平22資企個第13号
平成22年9月29日

国税庁課税部審理室長
飯島 信幸 殿

一般社団法人 全国銀行資金決済ネットワーク
理事長 和田 耕志

1 照会の趣旨

 当法人は、資金決済に関する法律(以下「資金決済法」という。)の施行(平成22年4月1日)に伴い、資金決済法第2条に規定する資金清算業を行う資金清算機関として内閣総理大臣の免許を受け、従来社団法人東京銀行協会が運営してきた全国銀行内国為替制度(以下「本件制度」という。)を引き継ぐこととしており、平成22年10月1日から運営を開始する予定です。
 ところで、本件制度では、加盟する金融機関(以下「加盟銀行」という。)のうち当法人と資金清算を行う者(以下「清算参加者」という。)は、当法人に対して、当法人が指定する種類の担保を差し入れなければならないこととしております。
 この担保として、社債、株式等の振替に関する法律(以下「社振法」という。)第88条に規定する振替国債または同法第2条第2項に規定する振替機関である株式会社証券保管振替機構(以下「ほふり機構」という。)で取り扱う政府保証債、地方債、金融債もしくは普通社債が差し入れられた場合に支払われる利子については、担保の差し入れを行った清算参加者が支払を受ける者として、租税特別措置法第8条第1項第1号の金融機関等の受ける利子所得に対する源泉徴収の不適用の規定により、所得税の課税対象とならないものと考えてよいか、照会申しあげます。

2 照会に係る事実関係

(1) 本件制度について
 本件制度は、全国銀行データ通信システムを利用した加盟銀行相互間における内国為替取引およびこの取引に係る債権債務の清算を行うための制度であり、お客様の依頼にもとづく加盟銀行相互間における振込等に係る支払指図の交換を行うとともに、支払指図の交換に伴い発生する清算参加者間の資金貸借について、日本銀行の当座預金の振替によって清算することとしています(業務方法書第2条)。

(注) 加盟銀行は、すべて内国為替取引の支払指図を交換する日本国内の預金取扱金融機関であり、資金決済法第2条第10項に規定する銀行等に該当するとともに、租税特別措置法第8条第1項および租税特別措置法施行令第3条の3第1項に掲げる「金融機関」にも該当します。

(2) 資金清算業について

イ 資金清算業とは、為替取引に係る債権債務の清算のため、債務の引受け、更改その他の方法により銀行等の間で生じた為替取引にもとづく債務を負担することを業として行うことをいいます(資金決済法第2条第5項)。

ロ 本件制度における資金清算は、まず当法人が、個々の支払指図に伴い生じる支払側の清算参加者が受取側の清算参加者に対して負うこととなる債務を免責的に引き受けると同時に、当該債務を免れた清算参加者に対して、対当する債権を取得します。これにより、各清算参加者間の資金貸借が当法人と各清算参加者との間の資金貸借に置き換わることとなります(業務方法書第49条)。
 そして、当日の業務終了後において、日中のすべての支払指図に係る資金貸借の積算額を、日本銀行に開設する各清算参加者と当法人の当座預金口座の間で振替決済することとなります。

(3) 資金清算に対する措置について
 資金決済法上、当法人には資金清算業の適切な遂行を確保するための措置を講じることが求められていることから、資金清算に係る一連の取引を安全・確実に行うことができるよう、次の措置を講じています(資金決済法第72条、業務方法書第51条〜第53条、「担保、保証および仕向超過限度額に関する取扱要綱」(以下「要綱」という。)T2、「担保、保証および仕向超過限度額に関する事務取扱要領(以下「要領」という。)第1編5、7)。

イ 各清算参加者が日中の各時点において当法人に対して負うことができるネットでの債務の額(債権の累積額−債務の累積額)については、事前に各清算参加者が当法人に対して申告した額(以下「仕向超過限度額」という。)を限度とする。

ロ 各清算参加者は、当法人に対して、仕向超過限度額に相当(当法人が定める掛目を適用)する担保(注)を差し入れなければならない。

(注) 担保として差し入れが可能なものは、次に掲げるもの(1および2については、利子等の計算期間の全期間において清算参加者の振替口座簿に記録または記載されている自己所有分のものに限る。)としております。

1 社振法第88条に規定する振替国債のうち、日本銀行に設けられた当法人の「加入者口座」(振替を行うための口座をいう。以下同様。)に振り替えることのできるもの(以下「振決国債」という。)

2 ほふり機構に登録された政府保証債、地方債、金融債、普通社債のうち、ほふり機構に設けられた当法人の加入者口座に振り替えることができるもの(以下「振替社債等」という。)

3 東京証券取引所の第一部に上場されている株式のうち金融機関の株式を除く貸借銘柄で、ほふり機構に設けられた当法人の加入者口座に振り替えることができるもの

4 現金(決済勘定(日本銀行の当座預金勘定)に振り替えられた資金に限る。)

ハ 清算参加者が当法人に対して負う債務が履行されなかった場合には、その者から差し入れを受けた担保を、事前に通知または催告をすることなく当法人が処分できることとし、また、この処分により取得した金銭を法定の順序にかかわらず、当該債務の弁済に充てることができる。
 また、清算参加者の当法人に対する債務の全部または一部の弁済に代えて、当法人は、清算参加者に通知のうえ、担保を取得することができる。
 なお、差し入れられた担保については、上記の処分または取得を除き、差し入れを行った清算参加者の承諾なく、第三者に譲渡または質入をすることはできない。

ニ 上記ハの処分を的確に行うための措置として、差し入れを受けた担保については、当法人を権利者として振替記載を行う(株式については、振替記載が行われた場合であっても、清算参加者に株主としての権利が留保される。)。
 なお、担保の差し入れは、資金清算参加者から提出された「担保差入申請書」を当法人で確認した後、清算参加者側で振替手続を行い、この完了を確認した後、当法人から発行した「担保差入確認通知」を清算参加者が受けることにより完了する。

(4) 振決国債および振替社債等に係る利子の取扱いについて
 担保として差し入れられた振決国債および振替社債等に係る利子については、次の方法により、差し入れを行った清算参加者がこれを受け取ることとしております(要領第1編12)。

イ 振決国債の場合、いったん日本銀行の振替口座簿に設けられた当法人の加入者口座の利払口に、利子の支払を受けるための残高(注1)が設定されるが、利払日までにこの残高を清算参加者の利払口に振り替える処理を行うことにより、差し入れを行った清算参加者が利払日に利子を受け取ります(注2)。

(注)

1 残高とは、現実に利子の支払が行われたことを意味するものではなく、利払日に利子が支払われる旨の通知を意味するものです。

2 本件制度の運営に当たっては、日本銀行の振替口座簿へ振決国債の振替を行うため、当法人の加入者口座を開設する必要があることから、事前に、当法人から日本銀行に対して、加入者口座の開設依頼の申出を行いますが、その際に口座の開設は清算参加者から担保として振決国債を受け入れるために行うものである旨を併せて申し出ています。

ロ 振替社債等の場合には、利払日前に当法人からほふり機構に対して「加入者別担保受入データ」を送信し、差し入れを行った清算参加者の元利払対象残高および当該元利払対象残高が源泉徴収不適用分である旨を通知する元利払担保残高通知処理を行うことにより、この清算参加者が利払日に利子を受け取ります(要領第1編12)。

3 照会者の求める見解となることの理由

 振決国債および振替社債等の権利の帰属は、振替口座簿の記載または記録により定まることとされています(社振法第66条、第88条、第113条、第120条)。
 本件制度では、担保として差し入れられた振決国債および振替社債等については、当法人を権利者として振替記載が行われることから、形式上はその利子の支払を受ける者は当法人ということになります。
 しかしながら、本件の振替記載については、次のとおり、将来発生する可能性のある債権の担保とすることのみを目的として形式的に行われるものにすぎず、利子に係る収益を実際に享受するのは、振決国債および振替社債等を担保として差し入れた清算参加者であることが明らかとなっています。

(1) 業務方法書、要綱および要領に、振決国債および振替社債等が担保として差し入れられることを明確に記載していること。

(2) 清算参加者が当法人に差し入れた振決国債および振替社債等に係る利子については、要綱および要領において、清算参加者がこれを受領するよう定められていること。

(3) 担保として差し入れられた振決国債および振替社債等について、当法人が自由な処分権限を有しているわけではなく、仕向超過限度額を満たす担保が提供されている限り、それを超える部分の額に相当するものについては、差し入れを行った清算参加者が返戻を受けることが可能となっていること。

(4) 振決国債および振替社債等が担保として差し入れられたとしても、清算参加者は、その財務諸表において、当該振決国債および振替社債等を引き続き保有資産として計上しており(担保として差し入れている旨を注記)、当法人においても保有資産として計上してはいないこと(担保として差し入れを受けている旨を注記)。

 また、これらの内容については、当法人を含め清算参加者ならびに振替機関である日本銀行およびほふり機構(注1)において予め承知しており(注2)、担保として差し入れられた振決国債および振替社債等の利子に係る実質的な受益者が清算参加者であることを前提として利払いが行われるものです。
 以上のことから、所得税法上も利子の実質的な受益者である清算参加者が利子の支払を受ける者として取り扱われるとともに、当該清算参加者は、租税特別措置法第8条の適用対象者であることから、振決国債および振替社債等に係る利子については、源泉徴収を要しないものとして取り扱われることになると考えます。

(注)

1 日本銀行は、振決国債の利子に係る源泉徴収義務者です。
 また、振替社債等の利子に係る源泉徴収義務者は、発行体(実務上はその支払代理人が納税事務を代行しています。)となりますが、ほふり機構は、「加入者別担保受入データ」にもとづき利金請求額や国税額を算出し、利払処理や納税事務に必要となる情報が設定された「元利金請求データ」を支払代理人に対して提供しています。

2 日本銀行については、当法人の加入者口座開設時の当法人の申出によって、また、ほふり機構については、利払日前の「加入者別担保受入データ」の送信を受けることによって、振決国債および振替社債等が担保として差し入れられたものであることを確認しています。