コロナ禍 重要性高まる税 きょうから考える週間

新型コロナウイルス対策で国や地方自治体が積極的な財政出動を続ける中、税への関心が高まっている。11〜17日の「税を考える週間」に合わせ、毎日新聞大阪本社の麻生幸次郎社会部長が大阪国税局の吉井浩局長とオンラインで対談し、コロナ禍の税の役割や国税庁の取り組みなどについて聞いた。

酒類回復へ制度 スマホ申告拡大


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吉井浩・大阪国税局長

麻生 「税を考える週間」が始まります。

吉井 税は日常生活を支えており、その役割や意義、税務行政の現状もより深く理解してもらう必要があります。国税庁はこの1週間、「くらしを支える税」をテーマに集中的な啓発活動をしています。ホームページ(HP)に設けた特設ページでは税務調査などの仕事をドラマ仕立てで紹介するなどし、納税協会や税理士会と連携したイベントも予定しています。

Q 新型コロナの影響が続き、国や地方自治体の財政出動が増えています。国税庁の役割をどう考えていますか。

A 感染症対策やワクチン接種への支出のほか、各種給付金も税から支払われています。税は国の財政を支える屋台骨で、コロナ禍だからこそ重要性は高まっていると考えています。適正で公平な課税・徴収に努めることが大事だと思っています。日本の税制は「申告納税制度」で、納税者本人が申告するのが基本です。納税者の信頼を得るため、悪質な納税者には厳正な姿勢で臨み、不公平感をなくすことが大切です。


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麻生幸次郎・毎日新聞
大阪本社社会部長

Q コロナ禍の課題に対し、どのように取り組まれていますか。

A 国民はコロナで甚大な影響を受け、税の納付が困難な人もいます。納税の特例猶予制度などを設け、納税者に寄り添った対応を心がけています。2020年分の確定申告期間は、緊急事態宣言と重なりました。申告・納付期限も延長をするなど、納税者の実情に耳を傾けながら迅速かつ丁寧な対応を続けています。

Q 国税庁の役割の一つに、酒類業界の振興もありますね。酒類を提供する飲食店はコロナ禍で苦境に立たされています。

A 度重なる緊急事態宣言などを背景に飲食店への休業や時短の要請が長期化し、製造から小売りまで酒類業界全体が大きなダメージを受けています。まだまだ先行きが不透明な状況の中、国税庁は「酒類の地理的表示(GI)制度」の普及や、海外市場の販路拡大に力を入れています。

Q GI制度とは。

A 特定の産地で生産され、一定の品質基準を満たしたものに「お墨付き」を与える制度です。社会的評価やブランド力も高まり、消費者にとっては地域ブランド産品を適切に選ぶことができます。海外ではワインの「ボルドー」やウイスキーの「スコッチ」が有名ですね。近畿では、日本酒の「灘五郷」「はりま」、梅酒の「和歌山梅酒」があります。6月にはワインの「大阪」もGIに指定されました。22年1月には「大阪」を皆さんに知ってもらうイベントを開き、近畿の酒類業界を応援していきたいと思っています。

Q 20年分の所得税などの確定申告で、国税電子申告・納税システム「e―Tax」(イータックス)の利用が近畿圏では前年の1.7倍になりました。デジタル化の具体的な取り組みを教えてください。

A 最初に紹介したいのは、スマートフォンを利用した確定申告です。イータックスが進んだ最大の原動力になっています。次からは源泉徴収票をスマホのカメラで撮影すると、その内容を自動で読み取る機能も追加されます。政府の成長戦略を踏まえ、「キャッシュレス納付」も進めています。現金を使わず、税務署や銀行に行く必要もない非接触型の納税はコロナ対策にもなります。PDFファイルを使った「電子納税証明書」の発行にも力を入れています。今年7月から始まった制度で、パソコンで申請し、手数料をインターネットバンキングで納付できます。コロナ関連の給付金申請には納税証明書が必要で、納税者のニーズに応えています。

Q ICT(情報通信技術)の活用が進んでいますね。

A 国税庁は6月、「税務行政のデジタルトランスフォーメーション−税務行政の将来像2.0−」を公表しました。近い将来、あらゆる税務手続きが税務署に行かずにできる社会を目指すビジョンで、「納税者の利便性向上」と「課税・徴収の効率化・高度化」が大きな柱になっています。

Q 23年10月から消費税に関わる「インボイス制度」が始まります。制度を紹介していただけますか。

A インボイスは、事業者間の商取引で消費税率や税額を正確に把握するために発行する請求書です。我が国の消費税は標準(10%)と軽減(8%)の複数税率を採用しており、消費税額の計算が複雑化しています。制度は原則として売り手側に請求書の発行を義務付けるなどすることで、取引ごとに正確な適用税率や税額を確認していく狙いがあります。全ての事業者にインボイス制度を正しく理解していただくことが重要になります。オンラインの説明会や国税庁のHPに掲載されている制度案内を活用していただきたいと思います。

Q コロナ禍の終息が見通せない中、21年分の確定申告はどのように取り組みますか。

A 非接触型の対応を拡充し、感染リスクを削減することが引き続き重要です。毎年2月16日から3月15日までが確定申告の期間ですが、今回も混雑を防ぐため、オンラインの入場整理券発行などにも取り組みます。ただ、最も安全で効果的な感染症対策は自宅からの電子申告です。マイナンバーカードを取得したり、税務署で発行するIDパスワードを利用したりして、ぜひ電子申告をご利用ください。

「無い袖」振るは出口でない
山田邦雄 ロート製薬会長


やまだ・くにお
1956年生まれ、大阪市出身。80年にロート製薬に入社。99年に社長に就任し、2009年から会長。納税協会連合会評議員や生野納税協会会長も務めている。

柔軟な働き方を実現する手段の一つとして副業・兼業を促す政府の動きに先駆け、社員の副業を認める制度を2016年から始めました。クラフトビールの醸造を始めたり、子供向けプログラミング教室を開いてみたり。「自分の可能性を試したい」との声は多く、今は約60人が利用しています。自分が社会にどう貢献できるかを見つめ直す機会にもなると思っています。
 会社員は企業が源泉徴収で納税してくれますが、本業以外の収入は確定申告が必要です。売り上げや経費の計算・申告は、税を考えるきっかけになります。社会との関わりを思案する土台にもなるはずです。
 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、中小企業の労働者らに国が休業手当を支給する「休業支援金」などさまざまな政策に税が使われています。非常時には必要な支出です。ただ、将来的な国の財政への影響も考えなければいけません。
 「無い袖」をどう振るかという発想では出口はありません。経済が活性化すれば、世の中にお金が回り始めて税収も増える。この支出と収入の問題を同時に考えなければ、財政問題の課題は解決できないのではないでしょうか。
 私は生野納税協会(大阪市生野区)で会長を務めています。納税協会は会員に税に関するアドバイスをしますが、コロナ禍では非接触型の電子媒体による確定申告をより勧めています。スマートフォンでの申告など利便性の良さから利用者も増えているようです。
 従来型の手書きの書類で申告すると、税務署も手作業での処理を余儀なくされ、行政コストが上がってしまいます。コロナ禍という理由だけでなく、業務の効率性という観点からも電子申告を多くの人に利用してほしいですね。

サービスを維持する「会費」
嘉納治郎右衛門 菊正宗酒造社長


かのう・じろえもん
1975年生まれ、神戸市出身。2001年に菊正宗酒造に入社し、17年から社長。芦屋納税協会常任理事や日本酒造組合中央会評議員なども務めている。

新型コロナウイルス感染症は、日本酒の業界全体に深刻な影響をもたらしています。2020年の国内出荷量は41万9000`gで、前年から10・2%減少しました。少子高齢化やアルコール離れで減少傾向に歯止めがかからない中、追い打ちをかけられた形です。出荷量の落ち込みで山田錦などの酒造好適米が行き場を失い、生産農家も厳しい状況に置かれています。
 ただ、希望もあります。海外では年々、日本酒の人気が高まっています。日本酒はレストランで飲むお酒でしたが、コロナ禍で海外でも「家飲み」が増え、中国では日本酒を自宅用にネット注文する人が増えているそうです。
 農林水産省は20年、輸出用日本酒の酒造好適米を生産する農家への交付金制度を作ってくれました。税を活用した農家への援助で、こうした政策を輸出拡大につなげたいですね。
 交付金を含めた公共サービスは、提供されるのが当たり前ではありません。納められる税金がなければ、行政はサービスを提供できないのです。「税は社会を維持する会費」だと思っています。
 常任理事を務める芦屋納税協会(兵庫県芦屋市)はオンラインの租税教育に力を入れ、21年度も芦屋市内の小学校の児童に税の大切さを学んでもらいました。税の役割を子供の頃から知ることで、納税の大切さも自然と身につくのではないでしょうか。
 私は所得税の確定申告は電子申告でするようになりました。芦屋納税協会で副会長を務めていた父から「やりなさい」と勧められたのがきっかけです。父は78歳になりましたが、パソコンで電子申告をしています。操作も難しくありませんから、多くの人にぜひ始めてもらいたいですね。

(毎日新聞2021年11月11日 大阪朝刊)