2 租税条約に基づいた対応

 企業が国際的な経済取引を行っている場合には、各国の税制の違いにより、二重課税が生じる場合があり、これを防止するため租税条約が結ばれています。国税庁では、この租税条約に基づく相互協議の制度を活用して国際的な二重課税の防止などの課税問題の円滑な処理を図っています。また、国際取引に係る脱税を防止するという観点から、租税条約を積極的に活用し、各国税務当局との情報交換等の充実に努めています。

(1) 国際的な二重課税の防止――租税条約に基づく相互協議の実施

 国際取引において生じた所得がどの国に帰属するのか、その解釈が国によって異なる場合は、移転価格課税等を通じて企業が二重課税を受けるリスクが高まります。このような二重課税については、租税条約に基づいて、税務当局間で相互協議を行うことにより、その解決を図っています。
 国税庁では、移転価格課税について、納税者の予測可能性を確保し、移転価格税制1の適正・円滑な執行を図るため、独立企業間価格の算定方法等に関し、法人の申出を受け、国税当局がこれに確認を与える事前確認制度を導入していますが、最近では、相互協議を伴う、二国間事前確認(BilateralAdvance Pricing Arrangement: BAPA)に係る事案が増加しています。BAPA相手国の数も増えてきており、特に件数の増加が予想される中国をはじめとするアジア地域など、これまでBAPAの経験が少なかった国との事案が発生しています。
 国税庁では、これら相互協議事案の適切で迅速な解決に向け、各国税務当局間の協力関係を一層深め、より効率的に協議を進めるように努めています。

我が国の租税条約ネットワーク(45条約、56か国適用/平成18年5月現在)

我が国の租税条約ネットワーク(45条約、56か国適用/平成18年5月現在)


  1. 企業が海外の関連企業との取引価格(移転価格)を通常の価格と異なる金額に設定すれば、一方の利益を他方に移転することが可能となります。移転価格税制とは、このような海外の関連企業との間の取引を通じる所得の海外移転を防止するため、その移転価格を通常の取引価格(これを「独立企業間価格」と呼んでいます。)に引き直して課税する制度をいいます。

相互協議事案の事案タイプ別件数

(2) 租税条約に基づく情報交換

 国際取引に関する二重課税リスクが高まる一方で、租税条約の特典を濫用した租税回避スキーム等により、どこの国からも課税を受けない課税の空白が発生する問題も生じています。こうした国際的租税回避を防止し、自国の課税権を確保するために、各国はそれぞれ国際課税に対する取組を強化していますが、経済活動が国際化している状況の下で、適正な課税を実現するためには国外の情報を適切に収集することが不可欠です。そこで、各国税務当局は、租税条約に基づいて必要な情報を提供し合うことに力を入れています。
 こうした国際的な情報交換に積極的に協力していくため、平成15年度に新たな質問検査権が創設されたのに続き、平成18年度には、相手国の犯則調査に係る情報交換要請に対応するための情報収集手続が整備されました。また、平成17年7月には国税庁国際業務課に情報交換専担チームを新設し、相手国からの要請に迅速に対応しつつ、我が国からも積極的に協力要請を行っていく体制が整いつつあります。情報交換の推進については、各税務当局間の協力が重要であるところ、国税庁はOECD租税委員会の下の情報交換担当者の会合に参加するほか、開発途上国への技術協力にも積極的にかかわっています。

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