信濃大町の清酒は、雑味が少なく濃厚な味わい、きれいで穏やかな香りの調和といった地理的表示「長野」(清酒)の特性を有しつつ、米由来の特徴的な香味が際立った酒である。
色調は、無色又は淡いゴールドのような透明感のある色を基調とし、香りは、黄色いリンゴ・バナナ・メロン・洋梨といった熟した黄色い果物を思わせる香りの中に、炊きたてのご飯・つきたての餅・上新粉のような米由来のふくよかな香りがしっかりと感じられる。
口に含むと瞬時に、米に由来する明瞭で濃厚なコクを感じた後、まろやかな旨味や甘みが広がり、旨味・甘み・苦味のバランスが取れた余韻がじっくりと感じられる。
また、アルコールの切れが良いだけでなく、コクを構成する苦味をもつことから、主に苦味・酸味・旨味を持つ食材との相性が良く、食中酒に適した酒質である。
信濃大町の清酒は、長野県大町市内及び近郊で多く採取できるタラの芽・コシアブラなどの山菜やクレソン等の、旨味を伴った苦味を持つ香味野菜などとの相性がとても良い。また、この産地の特産品である畜産品(豚肉)の動物性たんぱく質由来の旨味を一層引き立てる。
イ 自然的要因
信濃大町の酒類の特性は、次の(イ)から(ハ)までの恵まれた環境により形成されてきた。
(イ) 地形・米作環境
信濃大町地域(南に隣接する長野県
この地域の酒造り及び原料となる米の生産において最も重要な特徴は、北アルプスからの雪解け水を中心として豊富な水量を確保できることである。北アルプスからの雪解け水は、表流水として
こうした水は、清冽ではあるが水温が低いため、一般的には水稲の生育には適していない。しかし、青木湖等の湧水は湖に一旦留まることで太陽熱によって温められ、農具川となって流れ出る頃には水稲の生育に非常に適した温度になる。こうした自然環境により、信濃大町地域は、弥生時代から米作の適地として繁栄してきた。
他方、篭川・鹿島川水系に流れ込む水は水温が低く、以前は米作には用いられていなかったが、戦後、この地域西部で水田開発が進む中で、篭川・鹿島川水系から「ぬるめ」と呼ばれる幅約16〜18m、水深約10cmの水路に引水することにより、水温を上げてから水田に供給することが可能となり、さらに水田が拡大してきた。
また、こうした低水温の豊富な水は、酷暑においても水温が安定していることから、毎年の気候変化に関わらず、水田の温度を一定に保ち、高温による稲の発育障害を防止するとともに、健全な根張りを助けるなど、この地域の米作に欠かせないものであり、米由来の旨味をしっかり感じられる酒質の実現の一因となっている。
(ロ) 醸造用水
醸造用水についても、北アルプスをはじめとする山々の雪解け水を使用している。醸造には低温で清冽な水が適していることから、従来から、大町市北部にある標高約800mの
また、
これらの醸造用水が、この地域の米由来の特徴的な香味が際立った酒質、旨味・ 甘み・苦味のバランスの実現を支えている。
(ハ) 気候
信濃大町地域は、昼夜の寒暖の差が大きく、8月の日中の平均最高気温は28℃ 前後(平年)である一方で、平均最低気温は17〜18℃(平年)と1日のうちに10℃近く変化する。この寒暖差により、豊満で
また、1月から2月にかけて平均気温が0℃を下回ることから、雑菌が生育しにくく、醸造工程における発酵の低温管理に適している。
ロ 人的要因
(イ) 酒造り
この地域には、古くから新潟県
また、この酒造りに携わっていたとされるのが、同じ千国街道が通じている大町市の北方、新潟県との県境に近い現在の長野県北安曇郡小谷村の者(後に、「
この地域の酒造りは、高地であることも含めて、地域の特性を良く理解したこれらの人々に担われていたため、作業を効率化、省力化することなく、実直、丁寧な手作業による少量の酒造りが長年続けられてきた。
現在でも、地域内の酒蔵は、
(ロ) 酒米の生産
現代におけるこの地域の酒造りの特徴として、地域の酒蔵全てが、「地域の水、地域の米」を生かした酒造りを実現するために、農家との緊密な協調・協力関係を築き上げ、水田まで特定できる徹底した契約栽培を取り入れていることが挙げられる。
具体的には、良質な酒米確保のために、長野県北アルプス農業農村支援センター及び
地理的表示「信濃大町」を使用するためには、次の事項を満たしている必要がある。
イ 米及び米こうじに、長野県大町市及び隣接する長野県北安曇郡松川村のうち、業務実施要領で特定した水田で収穫された玄米(注1)の精米(注2)のみを用いていること。
(注1)農産物検査法(昭和26年法律第144号)により3等以上に格付けされたものに限る。
(注2)長野県内で玄米のぬか層の全部又は一部を取り除いたものに限る。
ロ 使用される米及び米こうじは次の品種のみを用いていること。
(イ)
(ロ) ひとごこち
(ハ)
(ニ)
ハ 水に産地の範囲内で採取した水のみを用いていること。
ニ 酒税法(昭和28年法律第6号)第3条第7号に規定する「清酒」の原料を用いていること。
ただし、酒税法施行令(昭和37年政令第97号)第2条に規定する清酒の原料のうち、アルコール(注3)以外は用いることができないものとする。
(注3)原料中、アルコールの重量が米(こうじ米を含む。)の重量の100分の10 を超えない量で用いる場合に限る。
イ 酒税法第3条第7号イ又はロに規定する清酒の製造方法により、産地の範囲内において製造すること。
ロ 製造工程上、貯蔵する場合は産地の範囲内で行うこと。
ハ 米及び米こうじに用いる米は全てこしきで蒸したものを使用すること。
ニ 米こうじは、産地の範囲内に設置されたこうじ室(注4)で
(注4)壁、床及び屋根により他の居室と隔離されており、製麹作業のみに用いる 居室をいう。
(注5)「盛り」以降の工程を1つあたりの重量が100kg以下の麹床(こうじどこ)、
ホ 消費者に引き渡すことを予定した容器に産地の範囲内で詰めること。
地理的表示「信濃大町」を使用するためには、当該使用する酒類の製造場(酒税法第28条第6項又は第28条の3第4項の規定により酒類の製造免許を受けた製造場とみなされた場所を含む。)から移出(酒税法第28条第1項の規定を受けるものを除く。)するまでに、次のイの確認を受けた後、ロの確認を受ける必要がある。
イ 長野県原産地呼称管理委員会による確認
地理的表示「信濃大町」を使用しようとする酒類が、地理的表示「長野」(清酒)の生産基準を満たしていることについて、長野県原産地呼称管理委員会が作成する業務実施要領に基づく確認を受けること。
ロ GI信濃大町管理協議会による確認
地理的表示「信濃大町」を使用しようとする酒類が、地理的表示「信濃大町」の生産基準「1 酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性に関する事項」及び「2 酒類の原料及び製法に関する事項」を満たしていることについて、GI信濃大町管理協議会が作成する業務実施要領に基づく確認を受けること。
地理的表示「信濃大町」の使用と併せて「醸造年度(BY)」を表示する場合は、業務実施要領に基づき表示することとする。
清酒