平成30年6月
大阪国税局

査察制度は、悪質な脱税者に対して刑事責任を追及し、その一罰百戒の効果を通じて、適正・公平な課税の実現と申告納税制度の維持に資することを目的としています。

昨今の経済取引の広域化、国際化及びICT化等により、脱税の手段・方法が複雑・巧妙化している中で、国税査察官は、経済社会情勢の変化に的確に対応し、悪質な脱税者の告発に努めています。

1 査察調査の概要

【平成29年度の取組】

平成29年度においては、消費税の輸出免税制度などを利用した消費税受還付事案や自己の所得を秘匿し申告を行わない無申告ほ脱事案に積極的に取り組みました

また、国際事案や大口悪質で社会的関心の高い事案など近年の社会情勢に即した事案に対しても積極的に取り組み、多数の事案を告発しました。

【平成29年度の査察事績】

  • ○ 着手・処理・告発件数、告発率
     平成29年度において査察調査に着手した件数は、40件でした。
     平成29年度以前に調査着手した査察事案について、平成29年度中に処理(検察庁への告発の可否を判断し処理)した件数は40件、そのうち検察庁に告発した件数は29件であり、告発率は72.5%でした。
  • ○ 脱税額
     平成29年度に処理した査察事案に係る脱税額は総額で28億円、そのうち告発分は25億円でした。
     告発した事案1件当たりの脱税額は88百万円でした。
  • ○ 業種
     平成29年度に告発した査察事案で多かった業種は、「建設業」が11件、「不動産業」が3件でした。

【査察事件の一審判決の状況】

平成29年度中に一審判決が言い渡された件数は28件であり、全てに有罪判決が出されました。

そのうち実刑判決が1人に出され、査察事件単独に係るものでは過去最高の懲役7年6月でした。

2 社会的波及効果の高い事案への取組

平成29年度においては、現下の経済社会情勢を踏まえて、特に、消費税受還付事案、無申告ほ脱事案、国際事案、近年の経済社会情勢に即した事案等の社会的波及効果の高い事案に積極的に取り組みました。

(1) 消費税受還付事案

消費税事案については、国民の関心が極めて高く、その中でも、受還付事案については、いわば国庫金の詐取ともいえる悪質性の高いものであることから、積極的に取り組みました。
 平成29年度の消費税受還付事案の告発件数は5件でした。

年度 平成25 26 27 28 29
告発件数          
- 1 5 6 5

(注)消費税受還付事案は、ほ脱犯との併合事案を含む。

【平成29年度告発事例(消費税の輸出免税制度を利用して不正に還付を受けていたもの)】

A社は、バイク用品(ヘルメット)の輸出等を行っていた会社ですが、休業状態になり全く事業を行っていないにもかかわらず、国内の業者からの架空仕入(課税取引)及び国外の業者への架空輸出売上(免税取引)を計上する方法により、不正に多額の消費税の還付を受けていました。

平成29年度告発事例 消費税の輸出免税制度を利用しての不正還付の状況を表した図

(注)事業者が国内で商品を仕入れる際には消費税が課されます(課税取引)が、国外に商品を販売(輸出)する際には消費税が免除(免税取引)されることから、事業者は消費税の申告を行うことで仕入に係る消費税の還付を受けることができます。

(2) 国際事案

国税庁では、国際課税への取組を重要な課題と位置付けており、査察部門においても、国外取引を利用した悪質・巧妙な不正を行っている国際事案に積極的に取り組みました。
 平成29年度の国際事案の告発件数は5件でした。

年度 平成25 26 27 28 29
告発件数          
6 2 7 9 5

【平成29年度告発事例】

B社は、機械製品等の輸出を行う会社ですが、国内の売上先に対する売上(課税取引)を、国外に輸出した物品等の売上(免税取引)に仮装する方法により、不正に多額の消費税を免れるとともに、消費税の還付を受けていました。

平成29年度告発事例 国外取引を利用した不正を行い得た資金を国外留保していたものの状況を表した図

(注)事業者が国外に商品を販売(輸出)する際には、消費税が免除(免税取引)されます。

(3) 近年の経済社会情勢に即した事案

近年の経済社会情勢に即し、急速に市場が拡大する分野などにおいて、悪質な脱税や事業活動自体に違法又は不当な行為が含まれる事案などを積極的に取り組みました。

【平成29年度告発事例】

C社は、ビル型の墓石仏壇仏具販売を行う会社ですが、不正加担者に対する架空の業務委託費等を計上し送金後、不正加担者から現金を戻させるなどの方法により、所得を過少に申告して多額の法人税を免れ、不正資金をC社の代表者名義の預金など留保していました。

平成29年度告発事例 国外取引を利用した不正を行い得た資金を国外留保していたものの状況を表した図

【平成29年度告発事例】

D社は、産業廃棄物収集運搬処理を行う会社ですが、不正加担者に対する架空仕入高を計上する方法により、所得を過少に申告して多額の法人税を免れ、不正資金をD社の実質経営者が現金で留保していました。

平成29年度告発事例 国外取引を利用した不正を行い得た資金を国外留保していたものの状況を表した図

    ○ 上記以外の近年の経済社会情勢に即した事案
  • ・ 太陽光発電関連事案(太陽光発電事業に係る脱税)
  • ・ 震災復興関連事案(東日本大震災からの復興に向けた経済活動に伴う脱税)

3 不正資金の留保状況及び隠匿場所

脱税によって得た不正資金の多くは、現金や預貯金、FX取引の証拠金として留保されていたほか、不動産や貴金属、高級腕時計の取得費用、ギャンブル等の遊興費などに充てられていた事例も見られました。
 また、不正資金の一部が、国外のカジノでの遊興に費消されていた事例がありました。
 脱税によって得た不正資金の隠匿場所は様々でしたが

  • ○ 居宅敷地内の蔵の段ボール箱の中
  • ○ 居宅物置の床下収納に設置した金庫の中
  • ○ 居宅のベッド下に置かれた金庫の中

に現金等を隠していた事例などがありました。

4 査察事件の一審判決の状況

平成29年度中に一審判決が言い渡された件数は28件であり、全てに有罪判決が出されました。
 そのうち実刑判決が1人に出され、査察事件単独に係るものでは過去最高の懲役7年6月でした。

【平成29年度中に実刑判決(懲役7年6月)が出された事例】

Eは、実質経営する会社3社において、グループ会社の在庫商品である高級腕時計を利用し、腕時計を何度も国内と国外で循環させる方法により、架空の国内仕入(課税取引)及び架空の輸出売上(免税取引)を計上し、不正に多額の消費税の還付を受けていました。
 Eは、これらの会社及び関係会社の消費税法及び地方税法違反の罪で、懲役7年6月の実刑判決を受けました。

5 査察部門の今後の取組

平成30年度においては、査察制度の一罰百戒の効果が最大限に発揮できるよう、現下の経済社会情勢を踏まえ、特に、

  • ○ 消費税受還付事案
  • ○ 無申告ほ脱事案
  • ○ 国際事案

のほか、社会的関心が高く、近年の経済社会情勢に即した分野で、悪質な脱税が伏在する可能性の高い事案など、社会的波及効果が高いと見込まれる事案の積極的な着手・処理に取り組むこととします。

6 参考計表

(1) 着手・処理・告発件数、告発率の状況

年度 平成25 26 27 28 29
項目
着手件数
45 43 40 41 40
処理件数(A) 45 43 40 41 40
  告発件数(B) 32 26 24 30 29
告発率(B/A)
71.1 60.5 60.0 73.2 72.5

(2) 脱税額の状況

年度 平成25 26 27 28 29
項目


総額 百万円 百万円 百万円 百万円 百万円
2,615 3,536 3,400 4,991 2,818
同上1件
当たり
58 82 85 122 70
告発分 2,468 2,983 2,566 4,776 2,542
同上1件
当たり
77 115 107 159 88

(注) 脱税額には加算税額を含む。

(3) 税目別告発事案の推移

イ 税目別の告発件数

年度 平成25 26 27 28 29
区分 件数 割合 件数 割合 件数 割合 件数 割合 件数 割合
所得税
6 19 4 15 1 4 10 33 4 14
法人税 19 60 18 69 14 59 12 40 19 65
相続税 2 6 1 4 1 4 1 3 - -
消費税 内-   内1   内5   内6   内5  
3 9 3 12 6 25 7 24 6 21
源泉所得税 2 6 - - 2 8 - - - -
合計 32 100 26 100 24 100 30 100 29 100

(注) 消費税の内書は消費税受還付事案(ほ脱犯との併合事案を含む。)の告発件数である。

ロ 税目別の脱税額

年度 平成25 26 27 28 29
区分 脱税額 割合 脱税額 割合 脱税額 割合 脱税額 割合 脱税額 割合
所得税 百万円 百万円 百万円 百万円 百万円
527 21 565 19 198 8 800 17 442 17
法人税 1,265 51 1,969 66 986 39 1,113 23 1,687 66
相続税 377 15 332 11 491 19 244 5 - -
消費税 内-   内24   内651   内2,583   内379  
140 6 117 4 703 27 2,619 55 413 17
源泉所得税 159 7 - - 188 7 - - - -
合計 2,468 100 2,983 100 2,566 100 4,776 100 2,542 100

(注1) 脱税額には加算税額を含む。

(注2) 消費税の内書は消費税受還付事案(ほ脱犯との併合事案を含む。)の脱税額である。

(4) 告発の多かった業種

平成27 平成28 平成29
業種 者数 業種 者数 業種 者数
建設業 3 建設業 6 建設業 11
金属製品製造 3 時計卸売 3 不動産業 3
クラブ・バー 2 不動産業 2 - -
古物小売 2 金属製品製造 2 - -
電子機器小売 2 商品、株式取引 2 - -
時計小売 2 - - - -

(注) 同一の納税者が複数の税目で告発されている場合は1者としてカウントしている。

(5) 査察事件の一審判決の状況

項目 1判決件数 2有罪件数 有罪率(21) 実刑判決人数 31件当たり犯則税額 41人当たり懲役月数 51人(社)当たり罰金額
年度
平成 百万円 百万円
27 内2 内2   内1      
28 28 100.0 1 70 14.4 18
28 内1 内1   内3      
28 28 100.0 4 44 12.4 11
29 内1 内1   内-      
28 28 100.0 1 116 17.3 27

(注1) 表中の内書は他の犯罪との併合事件を示している。

(注2) 35は他の犯罪との併合事件を除いてカウントしている。