令和2年6月
大阪国税局

査察制度は、悪質な脱税者に対して刑事責任を追及し、その一罰百戒の効果を通じて、適正・公平な課税の実現と申告納税制度の維持に資することを目的としています。

国税査察官は、近年における経済取引の広域化、国際化及びICT化等による脱税の手段・方法の複雑・巧妙化など、経済社会情勢の変化に的確に対応し、悪質な脱税者に対して厳正な調査を実施しています。

1 査察調査の概要

【令和元年度の取組】

  • ○ 着手・処理・告発件数の状況
     令和元年度において、大阪国税局査察部が査察調査に着手した件数は35件。
     一方、令和元年度中に処理(検察庁への告発の可否を判断)した件数は40件、そのうち検察庁に告発した件数は30件。
  • ○ 重点事案を重視、特に無申告ほ脱事案5件を告発(注)
     消費税受還付事案6件、無申告ほ脱事案5件、国際事案2件を告発。
     令和元年10月から税率が10%に引き上げられ、同時に軽減税率制度が導入されるなど国民の関心が極めて高まっている消費税について、6件の受還付事案を告発。
     無申告ほ脱事案は、申告納税制度の根幹を揺るがすものであることから積極的に取り組み、過去5年間で最多であった昨年度に引き続いて5件を告発。
     国際事案は、2件を告発し、国外財産を有する納税者に提出を義務付けている国外財産調書の不提出犯を初めて告発。  
  • (注)

    1.  重点事案とは、消費税受還付事案、無申告ほ脱事案、国際事案及びその他社会的波及効果が高いと見込まれる事案をいいます。
  • ○ 脱税総額(告発分)は23億円
     令和元年度の査察事案に係る脱税額(告発分)は総額で23億円。

【令和元年度中の判決状況】

  • ○ 30件の一審判決全てに有罪判決が言い渡され、2人に実刑判決
     最も重い実刑判決は、他犯罪との併合に係るもので懲役9年。

2 事案紹介

(1) 消費税事案

令和元年10月から税率が10%に引き上げられ、同時に軽減税率制度が導入されるなど、国民の関心が極めて高まっている消費税事案に積極的に取り組み、令和元年度は8件を告発し、国庫金の詐取ともいえる悪質性の高い消費税受還付事案についても6件を告発しました。

年度 平成       令和
27 28 29 30
告発件数 内5 内6 内5 内1 内6
6 7 6 11 8

(注)

  1.  告発件数欄の内書は、消費税受還付事案の件数である。

ダミー法人を利用して消費税を免れた人材派遣会社を告発図

(2) 無申告ほ脱事案

納税者の自発的な申告・納税を前提とする申告納税制度の根幹を揺るがす無申告によるほ脱犯について積極的に取り組み、令和元年度は、過去5年間で最多であった昨年度に引き続き5件を告発しました。

年度 平成       令和
27 28 29 30
  内− 内1 内1 内4 内−
告発件数
  1 3 1 5 5

 (注) 告発件数欄の内書は、単純無申告ほ脱事案の件数である。

(参考) 単純無申告ほ脱犯(故意の申告書不提出によるほ脱犯)の規定は、悪質性の高い無申告に厳正に対処するため、平成23年に創設されました。

虚偽の住民登録を繰り返した無申告ほ脱事案を告発図

(3) 国際事案

海外取引を利用した悪質・巧妙な事案や海外に不正資金を隠すなどの国際事案に積極的に取り組み、令和元年度は2件を告発しました。
 また、国外財産に係る課税の適正を図るため、平成26年に国外財産調書制度が導入されましたが、同調書の不提出犯を初めて告発しました。

年度 平成       令和
27 28 29 30
告発件数
7 9 5 2 2

輸出免税制度を悪用した消費税の不正受還付事案を告発図

(4) その他の社会的波及効果の高い事案

近年、市場が拡大していると考えられる分野における脱税など、社会的波及効果が高いと見込まれる事案に対して積極的に取り組みました。

好況な不動産取引に係る所得税事案を告発

多額の法人税を脱税させた脱税請負人を告発

3 不正資金の留保状況及び隠匿場所

脱税によって得た不正資金の多くは、現金や預貯金として留保されていましたが、その他に、高級外車の取得、外国為替証拠金取引(FX取引)及び生命保険金の保険料支払いなどに充てられていた事例も見られました。
 また、不正資金の一部が、海外の預金口座で留保されていた事例がありました。
 脱税によって得た不正資金の隠匿場所は様々でしたが、

  • ○ 居宅2階の衣裳部屋及び寝室にあった各金庫の中(法人税法違反)
  • ○ 代表者の居宅にあった『からくりタンス』の中(法人税法違反)
 に現金を隠していた事例などがありました。

4 査察事件の一審判決の状況

令和元年度中に一審判決が言い渡された件数は30件であり、全てに有罪判決が出され、そのうち実刑判決が2人に出されました。なお、実刑判決のうち最も重いものは、他犯罪との併合に係るもので懲役9年でした。

悪質な脱税者に実刑判決

5 参考計表

(1) 着手・処理・告発件数、告発率の状況

年度 平成       令和
項目 27 28 29 30
着手件数
40 41 40 40 35
処理件数 (A)          
40 41 40 40 40
告発件数 (B)          
24 30 29 29 30
告発率 (B/A)
60 73.2 72.5 72.5 75

(2) 脱税額の状況

年度 平成       令和
項目 27 28 29 30


総額 百万円 百万円 百万円 百万円 百万円
3,400 4,991 2,818 2,246 2,647
同上1件 85 122 70 56 66
当たり
告発分 2,566 4,776 2,542 1,355 2,298
同上1件 107 159 88 47 77
当たり

(注)

  1.  脱税額には加算税額を含む。

(3) 税目別告発事案の推移

イ 税目別の告発件数

年度 平成       令和
  27 28 29 30
区分          
所得税
1 10 4 2 7
法人税 14 12 19 15 12
相続税 1 1 - - -
消費税 内5 内6 内5 内1 内6
6 7 6 11 8
源泉所得税 2 - - 1 3
合計 24 30 29 29 30

(注)

  1. 消費税の内書は消費税受還付事案(ほ脱犯との併合事案を含む)の告発件数である。

ロ 税目別の脱税額

年度 平成       令和
区分 27 28 29 30
所得税 百万円 百万円 百万円 百万円 百万円
198 800 442 102 648
法人税 986 1,113 1,687 747 1,097
相続税 491 244 - - -
消費税 内651 内2,583 内379 内54 内414
703 2.619 413 430 496
源泉所得税 188 - - 76 57
合計 2,566 4,776 2,542 1,355 2,298

(注)

  1. 1 脱税額には加算税額を含む。
  2. 2 消費税の内書は消費税受還付事案(ほ脱犯との併合事案を含む)の脱税額である。
 

(4) 告発の多かった業種

平成29 30 令和元
業種 者数 業種 者数 業種 者数
建設業 11 不動産業 8 不動産業 9
不動産業 3 建設業 6 建設業 4
  ビルメンテナンス 3 人材派遣 2
  人材派遣 2 飲食業 2

(注)

  1.  同一の納税者が複数の税目で告発されている場合は1者としてカウントしている。

(5) 査察事件の一審判決の状況

.
項目 1 2     3 4 5
年度 判決 有罪 有罪率 実刑判決 1件当たり犯則税額 1人当たり懲役月数 1人(社)当たり罰金額
  件数 件数 (21) 人数      
平成 百万円 百万円
  内1 内1   内-      
29 28 28 100 1 116 17.3 27
30              
内- 内-   内-      
31 31 100 2 50 14.7 9
令和              
  内4 内4   内2      
30 30 100 2 30 13.4 5

(注)

  1. 1 表中の内書は他の犯罪との併合事件を示している。
  2. 2 35は他の犯罪との併合事件を除いてカウントしている。