奥村座長
 それでは、ただいまから、委員もお務めいただいております小宮先生から、「欧米の犯罪機会論と日本の安全・安心まちづくり」というテーマでお話をいただきたいと思います。20分から25分ぐらいでお話ししていただけますでしょうか。その後、また今のようなパターンで御議論いただきたいと思います。

小宮先生
 それでは、私の方から「欧米の犯罪機会論と日本の安全・安心まちづくり」というタイトルでお話をさせていただきます。
 お酒の小売店が、安全、地域づくり、まちづくりにどういう役割を演じているか、あるいはそういうものに対する欧米の考え方がどうなっているかというのが私に与えられた課題でした。例えばイギリスには幾つか法律がありまして、その条文を読んでいくと大体のことが分かるわけですけれども、しかし、もっと大事なことは、なぜそういう法律があるのかというその背景、根本的な思想を押さえておくことだと思います。それを押さえておかないと、法律の解釈のところでも間違ってしまいます。逆に、その法律は知らなくても、基本的な思想を押さえていれば、欧米の考え方の方向はこんなものだろうというふうなことが分かりますので、今日はその辺を中心にお話をさせていただきたいと思います。
 欧米というふうに括ってしまいますと、欧米全部をフォローしているのかと怒られそうですけれども、具体的にはイギリスとアメリカの一部だけしかフォローしていません。ただ、例えばフランスにしろドイツにしろスウェーデンにしろ、聞くところによると大体同じような方向であるそうなので、欧米というように1つに括ってしまっても、それほど間違いはないのではないかという感じはしております。
 そこで、早速レジュメに基づいてお話しさせていただきますけれども、まず、欧米の犯罪対策を非常に大きい視点からとらえますと、20年ぐらい前に考え方が大きく変わりました。これは、パラダイムシフトというふうに呼ばれておりますけれども、レジュメに書いておりますように、「原因論から機会論へ」、あるいは「犯罪者から被害者へ」、「人格から場所へ」というような考え方の変化であります。
 どういうことかといいますと、欧米でも、70年代まではいわゆる犯罪原因論に基づいて犯罪対策が構築されておりました。犯罪原因論というのは、犯罪者の異常な人格や劣悪な境遇が犯罪の原因である、それこそが犯罪を引き起こしていくんだという考え方です。したがって、犯罪をなくすためには、異常な人格を変えてやったり、あるいは劣悪な境遇を改善したりということこそがやらなければならないことであると言えます。これが犯罪の原因論であります。そのために、非常に単純に言ってしまえば、犯罪が起きてから犯罪者をつかまえて、刑務所に送って、刑務所の中でその人の人格を改造、つまり、矯正してやって、犯罪性がなくなったら、また社会に戻してやるということになります。それによって社会は安全を保つことができる。こういうような発想に基づいて、ものすごい税金を使ってそういった矯正プログラムが実行されましたけれども、欧米での研究結果によると、そういった矯正プログラムはことごとく失敗したということです。70年代まで、欧米では戦後一貫して犯罪が増加し、その犯罪の増加を食いとめることができないという状態でありました。
 そこで欧米人は、確かに犯罪の原因はあるに違いないけれども、その犯罪原因を発見する、もしくは突きとめるということは非常に難しいと考え直しました。特に現代社会においては、犯罪の原因は恐らく無数にあるでしょう。その中で特定のこれだという原因を発見することは非常に難しいと思われます。仮に百歩譲って、犯罪の原因が何であるか分かったとしても、それを解決するようなプログラムを開発するのはさらに難しいでしょう。我々はまだそれだけの科学水準を持ち合わせていないということで、欧米人は考え直したわけです。
 そこで全く発想を変えて出てきたのが、この「犯罪の機会論」です。これは犯罪の原因ではなくて、犯罪の機会に注目するというものです。つまり、どんなに犯罪の原因を持つ人がいたとしても、目の前に犯罪の機会がなければ犯罪は起こらない、つまり、機会なければ犯罪なしというような発想であります。したがって、80年代から欧米でやられていることは、できるだけ犯罪の機会を減らそうという取組です。犯罪の原因をなくすというところにエネルギーを注ぐよりも、犯罪の機会を減らして、それによって犯罪を防ぐんだというような発想であります。
 そうすると、ここに書いてありますように、犯罪の機会論においては、犯罪者とそうでない人(一般人)との差異はほとんどありません。どんなに犯罪性が低い者でも、どんなに品行方正な人でも、目の前に犯罪の機会、例えば100万円入っている封筒が落ちていれば、それを盗んでしまうかもしれません。これは犯罪になってしまいます。逆にどんなに犯罪性が高い者でも、目の前に犯罪の機会がなければ、犯罪は実行されないというような前提に立っています。かつての犯罪の原因論というのは、犯罪者というのは一般人とはかなり異なる人間であるという前提だったわけです。それとは逆に、だれでもいつでも、目の前にチャンスがあれば犯罪者になってしまうというのが犯罪機会論の前提であります。
 これをバックアップした考え方が被害者支援という考え方であります。犯罪の原因論というのは犯罪者に注目していますから、基本的には犯罪者をどう直していくか、あるいは犯罪者をどう立ち直らせるか、そこに関心が集中していたわけですけれども、犯罪の機会論は、どうすれば犯罪者に犯罪の機会を与えないのかというような発想ですので、被害者サイドからの発想になります。そこにちょうど20年ぐらい前から欧米で盛んになってきた被害者支援という、つまり、忘れ去られていた被害者にスポットを当てる運動とうまくマッチしまして、犯罪機会論が台頭してきたわけです。
 今日は、最初に青少年育成条例の御報告がありましたけれども、こういうのはむしろ犯罪の原因論に基づいていますので、欧米とはかなり次元が違っているような話で、メンバーの先生方も恐らくそこにいろいろなフラストレーションがあったのではないかと思います。しかし、これはこれでもちろん大切なのです。とはいえ、欧米での施策の重点はこういうところではないということでして、被害者サイドからどうやって被害を防ぐのかということを行っております。
 したがって、どうやって防ぐのかということについて、犯罪者の人格とか、あるいは犯罪者が置かれている境遇、例えば家庭環境であるとか学校がどうだこうだとかいうことよりも、犯罪を犯す場所に注目して、その場所をいかに安全にするか、いかに犯罪の機会を減らしていくかと、そういう人格から場所へというような形に大きくシフトしていきました。
 結果として、この80年代から始まった犯罪の機会論は、じわりじわりと効果を上げまして、現在、欧米では、犯罪数が横ばいになりました。戦後、本当に例外なく犯罪が増加していたんですけれども、ここに来て犯罪数が横ばいになりました。さらに、イギリスや、アメリカでは犯罪が減少しているというような状況であります。
 残念ながら、日本はまだまだ犯罪原因論にどっぷり漬かっているような状況であります。特に犯罪の研究者も、犯罪原因論にのっとって主張されている方がマジョリティーであります。私のような立場はごくごく少数のマイノリティーであり、非常に肩身の狭い思いをしているわけですけれども、欧米ではむしろ立場が逆転しておりまして、私のような犯罪機会論の立場がマジョリティーであります。
 そこで、具体的にどうすれば犯罪の機会を減らせるかという方法ですけれども、レジュメの2番目に書いてある、「犯罪に強い3つの要素」を高めれば高めるほど犯罪の機会は減っていきます。
 まず、最終的な犯罪者のターゲット(標的)における犯罪に強い要素としては抵抗性、つまり、犯罪者から加わる力を押し返そうとすることがあります。この中身としては、ハードな恒常性とソフトな管理意識があります。非常に分かりやすい例で言いますと、例えば1ドア2ロックにしましょうということです。これは恒常性ということです。ところが、幾ら自分の家を1ドア2ロックにしても、「ごみ捨てしている間は扉を開けっ放していいや」なんていうことになってくると、すぐに侵入されてしまうことになりますので、管理意識も必要であるということになります。この標的の抵抗性については、日本でもかなり行われてきておりました。
 しかし、次に挙げる、「場所(地域)についての犯罪に強い要素を高める試み」というのは、本当にここ1〜2年で始まったばかりのことであります。それが日本では安心・安全まちづくりと言われているような領域であります。
 場所(地域)についての犯罪に強い要素を高める試みとして、1つは領域性があります。そもそも犯罪者をそこに入れずに、犯罪者の力が及ばない範囲を明確にして、犯罪者をその地域・場所には近寄らせないというのが、この領域性であります。その中身は、まず区画性が重要です。つまり、ハードとしてきちんと区切られ、境界がはっきりしていることです。また同時に、ソフトの要素として縄張意識、つまり、侵入は許さないというふうに思うことが大切です。
 場所(地域)についての犯罪に強い要素を高めるための試みのもう一つは監視性です。これは犯罪者を自分たちの地域の領域に入れたとしても、その犯罪者の行動をきちんとフォローできるということであります。フォローできていれば、そう簡単には犯罪者は犯罪の実行に着手しませんので、監視性も非常に大事であります。その中身は、ハードな要素としてまず死角がないこと、見通しのきかない場所がないことです。しかし、幾ら見通しのきかない場所がなくても、そこの地域の住民が、その地域で起こる事象について、自分たちの問題であるというふうに考えていなければ見逃してしまいます。幾ら物理的には見られる状況であっても、見ようとしなければ見落としてしまいます。つまり、目が節穴ということですから、やはりそこには当事者意識も必要であるということであります。
 例えば今、日本ではあちこちで監視カメラが導入されています。イギリスの調査などによりますと、監視カメラをつけた直後は犯罪が激減しますけれども、住民が「これで大丈夫だ」ということで、逆に地域のきずなを弱めてしまいがちです。つまり、縄張り意識とか当事者意識を低下させてしまった地域では、一たん下がった犯罪発生率もじわじわと上昇してきて、やがてはかつての水準に戻り、さらにもっと悪化してしまうということです。日本人には、物理的なところにすぐに頼ってしまうところがあるわけですけども、こういう調査結果もあるぐらいですので、やはり、最後の勝負は、先ほど申し上げましたような縄張意識と当事者意識のソフトな面であるということが言えると思います。
 実は酒屋さんのような小売店舗というのは、この縄張意識と当事者意識の塊みたいなものでして、酒屋さんが存在すること自体が、既に縄張意識と当事者意識のメッセージになっております。したがって、犯罪が発生しているところの場所を見てみると、例えば100メートル以内にそういう小売店舗が全くないというような場所で頻発していることが分かります。どんな閑静な住宅街でも、そこに昔ながらの小売店が1つ、2つあるというところでは、なかなか犯罪は起きておりません。犯罪者は、まず最初に、戦略的に場所を選びます。地域を選びます。その次に、特定の家とか特定の人を戦術的に選びますので、まず地域としては犯罪者に選ばせないようにすることが必要なんです。犯罪者がまず下見に来て地域を回っているときに、昼間あいている店があって、そこの店員さんが例えば店の前の掃除をしているという風景を目にしたら、犯罪者はもう二度とその地域にはやってきません。そういうことが非常に大切になってくるわけであります。それが現代的なコンビニと伝統的な小売店舗の大きな違いであります。
 今お話しした抵抗性、領域性、監視性の中のハードなところに注目するということが、表の下に書いてある防犯環境設計と呼ばれる手法であります。都市計画等において、物理的に、区画性や無死角を高めていくというような考え方でございます。
 それからソフト面、縄張意識とか当事者意識を重視するのが「ブロークン・ウィンドウズ理論(割れ窓理論)」と呼ばれるものです。欧米の犯罪対策は、今、この防犯環境設計と割れ窓理論を両輪として、それによって犯罪の機会を減らしているのであります。
 ちょっと具体的に見ていきますと、下にあります写真を御覧になっていただきたいと思います。まずAの写真、これはイギリスの公園です。公園が一番分かりやすいので例示させていただきますけれども、この公園は防犯環境設計に基づいて造られた公園であります。どの辺で区画性と無死角性を高めているか、お分かりになりますでしょうか。まず、公園の周りを鉄の柵で囲んでおります。日本の公園では余りこういうことはありませんけれども、皆さんご存じのとおり、イギリスにしろアメリカにしろ、公園は大体こういう鉄の柵です。これによって、まず区画性を高め、出入り口を限定しています。しかも鉄の柵ですから、道路から中が丸見えです。監視性も高めているわけですね。日本のようにどこからでも入れる公園、あるいは生け垣で囲ってしまって道路から中が全く見えない公園では、区画性も低いし無死角性も低いということであります。これを御覧になって分かるように、この公園には、全く障害物がありません。しかも、左側にあるのはサッカーとかバスケットをする領域ですけれども、ここでわざと青少年を遊ばせて、右側にある幼児向けの滑り台とかブランコのある領域に対して自然な視線が注がれるように工夫しています。それから、右側に家がありますけども、これはわざと窓から公園が見えるようにして、窓から自然な視線が注がれるようにしております。さらに、ここには落書きができるようなものは一切置いてありません。これは上の方の抵抗性という領域に入りますけれども、落書きが次の非行・犯罪の呼び水になるというような考え方が強いので、そもそも日本のようにコンクリートの壁とかあるいは木のベンチとかいうものは、一切置いてありません。そうやって、抵抗性も高めるというふうな工夫をされた公園であります。
 Bの写真は、アメリカのニューヨークにありますブライアントパークという公園であります。ここはかつて麻薬売買のメッカと言われていた非常に危ない公園ですけれども、今では非常に安全になっています。その写真にあるのはトイレなんですけれども、皆さんご存知のとおり、アメリカの公園にはほとんどトイレがありません。しかし、ここにはトイレがあります。ただし、その目の前に、このように必ず清掃員が座っております。この清掃員は、ニューヨーク市の職員ではなくて、このブライアントパークを管理しているNPOの方です。BID、ビジネス・インプルーブメント・ディストリクストが雇用した清掃員であります。この人たちが必ずいます。つまり、この清掃員は単なるごみ拾いではなくて、この公園を管理している人たち、あるいは利用する住民たちの縄張意識と当事者意識のメッセージになっているわけです。このようにして、このブライアントパークは非常に安全になりました。それから、先ほど商店街に関する御報告の中にありましたように、ビジュアル的にきれいにするという要素が、このブライアントパークにもあります。きれいなところでは犯罪は起きないという考えから、とにかくきれいにする、ごみが落ちてないようにするというような割れ窓理論の実践が行われております。こういった形で、「この公園は管理されているんだ。人の目が行き届いているんだ。だから、ここでもし犯罪のような動きがあればすぐに見つかるぞ。すぐに見つかったら、すぐに通報するぞ。すぐに制止されるぞ」というふうに犯罪者に思わせることになっております。
 それから、お酒の話の方に移りたいんですけれども、欧米のお酒絡みの犯罪を防ぐ方法としては、売らないとか、あるいは買わせないということよりも、そこで飲ませないという場所の管理が中心になっています。その非常に分かりやすい例が、このCの掲示であります。これは公園の中ですけれども、公園の中ではお酒は飲めないというような掲示が出ております。これはいろんなところで出ており、後で触れますが、イギリスではそういう法律までつくっております。
 同時に、地域の縄張意識と当事者意識を強めるというのは地域に尽きるわけなので、いろんな専門機関が地域へおりてきております。例えばDの写真、これは地域での警察のセンターであります。今、ここに立っておられる方は警察の職員ですけれども、たまたま私がここに行ったときには、飲酒の害についての授業をやっていました。ここに地域の子供たちを集めて、警察の職員がお酒を飲むとどういう害があるかということを指導しています。これは警察署ではありません。いろんな地域に拠点を持っているコミュニティセンターとしての場所であります。
 それからEの写真についてですが、アメリカでは裁判所も地域におりてきました。コミュニティ裁判所という形で、まずニューヨークに出てきたんですけども、この写真にあるのがマンハッタンにある第1号コミュニティ裁判所です。今、アメリカにはかなりの数のコミュニティ裁判所が設立されていますし、イギリスも、今年の秋からコミュニティ裁判所を設立するそうです。ここで行っていることは割れ窓理論の実践です。犯罪には至らないような行為、これをイギリスやアメリカではディスオーダー、つまり、秩序違反と呼んでいますけれども、お酒を飲むというのも、実はこのディスオーダーだというふうにここでは位置づけられています。したがって、このディスオーダーを管理して、ディスオーダーの段階できめ細かく対応することが犯罪を防ぐことになります。これが犯罪の機会論です。かつての犯罪の原因論は犯罪者に注目していますから、大きな犯罪が起きたら警察、あるいは裁判所が動きますけれども、小さい犯罪はまだまだいいじゃないかという非常に受け身の態勢だったわけです。しかし、犯罪の機会論は、とにかく犯罪者に機会を与えないということですから、もう早期発見・早期介入ということで、犯罪というような大きなところに至る前に、ディスオーダー(秩序違反)の段階でとことん介入していくというのがアメリカやイギリスの方針であります。裁判所も同じように、コミュニティ裁判所で扱うのは、大きな犯罪ではなく小さな秩序違反です。お酒を飲んだとか、ごみを捨てたとか、騒音をたてたとか、そういうような小さいトラブルを扱っています。ここでは刑事事件とか民事事件とかいう区別は全くありません。1人の裁判官が、その地域の問題、ありとあらゆる問題を全部処理するんです。特に荒れた学校があるというようなときがあると、裁判官がその学校に行って、そこの子供たちにいろんな指導をするため、裁判官までもがどんどん、どんどんと地域に関わっていきます。これをアメリカやイギリスでは、アウトリーチというふうに呼んでいます。来るのを待つのではなく、アウトリーチという形で、みずからがその地域に赴くというような姿勢に変わってきております。もう一つ重要なのは、このコミュニティ裁判所の判決は、犯罪の原因論ではありませんので、刑務所に送るようなことはしておりません。何をやらせているかというと、1つにはコミュニティサービスです。例えばごみ拾いをさせるとか、壊れた老人ホームを修理するということを判決に基づいてやらせます。また同時に、犯罪者はそれぞれに特有の問題を抱えているので、例えばアルコール問題を抱えている犯罪者に対してはアルコールをやめさせるような、そういうプログラムに強制的に参加させます。それが判決であります。それでも、またさらにそういう同じような犯罪を繰り返しているときに、日本でいう普通の通常裁判所に初めて送られ、そこで刑務所送りになるというふうなステップをとっております。
 それから、先ほど少し商店街の話が出ましたのでつけ加えますと、このニューヨークでは、BIDが割れ窓理論を実践しております。例えばマンハッタンのタイムズスクエアにあるBIDは、50人の警備員と50人の清掃員を雇っております。彼らがやっている商店街振興の事業はそれだけです。安全だけです。その商店街が安全でさえあれば人が集まってくる、お客さんも来る、お店も開かれるという方針で、タイムズスクエアの犯罪を半減させました。その結果、かつて危なかったときには、マンハッタンのタイムズスクエアに住んでいた住民がどんどんタイムズスクエアを離れていったわけですけど、今は逆に逆流しておりまして、どんどんタイムズスクエアに住む人たちが増えてきているということであります。こういったことから、商店街は、まず、安全にするというところから出発しないとだめだということになっているようであります。
 最後に、イギリスの法律を少し御紹介させていただきます。下にある3つの法律、これはイギリスのお酒関連の犯罪を防ぐ重要な3つの法律と言っていいと思います。向こうでは、アルコール・リレイテッド・ディスオーダーというのがキーワードになっていまして、ここでもディスオーダーが出てくるわけですけれども、アルコール関連の秩序違反にどう対応していくかというのがイギリスの関心であります。
 1998年に今の労働党政権ができて、初めてつくった法律が、このクライム・アンド・ディスオーダー・アクトということです。イギリスでは、ディスオーダーがとうとう法律の名前にまでなってしまいました。単なる犯罪法ではないんです。犯罪と秩序違反法ということで、ディスオーダーを重視するというあらわれが出ていると思います。今、この法律がイギリスの犯罪対策の中心になっています。毎年毎年いろんな法律ができていますけれども、すべてのルーツは、このクライム・アンド・ディスオーダー・アクトの1998年の法律にあります。
 お酒絡みのアルコールのリレイテッド・ディスオーダーについては、2001年のクリミナル・ジャスティス・アンド・ポリス・アクトで幾つか規定があります。
 例えば、ここの法律では、お酒を飲んではいけない地域を地方自治体が指定できます。例えば公園とかです。そこでお酒を飲んでいたら、それだけで犯罪になってしまうというものであります。あるいは、特定のお店でフーリガン等の問題がある場合には、警察官が裁判所の令状なしに24時間そこを閉鎖できるという権限が警察に与えられました。それから、イギリスでは未成年にはお酒を売ってはいけないわけですけども、64年のライセンシング・アクトのときには、お酒を売って捕まった業者が「いや、未成年だと知らなかった」と言うと処罰されなかったわけですけれども、98年の法律によって、挙証責任が少し転換されたような形になり、知らなかったでは済まされません。確認のステップをきちんと踏んだということをその業者が証明しなければ、未成年に売った場合には処罰されます。そういう厳しいことになっています。そして、かつてはライセンスが与えられていた業者が酔っぱらいに対してお酒を売ったら処罰されていましたけれども、この法律によって、酔っぱらいに対してお酒を売った場合にはその店で働いている全ての従業員が処罰されるということになりました。
 それから、最近できたライセンシング・アクトの最新版、2003年の法律ですけれども、この法律では、まず法律の目的を明示しており、何でライセンスがあるのかということに関して、犯罪とディスオーダーを防ぐためというふうに指摘しています。そのためにライセンスがあるんだというような位置づけをしております。
 以前の法律でも没収規定があったんですけれども、飲んではいけないところで飲んでいた場合にお酒を没収する場合には、封をあけたものしか没収できなかったわけです。この2003年の法律では、封を閉めたままでも、要するにお酒のボトルとか瓶とかを、お酒を飲んではいけない場所で持ち歩いていたら、その段階で没収できるという権限を警察に与えました。それから、特定の列車でのお酒の販売、特定の駅でのお酒の販売を禁止する命令を裁判所が出せるということも、この法律によって認められています。
 それから、かつては営業時間とか営業日というのも定まっていたんですけれども、この法律ではそういうものを全部排除しました。申請者が、うちの店は何時から何時まで営業したい、何曜日に営業したいという申請を提出し、それを個別に許可するという形に変わってきています。
 そういうふうに、欧米では具体的なお酒の売買のやりとりよりも、むしろ、特定の場所で、つまり犯罪を起こしてはいけないようなところ、あるいは秩序違反を起こしてはいけないようなところでの違反を厳しく罰するということになってきました。そして、そういったところでは厳しく処罰するが、それ以外では自由にやってよいというようなバランスをとっているというのが、欧米の犯罪あるいはアルコール関連のディスオーダーに対する対策の現状であります。
 非常に早口で申しわけありませんけども、以上で終わりにさせていただきます。

←前にページへ

次ページへつづく→