は、次のような理由により付したものであり、法務省への所有権の完全な移転の時期に制限を与えるものの譲渡自体の効力発生時期に影響を与えるものではないと思料しております。

1 本件施設の適正かつ安定的な管理・運営には、警備用機器等多くの設備・備品の良好な維持管理・更新整備が不可欠となるが、SPCを所有者とすることにより本件契約期間中のこれらの更新整備等をSPCの責任において行わせることができ、所有に伴うリスクを分散することができること。

2 SPCが所有者としての地位を有することにより、これらの更新整備等におけるSPCの自主性が高くなり、そのノウハウや創意工夫が発揮されることが期待できること。

3 本件施設に係る上記の更新整備等には、本件施設が大規模であるため多額の予算を要することとなり、法務省の完全所有物とした場合、必要に応じたタイムリーな対応が困難となること。

(ハ) 長期割賦販売等に該当する資産の販売等
 本件施設の譲渡(引渡し)の日については、本件契約上明らかではありませんが、平成19年2月27日付けの「工事完成確認書」により契約に定める要求水準を満たす施設であることを確認し、同日付けで法務省に対する所有権移転の仮登記を行っていることからすれば、同日から本件施設を使用収益できるものと認められ、本件施設の引渡日は平成19年2月27日と考えております。
 また、PFI建設等事業費の支払は、次のとおり行うことが予定されており、上記(1)イ1から3までの要件を満たしていることから、本件施設の譲渡は長期割賦販売等に該当すると考えられます。

1 72回(年4回×18年)に分割して支払うこと。

2 本件施設の引渡日(平成19年2月27日)からPFI建設等事業費の最終賦払金の支払の期日(平成37年4月)までの期間は2年以上であること。

3 賦払金の支払は平成19年4月以降に開始することから、本件施設の引渡日(平成19年2月27日)までに支払の期日の到来する賦払金の額の合計額(0円)はその資産の販売等の対価の額(16,957,718千円)の3分の2以下となっていること。

 したがって、SPCが当該長期割賦販売等に係る対価の額につき延払基準の方法により経理することとしている場合には、法人税法第63条第1項の規定による所得計算を適用することができることとなります。

(注) 当該工事が、法人税法第64条第1項《工事の請負に係る収益及び費用の帰属事業年度》に規定する長期大規模工事に該当する場合には、当該工事は長期割賦販売に該当せず、同法第63条第1項の規定を適用できないこととなりますが、当該長期大規模工事に該当するかどうかの要件の一つである「その請負の対価の額の2分の1以上が当該工事の目的物の引渡しの期日から1年を経過する日後に支払われることが定められていないものであること」に該当しないこととなるため、当該工事は、長期大規模工事には該当しないものです。

(2) PFI建設等事業費の消費税法上の取扱い

イ 消費税法における賦払金のうち非課税となる部分
 資産の譲渡等の対価の額又は当該対価の額に係る金銭債権の額を2月以上の期間にわたり、かつ、3回以上に分割して受領する場合におけるその受領する賦払金のうち利子又は保証料の額に相当する額で当該賦払に係る契約において明示されている部分を対価とする役務の提供が非課税取引とされています(消費税法別表一三、消令103十)。

ロ 本件PFI建設等事業費の課非判定

(イ) 問題の所在
 本件契約上、PFI事業費は、国が支払う対価であり、施設整備及び維持管理・運営業務に係る一切の対価によって構成され、一体の対価としてSPCに支払われるものとしています。その一方で、法務省からSPCに支払われるPFI事業費の内訳として、契約書別紙14「PFI事業費の支払方法及びPFI事業費の支払額の改定」において

1 施設の整備等に必要な初期投資費用

2 初期投資に係る資金調達に伴う利息相当額

3 本施設の維持管理・運営に必要な費用

と記載されています。
 そこで、このPFI事業費のうちPFI建設等事業費の内訳となる、2初期投資に係る資金調達に伴う利息相当額が、上記イの役務の提供の対価である「利子又は保証料の額に相当する額で当該賦払に係る契約において明示している部分」に該当して非課税となるのではないかという疑義が生じるところです。

(ロ) 初期投資に係る資金調達に伴う利息相当額の取扱い

(イ)の問題については、

1 事業契約書第65条《PFI事業費の支払い》において、国は、本件契約に基づくSPCの債務履行の対価として、PFI事業費を支払うこととしているが、この債務履行とは、本件施設の設計・建設という資産の譲渡と維持管理・運営という役務の提供をいうのであり、非課税となる利子又は保証料を対価とする役務の提供が行われているということが、契約上認められないこと。

2 PFI事業費は、国が支払う対価であり、施設整備及び維持管理・運営業務に係る一切の対価によって構成され、一体の対価としてSPCに支払うものとしており、SPCの提供するサービスが要求水準等の内容を満たしていないと判断した場合にあっても、SPCに対して支払うPFI事業費は細分化せずにPFI事業費全額に基づき違約金等を算出し、PFI事業費全体を減額すること。

3 本件契約において、PFI事業費のうち、初期投資に係る資金調達に伴う利息相当額部分は、法務省が刑務所施設及び公務員宿舎を取得するための施設整備費用の一部であって、資産の取得価額の一部と認められることから、割賦による役務の提供に対する対価に該当しないと考えられること。

の3つの事実関係から、SPCが負担する施設の整備等に必要な初期投資費用及び初期投資に係る資金調達に伴う利息相当額と表記されている部分の金額は、消費税法施行令第10条第3項第10号により非課税となる利子として、「当該賦払に係る契約において明示されている部分を対価とする役務の提供」に対する対価には該当せず、その合計額全体が、消費税の課税となる資産の譲渡に対する対価として当事者間において契約しているものと考えております。