出題のポイント

〔第一問〕

問1

 消費税は、課税期間中の課税標準に対する消費税額から、その期間中の課税仕入れ等に係る消費税額を控除して納付税額を計算する仕入税額控除制度を採用しており、仕入れに係る消費税額は棚卸資産、固定資産を問わず仕入時の課税期間において控除することとされている。
 しかしながら、固定資産等のように長期間にわたって使用されるものについて、その仕入時の状況のみで税額控除を完結させることは、その後の課税期間において課税売上割合が著しく変動した場合や使用形態が変更された場合などを考慮すると必ずしも適切な方法とはいえないことから、固定資産等のうち一定金額以上のもの(調整対象固定資産)については、一定の方法により仕入れに係る消費税額を調整することとされている。
 本問は、この仕入れに係る消費税額の調整のうち、課税売上割合が著しく変動した場合の調整についての問題であり、調整対象固定資産の課税仕入れ等を行った課税期間に仕入れに係る消費税額を控除し、第三年度の課税期間に当該調整対象固定資産を有している場合には、課税売上割合が著しく変動しているかどうかを確認し、消費税額の調整の要否を判定することは実務においても重要なものであるから、制度の内容を正しく理解していることが必要であり、その内容を問う問題である。
 次に、確定申告等については、平成30年度税制改正において、政府全体として行政手続の電子化を進めてきている中、官民併せたコストの削減や企業の生産性向上を推進する観点から、申告データを円滑に電子提出できるよう環境整備を進めつつ、まずは大法人(特定法人)について電子申告が義務付けられた。また、法人税の確定申告書の提出期限が特例により延長されている法人は、制度上の違いにより、法人税と消費税の確定申告書の提出期限に差異が生じることとなり、実務面の負担が発生しているとの意見が産業界から寄せられていたことから、令和2年度税制改正において、働き方改革関連法の施行により時間外労働の上限規制の導入等の措置がなされたこと等を踏まえ、法人税の確定申告書の提出期限の延長の特例により法人税の確定申告書の提出期限が延長されている法人について、消費税の確定申告書の提出期限を1月間延長する特例が創設された。
 こうした近年の改正事項についても、その適用対象となる事業者など、制度の内容を正しく理解していることが実務においても必要であり、その内容を問う問題である。

問2

 本問は、事例に沿って事業者の判断した内容が正しいかどうかを判定し、その理由を消費税法令に沿って説明するものとした。税務代理や税務相談を行う税理士の実務においても重要であり、その必要な知識を問う問題である。

  1. (1) 特定役務の提供の内容について
  2. (2) 非課税となる社会福祉事業として行われる資産の譲渡等の範囲について
  3. (3) 国外取引のために要した課税仕入れに関する個別対応方式に係る区分について
  4. (4) 簡易課税制度における事業区分(第一種事業と第二種事業)について

〔第二問〕

問1

 消費税の納付税額の計算に当たっては、課税資産の譲渡等の範囲、資産の譲渡等の時期及び課税標準の算定に関する事項を理解するとともに、仕入れに係る消費税額をはじめとする各種税額控除等について幅広く理解しておく必要がある。
 また、令和元年10月からの消費税率の引上げ及び軽減税率制度の導入による複数税率化に伴い、売上げ及び仕入れの双方について税率ごとの区分が必要となり、軽減税率の適用範囲について正しく理解しておく必要がある。特に、個人事業者をはじめとする規模の小さな事業者にとって複数税率下での事務負担は大きなものであるため、税理士が指導や助言を行う場面が多く生ずると考えられる。
 更に、個別対応方式により仕入控除税額を計算する場合において、事業者が複数の種類の事業を営む等の理由により、課税売上割合を用いて計算することがその事業者の事業の実態を反映せず、他の割合を用いて計算する方が合理的であるときは、税務署長の承認を受け、課税売上割合に準ずる割合を用いて仕入控除税額を計算することが考えられる。
 以上を踏まえ、本問は、以下の事項を中心として、納付すべき消費税額を算出させることで消費税法の総合的な理解度を問う問題である。

  1. (1) 売上げについて適用税率ごとの課税取引、非課税取引及び課税対象外(不課税)取引の判定を適正に行い、課税標準額に対する消費税額が正しく算出されているか。
  2. (2) 仕入控除税額の計算に当たって、課税仕入れの範囲、適用税率及びその時期、個別対応方式と一括比例配分方式による計算方法等について正しく理解しているか。また、課税仕入れについて、課税資産の譲渡等にのみ要するもの、その他の資産の譲渡等にのみ要するもの及び課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに区分を正しく行うことができるか。
  3. (3) 課税売上割合及び課税売上割合に準ずる割合の算定を正しく行うことができるか。また、課税売上割合に準ずる割合の適用範囲について正しく理解しているか。

問2

 本問は、賃貸の用に供する建物の取得に係る課税仕入れについて、取得後の利用状況等に応じて適用される仕入れに係る消費税額の調整の時期及び調整税額を解答させることで、消費税法に定める居住用賃貸建物及び調整対象固定資産の範囲並びに居住用賃貸建物を課税賃貸用に供した場合等の仕入れに係る消費税額の調整及び非課税業務用調整対象固定資産を課税業務用に転用した場合の仕入れに係る消費税額の調整の適用関係について正しく理解しているかを問う問題である。