平成24年10月31日

国税庁課税部審理室長
住倉 毅宏 殿

日本商工会議所
理事・事務局長 坪田 秀治

1 照会の趣旨

 全国各地の商工会議所の多くは、所轄税務署長の承認を受けて、特定退職金共済団体として退職金共済事業を行っているところです。
 この特定退職金共済団体が、その承認を受けた退職金共済規程のうち所得税法施行令第73条第1項各号に規定する要件に係る事項の変更をしようとするときは、「特定退職金共済団体に関する変更承認申請書」を提出し、その変更について当該税務署長の承認を受けることが必要とされています。
 ところで、平成19年6月19日、政府の犯罪対策閣僚会議幹事会において「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(政府指針)が決定され、当該政府指針においては、暴力団を始めとする反社会的勢力との関係遮断のための取組をより一層推進する必要があることから、その基本原則の一つとして「取引を含めた一切の関係遮断」が掲げられ、この基本原則に基づく対応として、「反社会的勢力とは、取引関係を含めて、一切の関係をもたない」こととされているとともに、「契約書や取引約款に暴力団排除条項を導入する」とされているところです。
 こうした社会的な要請を受け、特定退職金共済団体として退職金共済事業を行っている各地の商工会議所においても、その退職金共済規程の中に反社会的勢力を排除する条項(以下「反社会的勢力排除条項」といいます。)の導入を検討しているところがあります。
 退職金共済規程の中に特定の者を排除する条項を導入する場合、所得税法施行令第73条第1項第9号(不当な差別的取扱いの禁止)に掲げる要件に係る事項の変更として、上記の変更承認申請の手続が必要とも考えられますが、反社会的勢力排除条項は「不当に差別的な取扱い」をするものではなく、別添の「退職金共済規程の改定例」(PDF/138KB)(第2条第13項、第20条第2項第2号、同条第3項第4号)に準じて退職金共済規程の変更を行う場合には、この変更承認申請の手続は要しないものと考えて差し支えないか照会します。

2 照会に係る事実関係

 特定退職金共済団体においては、掛金として払い込まれた金額について、公社債や預貯金等の一定の資産として運用することとされており、その運用先の一つとして、被共済者を被保険者とする生命保険の保険料が掲げられています(所令731五、所規18の31)。
 具体的には、日本商工会議所策定の標準的な退職金共済規程(モデル規程)にも定めていますが、商工会議所は、自身を契約者及び受取人、被共済者を被保険者とする企業年金保険契約を生命保険会社と締結し、掛金として払い込まれた金額(事務に要する経費を控除したもの)を当該企業年金保険契約に基づく保険料として払い込み、その運用を委託しています。
 生命保険会社においては、平成19年6月19日の政府指針を受けて改正された「保険会社向けの総合的な監督指針」(平成20年3月26日)に基づき、反社会的勢力との関係を遮断するための対応として、企業年金保険契約等の保険約款に反社会的勢力排除条項を導入し、保険取引を解消する根拠となる保険約款の規定を整備していくものと承知しています。
 そして、特定退職金共済団体が締結している企業年金保険契約について、加入事業主又は被共済者が反社会的勢力であることを理由に企業年金保険契約の全部又は一部が解除された場合、当該企業年金保険契約に係る積立金相当額が特定退職金共済団体に払い戻されることになりますが、加入事業主との間の退職金共済契約には解除事由が存在せず、その後も当該共済契約は継続することから、特定退職金共済団体である商工会議所においては、掛金として払い込まれた資産を運用・管理し、退職金共済規程に基づいて引き続き退職一時金及び年金に関する給付を行っていかなければならない懸念が生じます(注1)。
 このように、資産の運用として行っている企業年金保険契約が解除されたにも関わらず、退職金共済契約が解除されないことにより、引き続き退職一時金及び年金に関する給付を行わなければならない不整合を解消するため、共済契約者(加入事業主)若しくは被共済者が反社会的勢力に該当すると認められるとき又は反社会的勢力に関与していると認められるときには、商工会議所は退職金共済契約を解除することができる規定を追加する改定例(別添「退職金共済規程の改定例」参照(PDF/138KB))を作成しました(注2)。

(注)

  • 1 被共済者の死亡による給付の上乗せ部分に相当する積立金の財源がないため、商工会議所が退職金共済規程に基づき、独自に支払う必要が生じます。
  • 2 この改定例は、日本商工会議所が策定した標準的な退職金共済規程(モデル規程)を基に作成したものですので、各商工会議所がこの改定例に準じてその退職金共済規程に反社会的勢力排除条項を導入する場合には、その基となる退職金共済規程の規定ぶりに合わせて改定が行われることとなります。
  • 3 反社会的勢力に該当するかどうかの判断に当たっては、企業年金保険契約を締結している保険会社と協議を行うほか、警察当局、弁護士等と連携、相談の上、慎重かつ万全を期した対応を行う必要があります。

3 照会者の求める見解となることの理由

 特定の者を排除する条項を退職金共済規程に導入する場合、一般的には所得税法施行令第73条第1項第9号(不当な差別的取扱いの禁止)の要件に係る事項の変更に該当し、「特定退職金共済団体に関する変更承認申請書」を提出して、その変更が当該要件に抵触するものではないことにつき税務署長の承認を受ける必要があると考えられます。
 しかしながら、今般の退職金共済規程への反社会的勢力排除条項の導入は、反社会的勢力との取引関係を含めた一切の関係を遮断するとの政府指針に基づき、その取組として行われるものであるとともに、反社会的勢力との関係遮断により、退職金共済事業の適切かつ健全な運営を確保するものです。
 また、特定退職金共済団体の行う退職金共済契約は、保険法上、生命共済契約に該当し、保険者である特定退職金共済団体の共済契約者(加入事業主)、被共済者又は共済金受取人に対する信頼が損なわれ、その生命共済契約の存続を困難とする重大な事由がある場合には、保険者である特定退職金共済団体はその生命共済契約を解除することができるものとされているところ(保険法第57条第3項)、退職金共済規程への反社会的勢力排除条項の導入は、この包括的に定められている重大事由による解除について明確化を図るものであって、重大事由による解除について具体的な定めのない現行の退職金共済規程において新たに明文化するにすぎないものと考えられます。
 このように、反社会的勢力排除条項の導入は、政府指針や社会的な要請により反社会的勢力との関係を遮断するものであって、これにより退職金共済契約が解除されるとしても、そもそも所得税法施行令第73条第1項第9号に規定する「不当に差別的な取扱い」をするものではないと考えます。
 したがって、別添の「退職金共済規程の改定例」(PDF/138KB)に準じて退職金共済規程に反社会的勢力排除条項を付加したとしても、「不当に差別的な取扱い」に当たらないことは明らかであって、仮に変更に係る承認申請を行ったとしてもその承認が却下されることは考えにくいことから、同号に掲げる要件に係る事項の変更には該当しないものとして退職金共済規程に係る変更承認の手続は要しないと解しても差し支えないと考えます。

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