別紙
平成21年6月9日
国税庁課税部審理室長
大久保 修身 殿
日本証券業協会
専務理事 大久保 良夫
2009年1月15日、米国のTMPG(財務省証券市場慣行に関する懇談会)は、改定した「財務省証券市場のベスト・プラクティス」(以下「本件プラクティス」といいます。)を公表しました。
本件プラクティスでは、全ての米国財務省証券(以下「米国国債」といいます。)の取引において、債券の購入者が債券の売却者から当初の決済予定日に米国国債の受渡しを受けられなかった場合(以下、このことを「フェイル」といいます。)に、購入者が売却者に対して一定の違約金(以下「フェイルチャージ」といいます。)を請求できることとされています。
この場合、本邦の投資家が米国等の証券会社等に対して支払うフェイルチャージ(以下「本件フェイルチャージ」といいます。)は、所得税法第161条第6号に規定する国内源泉所得(貸付金の利子)に該当せず、源泉徴収を要しないものと解してよいか照会します。
なお、フェイルチャージの概要については、以下のとおりです。
「国内において業務を行う者に対する貸付金(これに準ずるものを含む。)で当該業務に係るものの利子」は、国内源泉所得として源泉徴収の対象とされています(所法161六、所法212
)。
この「貸付金(これに準ずるものを含む。)」の意義について、裁判例は、「消費貸借に基づく貸付債権を基本としつつ、その性質、内容等がこれとおおむね同様又は類似の債権をいうものとするのが相当である。」と判示しています(東京高判平20.3.12、大阪高判平21.4.24)。
この点に関し、所得税基本通達では、「これに準ずるもの」の例示として、
勤務先に対する預け金で預貯金に該当しないもの
取引先等に対する保証金、預け金
売買、請負、委任の対価又は物若しくは権利の貸付け若しくは使用の対価に係る延払債権
に定める対価に代わる性質を有する損害賠償金等に係る延払債権
が定められています(所基通161-16)。
また、貸付金の利子には、当該対価等として支払われるものばかりでなく、当該対価等に代わる性質を有する損害賠償金その他これに類するものも含まれるものとされ、「その他これに類するもの」には、和解金、解決金のほか、対価等の支払が遅延したことに基づき支払われる遅延利息とされる金員で、当該対価等に代わる性質を有するものが含まれることとして取り扱われています(所基通161-6の2)。
なお、平成21年の税制改正により、「国内において業務を行う者との間で行う債券現先取引で当該業務に係るものから生ずる所得」が、所得税法第161条第6号に規定する「貸付金の利子」に含まれることとされました(所令283
)。
本件フェイルチャージに係る金銭は、その金額の計算方法が「取引金額×(3-TMPG参照レート)%×経過日数/360」となっているため、売買の対価である金銭債務の遅延利息とも考えられなくもありません。
しかしながら、本件フェイルチャージは、以下の理由から、所得税法第161条第6号に規定する「貸付金の利子」には該当せず、その経済的実質は売買契約における目的物である米国国債の引渡しの不履行に対する違約金と考えられ、源泉徴収の対象とされる国内源泉所得のいずれにも該当しないものと考えます。
購入者が米国国債の対価の支払の遅延によって請求されるものではなく、売却者がその受け渡すべき米国国債を受け渡せないことにより請求されるものであること。
売却者が実際に引き渡しをするまでの間に享受した運用益(経過利子相当額)とは別途に請求されるものであること。
本件フェイルチャージの計算式は、表明上は利子の計算式であるかのごとく見えるものの、その内容は3%とTMPG参照レートとの差額が算出され、TMPG参照レートが3%を超える場合はフェイルチャージが算出されないなど、利子とは異なるものであること。
(注) なお、フェイルチャージの計算式で3%が上限となっている趣旨は、これまでの米国国債の取引状況からみて、フェイルによる経済的損失が3%以上になると、フェイルがほぼ発生しなくなるという経験則によるものであり、単なるペナルティではなく、これによりフェイルを発生しにくくさせ、取引の安定を図るものである。
以上