「担当官」
「担当官」
「鑑定官」
「鑑定官」

担当官:ビールって基本的に「苦い」と感じるのですが。

鑑定官:ビール中の苦味物質は、少なくとも90種類以上あると言われており、大部分はホップ由来のフムロンとその同族体です。苦味成分は、ホップを麦汁に漬け込むだけでは付きません。麦汁の煮沸工程を行うことで、フムロンがイソフムロンに変化することにより、水に溶けやすくなってビール中に残れるようになるとともに、強い苦みを呈するようになります。

担当官:先ほどのお話しをまとめると、主として麦芽が黄色や褐色系の色を、ホップがあの苦味を出しているのですね!

鑑定官:そうですね。
また、通常ビールには0.45〜0.55%のCO2(炭酸ガス)が含まれています。炭酸ガスは、ビール中で気泡になるものと、ビールに溶け込み炭酸水になるものがあります。人は、炭酸ガスを刺激として痛点等の触覚で感じているのではなく、炭酸を酸味として捉えているようです。炭酸水は、口腔や舌を酸味として刺激して軽快さ・爽快さを与えます。
また、炭酸ガスは香味に影響を与えます。人は炭酸ガスの刺激を連続的に感じると、酸味・塩味等の味覚が抑えられます。逆に、炭酸ガスが抜けたビールでは、より多くの欠陥臭・苦味が感じられます。

担当官:炭酸って酸味として捉えているのですね。早速友人に教えてあげます!

ビールの味を学ぼう!

【東京国税局 小野玄記鑑定官】

ビールの味には、麦芽由来のコク、ホップ由来の苦味、炭酸ガスの爽やかさ等があります。それ以外にも、ビール中にはたくさんの味がありますが、含有量が人の閾値(いきち)を超える味は僅かであり、特定の味として感知できる味は意外と多くありません。

ビールの味

1 味の由来

お酒の色・味・香については、主に原料・発酵・貯蔵工程のいずれかに由来します。
 ビールの味については、原料麦芽の種類・配合比率・麦汁の製造工程・酵母による発酵工程等の要因が影響します。

2 味の成分(エキス分)

エキス分とは、液体中に含まれる不揮発性成分(蒸発しない成分)のことです。ビールのエキス分は約80%がオリゴ糖・デキストリン等の炭水化物で、残りの約20%がアミノ酸・ペプチド・有機酸・ミネラル・タンニン等です。ビールのエキス分は3〜4%で、醸造酒の清酒とほぼ同じ量となります。ビールと清酒のエキス分を比較すると、甘味のあるグルコースが少なく、苦味・渋味のあるタンニン・イソフムロンがあることが特徴となります。

3 味成分の生成

ビールのエキス分は、原料麦芽の配合比率・麦汁の製造工程・酵母による発酵工程により内容が変わります。

(1) 原料麦芽の配合比率

濃色麦芽の比率が高まると、濃色麦芽由来の味わいが強くなります。また、麦芽を分解して味を作り出す酵素が増えることから、コクのあるタイプになる傾向があります。

(2) 麦汁の製造工程

麦汁製造工程の温度経過により、澱粉・蛋白質等を分解する酵素反応に影響がでるため、味わいが変わります。

(3) 酵母による発酵工程

酵母の代謝の違いにより、ビール成分の比率が変わり、味わいに影響を与えます。

4 ビールの味の特性

ビールのエキス分には、炭水化物・蛋白質・アミノ酸・有機酸・苦味物質等があります。これらのエキス分は、ビールの味わいに影響する重要成分です。

(1) 麦芽由来のコク

炭水化物は、ビールのエキス分で最も多い成分です。ビールのエキス分は、清酒と比べると、オリゴ糖やデキストリンが多いことが特徴となります。これらの成分は甘味等の直接的な味ではありませんが、ビールの特性であるコク・ふくらみ等に関連すると考えられています。

ただ、コク・ふくらみ等に関する、特定成分が見つかっておらず、複数の成分が関与した複合的な味わいと考えられます。ビール中のイソフムロン・メラノイジン・カラメル・ホップ・ポリフェノ−ル・塩化物等の塩類は、コクを増強します。

一方、麦汁製造工程時に発酵性の糖分を増やすことで、アルコール分を高めると、すっきりした切れの良いビールとなります。濃色麦芽の比率を高めると、濃色麦芽由来の味わいが強くなり、コクのあるビールになる傾向があります。

(2) ホップ由来の苦味

ビール中の苦味物質は、少なくとも90種類以上あると言われており、大部分はホップ由来のイソフムロンとその同族体です。苦味成分は、ホップを麦汁に漬け込むだけでは付きません。麦汁の煮沸工程を行うことで、フムロンがイソフムロンに変化することにより、水に溶けやすくなってビール中に残れるようになるとともに、強い苦みを呈するようになります。

5 炭酸ガスの爽やかさ

通常ビールには0.45〜0.55%の炭酸ガスが含まれています。炭酸ガスは、ビール中で気泡になるものと、ビールに溶け込み炭酸水になるものがあります。では、人間は炭酸ガスをどうやって感じるのでしょうか。人は、炭酸ガスを刺激として痛点等の触覚で感じているのではなく、炭酸を酸味として捉えているようです。炭酸水は、口腔や舌を酸味として刺激して軽快さ・爽快さを与えます。
 また、炭酸ガスは香味に影響を与えます。人は炭酸ガスの刺激を連続的に感じると、酸味・塩味等の味が抑えられます。逆に、炭酸ガスが抜けたビールでは、成分の弁別閾値が下がるため、より多くの欠陥臭・苦味が感じられます。

6 生理学的な味と食品学的な味

人間は、外部から様々な刺激を感じ取ります。五感(視覚・味覚・聴覚・嗅覚・触覚)の刺激については、各々の刺激に対応する受容体で捉えています。感覚を受ける受容体はとても大切ですが、受容体だけが正常に作動しても感覚として捉えることはできません。感覚は、刺激を捉える受容体・伝える神経・判断する脳の3つが連動して、初めて感覚として捉えることができます。そのため、受容体・神経・脳の内どこか1か所でも損傷を受けると、感覚を捉えることができません。
 ところで、味には、生理学的な味と食品学的な味があります。古くから味について研究されており、四味から八味あると言われてきました。20世紀末頃まで、生理学的な味は、甘味・酸味・苦味・塩味が通説でした。現在は、日本人が発見した旨味が加わり五味となっています。五味以外にも、辛味・渋味・収斂味・金属味・脂味等たくさんの味がありますが、これらの味については食品学的な味に分類されます。
 生理学的な味と食品学的な味の違いはどこにあるのでしょうか?生理学的な味の受容体は、味の刺激だけに対応する専用受容体があるのに対し、食品学的な味の受容体は、味の刺激以外にも、痛覚・温度に対する刺激の受容体として働いています。つまり、複数の異なる刺激に対応している点が異なります。人間は、唐辛子の辛み成分であるカプサイシンをTRPV1という受容体で捉えられ認識しています。TRPV1はカプサイシン以外にも、痛みや42℃以上の温度にも対応しています。大量に唐辛子を摂取した時、痛く感じたり熱く感じたりすることはありませんか。この現象は、TRPV1が、カプサイシンが味の刺激を温度・痛みの刺激としても感じるため起こる現象です。

(令和5年5月1日現在施行の法令・通達等に基づいて作成しています。)