税を知る デジタル活用 きょうから「考える週間」

新型コロナウイルス禍が社会に大きな変化をもたらす中、国民生活に深く関わる税への関心が高まっている。11日〜17日の「税を考える週間」に合わせ、毎日新聞大阪本社の木村哲人社会部長が大阪国税局の後藤健二局長と対談し、税務行政のあり方やデジタル化の取り組みについて聞いた。

スマホで広がるe-Tax / キャッシュレス納付浸透


毎日新聞大阪本社の木村哲人社会部長(右)と対談をする大阪国税局の後藤健二局長

木村社会部長(Q) 「税を考える週間」が始まります。

後藤局長(A) 国民の皆さんに租税の意義や役割、税務行政への理解を深めてもらうためには、効果的な情報提供が重要になります。日本の税制は「申告納税制度」で、納税者本人が申告するのが基本です。納税者が使いやすいサービスを充実することも大切になります。この1週間、国税庁の取り組みを集中的に啓発活動しています。

Q 今年からテーマが新しくなりましたね。

A 「これからの社会に向かって」に刷新しました。ホームページ(HP)の特設ページで納税手続きなどを解説するほか、ユーチューブの「国税庁動画チャンネル」で新着情報も発信します。各地の納税協会などと連携して税を学ぶイベントの実施も予定しています。

Q 新型コロナの影響で社会情勢は大きく変わっています。国税庁はこの変化にどのように対応しようとしていますか。

A コロナ禍で非対面の経済社会活動が一気に現実のものになりました。納税者の利便性を向上する観点から、組織としてデジタル化に向き合うことが大事だと認識しています。国税庁は2021年6月、「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション−税務行政の将来像2.0」を公表しました。近い将来、あらゆる手続きが税務署に足を運ばなくても可能になる社会を目指しています。

Q 所得税などの確定申告で、国税電子申告・納税システム「e−Tax」(イータックス)の利用が進んでいます。

A スマートフォンで利用しやすくなったことが大きいですね。源泉徴収票をスマホのカメラで撮影すると、内容が自動的に申告書に反映される機能も追加されました。23年1月には、スマホで青色申告決算書や消費税申告書なども作成できるようになります。

Q クレジットカードなどを活用し、金融機関の窓口に出向かない「キャッシュレス納付」も注目されています。

A 国税庁は、キャッシュレス納付について「25年度までに納税全体の4割まで拡大する」との目標を掲げています。21年度は32%だったので徐々に浸透しています。来月からはスマホの決済サービスでも納付できるようになります。税務行政のデジタル化は、事業者の業務効率化にもつながると考えています。

Q 事業者に正確な消費税の納付を促す「インボイス制度」は、23年10月の導入まで1年を切りました。

A インボイスは、事業者間の商取引で消費税率や税額を正確に把握するために発行する請求書です。日本の消費税率は10%(標準)と8%(軽減)の2種類あり、物品ごとに適用税率が異なります。制度は原則として売り手側に請求書の発行を求め、消費税額の計算が複雑化する課題を解消する狙いがあります。

Q 制度の円滑な実施に向け、具体的な取り組みを教えてください。

A インボイスを発行できる事業者になるためには税務署に事前申請し、登録を受ける仕組みです。制度のスタート時から「発行事業者」になる場合は原則、23年3月末までの登録が必要になります。制度内容や手続き方法は国税庁の特設サイトで情報を発信しているほか、疑問に対応するコールセンターも整備しています。大阪・北新地の社交料飲協会や京都・祇園の料理飲食業組合は、登録推進のイベントを開いてくれました。非常に感謝するとともに、業界全体への波及効果を期待しています。

Q 国税庁の役割の一つに、酒類業界の振興もあります。

A 業界全体の現状をまず申し上げますが、酒類の国内出荷量は1999年度をピークに減少しています。コロナ禍で製造から小売りまで大きなダメージも受けました。ただ、国内産の酒類に対する国際的な評価は高く、清酒やウイスキー、ワインもコンクールで賞を獲得しています。近年は海外展開する事業者も少なくありません。輸出額は10年連続で過去最高を更新し、21年は初めて1000億円を突破しました。

Q どのような施策で振興を後押ししていますか。

A 酒類業の競争力強化と輸出促進を応援していく二つの柱があります。商品の差別化や販売手法の多様化などで新市場の開拓に積極的な事業者には、「フロンティア補助金」を交付して直接支援しています。20年には、「日本産酒類輸出促進コンソーシアム」を立ち上げました。輸出に意欲的な事業者と輸出商社などを結ぶ機会を提供し、商談や販路開拓の後方支援も始めています。

Q 25年は大阪・関西万博が開催され、海外からも多くの人が訪れそうです。

A 万博は国内外から約2800万人の来場者を想定し、約2兆円の経済波及効果が見込まれています。国内需要はもちろんですが、酒類の輸出拡大につなげる「またとない機会」と捉えています。一定の品質基準を満たした各地の酒類に、国税庁が「お墨付き」を与える「地理的表示(GI)制度」があります。社会的評価を高めて地域ブランド品を守る取り組みですが、大阪国税局の管内では、清酒の「灘五郷」「はりま」「滋賀」、ワインの「大阪」、「和歌山梅酒」の五つが指定されています。自治体や各地の酒造組合とも連携し、関西のおいしいお酒を世界に売り込んでいこうと考えています。

国の旅行支援策 下支え
木下 紘一 ホテルニューアワジ会長


きのした・こういち
1943年生まれ、京都市出身。68年にホテルニューアワジに入社し、93年に社長。2015年から会長。淡路島観光協会長や洲本商工会議所会頭を務めた。

 観光業界は新型コロナウイルスの流行で深刻な影響を受けましたが、感染者数の減少とともに明るい兆しが見えつつあります。国の旅行需要喚起策「全国旅行支援」が10月からスタートし、淡路島にもコロナ禍前に近いにぎわいがようやく戻ってきました。
 感染が急拡大した2年前、私たちのホテルは兵庫県の要請に応じて休業を余儀なくされました。阪神・淡路大震災の時ですら踏ん張ったので、客室の明かりが消えるのは初めてでした。そんな時に助けられたのが、雇用調整助成金や「GoToトラベル」など国の手厚い支援です。全国旅行支援もそうですね。こうした政策は納税の上に成立しますので、改めて税の大切さを実感しています。
 ただ、不安もあります。感染拡大の「第8波」がくれば再び人出は減り、旅行需要の喚起策も打ち切られかねません。
 国に頼るだけではなく、民間も苦境に立ち向かう「ウィズコロナ」の工夫が求められています。客室の一部に露天風呂を設ける改装を進めるのも、宿泊客が大浴場へ行かずに温泉を楽しめるアイデアの一つです。淡路島の魅力を世界に発信し、より多くの海外客に訪れてもらえる努力も重ねる必要があります。
 コロナ禍はデジタル化が進むきっかけにもなりました。以前は対面営業に力を入れていましたが、今はインターネットを駆使する集客が中心です。料金の支払いもキャッシュレス決済が増えています。
 私は淡路納税協会(兵庫県洲本市)の副会長を務めていますが、納税手続きをオンラインでする「キャッシュレス納付」を推進しています。作業の省力化になりますし、非接触なので感染防止の観点からも協力していきたいですね。

地酒の拡大 GI後押し
喜多 良道 喜多酒造社長


きた・よしみち
1953年生まれ、滋賀県東近江市出身。78年に喜多酒造に入社し、95年に8代目社長に就任。県酒造組合会長や近江八幡納税協会副会長を務めている。

納税は産業を育成し、経済を活性化させる役割も担っています。行政サービスを支える税の重要性を今まで以上に痛感しています。
 新型コロナウイルス禍で日本酒の業界も深刻な打撃を受けました。2020年度の清酒の国内出荷量は41万4211キロリットルで、感染拡大前の19年度比で9.5%減です。少子高齢化や酒離れで減少傾向にあった業界にとって厳しさが増した状況です。
 こうした中、希望の一つになっているのが国の「フロンティア補助金」です。市場の新規開拓などを目指す酒類業界を対象に導入されました。大阪国税局の担当者には産業の再生に向けた丁寧な助言も頂き、さまざまな政策に使われる税に勇気付けられています。
 今春には、朗報が舞い込んできました。滋賀県産の清酒が「GI(地理的表示)」に指定されました。一定の品質を満たす地場産品にお墨付きを与える国税庁の制度で、ブランド力の高まりが期待されます。
 琵琶湖を抱える滋賀は水が豊富で、酒造りも盛んな地です。しかし、認知度が高いとは決して言えませんでした。滋賀の地酒文化をどのように発展させていくのか。私が会長を務める滋賀県酒造組合で知恵を絞り、GIの指定を目指してきました。早速、県内で地酒の流通量が増えています。
 さらに、海外にも目を向けています。滋賀県は米国のミシガン州と姉妹県州の提携を結んでいます。この関係を活用し、ミシガン州に地酒の輸出増加を図ることも検討中です。
 伝統は守りながら、変革にも挑戦していく。そんな気概でオンリーワンの地酒を追求していこうと考えています。業界全体の業績が改善すれば、支援してくれた国にも納税という形で恩返しできますからね。

(毎日新聞2022年11月11日 大阪朝刊)