令和6年6月
大阪国税局

査察制度は、悪質な脱税者に対して刑事責任を追及し、その一罰百戒の効果を通じて、適正・公平な課税の実現と申告納税制度の維持に資することを目的としています。

国税査察官は、経済取引の広域化、デジタル化、国際化等による脱税の手段・方法の複雑・巧妙化など、経済社会情勢の変化に的確に対応し、悪質な脱税者に対して厳正な調査を実施しています。

1 査察調査の概要

【令和5年度の取組】

  • ○ 検察庁に告発した件数は23件、脱税総額(告発分)は21億円
     悪質な脱税者に対して厳正な査察調査を実施し、23件を検察庁に告発しました。
     告発した査察事案に係る脱税総額は21億円であり、1件当たりの脱税額は9千5百万円でした。また、告発率は62.2%となりました。
  • ○ 消費税事案、国際事案のほか、社会的波及効果の高い事案を積極的に告発
     消費税事案では、輸出物品販売場における輸出免税制度を悪用し、高級腕時計を仕入れたと仮装して架空の課税仕入れを計上し、外国人観光客に販売したと仮装して架空の免税売上げを計上した不正受還付事案などを告発しました。
     また、多額のコンサルタント収入を得ていたにもかかわらず、殊更過少な申告をして所得を秘匿していた医療コンサルタントの事案や、実在しない日雇労働者の手配師に対する手数料を外注費として架空計上していた人材派遣業者の事案など、社会的波及効果の高い事案を告発しました。
  • 【令和5年度中の主な判決】

  • ○ 一審判決23件全てに有罪判決が言い渡され、4人に対して実刑判決
     実刑判決のうち、最も重いものは懲役4年(査察事件単独)でした。

2 重点事案への取組

令和5年度においては、査察制度の目的に鑑み、特に、消費税事案、無申告事案、国際事案、時流に即した事案などの社会的波及効果が高いと見込まれる事案を重点事案として積極的に取り組みました。

(1) 消費税事案

消費税に対する国民の関心が極めて高いことを踏まえ、消費税事案については積極的に取り組み、令和5年度は10件を告発しました。また、消費税の仕入税額控除制度や輸出免税制度を悪用した不正受還付事案は、いわば国庫金の詐取ともいえる悪質性の高い事案であることから、引き続き積極的に取り組み、令和5年度は7件を告発しました。

年度 令和        
2 3 4 5
告発件数
8 3 7 6 10

(注)

  1.  告発件数は、消費税不正受還付事案を含む。

(参考)消費税不正受還付事案の件数及び不正受還付額

年度 令和        
2 3 4 5
告発件数
6 2 4 2 7
不正受還付額 百万円 百万円 百万円 百万円 百万円
212 35 62 443 269

(注)

  1.  1 告発件数は、ほ脱犯との併合事案を含む。
  2.  2 不正受還付額は、加算税を除き、未遂の還付額を含む。
トピック1 輸出物品販売場を利用した消費税不正受還付事案を告発

架空の課税仕入れや、外国人観光客に対する架空の免税売上げを計上するなど、輸出物品販売場における輸出免税制度を悪用した不正受還付事案を告発しました。

【事案の概要】
 A社は、時計等の販売を行う法人ですが、輸出物品販売場における輸出免税制度を悪用し、不正加担者と共謀して、実際には取引事実がないにもかかわらず高級腕時計を仕入れたと仮装して架空の課税仕入れを計上し、当該高級腕時計を輸販場において外国人観光客に販売したと仮装して、架空の免税売上げを計上する方法により、不正に消費税等の還付を受けようとしました。

参考:消費税不正受還付事案における不正形態の例(イメージ)

消費税不正受還付事案における不正形態の例のイメージ図

同一の高級腕時計のシリアルナンバーや不正に入手したパスポートの写しを用いて書類を偽造することで、架空の課税仕入れ及び架空の輸出免税売上を計上していた事案

 (注) 図の点線部分は、架空の取引を示す。

(2) 無申告事案

納税者の自発的な申告・納税を前提とする申告納税制度の根幹を揺るがす無申告事案について積極的に取り組みました。

年度 令和        
2 3 4 5
  内- 内2 内- 内- 内-
告発件数
  5 3 4 1 0

 (注) 告発件数欄の内書は、単純無申告ほ脱事案の件数である。

(3) 国際事案

経済社会のグローバル化の進展に伴い、国境を越える取引が恒常的に行われ、資産の保有、運用の形態も複雑・多様化しているところ、国際取引を利用した脱税への対応が求められています。
 このような状況の中、海外に不正資金を隠しているなどの国際事案に積極的に取り組み、令和5年度は5件を告発しました。
 また、国際事案では租税条約に基づく外国税務当局との情報交換制度を活用しました。

年度 令和        
2 3 4 5
告発件数
  2 9 4 6 5

(4) その他の社会的波及効果の高い事案

 時流に即した事案などの社会的波及効果が高いと見込まれる事案に対して積極的に取り組みました。

トピック2 「つまみ申告」を行って所得を秘匿した事案を告発

医療コンサルタント業を営む者が、多額のコンサルタント収入を得ていたにもかかわらず、殊更過少な申告をして所得を秘匿していた事案を告発しました。

【事案の概要】
 Bは、医療コンサルタントとして、調剤薬局を開設できる場所の選定や交渉などにより、多額のコンサルタント収入を得ていたにもかかわらず、殊更過少な申告、いわゆる「つまみ申告」をして所得を秘匿し、所得税を免れていました。

トピック3 架空外注費を計上するなどした人材派遣会社を告発

架空の外注費を計上するなどして、不正に所得を圧縮していた法人を告発しました。

【事案の概要】
 C社は、工事請負業や人材派遣業を営む法人ですが、実在しない日雇労働者の手配師に対する手数料を外注費として架空計上するほか、申告期限月に実際には支払っていない外注費等を一括計上するなどの方法により、法人税を免れていました。

3 不正資金の留保・費消状況及び隠匿場所

脱税によって得た不正資金の多くは、現金や預貯金として留保されていましたが、脱税者が数千万円規模の費消をしていた事例も見られました。
 その使途としては、
  ○ 有価証券等への投資
  ○ 競馬や海外カジノ等のギャンブル
  ○ 高級クラブ等での遊興費
などがありました。
 また、脱税によって得た不正資金の隠匿場所は様々でしたが、
  ○ 金融機関の貸金庫の中
に現金を隠していた事例などがありました。

4 査察事件の一審判決の状況

令和5年度中に一審判決が言い渡された件数は23件であり、全てに有罪判決が出され、そのうち実刑判決が4人に出されました。
 なお、実刑判決のうち最も重いものは、査察事件単独で懲役4年でした。

トピック4 悪質な脱税者に実刑判決

令和5年度においても特に悪質な脱税者に対しては実刑判決が出されています。

【事例】
 D社は、日用品の輸出販売のほか、輸出物品販売場の経営等を行うものですが、輸出物品販売場の許可を受けたドラッグストアにおいて、不正加担者と共謀して、同人が主宰する法人から化粧品等を仕入れたかのように装い架空の課税仕入れを計上し、当該化粧品等を輸出物品販売場において外国人観光客に販売したかのように装い架空の免税売上げを計上する方法で、不正に消費税等の還付を受け、又は受けようとしました。
 同社の代表者には懲役4年、不正加担者には懲役3年の実刑判決が出されました。
 また、同不正加担者が関与した別法人の代表者について、同様の方法で不正に消費税の還付を受けるとともに、不正に消費税を免れていたとして懲役2年の実刑判決が出されました。

5 参考計表

(1) 着手・処理・告発件数、告発率の状況

年度 令和        
項目 2 3 4 5
着手件数
35 31 28 36 36
処理件数 (A)          
40 27 29 25 37
告発件数 (B)          
30 20 21 21 23
告発率 (B/A)
75.0 74.1 72.4 84.0 62.2

(2) 脱税額の状況

年度 令和        
項目 2 3 4 5


百万円 百万円 百万円 百万円 百万円
2,647 1,453 1,745 1,827 3,175
同上1件
当たり
66 54 60 73 86
2,298 1,173 1,307 1,705 2,175
同上1件
当たり
77 59 62 81 95

(注)

  1.  脱税額には加算税額を含む。

(3) 税目別告発事案の推移

イ 税目別の告発件数

年度 令和        
項目 2 3 4 5
所得税
7 3 2 1 3
法人税 12 13 11 14 10
相続税 - - - - -
消費税 内6 内2 内4 内2 内7
8 3 7 6 10
源泉所得税 3 1 1 - -
30 20 21 21 23

(注)

  1.  消費税の内書は消費税受還付事案(ほ脱犯との併合事案を含む。)の告発件数である。

ロ 税目別の脱税額

年度 令和        
項目 2 3 4 5
所得税 百万円 百万円 百万円 百万円 百万円
648 329 144 43 203
法人税 1,097 714 707 922 1,225
相続税 - - - - -
消費税 496 81 361 740 747
源泉所得税 57 49 95 - -
2,298 1,173 1,307 1,705 2,175

(注)

  1.  脱税額には加算税額を含む。
 

(4) 告発の多かった業種

令和元 2 3 4 5
業種 件数 業種 件数 業種 件数 業種 件数 業種 件数
不動産業 9 不動産業 7 不動産業 11 建設業 5 建設業 5
建設業 4 建設業 5 建設業 3 不動産業 2 その他のサービス 5
人材派遣 2 その他のサービス 4 その他の小売 2 その他の卸 2 その他の小売 3
飲食業 2 - - - -

(注)

  1.  同一の納税者が複数の税目で告発されている場合は1件としてカウントしている。

(5) 査察事件の一審判決の状況

項目 1 2     3 4 5
  判決 有罪 有罪率 実刑判決 1件当たり 1人当たり 1人(社)当
年度 件数 件数 (21) 人数 犯則税額 懲役月数 たり罰金額
令和 百万円 百万円
内4 内4   内2      
30 30 100.0 2 30 13.4 5
  内1 内1   内1      
25 25 100.0 1 55 17.1 14
  内2 内2   内1      
3 27 27 100.0 1 35 17.2 10
  内2 内2   内1      
4 14 14 100.0 1 52 13.1 12
5              
内3 内3   内-      
23 23 100.0 4 61 15.7 15

(注)

  1. 1 表中の内書は他の犯罪との併合事件を示している。
  2. 2 35は他の犯罪との併合事件を除いてカウントしている。