蒸留酒

令和6年3月13日指定

1 酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性に関する事項

(1)酒類の特性について

 伊豆諸島で製造される東京島酒には、「麦こうじを使用した芋焼酎」、「麦こうじを使用した麦焼酎」及び「麦こうじを使用した芋・麦のブレンド焼酎」の3つのタイプがある。
 いずれも麦をこうじ原料とした「麦こうじ」を使用することを特徴とし、年間を通じて温暖多湿な気候のもと、緑豊かな環境でやわらかな水を用いて製造される本格焼酎である。共通の特性として、麦の香ばしさや草木のような清涼感のある香りを有し、やわらかで軽快な後口の中にコクと旨味が静かに感じられる。
 さらにこれらに加えて、タイプごとにそれぞれ次の特性を有する。
 「麦こうじを使用した芋焼酎」は、麦こうじによる香ばしさと芋の甘い香りが調和した、焼き芋のような香りを有する。東京島酒の芋焼酎には、紅系芋をはじめとして、白系、紫系など様々な品種が使用されており、芋の品種に応じて、小豆、柑橘、蜂蜜、ヨーグルトを想起させる香りが感じられるものもある。
 「麦こうじを使用した麦焼酎」は、麦の香ばしさが特に強く感じられるもののほか、甘い花のような香りや乳製品のようなやわらかい香りがほのかに感じられるものもある。
 「麦こうじを使用した芋・麦のブレンド焼酎」は、上記2つのタイプを原酒としたブレンド又は発酵工程における両原料のブレンドにより製造され、配合比率に応じたそれぞれの特性を併せ持っている。
 また、これらの一般的な特性のほか、各製造場の個性として、チョコレート、ナッツ、栗の香りが感じられるものもある。
 東京島酒は、伊豆諸島近海のタカベ等の旨味豊富で脂の乗った魚の刺身や、伝統食である「くさや」のほか、明日葉を使用した料理などとともに親しまれてきた。魚の刺身と共に味わうと、脂の味に東京島酒のコクと旨味がバランスよく重ねられるとともに、後口は適度に脂が洗い流され、程よい余韻を感じることができる。また、東京島酒の香ばしい香りは「くさや」や明日葉の天ぷらなどの特徴的な強い香りと調和し、料理の味をより豊かに感じさせるとともに、蒸留酒ならではの高いアルコール分がこれらの強い香りを速やかに打ち消し、後口に残さない。このように、東京島酒は、料理の調和とリフレッシュ効果を併せ持ち、食中酒にも適している。

(2)酒類の特性が酒類の産地に主として帰せられることについて

イ 自然的要因
 伊豆諸島は、首都東京が面する東京湾から南方約120kmから650kmに及ぶ有人の大島おおしま 利島としま 新島にいじま 式根島しきねじま 神津島こうづしま 三宅島みやけじま 御蔵島みくらじま 八丈島はちじょうじま 青ヶ島あおがしま 9島と、その他の孤島及び属島により成り立っており、近海を暖流(黒潮)が流れ、年間降水量が平均約3,000mmと多い、温暖多湿の海洋性気候である。特に芋の収穫後の秋から冬にかけての焼酎の製造期においても比較的温暖であることから、もろみの発酵が旺盛に進むなど、焼酎製造が定着しやすい環境であった。こうした気候の下には緑豊かな自然が広がり、それらが擁する微生物の多様性と各製造場の製法の特徴が組み合わさることにより、製品の香味に様々な個性がもたらされている。さらにこの温暖な気候は、貯蔵期において原酒への油分の溶け込みを促し、製品にコクと旨味を与えている。
 製造に用いられる水については、各島とも小面積の火山島であり集水区域が狭いことから、いずれも小規模な河川や地下水を水源としている。これに加え年間降水量が多いことから、島内で得られる水の多くは、地質由来のミネラル分の溶け込みが少ない軟水である。これが仕込み水のみならず、原酒の割水にも使用されることにより、東京島酒のやわらかで優しい口当たりが生まれている。
 なお、火山島という島々の成り立ちから、伊豆諸島には水田に適した土壌が 少なく、穀類としては伝統的に麦や粟などが栽培されてきた。このような地質的特徴が、麦こうじを軸とする東京島酒の特性形成の遠因であったといえる。

ロ 人的要因
 伊豆諸島における焼酎製造の始まりは、江戸時代に遡る。当時の伊豆諸島は「島流し(流罪)」の移送先であったが、政治・思想犯とされた者など、流人の中には比較的高度な教養を持つ知識人や文化人も少なくなかった。嘉永6年(1853年)に密貿易の罪で八丈島に流罪となった薩摩国阿久根出身の商人、丹宗庄右衛門もその一人であり、文献「八丈実記」によると、経由地である三宅島と最終移送先の八丈島において、故郷の知見に基づき、芋を主原料とする焼酎造りの製法を島民に伝授したとされている。そして当時、伊豆諸島において救荒作物として芋の栽培が広まりつつあった偶然も重なり、この焼酎の製法は伊豆諸島の他の島々に伝播していったと考えられる。
 東京島酒の特徴である「麦こうじ」を使用した製法が確立した時期は明らかではない。しかしながら、文献「八丈実記」に、焼酎製造がもたらした成果として「米穀一粒ノ費(ついやし)ナク(中略)農業家作ニ大益ヲ得タリ」という記述があることや、土壌の性質から稲作が行われた形跡はほとんどなく、穀物としては麦、粟が栽培されていたとされていることから、丹宗庄右衛門が焼酎の製法を伝えた当時から、麦をこうじ原料としていたことが窺える。なお近代の調査において、遅くとも明治後期までには麦こうじの製法が確立していたことが確認されている。
 以上が、東京島酒の第一のタイプである「麦こうじを使用した芋焼酎」が誕生した歴史的経緯とされている。
 島々で焼酎製造が盛んに行われるようになった一方で、昭和初期頃から食品の輸送・流通事情が改善されたことにより、島内におけるサツマイモの栽培作物としての需要は低下し、利益率の良い観葉植物へと転作が進んでいった。さらに昭和50年の台風による芋畑の壊滅的な被害もあり芋の供給が激減したことから、第一のタイプである「麦こうじを使用した芋焼酎」の製造は一時的に縮小された。こうした状況を受けて、焼酎の主原料は、従来の島内産の芋から、輸送に優れた麦を島外から仕入れる形へと切り替えが進んでいった。以上の経緯により、東京島酒の第二のタイプである「麦こうじを使用した麦焼酎」が誕生し、芋焼酎とは異なる風味が島民の支持を受け、定着していった。
 さらに、これら2つのタイプ両方を製造する製造場においては、両者の特徴を活かした第三のタイプとして「麦こうじを使用した芋・麦のブレンド焼酎」も開発された。
 また、平成中期には、第三次焼酎ブームにおいて芋焼酎が注目を集めたことをきっかけとして、島内での栽培の再開や島外からの芋の購入など原料調達ルートの開発が進み、第一のタイプである「麦こうじを使用した芋焼酎」が再び盛んに製造されるようになった。このような変遷の中にあっても、原料芋としては一貫して紅系芋等の食用芋が中心に用いられており、それぞれの品種特性が織りなす香味によって、東京島酒の特性が形成されているといえる。
 また、産地の焼酎製造者は、伝統的な常圧蒸留法に加え、減圧蒸留法も取り入れるなど、新たな技術の導入にも取り組んできた。常圧蒸留法によるものは高温での蒸留に由来する「麦の香ばしさ」がより強く感じられ、減圧蒸留法によるものはすっきりとした口当たりを有している。
 以上の歴史を持つ東京島酒は、平成中期の第三次焼酎ブーム到来までは、大部分が島内においてのみ流通・消費されるものであった。すなわち東京島酒は、丹宗庄右衛門が技術を伝えてから平成中期までの150年間、伊豆諸島の料理や島民の営みと強く結びつき造り継がれてきた、伊豆諸島の食文化を構成する重要な要素であり、またこのような歴史的、文化的背景が、東京島酒の特性形成に寄与してきたといえる。

2 酒類の原料及び製法に関する事項

 地理的表示「東京島酒」を使用するためには、次の事項を満たしている必要がある。

(1)原料

イ 芋類に国内で収穫されたさつまいものみを用いたものであること。

ロ こうじに麦のみを用いたものであること。

ハ 水に伊豆諸島の島内で採水した水のみを用いたものであること。

(2)製法

イ 伊豆諸島の島内で発酵、蒸留及び貯蔵が行われていること。

ロ 原酒及び製品の貯蔵は常温で行うこと。

ハ 麦又は芋類、こうじ及び水を原料として発酵させたもろみを、単式蒸留機をもって蒸留したもの及びそれらを混和したものであること。

ニ 消費者に引き渡すことを予定した容器に伊豆諸島の島内で詰めること。

3 酒類の特性を維持するための管理に関する事項

 地理的表示「東京島酒」を使用するためには、当該使用する酒類を酒類の製造場(酒税法第28条第6項又は第28条の3第4項の規定により酒類の製造免許を受けた製造場とみなされた場所を含む。)から移出(酒税法第28条第1項の規定の適用を受けるものを除く。)するまでに、当該使用する酒類が「1 酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性に関する事項」及び「2 酒類の原料及び製法に関する事項」を満たしていることについて、次の団体(以下「管理機関」という。)により、当該管理機関が作成する業務実施要領に基づく確認を受ける必要がある。

管理機関の名称:GI東京島酒管理委員会
  代表者氏名:奥山 清満(八丈島酒造合名会社)
     住所:東京都八丈島八丈町三根1299番地 八丈興発株式会社内
   電話番号:04996-2-0555

4 酒類の品目に関する事項

単式蒸留焼酎