【照会要旨】

 当社は事業資金の確保等のために当社が行う〇〇事業を資本関係のないグループ外の法人へ売却することを具体的に計画しています。当社は事業の売却に向けて、A社を設立し、その後、〇〇事業をA社に分社型分割(以下「本件分割」といいます。)により移転することとしています。
 なお、本件分割においては、当社がA社の発行済株式の全てを保有しているため、分割対価の交付を行わないこととしています。
 また、本件分割においては、A社株式を第三者へ譲渡する経営計画を作成して譲渡先の選定に着手していること等から、当社によるA社株式の継続保有が見込まれていないため、本件分割は適格分割に該当しません。
 本件分割により移転する資産及び負債の価額は次のとおりとなりますが(【移転する資産及び負債の価額】参照)、この場合、A社の本件分割における資産調整勘定の金額又は差額負債調整勘定の金額及び増加する資本金等の額は、それぞれいくらとなりますか。
 なお、本件分割においては、A社株式の譲渡を受ける者等の利害関係を有する第三者や公正な第三者が関与する資産評定は行われていないこと、移転する資産に独立取引営業権(法令123の10丸3)は含まれていないこと、並びに退職給与債務引受額(法法62の8丸2一、法令123の10丸7)及び短期重要債務見込額(法法62の8丸2二、法令123の10丸8)はないことを前提とします。

【資本関係図】

資本関係図

【回答要旨】

 A社の差額負債調整勘定の金額は150、増加する資本金等の額はないこととなります。

(理由)

1 分割承継法人が、適格分割に該当しない分割のうち分割法人のその分割の直前において行う事業及びその事業に係る主要な資産又は負債のおおむね全部が分割承継法人に移転するもの(以下「非適格分割」といいます。)により分割法人から資産又は負債の移転を受けた場合において、分割承継法人が交付した金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額(以下「非適格分割対価額」といいます。)がその移転を受けた資産及び負債の時価純資産価額(※)を超えるときは、その超える部分の金額のうち資産等超過差額に相当する金額以外の金額は、資産調整勘定の金額とすることとされています(法法62の8丸1、法令123の10丸1)。
 また、分割承継法人が、非適格分割により分割法人から資産又は負債の移転を受けた場合において、その非適格分割に係る非適格分割対価額が分割法人から移転を受けた資産及び負債の時価純資産価額に満たないときは、その満たない部分の金額は、差額負債調整勘定の金額とすることとされています(法法62の8丸3)。

(※) 時価純資産価額とは、移転を受けた資産(営業権にあっては、独立取引営業権(営業権のうち独立した資産として取引される慣習のあるものをいいます。以下同じです。)に限ります。)の取得価額の合計額から移転を受けた負債の額(退職給与債務引受額及び短期重要債務見込額を含みます。)の合計額を控除した金額をいいます(法法62の8丸1、法令123の10丸3)。

2 分割承継法人が、非適格分割に該当する分社型分割(以下「非適格分社型分割」といいます。)により分割法人から資産又は負債の移転を受けた場合において、分割承継法人が分割対価を交付しなかったときの資産調整勘定の金額及び差額負債調整勘定の金額の計算については、次の(1)又は(2)の区分に応じてそれぞれ次のとおりとされています(法法62の8丸12、法令123の10丸16)。

(1) 分割法人が分割承継法人の発行済株式の全部を保有する関係がある場合において無対価の非適格分社型分割を行う際に、一定の資産評定(※)が行われたときは、次のイの金額がロの金額を超える場合のその超える部分の金額が資産調整勘定の金額となり、次のロの金額がイの金額を超える場合のその超える部分の金額が差額負債調整勘定の金額となります(法法62の8丸12、法令123の10丸16一、法規27の16丸3丸4)。ただし、次の(2)に該当する場合には、(2)によることとなります。

イ その移転を受けた事業に係る営業権(独立取引営業権を除きます。)のその一定の資産評定による価額(以下「営業権の価額」といいます。)

ロ その移転を受けた事業に係る将来の債務(退職給与債務引受額又は短期重要債務見込額の基因となる債務を除きます。)で、その履行に係る負担の引受けをしたものの額として一定の金額(以下「未確定債務の額」といいます。)

(2) 無対価の非適格分社型分割により移転を受けた資産(営業権にあっては、独立取引営業権に限ります。)の取得価額(上記(1)の一定の資産評定を行っている場合には、上記(1)イの営業権の価額を含みます。)の合計額がその移転を受けた負債の額(退職給与債務引受額及び短期重要債務見込額に係る負債調整勘定の金額並びに未確定債務の額を含みます。)の合計額に満たない場合には、資産調整勘定の金額及び差額負債調整勘定の金額はないものとされます(法法62の8丸12、法令123の10丸16二)。

(※) 一定の資産評定とは、その非適格分社型分割により移転する資産及び負債の価額の評定(公正な価額によるものに限ります。)で、その非適格分社型分割の後にその資産及び負債の譲渡を受ける者、その資産及び負債を有する法人の株式若しくは出資の譲渡を受ける者その他の利害関係を有する第三者又は公正な第三者が関与して行われるものとされています(法規27の16丸3)。

3 また、無対価の非適格分社型分割で分割法人が分割承継法人の発行済株式の全部を保有する関係がある場合、分割承継法人の増加する資本金等の額は、その移転を受けた資産(営業権にあっては、独立取引営業権に限ります。)の価額(資産調整勘定の金額を含みます。)からその移転を受けた負債の価額(退職給与債務引受額及び短期重要債務見込額に係る負債調整勘定の金額並びに差額負債調整勘定の金額を含みます。)を控除した金額となります(法令8丸1七ハ)。

4 本件分割は、分割法人である貴社が分割承継法人であるA社の発行済株式の全部を保有する関係がある無対価の非適格分社型分割ですが、分割承継法人の株式の譲渡を受ける者等の利害関係を有する者や公正な第三者等が関与する資産評定が行われていないため、上記2(1)により資産調整勘定又は差額負債調整勘定を算定する場合に該当しません。また、本件分割によりA社が貴社から移転を受けた資産の取得価額の合計額(諸資産:200)が移転を受けた負債の額の合計額(諸負債:50)以上であるため、上記2(2) により資産調整勘定又は差額負債調整勘定を算定する場合にも該当しません。このため、どのように資産調整勘定又は差額負債調整勘定を算定するのか疑問が生ずるところです。
 この点、法人税法第62条の8第1項又は第3項の規定(上記1)の適用を受ける非適格分割が行われ、その非適格分割が無対価である場合で、上記2(1)又は(2)に該当するときには法人税法施行令第123条の10第16項の規定(上記2)により資産調整勘定又は差額負債調整勘定を算定することとなりますが、上記2(1)又は(2)に該当しないときには、上記1により資産調整勘定又は差額負債調整勘定を算定することとなります。
 本件分割は、無対価の非適格分社型分割であるところ、上記2(1)又は(2)のいずれにも該当しないため、上記1により資産調整勘定又は差額負債調整勘定を算定することとなり、非適格分割対価額(0)が時価純資産価額(150)に満たないため、その満たない部分の金額(150)が差額負債調整勘定の金額となります。

5 また、本件分割により増加するA社の資本金等の額は、上記3のとおり、移転を受けた資産の価額(200)から差額負債調整勘定(上記4の150)を含む移転を受けた負債の価額(200=50+150)を控除した金額(0)となり、増加する資本金等の額はないこととなります。

【関係法令通達】

 法人税法第62条の8第1項、第2項、第3項、第7項、第12項
 法人税法施行令第8条第1項第7号、第123条の10第1項、第3項、第7項、第8項、第16項
 法人税法施行規則第27条の16第3項、第4項

注記
 令和5年8月1日現在の法令・通達等に基づいて作成しています。
 この質疑事例は、照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答であり、必ずしも事案の内容の全部を表現したものではありませんから、納税者の方々が行う具体的な取引等に適用する場合においては、この回答内容と異なる課税関係が生ずることがあることにご注意ください。