平成24年9月6日

国税庁課税部審理室
審理室長 住倉 毅宏 殿

一般社団法人全国銀行協会
副会長・専務理事 和田耕志

1 照会の趣旨

 非居住者又は外国法人が、民間国外債(法人により国外において発行された債券で、その利子の支払が国外において行われるものをいい、一定のものを除きます。)の利子の支払を受ける場合において、一定の事項を記載した非課税適用申告書を、その利子の支払をする者(又は支払の取扱者及び利子の支払をする者)を通じて所轄税務署長に提出することにより、その支払を受ける利子については、所得税を課さないこととされています(措法64)。
 平成22年度税制改正において、この民間国外債等の利子の課税の特例(措法6)について改正が行われ、利子の額が民間国外債の発行者又はその特殊関係者に関する一定の指標を基礎として算定されるもの(以下「利益連動債」といいます。)は、その利子について所得税を課さないこととする民間国外債から除かれることとなりました。
 銀行及び銀行持株会社は、自己資本比率規制への対応の観点から、これまで海外SPCを活用した優先出資証券を発行して参りました。
 しかし、平成22年12月、バーゼル銀行監督委員会が新たな自己資本比率規制(バーゼルV)に関する文書を公表し、この内容を受けて、国内でも、平成24年3月30日に「銀行法第14条の2の規定に基づき、銀行がその保有する資産等に照らし自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準(平成18年金融庁告示第19号)」及び「銀行法第52条の25の規定に基づき、銀行持株会社が銀行持株会社及びその子会社の保有する資産等に照らし自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準(平成18年金融庁告示第20号)」の一部を改正する告示が公布され(以下、これらを併せて「本件基準」といいます。)、本件基準は原則として平成25年3月31日から適用されることとなりました。
 この改正により、これまで海外営業拠点を有する銀行及び当該銀行を子会社とする銀行持株会社が発行してきた海外SPCを活用した優先出資証券の内容では本件基準に定める「その他Tier1資本の額」への算入要件を満たさないため、その算入要件を満たす新たな資本調達手段として、次の2(1)に示す利払停止条項付永久劣後債(以下「本件永久劣後債」といいます。)の発行を検討しています。
 本件永久劣後債は、市場金利を基礎として決定される利率で利払いがされますが、その社債要項において、一定の事由が生じた場合に強制的に利払いの一部又は全部が停止及び免除されるほか、発行体の完全な裁量により利払いの一部又は全部を停止することができ、この場合、当該利払いは免除される旨が規定されています。
 この本件永久劣後債については、税務上、上記の利益連動債には該当せず、したがって、本件永久劣後債が国外において発行され、その利子の支払が国外において行われる場合において、非居住者又は外国法人(本件永久劣後債の発行をする者の特殊関係者を除きます。)が支払を受けるものについては、非課税適用申告書を提出することにより非課税となると考えてよろしいか伺います。

2 照会に係る事実関係

(1) 本件永久劣後債の内容
 本件永久劣後債の内容は以下のとおりです。

  • イ 内国法人である銀行又は銀行持株会社の直接発行による永久劣後債
  • ロ 本件永久劣後債の金利は、市場金利を基礎として、発行体である各銀行又は各銀行持株会社の発行時の信用リスク(発行時に定められた定率)を加味して算定する固定利率又は変動利率
  • ハ 本件永久劣後債は、以下の場合には、利払いが強制的に停止される。
    • (イ) 発行体の清算手続が開始された場合、破産手続開始が決定された場合、事業の全部の廃止を内容とする更生計画案の作成が許可された場合
    • (ロ) 発行体が支払不能若しくは債務超過となった場合又は支払不能の状態に発行体が陥っているとの判断に基づき金融当局が法的措置を取った場合
    • (ハ) 発行体に法令の規定に基づき算定された分配可能額がない場合
    • (ニ) 発行体の自己資本比率が一定の比率を下回った場合
    • (ホ) 発行体の優先株に係る優先配当が行われない場合
    • (注) 上記(ハ)又は(ホ)の場合には一部のみが支払い停止となる場合もある。また、支払停止となった利息額は繰り延べられず、免除される。(下記ニにおいて同じ。)
  • ニ 上記ハに掲げる各事由が生じていない場合においても、発行体は、その完全な裁量により、利払いの全部又は一部を停止することができる。
  • ホ 発行体について次の事由が生じた場合、本件永久劣後債の元本の削減又は普通株式への転換が行われる。
    • 1 実質破綻事由が発生した場合(本件永久劣後債の元本の削減若しくは普通株式への転換又は公的機関による資金の援助その他これに類する措置が講ぜられなければ発行者が存続できないと認められる場合において、これらの措置が講ぜられる必要があると認められるとき)
    • 2 法的倒産手続が開始した場合
    • 3 連結普通株式等Tier1比率若しくは単体普通株式等Tier1比率が金融庁の指定する一定の水準を下回った場合

(2) 関係法令
 上記1のその利子について所得税を課さないこととする民間国外債から除かれる「利益連動債」とは、利子の額が以下に掲げる指標を基礎として算定されるものをいいます(措法64、措令3の2の28)。

  • イ 民間国外債の発行者等(民間国外債の発行する者又は当該発行をする者の特殊関係者をいいます。以下同じ。)の事業に係る利益の額又は売上金額、収入金額その他の収益の額
  • ロ 民間国外債の発行者等が保有する資産の価額
  • ハ 民間国外債の発行者等が支払う剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配その他これらに類するものの額

3 照会者の求める見解となることの理由

 上記2(1)ハのとおり、本件永久劣後債の利払いの停止及び免除は、発行体の清算手続が開始された場合や発行体が支払不能になった場合などのほか、発行体に分配可能額がない場合、自己資本比率が一定の水準を下回る場合又は優先株に係る優先配当が行われない場合になされるものであることから、発行体における分配可能額の有無や自己資本比率又は優先配当の有無により決定されるという点において、その利子の額が「利益の額」、「保有する資産の価額」、「剰余金の配当」等の指標を基礎として算定されるものとして、利益連動債に該当するのではないかとの疑義が生じます。
 しかしながら、本件永久劣後債については、次の理由から利益連動債に該当しないものと考えます。

  • (1) 本件永久劣後債の利子の額は、市場金利を基礎として発行体である各銀行又は各銀行持株会社の発行時の信用リスク(発行時に定められた定率)を加味し算定される利率によるものであり、市場金利は上記2(2)の指標には該当しないこと。
  • (2) 利払いの停止は、分配可能額の有無や自己資本比率の水準又は優先株に係る優先配当の有無等により決定されるとしても、経営不振等の状況に陥った場合等に市場金利を基礎として設定された利子の額についてその全部又は一部を支払わないとするものであり、利益に連動して、当初設定した金利による金額以上の利払いが行われるものではないこと。
  • (3) 本件永久劣後債は、上記2(1)のハに掲げる利払い停止事由が生じていない場合においても、発行体がその完全な裁量によりその利払いの全部又は一部を停止することができ、この場合、当該利息は免除されるとされているが、これは本件基準を満たすための条件であって、市場参加者として通常の市場慣行から大幅に逸脱する行為を選択することにより被る経済的不利益の大きさを勘案すれば、2(1)のハに掲げる利払い停止事由が生じておらず、かつ、法令等により利払いが禁止される状況にも陥っていない場合において利払いを停止することは想定されず、また、発行体の裁量で利払い額を増額するものでもないこと。

 したがって、上記2(1)に掲げる内容に従って発行される本件永久劣後債は利益連動債には該当せず、本件永久劣後債が国外において発行され、その利子の支払が国外において行われる場合において、非居住者又は外国法人(本件永久劣後債の発行をする者の特殊関係者を除きます。)が支払を受けるものについては、非課税適用申告書を提出することにより非課税となると解されます。
 なお、平成22 年度税制改正により創設された振替社債等の利子の課税の特例(措法5の3)においても、その利子について所得税を課さないこととする振替社債等から利益連動債が除かれていますが(措法5の34一、措令3の28)、これについても民間国外債と同様に本件永久劣後債は利益連動債に該当せず、租税特別措置法第5条の3に規定する他の要件を満たす場合には、当該課税の特例の対象になると解されます。

以上