【東京国税局 原井酒税課長】

世界を見渡したとき、民族によって宗教が色々あるように、お酒もその国の風土や文化にあったお酒が造られ、愛されています。これにあわせて、お酒との付き合い方も色々あるかと思います。

冠婚葬祭、行事・お祭り、楽しい酒、悲しい酒・・・・等々

その一方で、お酒に含まれるアルコールによってもたらされる様々な影響が起きているのも事実です。すなわち、飲酒運転、未成年者飲酒、アルコール依存症、イッキ飲みなどの社会問題が発生し、毎日のようにマスコミに取り上げられているところです。

ここで、お酒について考えた場合、一つの切り口として、飲み手である私たち(もちろん二十歳以上です)が、身体的にお酒に強いのか、弱いのかを考えてみたいと思います。

アルコールの分解に関する酵素は、アルコールを分解する酵素とアセトアルデヒドを分解する酵素の2種類があり、このうちアセトアルデヒドを分解する酵素は次の2種類があります。
◆ALDH1型・・・・
血中アセトアルデヒド濃度が高くなってから作用が始まり、ゆっくり分解する酵素(やや弱い酵素)
◆ALDH2型・・・・
血中アセトアルデヒド濃度が低い時点から作用する強力な酵素
アセトアルデヒドは、血液中のアルコールが肝臓のアルコール脱水素酵素(ADH)によって分解された中間代謝物質です。このアセトアルデヒドは、更にアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)により分解されて酢酸になり、最終的に炭酸ガスと水にまで分解されます。
アルコールの分解
  • アルコールの分解の流れを表した図1
  • アルコールの分解の流れを表した図2
お酒が強い人と弱い人の差は、このALDH2型の酵素の活性遺伝子の型によると言われています。
◆NN型・・・・
ALDH2型の正常活性遺伝子型(お酒に強い)
◆ND型・・・・
NN型の16分の1の活性しかない遺伝子型(ある程度は飲める)
◆DD型・・・・
ALDH2型の活性のない遺伝子型(ほとんど飲めない)

女性の場合は、女性ホルモンが酵素の働きを抑制するため分解力が弱くなるといわれています。

自分がどの型に属するかは血液検査でわかりますし、もっと簡単な方法としては、腕に消毒用アルコールを含ませたバンソウコウを10分間貼って調べることもできます(赤くなったらDD型、ピンクになったらND型、無反応はNN型だそうです。)。

同じ量の酒を飲んだ場合の血中アセトアルデヒド濃度は、ND型はNN型の人の4〜5倍、DD型はNN型の人の20〜30倍になると言われています。

人類はもともとはNN型でしたが、数千年前シベリア地方(あるいは東アジア)で一人の人間の遺伝子に突然変異が生じ、結婚等によりこれが東アジアに広がっていったと言われています。

したがってヨーロッパ等の人種は殆ど全員がNN型でお酒に強く、モンゴロイド(蒙古系人種)に属する中国、朝鮮半島、日本、東南アジア地方の人種は一定の割合でND型あるいはDD型といったお酒にあまり強くない人がいると言われています。

また、モンゴル系でも、旧モンゴル系と新モンゴル系があって、新モンゴル系の弥生人の遺伝子を強く受け継いでいる人は弱く、旧モンゴル系の縄文人の遺伝子を強く受け継いでいる人は強いと言われています。

「ALDH2」不活性型の割合
  • 日本人・・・・44%
  • 中国人・・・・41%
  • タイ人・・・・10%
  • フィリピン人・・・・13%
  • ヨーロッパ系白人・・・・0%
  • アフリカ系黒人・・・0%
  • 北アメリカインディアン・・・・0〜4%
ある説によると日本人は、縄文人系はNN型、弥生人系(大陸から日本列島に移住)はND型あるいはDD型が多いと言われていますが、その割合は、NN型56%、ND型40%、DD型4%と言われています(別の説では、ALDH2型を持たない人が25%はいると言われています。)。
アセトアルデヒド脱水素酵素の欠損率が高く酒に弱い人が多いのは弥生系で、1日本人の3〜4割は、ほどほどにお酒は飲めるが、21割近くの人は訓練しても飲めるようにはならない(残りの5割強は強い)との説もあります。
縄文系と弥生系の見分け方(あくまで目安)
◆縄文系・・・・・
眉毛が濃くて起伏が比較的大きい顔の人。歯が小さくて裏側が平ら。
◆弥生系・・・・・
眉毛が薄くて割りに起伏が少ない顔の人。歯が大きくて裏側がシャベル状。
缶チューハイを1缶飲んだ時の分解時間は? 〜アルコールは肝臓で分解される!〜

飲酒した時の外面的な一つの現象として、顔が赤くなるということがあります。これをオリエンタルフラッシング、あるいはジャパーニーズフラッシングと呼ばれています。

西洋の人はもともとは赤ら顔の人が多いからわからないかもしれませんが、日本人は、飲酒すると赤ら顔が多くなると言われています。

この顔が赤くなるのは、胃の働きと考えられがちですが、アルコールの分解は肝臓で行われています。

自分の適量にとどめようの画像
  • 分解速度 ⇒  成人で体重1kg当たり1時間に0.1g
    体重60kgの成人 1時間に 6g
  • アルコール分7%の缶チューハイ350ml缶の中に含まれるアルコールの量 ⇒ 約20g
  • 缶チューハイに含まれるアルコールの分解にかかる時間 ⇒ 約3時間
    缶チューハイを2缶飲めば、分解するのに約2倍の時間がかかります。
【参考】アルコール血中濃度と酔いの状態
血中濃度% 酒量 酔いの状態
爽快期
(0.02〜0.04)
ビール(大びん〜1本)
日本酒(〜1合)
ウイスキー(シングル〜2杯)
◆さわやかな気分になる
◆皮膚が赤くなる
◆陽気になる
◆判断が少しにぶくなる
ほろ酔い期
(0.05〜0.10)
ビール(大びん1〜2本)
日本酒(1〜2合)
ウイスキー(シングル3杯)
◆ほろ酔い気分になる
◆手の動きが活発になる
◆抑制がとれる(理性が失われる)
◆体温上昇、脈が速くなる
酩酊初期
(0.11〜0.15)
ビール(大びん3本)
日本酒(3合)
ウイスキー(ダブル3杯)
◆気が大きくなる
◆大声でがなり立てる
◆怒りっぽくなる
◆立てばふらつく
酩酊期
(0.16〜0.30)
ビール(大びん4〜6本)
日本酒(4〜6合)
ウイスキー(ダブル5杯)
◆千鳥足になる
◆何度も同じことをしゃべる
◆呼吸が速くなる
◆吐き気、おう吐が起こる
泥酔期
(0.31〜0.40)
ビール(大びん7〜10本)
日本酒(7合〜1升)
ウイスキー(ボトル1本)
◆まともに立てない
◆意識がはっきりしない
◆言語がめちゃめちゃになる
昏睡期
(0.41〜0.50)
ビール(大びん10本以上)
日本酒(1升以上)
ウイスキー(ボトル1本以上)
◆揺り動かしても起きない
◆大小便はたれ流しになる
◆呼吸はゆっくりと深い
◆死亡

※ 社団法人アルコール健康医学協会資料