清酒

令和5年9月25日指定

1 酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性に関する事項

(1)酒類の特性について

 岩手の清酒は、県内各地に湧き出る名水と日本最大の杜氏集団である「南部杜氏なんぶとうじ」の技術に支えられた、口当たり柔らかで米由来の芳醇な旨味が引き出された清酒である。
 口に含むと、米由来の濃厚な旨味が穏やかに広がるとともに、青竹や新緑のような爽やかな香りが感じられる。
 純米吟醸酒や吟醸酒では、さらに青りんごや洋梨といった瑞々しい果実の香りが感じられる。
 口当たりの柔らかな岩手の清酒は、和洋問わず様々な料理の食材の味を引き立てるため、食中酒に適している。特に、岩手県の郷土料理である「ひっつみ」など、各々の具材の持ち味が出汁となり、それら具材にすべての旨味が良くしみ込んだ、素材の味が引き立つ温かい料理との相性が非常に良い。

(2)酒類の特性が酒類の産地に主として帰せられることについて

イ 自然的要因
 岩手県は、日本の東北地方(本州北部)の北東に位置し、太平洋に面する東側には、早池峰山はやちねさん薬師岳やくしだけなど石灰岩や花崗岩等が堆積する北上高地が南北へ穏やかに広がり、西側には、県内最高峰の標高約2,038mの岩手山をはじめ、八幡平はちまんたい、栗駒山など火山岩や凝灰岩等が堆積する奥羽山脈が南北に連なっている。これらの山々に降る雪や雨は、この地を流れる全長249キロメートルの北上川を形成するとともに、昭和の名水百選である「龍泉洞りゅうせんどう地底湖の水」のように、清らかで澄んだ豊富な伏流水や地下水を県内随所にもたらしている。
 また、この地域は、日本でも数少ない古生代こせいだい(約2億〜5億年前)の地層と新しい地層の堆積物が多岐に混ざり合っている点に特徴があり、湧き出る伏流水や地下水には、酵母の増殖や麹からの酵素の溶出を促進させるカルシウムやマグネシウムが豊富に含まれている。この地域で開発された「吟ぎんが」、「ゆい」などの酒造好適米しゅぞうこうてきまいの健全な栽培と、口当たりがやわらかで芳醇な旨味を有する岩手の清酒の酒質には、このミネラルに富んだ伏流水や地下水が欠かせない。
 岩手県は冬になると、内陸部や山間部の一部の地域で気温が氷点下20度以下まで冷え込むほど、寒冷な地域である。この厳しい寒さは、雑菌が繁殖しにくいだけでなく、清酒の製造工程における発酵の低温管理にも適しており、特に、低温で長期間の発酵が必要な吟醸酒ぎんじょうしゅ造りには良い環境である。
 他方で、この地域の厳しい寒さや、東北地方の太平洋側特有の「やませ」と呼ばれる春から夏にかけて吹く冷たく湿った北東風の影響で、かつては必ずしも米作の好適地とは言えない場所であった。しかしながら、この地域には、米作に向いたミネラル豊富な水があることに加え、防風林の造成や栽培技術の向上、耐冷性が強く心白しんぱく発現率の高い酒造好適米の開発など、岩手県の人々の長年にわたるたゆまぬ努力によって、現在では、この地域の風土に適合した良質な酒米の生産が行われている。

ロ 人的要因
 明治維新(1800年代後半)まで、この地域を治めていた南部なんぶ氏が、城下町を繁栄させるべく、他領から来た商人にも土地を与えて居住させるなど、商人の誘致に努めたことが、現在、この地域が誇る日本最大規模の杜氏集団である「南部杜氏」を生み出すきっかけとなったと言われている。
 延宝えんぽう6年(1678年)、近江国高島郡おうみのくにたかしまぐん(現在の滋賀県高島市)出身の商人である村井権兵衛むらいごんべえが、志和しわ(現在の岩手県紫波郡紫波町しわぐんしわちょう)で造り酒屋を営むにあたって、上方かみかた(現在の京都・大阪を中心とする地域)から酒造りの職人を連れてきたことにより、この地域において、現在の清酒の基礎となった「ざけ」の酒造りが始まった。
 この「澄み酒」造りのため、現在の岩手県盛岡市周辺の若者が雇用され、この中で優秀な者を技術見習者として上方へ奉公に出し、この地域の酒造りの責任者である「酒司さかじこ」として戻したことで、この地域の醸造技術が磨かれていった。
 また、この地域における「澄み酒」の浸透と消費の拡大により、造り酒屋からの委託により酒造りを行う「引酒屋ひきざかや」も誕生した。
 この「引酒屋」は、農家が副業として行っていたものであったため、酒の品質保持の観点から、委託元である造り酒屋の「酒司」が巡回指導を行っていた。この「酒司」の指導により、「引酒屋」である農家の人々にも上方の「澄み酒」の醸造技術が広まり、農家の子弟に技術が受け継がれ、磨かれていった。
 このようにして醸造技術を磨いていったこの地域の農家の人々は、農閑期に他の地域に出稼ぎに行き、その醸造技術の高さから「南部杜氏」と呼ばれて重宝され、結果として、岩手県のみならず全国各地に高い醸造技術を伝承することとなった。
 現在は、南部杜氏が中心となって組織した一般社団法人南部杜氏協会が、南部杜氏自醸清酒鑑評会じじょうせいしゅかんぴょうかいや夏季酒造講習会の開催などを通じて、歴史の中で培った南部杜氏の技術・技能を伝承し、口当たりがやわらかで芳醇な旨味を持つ岩手県の酒を次世代に受け継いでいる。
 また、時代のニーズに合わせた酒類の醸造技術の研究を行うなど、醸造技術の向上にも大きく寄与している。
 南部杜氏が、岩手県の清酒の酒質形成に深く関係していることは先述のとおりであるが、南部杜氏だけでなく、岩手県及び地域の人々の取組が原料の面で岩手県の清酒の特性の実現を強く支えている。
 具体的には、岩手県農業研究センターや岩手県工業技術センターが、長い年月をかけ、寒冷なこの地域でも栽培可能な岩手県産の酒造好適米(吟ぎんが・ぎんおとめ・結の香)、岩手県産の米に合い岩手県の清酒の特性を引き出すことに重点を置いた麹菌こうじきん黎明平泉れいめいひらいずみ紅椿べにつばき白椿しろつばき)や酵母(ジョバンニの調べ・ゆうこの想い等)を開発し、現在も研究が続けられている。
 世界にも広く知られているとおり、岩手県は、平成23年(2011年)3月、東日本大震災という未曽有みぞうの大災害に見舞われた地域の一つでもある。
 同年中、岩手県の酒蔵で構成される岩手県酒造組合と岩手県工業技術センターが中心となって、東日本大震災からの復興を願い、また、復興の大きな足掛かりとして、岩手県産の原料のみで醸した芳醇で口当たりのやわらかい清酒を「オールいわて清酒」と位置付け、岩手県ブランドのアピールとブランド化の推進を図っている。
 先述した岩手県独自の麹菌の中でも「黎明平泉」は、復興に向けた新たなスタートの象徴として、夜明けを迎えて一歩を踏み出すというこの地域一体の思いが託されている。
 以上のとおり、岩手県内の関係者が官民一体となり、伝統の継承と人材育成、醸造技術向上に取組を行うことにより、口当たりがやわらかで芳醇な旨味を有する岩手の清酒の酒質が形成されており、現在も官民一体となって更なる酒質の向上に努めている。

2 酒類の原料及び製法に関する事項

 地理的表示「岩手」を使用するためには、次の事項を満たしている必要がある。

(1)原料

イ 米及び米こうじは国内産米のみを用いたものであること。
 ただし、「オールいわて清酒」を表示する場合は、米及び米こうじが岩手県内で収穫した米、麹菌及び酵母は岩手県内で育種された菌株で、別途、業務実施要領に定めるものを用いたものであること。

ロ 水は岩手県内で採水した水のみを用いていること。

ハ 酒税法(昭和28年法律第6号)第3条第7号に規定する「清酒」の原料を用いていること。
 ただし、酒税法施行令(昭和37年政令第97号)第2条に規定する清酒の原料のうち、アルコール(注)以外は用いることができないものとする。

(注) 原料中、アルコールの重量が米(米こうじを含む。)の重量の100分の50を超えない量で用いる場合に限る。

(2)製法

イ 酒税法第3条第7号に規定する「清酒」の製造方法により、岩手県内において製造すること。
 ただし、「オールいわて清酒」を表示する場合は、清酒の製法品質表示基準(平成元年11月国税庁告示第8号)第1項の表の右欄に掲げる製法品質の要件に該当するものであること(白米、米こうじ及び水のみを原料として製造したものに限る。)。

ロ 製造工程上、貯蔵する場合は岩手県内で行うこと。

ハ 岩手県内において消費者に引き渡すことを予定した容器に詰めること。

3 酒類の特性を維持するための管理に関する事項

(1) 地理的表示「岩手」を使用するためには、当該使用する酒類を酒類の製造場(酒税法第28条第6項又は第28条の3第4項の規定により酒類の製造免許を受けた製造場とみなされた場所を含む。)から移出(酒税法第28条第1項の規定の適用を受けるものを除く。)するまでに、当該使用する酒類が「1 酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性に関する事項」及び「2 酒類の原料及び製法に関する事項」を満たしていることについて、次の団体(以下「管理機関」という。)により、当該管理機関が作成する業務実施要領に基づく確認を受ける必要がある。

管理機関の名称:地理的表示岩手管理機関(岩手県酒造協同組合内)
     住所:岩手県盛岡市馬場町4番19号
   電話番号:019-623-6121
ウェブサイト:https://iwatesake.jp

(2) (1)による確認を受けた酒類であって、酒類の容器又は包装に地理的表示「岩手」の表示と併せて「オールいわて清酒」を表示する場合は、業務実施要領に基づき表示することとする。

4 酒類の品目に関する事項

 清酒