我が国では、納税者が自ら正しい申告を行って税金を納付する申告納税制度を採っており、この制度を円滑に運営していくため税務調査を行っている。一般の税務調査において、納税者の申告に誤りがあれば、申告額を更正することとしているが、その調査は、原則として、納税者の同意を基としたいわゆる任意調査によっている。
しかし、不正の手段を使って故意に税を免れた者には、社会的責任を追及するため、正当な税を課すほかに刑罰を科すことが税法に定められている。こうした者に対しては、任意調査だけではその実態が把握できないので、強制的権限をもって犯罪捜査に準ずる方法で調査し、その結果に基づいて検察官に告発し、公訴提起を求める制度(査察制度)がある。査察制度は、この意味において申告納税制度を基本的に支え、納税秩序を維持するために必要な制度である。
査察制度の具体的な手続は、国税犯則取締法に定められており、その執行には、各国税局に配置された国税査察官が当たっている。
国税査察官は、国税庁及び全国11の国税局と沖縄国税事務所に配置されている。
国税査察官は脱税の調査を行う際、犯則嫌疑者を逮捕して取り調べる権限こそないが、国税犯則取締法に基づき、次のような権限を持っている。まず、犯則嫌疑者や参考人に質問し、帳簿や書類を検査することができる。また、任意に提出した物を領置することもできる。更に、裁判官から許可状の交付を受けて、一定の場所に立ち入って捜索し、証拠物件を差し押さえることができる。
査察調査の手順としては、脱税の疑いのある者を発見すると、脱税の規模、手口等をより具体的に確認するための内偵調査を行う。内偵調査の後、多額の脱税が見込まれ手口も悪質と認められることなどにより社会的非難を受けるに値する者の脱税の嫌疑事実を裁判官に説明し、許可状の交付を受ける。その許可状に基づいて強制調査に着手するが、着手に当たって、各国税局に配置されている国税査察官は、統率のとれた一斉行動をとる。更に、国税局相互間で臨機に応援する体制も確立されている。
強制調査の着手によって集められた書類等は、その後の綿密な調査によって、真実の所得の計算とその存在を立証するための証拠とされる。
国税査察官は、脱税の調査については所属国税局長の指揮の下にあり、直接検察官の指揮は受けない。しかし、調査を行うに当たっては、後日の裁判における公訴維持を考慮して、所得の存在を立証する証拠の保全はもちろん、犯則嫌疑者の故意の有無、責任の有無などについても十分配慮しており、そのため、調査の過程においては、検察官と密接な連絡を取り、必要に応じて協議している。
査察制度が我が国に導入されたのは、昭和23年(1948年)であるが、当時は、我が国の経済全体が激烈なインフレ下にあり、納税秩序も乱れていて、そのインフレによる利得を隠匿する者の数が多く、査察調査の件数も相当多かった。
その後、インフレが終息して経済が安定化し、申告納税制度が定着するとともに、査察調査の対象には社会的非難を受けるに値する事案を選定するようになり、調査体制もこれに応じて逐次整備し、経済取引の複雑化、多様化等に即応した効果的な査察調査が行われるよう努めてきている。
平成14年(2002年)度には、196件の脱税事件を処理し、その74.0%に当たる145件を告発している(表24参照)。
間接税の犯則者に対する取締制度は、直接税における査察制度よりも古い歴史を持っている。明治16年(1883年)に酒造税及びたばこ税のほか2税目の間接国税について、犯則があれば税務官吏が特別に取り調べることを定めて以来、他の間接税の犯則者についても同じ扱いをする慣例となり、明治23年(1890年)には間接税全般の犯則者について特別の処分手続を定めた間接国税犯則者処分法が制定された。以後数回の改正を経て、昭和23年(1948年)には、この法律に直接税についての犯則者の取締手続も含め、法律名も国税犯則取締法と改められ今日に至っている。 法律制定当時は、間接税の犯則処分件数が多く、これを効果的に処理するため、間接国税には通告処分制度が設けられている。
この通告処分とは、犯則事件の調査によって犯則の心証を得たときに、国税局長又は税務署長が罰金又は科料に相当する金額並びに没収品に該当する物品等を納付すべきことを犯則者に通知する処分をいい、これを履行するかどうかは犯則者の任意であるが、通告を履行しない場合には、告発され刑事訴追を受けることになる。
なお、犯則内容が特に悪質であるなどの場合には、通告処分を経ずに、直接、告発が行われる。
また、消費税については、輸入取引に係るものに限り、通告処分制度を採用している。
酒税については、免許制度を採用し、これまで厳格な調査を実施してきたので、現在では、大口かつ悪質な脱税事件はほとんど発生していない。
揮発油税等の間接諸税についても、大口かつ悪質な脱税事件に対しては、徹底した取締りを行うこととしている。(表25参照)
国税は、原則として、金銭又は証券(歳入納付に使用できるもの)に納付書を添えて納期限までに、日本銀行などの国税収納機関に納付することになっているが、印紙税及び自動車重量税については、金銭納付に代えて印紙を貼り付けること等により納付することを原則としている。
なお、申告所得税、相続税及び贈与税については、一定期間延納をすることができる。
また、震災、風水害等の災害によって相当な損害を受けた場合などの特別の事由がある場合には、納税者からの申請により一定期間(おおむね1年以内)その国税の納付を猶予することができる。
国税収納機関は、日本銀行及び国税収納官吏(国税の収納を行う税務署の職員)であるが、これらは全国各地にあって――日本銀行には、本店、支店のほかに銀行等で日本銀行の代理店又は歳入代理店(郵便局を含む。)となっているものも含まれ、その店舗の数は約4万2千店(うち郵便局は約2万局)及び税務署は524署――納税者にとって非常に便利なものとなっている。
納付された税金は、日本銀行本店の政府勘定に集中される。
相続税及び贈与税については、年賦延納が認められている。
相続税及び贈与税の延納が認められるためには、その税額が10万円を超えていること、納期限までに又は納付すべき日に金銭で納付することが困難であること、納期限までに又は納付すべき日に申請書を提出していること、延納税額に相当する担保を提供すること、といういずれの要件にも該当することを要し、その納付を困難とする金額の範囲内で認められる。
相続税の延納期間及び利子税の割合は、相続財産の価額のうちに不動産等の価額が占める割合によって決められており、最高20年(特定の財産に係るものについては、最高40年)で、年1.2%から年6.0%の範囲内で利子税が課される。また、贈与税の延納期間及び利子税の割合は、最高5年で年6.6%である。なお、それぞれの利子税の割合は、公定歩合に連動した特例割合に軽減されている。
相続税については、財産課税という性格上特別に相続財産による物納が認められている。
物納が認められるためには、延納によっても金銭で納付することを困難とする事由があること、申請財産が定められた種類の財産であり、かつ、定められた順位によっていること、納期限又は納付すべき日までに申請書を提出していること、物納適格財産であること、といういずれの要件にも該当することを要し、その納付を困難とする金額の範囲内で認められる。
物納申請件数は、平成2年度以降、地価の下落、土地取引の停滞等を反映し、著しく増加した(表27参照)。
このため、国税局長引継制度、納税管理官及び納税専門官の設置による処理体制の確立、並びに資産課税(担当)部門及び財務局との連携・協調体制の強化等により物納事務の一層の処理促進を図っている。
還付申告書の提出又は納税者の錯誤納付等により還付金等が発生した場合には、還付申告書又は債権台帳により確認した上で遅滞なく返還することとしている。この場合の返還方法としては、納税者が指定した銀行等の金融機関の預金口座又は郵便局の通常貯金口座に振り込む方法と納税者が指定した郵便局で支払う方法とがある。
我が国には、税金を容易に、かつ、確実に納付するために日ごろから納税資金を貯蓄しておこうとする納税者が、法律に基づいて任意に組織した納税貯蓄組合という団体がある。この納税貯蓄組合は、業種又は地域ごとに結成されており、加入又は脱退には制限がない。
現在、納税貯蓄組合は、組合員の納税資金の貯蓄のあっせんなど納税貯蓄に関する事務のほか、税知識の普及のための研修会の開催や広報活動、租税教育の推進活動などを行っている。
税金を納付する便利な方法として振替納税制度がある。これは、税務署から納税者名義の納付書をその納税者が預貯金口座を有する金融機関に送付し、金融機関がその納税者の口座から納税者に代わって税金を納付するという仕組みである。納付後の領収証書は、その金融機関から納税者に直接送付されることになっている。
この制度は、納税者にとっては、納税額に見合う預貯金を準備しておくだけで、金融機関や税務署に出向かなくても自動的に納付できる大変便利な制度であり、また、税務署にとっても事務処理の効率化が図られるなどの効果がある。そこで、国税庁では、最も効果が大きいと認められる申告所得税、消費税及び地方消費税(個人事業者)の納税者を対象として、確定申告の申告相談の際に利用を勧めたり、地方公共団体、金融機関、納税貯蓄組合等関係民間団体の協力を得て利用を勧めるなどにより、この制度の普及を図っている。現在、申告所得税、消費税及び地方消費税(個人事業者)の確定申告においては、納税者のうち、それぞれ67.1%、79.8%がこの制度を利用している(表28参照)。
国税債権を確保するための措置として、実体的な面で国税の優先権、手続的な面で自力執行権がある。
すなわち、国税はすべての公課(雇用保険料等)及び私債権に優先して徴収することが国税徴収法において規定されている。ただし、私法秩序との調整の観点から、国税の優先権が制限される場合(法定納期限等以前に設定された抵当権の優先等)がある。
また、納期限までに納付されない国税、いわゆる滞納国税は、原則として納付の督促をした上納税者の財産を滞納処分により差し押さえ、換価して、それによって得た金銭をもって国税に充てる手続きにより徴収する。しかし、納期限まで待っていては国税の徴収ができなくなるおそれがあるようなときには、納期限前においても強制徴収措置を採ることが認められている。他方、納税者の実情などによっては、直ちに滞納処分を行うことが適当でない場合もあり、このような場合には法令に基づいて納税を猶予したり、分割納付を認めるなど、納税者の実情に即しつつ、処理を行っている。
滞納となった国税については、通常はその納期限後50日以内に督促状により納付の督促を行うが、この督促がされてもなお税金が完納されない場合には滞納処分を開始する。滞納処分とは、差押えに始まり、換価・配当といった滞納国税を強制的に徴収するための一連の手続きをいい、税務当局が裁判所の関与なしに自力で行うことができるものである。差押えは、督促後10日を経過してもなお税金が完納されない場合に、納税者の財産を換価することを目的として、その財産の処分を禁止するために行うものである。差押えを行ってもなお税金が完納されない場合は、差押財産の強制的な売却である「換価」を行い、その換価代金を滞納国税その他一定の債権に「配当」する。ただし、納税者の財産について既に強制換価手続が開始されている場合には、上記の差押え、換価に代わる手続きとして、先行の強制換価手続の執行機関に対して交付要求を行うことにより配当を受けることができる。
国税の納付は、通常は納期限までに行えばよいが、納税者が偽りその他不正の行為により国税を免れようとしたり、破産するなど特別の事情が生じ、国税の徴収ができなくなるおそれがある場合には、一定の要件の下に特別の保全のための手続(繰上請求、保全差押え、繰上保全差押え、保全担保)が認められている。
国税の徴収については、その確保の措置が必要な反面、納税者の事業や生活についての配慮も必要であることから納税の緩和の措置が設けられている。納税者が災害、病気、休廃業などにより納付困難となっている場合や差押財産が換価されると事業の継続や生活の維持が困難となる場合等には法令に基づいて納税を猶予したり、分割納付を認めるなど納税者の実情に即しつつ、処理を行っている。
なお、滞納処分の対象となる財産がない場合や滞納処分を執行することによって納税者の生活を著しく窮迫させるおそれがある場合には、滞納処分の執行を停止し、その執行の停止が3年間継続すると、国税の納税義務は消滅する。(図6参照)
滞納整理は、税務署の徴収職員(国税徴収官、事務官)が行っているほか、大口悪質事案などについては、国税局の徴収職員が税務署からの徴収の引継ぎを受けてこれを行っている。
滞納の発生及び整理の状況は、表29のとおりである。