別紙

T 事前照会の趣旨

 当法人(社団である医療法人)は、主として診療所を経営し医療を提供する事業(以下「医療提供事業」といいます。)を近畿地域と中部地域で行っています。これまで、これらの地域間において人事交流や研修等を行うことで統一的な経営を行ってきましたが、医療を必要とする患者の特色等に地域差が生じていることから、これに対応するべく、今般、当法人は分社化をし、当法人の中部地域における医療提供事業(以下「本件中部事業」といいます。)を別法人で行うことを考えています。
 具体的には、当法人のみを分割法人とし新たに法人を設立する単独新設分割(以下「本件単独新設分割」といいます。)により、本件中部事業をその新たに設立する法人(以下「本件新設法人」といいます。)に移転することとしています。なお、当法人及び本件新設法人はいずれも持分の定めのない医療法人であり分割の対価として金銭等の交付はありません。
 医療法人が新設分割を行う場合は、分割法人が新設分割計画を作成し、当該計画について総社員の同意を得るなどの手続を経て、都道府県知事の認可を受け、分割の登記を行うことでその効力が生ずることとなります(医療法60の3、61、61の3、61の5)。この場合、新設分割を行うことができる医療法人及び新設分割により設立する医療法人は、いずれも持分の定めのない医療法人に限られています(医療法60、61の2、医療法規則35の6三)。また、持分の定めのない医療法人から持分の定めのある医療法人への移行はできないこととされています(医療法規則30の39②)。
 ところで、持分の定めのない医療法人である当法人は、医療法に基づき本件単独新設分割を行うところ、株式会社のように株式に相当する概念がありませんが、本件単独新設分割は、適格分割となりますか。

U 事前照会に係る取引等の事実関係

 本件単独新設分割においては次の1から4までのことを予定しています。

1 本件単独新設分割前の理事及び監事の全7名のうち3名が本件新設法人の理事に就任し、そのうち1名が代表理事として経営の中枢に参画することが見込まれています。

2 本件単独新設分割前の本件中部事業に係る主要な資産及び負債が本件新設法人に移転します。

3 本件単独新設分割の直前に本件中部事業に従事していた従業者の80%以上の者が本件新設法人の業務に従事することが見込まれています。

4 本件中部事業は本件分割後に本件新設法人において引き続き行われることが見込まれています。

V 事前照会者の求める見解となることの理由

1 分割型分割について
 次の(1)又は(2)の分割は分割型分割に該当することとされています(法法2十二の九)。

(1) 分割により分割法人が交付を受ける分割対価資産(分割により分割承継法人によって交付されるその分割承継法人の株式(出資を含みます。以下同じです。)その他の資産をいいます。以下同じです。)の全てがその分割の日においてその分割法人の株主等に交付される場合又は分割により分割対価資産の全てが分割法人の株主等に直接交付される場合のこれらの分割

(2) 分割対価資産がない分割(以下「無対価分割」といいます。)で、その分割の直前において、分割承継法人が分割法人の発行済株式等の全部を保有している場合又は分割法人が分割承継法人の株式を保有していない場合のその無対価分割

2 分割型分割に該当する分割で単独新設分割であるものに係る適格要件について
 分割型分割に該当する分割で単独新設分割であるもの(分割対価資産の一部のみをその分割法人の株主等に交付をする分割を除きます。以下「単独新設分割型分割」といいます。)のうち、次の(1)から(6)までの全ての要件に該当するものは適格分割に該当するとされています(法法2十二の十一ニ、法令4の3⑨)。

(1) 分割対価資産として分割承継法人又は分割承継親法人(分割承継法人との間にその分割承継法人の発行済株式等の全部を直接又は間接に保有する一定の関係がある法人をいいます。)のうちいずれか一の法人の株式(以下「分割承継法人等株式」といいます。)以外の資産が交付されないもの(分割承継法人等株式が交付される分割型分割にあっては、その株式が分割法人の発行済株式等の総数又は総額のうちに占めるその分割法人の各株主等の有するその分割法人の株式の数(出資にあっては、金額)の割合に応じて交付されるものに限ります。)であること(法法2十二の十一)。

(2) 分割の直前にその分割に係る分割法人と他の者との間に当該他の者による支配関係がなく、かつ、その分割後にその分割に係る分割承継法人と他の者との間に当該他の者による支配関係があることとなることが見込まれていないこと(法令4の3⑨一)。

(3) 分割前のその分割に係る分割法人の役員等(その分割法人の分割事業(その分割法人の分割前に行う事業のうち、その分割により分割承継法人において行われることとなる事業をいいます。以下同じです。)に従事している重要な使用人を含みます。)のいずれかがその分割後にその分割に係る分割承継法人の特定役員(社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役又はこれらに準ずる者(※)で法人の経営に従事している者をいいます。以下同じです。)となることが見込まれていること(法令4の3⑨二)。

(※)「これらに準ずる者」については、役員又は役員以外の者で、社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役又は常務取締役と同等に法人の経営の中枢に参画している者をいうものとして取り扱われており(法基通1−4−7)、役員とは、法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事及び監事等をいうこととされています(法法2十五)。

(4) 分割によりその分割に係る分割法人の分割事業に係る主要な資産及び負債がその分割に係る分割承継法人に移転していること(法令4の3⑨三)。

(5) 分割に係る分割法人のその分割の直前の分割事業に係る従業者のうち、その総数のおおむね80%以上に相当する数の者がその分割後にその分割に係る分割承継法人の業務に従事することが見込まれていること(法令4の3⑨四)。

(6) 分割に係る分割法人の分割事業がその分割後にその分割に係る分割承継法人において引き続き行われることが見込まれていること(法令4の3⑨五)。

3 平成29年度税制改正で、単独新設分割型分割が行われた場合、上記2の所定の要件の全てに該当する場合には適格分割となる改正が行われていますが、株式会社のように株式に相当する概念がない持分の定めのない医療法人が行う単独新設分割型分割が、適格分割に該当し得るかどうか必ずしも明らかではなく疑問も生ずるところです。
 この点、法人税法上、上記1のとおり、分割型分割から医療法に基づき行われる分割は除かれておらず、また、上記2の単独新設分割型分割に係る適格要件についても、医療法に基づき行われるものを除くような限定はされていません。これらのことから、医療法に基づき医療法人が行う単独新設分割型分割が上記2の所定の要件の全てに該当する場合には、適格分割に該当すると解されます。

4 このため、当法人が行う本件単独新設分割が単独新設分割型分割に該当し、上記2の所定の要件の全てに該当する場合には、適格分割に該当すると解されるところ、具体的な当てはめは次の(1)及び(2)のとおりとなります。

(1) 分割型分割への該当性について

本件単独新設分割は、持分の定めのない医療法人が行うものであり分割対価資産の交付はないところ、この場合の分割の類型としては、上記1(2)のとおり「分割対価資産がない分割(無対価分割)で、その分割の直前において、分割法人が分割承継法人の株式を保有していない場合のその無対価分割」に該当するため、分割型分割に該当します。

(2) 本件単独新設分割に係る適格分割該当性について

本件単独新設分割は、上記(1)のとおり、分割型分割に該当する分割で、単独新設分割であるものに該当し、また、無対価分割であるため、分割対価資産の一部のみをその分割法人の株主等に交付するものには該当しないことから、上記2の単独新設分割型分割に該当することとなります。そして、この場合の上記2(1)から(6)までの要件への該当性については、次のイからヘまでのとおりとなります。

イ 本件単独新設分割は、分割対価資産が交付されないため、上記2(1)の「分割承継法人等株式以外の資産が交付されないもの」に該当します。
 なお、分割承継法人等株式が交付される場合には、分割法人の各株主等の保有割合に応じて交付されることが必要ですが、本件単独新設分割は、その交付がないためこの検討は要しません。

ロ 当法人及び本件単独新設分割により設立する本件新設法人は、いずれも持分の定めのない医療法人であるため、本件単独新設分割の直前に当法人は他の者による支配関係はなく、かつ、本件単独新設分割後に本件新設法人と他の者との間に当該他の者による支配関係があることとなることが見込まれていないため、上記2(2)に該当します。

ハ 本件単独新設分割前の理事及び監事の全7名のうち3名が、本件単独新設分割後の本件新設法人の理事に就任し、そのうち1名が代表理事として経営の中枢に参画することが見込まれていることから、上記2(3)の社長等又はこれらに準ずる者で法人の経営に従事している者である特定役員となることが見込まれていることとなりますので、上記2(3)に該当します。

ニ 本件単独新設分割により本件単独新設分割前の本件中部事業に係る主要な資産及び負債が本件新設法人に移転しますので、上記2(4)に該当します。

ホ 本件単独新設分割の直前に本件中部事業に従事していた従業者の80%以上の者が本件新設法人の業務に従事することが見込まれていますので、上記2(5)に該当します。

へ 本件単独新設分割により移転した本件中部事業は本件単独新設分割後に本件新設法人において引き続き行われることが見込まれていますので、上記2(6)に該当します。

(結論)
 上記4(2)のとおり、当法人が行う本件単独新設分割は、単独新設分割型分割に該当し、上記2の所定の要件の全てに該当することから適格分割に該当することとなります。