奥村座長
 ありがとうございました。
 皆様方、どうぞ御自由に御議論ください。

神崎氏
 ありがとうございました。
 犯罪機会論というのは確かによく分かりましたが、日本の場合は、交番制度がこの機会論に沿うていたのではないでしょうか。ただ、最近その交番の機能が変わってきたのでしょう。やはり交番といえども検挙率を上げなければいけなくなったということで、やはり酒屋さんと同じように、交番というのは地域コミュニティの核になっていたのではないかと思っております。もちろんこれを云々したって我々の手の届くところではありませんけれども、いかがでしょうか。

小宮先生
 全くおっしゃるとおりです。今、割れ窓理論を日本のいろんなところが注目して、向こうから輸入しようとしていますけれども、割れ窓理論がもともと学んだのは日本の交番制度です。このことは、割れ窓理論を提唱した方がはっきりと明言しております。70年代までは、アメリカは個人主義でいろいろやっていましたけれども、日本のコミュニティの良さに注目して、日本は何でそんなに犯罪が少ないんだろうと考えたら、1つの大きなファクターとして交番や地域の町内会があったということです。それまで欧米では交番も町内会もなかったのですが、コミュニティのオーガニゼーションをしていって、コミュニティ組織をつくったということです。交番はできませんでしたけども、コミュニティポリシングという形でどんどん警察官が地域へおりてきた、それが先ほどお示しした例です。

田中氏
 言葉の問題ですけれども、割れ窓という意味は、何かディスオーダーの象徴みたいな感じですか。

小宮先生
 そうです。これはあくまでも比喩なんですけれども、例えば大きなビルの窓ガラスが1つガチャンと割れたとき、それが放置されていると、「ああ、ここの窓ガラスは割っても捕まりもしないし、大丈夫なんだろう」と思われ、2番目の窓ガラスが割られます。そして、3番目の窓ガラスが割られるということになります。そうすると、ビル全体の窓ガラスが割れます。そうすると、窓ガラスが割れるだけじゃなくて、今度、その周りに自動車等が置いてあれば、自動車の窓ガラスが割られて、中の物は取られるということになります。そうなってくると、自動車の中から物を盗むぐらいは大丈夫なんだなと思われ、今度は次にもっと大きな犯罪が発生してきます。そういうふうに犯罪がエスカレートしていく比喩として、割れ窓理論というのを使っています。大きな変化というのは、実は小さな変化から始まるんだというのが、この割れ窓理論の発想であります。

御船氏
 説明の最後でおっしゃっておられた、「駅で売らない」とか、「列車の中でも売らない」ということは、何年ぐらいからですか。

小宮先生
 それは2003年の法律です。

御船氏
 そのときには、皆さんが支持する根拠はどういうことでしたか。やはり犯罪機会の減少ということを最優先する。営業権みたいに守られねばならないものもあるでしょうに。

小宮先生
 そうです。ずっと永続的なものではありません。例えば、ある特定の駅でそういった酔っぱらいが非常に多く、その駅での事件が多いということが分かって、どうしようかと考えたときに、そのオプションの一つとして、そこではそもそもお酒を売らなかったらいいんじゃないかという話になります。それを警察が裁判所に申請して、裁判所がそれを認め、そして販売禁止の命令を出せるような形になったというのがこの法律であります。
 イギリスの調査によると、アルコール関連のディスオーダーとかバイオレンス(暴力)というのは非常に問題になっていまして、大体、推計で言うと年間120万件ぐらい起こっているんじゃないかと言われています。イギリスでは、すべての暴力犯罪の半分はアルコール関連であると言われていますので、この辺には非常に神経質になっています。

奥村座長
 小宮先生の御判断では、今おっしゃったことは、日本の現状では全く期待できないんですか。特定のところで一時的にお酒を売ってはいけないということをだれかが命令を下すということは、日本ではできない仕組みになっていますか。

小宮先生
 そうですね。できないと思います。いろいろ法律の網の目をくぐっていけばできるのかもしれませんが。発想的には、こういった青少年育成条例、これでさえもっとやろうと思えばできると思うんですけれども、やはりいろんな営業の自由とか、あるいは個人の自由、購買の自由とかあるいは移動の自由とか、そういうことを最優先していますから、この程度のものになります。発想自体が、「犯罪者というのは我々と違った人間である」というものになっており、何とかすれば犯罪は防げるという発想の方が非常に強いので、場所でもってその機会を減らそうという発想がありません。もう少しそういうふうな発想を転換すると、一つ一ついろいろ機会をつぶしていくような方策も出てくると思うんですけど、まだそこまで至っていないというのが現状です。

奥村座長
 国税庁の方、何かコメントされることはありますか。

小森課長補佐
 現在、お酒の販売業に関しては、酒税法で規定がされておりますが、今お話にありましたような犯罪の未然防止ですとか治安維持を目的として、一定の期間、一定の場所におけるお酒の販売を制限するといったような仕組みは、現在の法律上の体系の中にはございません。こうした規制は、小宮先生がおっしゃられましたように、憲法上の営業の自由ですとか、あるいは職業選択の自由との比較衡量の上で、なおかつ、許可制・免許制といった参入規制を手段として用いることにより、そのような犯罪を未然に防止していくことが、より一層重要であるというような国民合意が形成された場合に、先ほど先生のお話のイギリスの例にもありましたように、免許の目的にその点を明確に位置づけていくといったような手順を踏んだ上で、可能となるものではないかと。まさに、今、社会の現状がそこまで至っているのかどうなのか、国民合意がどこにあるのかということだと思います。

奥村座長
 重要なポイントが1点浮かんできたように思います。
 あと、小宮先生、今日配付してくださっているペーパーの一番最後、右下に7と書いてあるところに、最後におっしゃっていたコミュニティ・エンパワーメントとかコミュニティとのパートナーシップだとかというお言葉があるんですが、こういうのがあると望ましいことはよく分かるんですけれども、何か政策を打たないと、こういうこと自体が自発的には期待できないと考えてよろしいですよね。

小宮先生
 そうですね、はい。

奥村座長
 何らかの理由があって、コミュニティが壊れてきていて、商店街は寂れていっているわけなので、何か手を打たないと、こういうことは実現しない。小宮先生は今、何かこういう政策についてお考えがございますでしょうか。

小宮先生
 ここにも少し紹介させていただきましたけれども、地域安全マップづくりというのを推奨しております。これは商店街を巻き込むことにとっても非常に有益なものでありまして、お話ししましたように、地域の物理的な危ないところとかを住民自身が町を歩きながらチェックしていって、それを地図にしていくということなんです。できる地図や結果はどうでもいいんです。そのプロセスにおいていろんな人、特に子供を巻き込んでいって、コミュニケーションをとりながらやるのです。例えば、子供にこの地域安全マップづくりをやらせるときには、必ずインタビューをしてくださいということにしますと、子供たちは行ってもいないようなお店やさんや商店街に行ってインタビューするんですね。最近危ないことはありましたかとか、不安なことはありましたかと。そうすると、そこでいったん顔見知りになると、今度は町であっても自然にあいさつ、この前はどうもありがとうございましたという形になってきて、子供たちも自分たちの地域をどんどん好きになってきます。やがてその子供たちがその地域のリーダーに育っていくということまで期待できると思うんです。これは特に法律がどうかではなくて、政策としてこういうのを推奨していまして、同意して理解されているところでは、ぽつぽつと始まっているような動きであります。

矢島氏
 小宮先生の何か補足というんじゃおかしいですけれども、私がやっていることも似ております。先ほど小宮先生が、自分の研究はマイノリティーでまだなかなか理解されていただけないとおっしゃっていましたが、まさにそのとおりで、今まで研究というのは、主流が子供たちの心を見よう、子供たちの立場で考えてみようという、何でも子供たちの心という方向性ばかり行っていたわけなんです。そして結局、精神分析学だとか精神医学だとかの人たちが、極めて特異な子供たちに対してああだこうだと言っているだけであります。それ以外の何百万の子供たちは、じゃあどうなのだといったような発想が全くないわけです。
 その辺のところで、こういったものが出てきまして、私は少年をどうしようかというような立場ですけれども、このハードな要素はともかくとして、ここのソフトな要素が少年にとっても極めてプラスなわけです。ソフトな要素というのは、環境犯罪学では住民側がこういうふうに運動しよう、対策をしようということです。つまり、このソフトな要素は、お酒は買いづらい、飲みづらいという状況をつくってくるわけです。隣町まで行って買おう、飲もうという発想をする子供もいるかもしれないですけれども、大多数の子供は飲酒をあきらめて、やめてしまって、やめてしまうのが2〜3年続けば、もう大体やめるというような感じですので、このソフトな要素というのは、犯罪・非行をさせない要素であると同時に、子供たちを守る要素でもあります。その辺を僕は非常に大きく買っているわけなんです。

奥村座長
 ありがとうございました。

田中氏
 イギリスの流通の方を調べたりしているんですけれども、イギリスの小売、特に食品等の場合、小売総額の7割か8割は、みんな大手同社のチェーン店なんです。一般の独立した中小小売商業、商店街で買われているのはほんの3割半ぐらいです。しかも、そういう独立した小売商人のほとんどは、移民等のパーキーストアです。町の商店街のクリスマスツリーなんかも、行政が飾りつけをやるわけで、日本のように商店街がクリスマスの飾りつけを行ったり、お祭りをやったりということはないんです。ひるがえって日本と比較すると、日本では、小売酒販店でも雑貨屋さんでも、ほとんどの経営者が大学を出ている非常に高学歴の独立した中小小売商店街の人たちがいて、先ほど申し上げたように食住接近していて、そして地域のコミュニティの中心になっています。そして、イギリスでは、先ほど申し上げましたように、コミュニティが中心になってまちづくりをしていて、必ずしも商店街の人たちが中心になるわけではありません。日本だと、その役割は、やはり商店街の人たちの方が学歴的にも高いし、社会的な地位もあるし、教養もあるしという意味で、商店街がこういう役割を果たし得るというふうに考えていますが、どうでしょうか。

小宮先生
 そうですね。ただ、イギリスも80年代ぐらいから大分変わってきました。アメリカもそうですけども、恐らく先生から御指摘のとおり、イギリスではもともと地域のきずなが弱かった訳ですから、意図的に地域のきずなづくりをやっていこうということで、行政も側面から支援していくということになります。ですから、犯罪対策についても、日本みたいに警察だけというのではなくて、住民はもちろんのこと、必ず商店街と事業者を組み込んで、全体で犯罪の機会を減らしていこうという方式で取り組んでいます。つまり、日本がそうであった要素を弱めていったのと同じ時期に、逆に欧米では弱かったところを強めているというような逆転現象になっているのではないかと思います。

寺沢氏
 先生の今回のお話は、アメリカとイギリスを中心にということですけれども、ヨーロッパの中でもドイツは、比較的お酒の規制が緩い国です。ドイツで、このお話と同じような傾向で安全を考えているというふうな話もあるんでしょうか。

小宮先生
 あります。私、専門ではないので詳しくは分かりませんけれども、アメリカの割れ窓理論と防犯環境成形というのは、ヨーロッパ全土にかなり影響力を持っています。非常に卑近な例ですけれども、当初ドイツでは監視カメラもほとんどなかったのですが、イギリスでばあっとつけ始めたときに、いろんな議論があったんですけれども、ドイツもイギリスをモデルにして使い始めて、結果的にはイギリスと同じような形で使い始めたとかです。だから、発想自体はかなり、EUはEUで共通しているところがあるというふうに私は思っております。ですが、細かいところまでは存じ上げていません。

本間氏
 アルコール・リレイテッド・ディスオーダーという取組がすばらしい成果を上げているということは、本当にうれしく、評価しています。しかし、これは文明的に言いますと、昔はよかったということになりやすい。かつてアメリカは、スモールタウン、つまり、地域のみんなは「だれがだれ」ということを知っていて、「問題児は何とか」といった閉塞性を嫌って、みんな都会に出てきたわけです。そうすると、今度はやはりそれではうまくいかなかったということになって、文明的には何か昔へ帰るというようなニュアンスが非常に感じられます。アルコールの対策としては非常に万全でうれしいと思う一方、また管理社会になるという辺が心配なのですが、それに対しての意見、あるいは調査というのは、まだ出てきてないのでしょうか。

小宮先生
 御指摘のところはもっともだと思います。ちょっとお答えになるかどうか分かりませんけれども、先ほどの商店街の御報告の中で、商店街が非常に閉鎖的になって、いい面はあるけども閉鎖的になってきて、なかなか新しい改革に入れないという悩みがあったというふうにおっしゃっていましたけども、私は、そういう面では、コミュニティがベースである、地域がベースであることは間違いないと思うんです。ただ、従来型の非常に狭いところでは、この情報化社会ではなかなか機能していきません。そこにやはり、そういったいろんなコミュニティをつなぐような形での、最近ですとコモンズというふうに呼んでいますけれども、そういうような横断的な組織、あるいは人間の動きも必要になってくるのではないかと思います。
 例えば私がやった調査では、「住民にボランティア活動をしたいですか」、「犯罪防止のボランティア活動をしたいですか」と聞くと、大体半々に分かれるんですけれども、「自分の住んでいる地域だったらやってもいい」というのが半分で、「自分の地域じゃなかったらやってもいい」というのが半分いるんです。従来型のコミュニティだと、自分の地域だけを吸い上げられ、ほかの地域だったらやってもいいという受け皿が全くなかったんです。現在の情報化社会は、人の考え方から、物理的にもあちこち移動できるような時代ですから、従来のコミュニティだけじゃなくて、そこを横断していくような組織、そこを2層に行き来することが一番いいのではないかと思います。そこによってコミュニティの行き過ぎた監視というところもチェックできるのではないかというふうに個人的には思っています。

奥村座長
 大変興味深いお話、ありがとうございました。
 それでは、お時間になってまいりましたので、事務局の方から何か御連絡事項はございますか。

初谷課長補佐
 前回の懇談会におきまして、厚生労働省からのヒアリングで保健指導マニュアル作成検討会報告というのがありましたが、御船先生の方からもうちょっと詳しい情報をという話がありまして、お配りしてあると思いますが、このアルコール関連問題に対する取り組みと現状と課題という追加資料の提供がございましたので、これを配付させていただきました。これは未成年者の飲酒問題について、特に8ページ以降のところなんですけれども、未成年者のアルコール摂取に関して、未成年者の飲酒実態について行われた調査結果の紹介、それから未成年者のアルコール乱用、依存の危険防止、未成年者の飲酒による悪影響などについて解説されておりますので、今後の議論の参考としていただければと思います。
 以上でございます。

奥村座長
 それでは、次回は日にちが割合接近しているんですが、来週の水曜日の本日と同じ時間帯で、またヒアリング等を進めてまいりたいと思います。
 本日は、どうもありがとうございました。

―― 了 ――

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