イ 官能的要素
長野ワインは、総じて、ぶどう品種ごとの本質的な香味の特性がはっきりと現れたワインである。
赤ワインは、総じて濃い色調を有し、骨格のあるタンニンと適度な酸味を備えた凝縮感の高い味わいである。また、白ワインは、ぶどう品種の持つ特徴香がよく表現されており、フレッシュで生き生きとした酸を備えている。
また、長野ワインの中でも「プレミアム」と称するワインは、ぶどう品種ごとの本質的な香味の特性を活かした上で、華やかで気品のある香りと厚みのある果実味が調和した味わいを有し、しっかりとした余韻を感じることができる。
長野ワインの産地では、郷土料理である山賊焼きや信州そば並びに特産品である信州黄金シャモ、信州サーモン、ジビエや馬肉を用いた料理と合わせて好んで飲まれている。
ロ 化学的要素
長野ワインは、アルコール分、総亜硫酸値、揮発酸値及び総酸値等が次表の要件を満たすものをいう。
長野ワイン | |||
内 長野ワインプレミアム | |||
アルコール分 | |||
補糖しない場合 | 7.5%以上20%未満 | 8%以上20%未満 | |
補糖した場合 | 15%未満 | 15%未満 | |
総亜硫酸値 | 350mg/L以下 | 250mg/L以下※ | |
揮発酸値 | 1.2g/L以下 | 1.2g/L以下 | |
総酸値(酒石酸換算) | 4.5g/L以上 | 4.5g/L以上 | |
発泡性 | 有するものを含む | 有するものを含まない |
※「貴腐ワイン、氷結ワイン」については、350mg/L以下とする。
(注)「補糖」とは、酒税法第3条第13号ロ又はハに規定する製造方法により、糖類を加えることをいう。
イ 自然的要因
長野県は本州中央部に位置し、北西部には飛騨山脈(北アルプス)、南東部には赤石山脈(南アルプス)と、周囲を2,000mから3,000m級の高い山々に囲まれている。長野県の中央部にも木曽山脈(中央アルプス)があるなど、全域にわたり山岳が多くみられる急峻で複雑な地形である。総面積のほとんどが山地であり、その平均標高は1,000mを超えている。
これらの高い山々に降る雨や雪が、その急峻な地形と相まって、多数の河川を形成している。特に東北部に向かい流れる千曲川と犀川や、中央部に位置する諏訪湖を水源とし南流する天竜川では、河川に沿って盆地が形成されており、その盆地に沿って都市や農地が広がっている。
盆地周縁の扇状地は、浸透性の高い小石や砂混じりの土壌であり、水はけが良好である。また、高い山々に囲まれていることにより、梅雨や台風の影響を受けにくく、年間降水量は1,000mm程度と全国有数の少なさである。さらに、ぶどうの栽培期である4〜10月にかけての積算日照時間は1,200時間程度と全国の中でも晴れの日が多く、多湿や日照不足に起因する病害や生育不足が発生しにくい。
ぶどうの栽培地の多くは標高500m以上の高地にあることから、全般的に冷涼な気候であり、昼夜の寒暖差が大きい。アメリン&ウィンクラー(カリフォルニア大学デービス校)の分類によれば、長野県内のワインぶどう栽培地は、概ねリージョン1からリージョン3に分類され、比較的冷涼な気候を好む欧州系ぶどうの栽培に適している。
冷涼で昼夜の寒暖差が大きい気候条件のもと、白ワイン用ぶどうは適度な有機酸を含有しつつも糖度が高く、また赤ワイン用ぶどうにおいてはアントシアニン含量が豊富で高品質なぶどうが生産され、その生産量は日本有数である。
ロ 人的要因
長野県でのぶどう栽培の歴史は古く、江戸時代には山辺村(現在の松本市山辺地区)で甲州ぶどうが栽培されていたようである。
明治時代には、政府の殖産興業政策を受け、長野県での果実栽培とぶどう酒醸造が奨励され、1879(明治12)年には、山辺村の豊島新三郎氏がアメリカ系品種の栽培を成功させたとされている。また、塩尻・桔梗ヶ原(現在の塩尻市桔梗ヶ原地域。以下「桔梗ヶ原」という。)では、1869(明治2)年から開拓が始まると、豊島新三郎氏の養子である豊島理喜治氏が桔梗ヶ原に入植し、1890(明治23)年から本格的にコンコード品種を主体とするぶどう栽培を開始した。
なお、桔梗ヶ原では、林五一氏が1951(昭和26)年からメルロの栽培を始め、創意工夫をもって根付かせていくと、1989(平成元)年に国際的に権威のあるワインコンクールで当地のメルロを用いたワインが金賞を受賞したことにより、桔梗ヶ原はメルロの産地として有名になっている。
1970年代になると、上田市塩田・小諸市一帯や小布施町・高山村・須坂市一帯で、大手ワイナリーとの契約ぶどう栽培による欧州系品種の栽培が始まるなど、長野県全域に醸造用ぶどうの栽培が広がっていった。
2003(平成15)年には、長野県東部町(現東御市)でぶどう栽培からワイン醸造まで一貫して行う小規模なワイナリー(以下「ブティックワイナリー」という。)が開設されると、2015(平成27)年に、民間企業によるワイナリーの立上げ支援として千曲川ワインアカデミーが開講されたこともあって、長野県内各地でブティックワイナリーが相次いで立ち上げられ、長野県内でのワイン醸造が盛んになっていった。
また、長野県庁は2002(平成14)年に「長野県原産地呼称管理制度(Nagano Appellation Control)」を創設した。この制度は、農産物の原料や栽培方法、飼育方法、味覚による区別化を行うことにより、生産者が「長野県で生産・製造されたもの」を自信と責任を持って消費者にアピールしていくとともに、生産意欲の醸成を図ることを目的としたものであり、長野県産農産物のブランド化を目指したものである。制度創設当初よりワインの認定も行い、「長野ワインプレミアム」に繋がる長野らしいワインの品質について明確化することに貢献してきた。
さらに、2013(平成25)年には、長野県内のワイン産地を、桔梗ヶ原ワインバレー・千曲川ワインバレー・日本アルプスワインバレー・天竜川ワインバレーに4区分し、長野県全体のワイン産業とブランド化を推進する取組である「信州ワインバレー構想」を策定するなど、産官学協働でワイン振興を図っている。
このように、長野のワイン造りはぶどう栽培と一体的に発展してきたものであり、それぞれの気候風土に適合した品種の栽培方法や品種に適した醸造方法等も盛んに研究されるなど、ぶどう品種ごとの本質的な香味の特性がはっきりと現れるという酒類の特性が形成される要因となっている。
地理的表示「長野」を使用するためには、次の事項を満たしている必要がある。
イ 果実に長野県で収穫されたぶどうであって、次に掲げる品種のみを用いたものであること。
ロ 原料として水を使用していないこと。
ハ 原料の果実の果汁糖度が、次表の要件を満たすぶどうを用いること。
ただし、ぶどう栽培期間の天候が不順であった場合には、当該ぶどう栽培期間を含む暦年内に収穫されたぶどうに限り、それぞれの必要果汁糖度を1.0%下げることができる。
ぶどう品種 | 長野ワイン | |||
細分 | 内 長野ワインプレミアム | 内 発泡性を有するもの | ||
ヴィニフェラ系品種 | A類 | 17.0%以上 | 19.0%以上 | 15.0%以上 |
B類 | 18.0%以上 | |||
C類 | 17.0%以上 | |||
ラブラスカ系品種 | A類 | 17.0%以上 | 17.0%以上 | 15.0%以上 |
B類 | 15.0%以上 | 18.0%以上 | 12.0%以上 | |
C類 | 16.0%以上 | |||
日本系交配品種 | A類 | 17.0%以上 | 19.0%以上 | 15.0%以上 |
B類 | 18.0%以上 | |||
C類 | 17.0%以上 | |||
D類 | 16.0%以上 | 18.0%以上 | 13.0%以上 | |
E類 | 17.0%以上 | |||
F類 | 16.0%以上 | |||
G類 | 15.0%以上 | 16.0%以上 | 12.0%以上 |
ニ 酒税法第3条第13号に規定する「果実酒」の原料を用いたものであること。
ただし、同法第3条第13号ニに規定するブランデー、アルコール、スピリッツ、糖類又は香味料については、次表の要件を満たす場合に限り使用することができる。
長野ワイン | ||
内 長野ワインプレミアム | ||
ブランデー | 他の容器に移し替えることなく移出することを予定した容器内で発酵させたものに、発酵後、当該容器に加える場合に限り使用可能 | 使用不可 |
アルコール | 使用不可 | 使用不可 |
スピリッツ | 使用不可 | 使用不可 |
糖類 | 砂糖、ぶどう糖又は果糖に限る | 砂糖に限る |
香味料 | ぶどうの果汁又はぶどうの濃縮果汁(いずれも長野県で収穫されたぶどうのみを原料としたものに限る。)に限る | 原料の果実として使用したぶどうと同じ品種のぶどうであって、同一の暦年内に同一の地域(市区町村の範囲が同一であることをいう。)で収穫されたぶどうの果汁又はぶどうの濃縮果汁に限る |
イ 酒税法第3条第13号に規定する「果実酒」の製造方法により長野県内において製造されたものであり、「果実酒等の製法品質表示基準(平成27年10月国税庁告示第18号)」第1項第3号に規定する「日本ワイン」であること。
ロ 酒税法第3条第13号ロ又はハに規定する製造方法により、糖類を加える場合には、その加える糖類の重量が、次表の要件を満たすこと。
ぶどう品種 | 長野ワイン | ||
細分 | 内 長野ワインプレミアム | ||
ヴィニフェラ系品種 | A類 | 7g/100ml | 5g/100ml |
B類 | 6g/100ml | ||
C類 | 7g/100ml | ||
ラブラスカ系品種 | A類 | 7g/100ml | 7g/100ml |
B類 | 9g/100ml | 6g/100ml | |
C類 | 8g/100ml | ||
日本系交配品種 | A類 | 7g/100ml | 5g/100ml |
B類 | 6g/100ml | ||
C類 | 7g/100ml | ||
D類 | 8g/100ml | 6g/100ml | |
E類 | 7g/100ml | ||
F類 | 8g/100ml | ||
G類 | 9g/100ml | 8g/100ml |
ハ 酒税法第3条第13号ニに規定する製造方法により、糖類を加える場合には、次のいずれか少ない方の重量までに限る。
(イ) 果実に含まれる糖類の重量から、上記ロにより加えた糖類を差し引いた重量
(ロ) 加えようとする糖類の重量と加える前の酒類の重量の合計の100分の10
ニ 酒税法第3条第13号ニに規定する香味料を加える場合は、当該加える香味料に含有される糖類の重量が当該香味料を加えた後の果実酒の重量の100分の10を超えないこと。
ホ 補酸及び除酸剤の使用は、次表の要件を満たすこと
長野ワイン | |||
内 長野ワインプレミアム | |||
補酸 | 原料果汁の総酸値が7.5g/L以上である場合 | 不可 | 不可 |
原料果汁の総酸値が7.5g/L未満である場合 | 色調の安定化、亜硫酸調整等の品質保全の目的でPH調整を行う必要最小限の補酸として4.0g/Lまで可能 | 色調の安定化、亜硫酸調整等の品質保全の目的でPH調整を行う必要最小限の補酸として2.0g/Lまで可能 | |
除酸 | 総酸値を2.0g/L低減させるまで可能 | 不可 |
ヘ 製造工程上、貯蔵する場合は長野県内で行うこと。
ト 消費者に引き渡すことを予定した容器に長野県内で詰めること。
(1) 地理的表示「長野」を使用するためには、当該使用する酒類を酒類の製造場(酒税法(昭和28年法律第6号)第28条第6項又は第28条の3第4項の規定により酒類の製造免許を受けた製造場とみなされた場所を含む。)から移出(酒税法第28条第1項の規定の適用を受けるものを除く。)するまでに、当該使用する酒類が「酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性に関する事項」及び「酒類の原料及び製法に関する事項」を満たしていることについて、次の団体(以下「管理機関」という。)により、当該管理機関が作成する業務実施要領に基づく確認を受ける必要がある。
(2) 管理機関は、業務実施要領に基づき、ぶどう栽培期間の天候が不順であったと認める場合には、直ちにその旨を公表する。
(3) (1)による確認を受けた酒類であって、酒類の容器又は包装に地理的表示であることを明らかにする表示と併せて、次の事項の表示を行う場合は、業務実施要領に基づき表示することとする。
イ ぶどう品種名の表示
ロ 「長野ワインプレミアム」の表示
果実酒
長野の酒は総じて、雑味が少ない濃厚な味わいときれいで穏やかな香りが調和した酒質を有している。
米の旨味を凝縮したような濃厚な味わいは、雑味の少なさと相まって甘味や酸味が折り重なって口の中に広がり、清酒だけを飲んでも十分な満足感を得られることができるが、濃厚な味わいの料理と合わせて飲むことで料理の旨味を深めることができる。
また、きれいで穏やかな香りは、料理の風味を阻害しないよう、味わいに集中できる環境を口の中で整えるとともに、きれいで穏やかな余韻を残す。
イ 自然的要因
長野県は本州中央部に位置し、北西部には飛騨山脈(北アルプス)、南東部には赤石山脈(南アルプス)と、周囲を2,000mから3,000m級の高い山々に囲まれている。長野県の中央部にも木曽山脈(中央アルプス)があるなど、全域にわたり山岳が多くみられる急峻で複雑な地形である。総面積のほとんどが山地であり、その平均標高は1,000mを超えている。
これらの高い山々に降る雨や雪が、その急峻な地形と相まって、多数の河川を形成している。特に東北部に向かい流れる千曲川と犀川や、中央部に位置する諏訪湖を水源とし南流する天竜川では、河川に沿って盆地が形成されており、その盆地に沿って都市や農地が広がっている。
これらの地域は、内陸性の気候で標高が高いこともあって、7月から8月の日照時間が比較的長く気温も高くなるが、夜間には冷え込む傾向にあり気温の日較差が大きい。これにより、デンプン質が豊かに蓄積された酒造に適した米が収穫できる。
また、高い山々に囲まれていることにより米の育成時期に台風や降雨の影響も少なく、冷涼な気候も相まって病害虫の発生が少ない傾向にあり、米の栽培に係る農薬の使用も抑制することができる。
こうした米の栽培に適した自然環境にも起因して、長野県で収穫される玄米の農産物検査法に基づく検査規格における1等米の比率が、日本各地のものと比較して非常に高くなっている。
このような優れた米と、日本屈指の高い山々から流れる清冽な水により醸造される長野の清酒は、雑味が少ない濃厚な味わいときれいで穏やかな香りが調和した酒質を生み出す要因となっている。
ロ 人的要因
長野県は、積雪も多く高い山々に囲まれていることもあり、冬季に新たに食料を確保することが困難であったため、古くから味噌や漬物等の発酵食品をはじめとする様々な保存食が発達してきた。それらを用いた濃い味付けの料理が多かったことから、合わせて飲むための酒として、穏やかな香りで濃厚な味わいの酒質を目指して酒造りが行われてきた。
明治時代には、良酒造りで評判の高かった他県の杜氏を雇用した酒造りも行っていたようであるが、大正6年になると、長野県庁が農商課の中に酒造の専任技師を配置して醸造指導を開始するとともに、大正8年からは地元杜氏の教育のための講習会を開催するなど、地元産業振興のための地元杜氏の育成や酒造技術の向上を図るようになった。
昭和16年には、醸造技術育成の基幹となる長野県立醸造試験場が設置され、新規酵母の開発をはじめとした県内酒造業者の酒造技術向上に資する様々な取組を行ってきた。近年では、長野県工業技術総合センターが長野県酒造組合と協力して、酒造会社の新入社員を対象とした後継者育成のための「酒造技能士養成講座」を開催している。
また、長野県庁は平成14年に「長野県原産地呼称管理制度(Nagano Appellation Control)」を創設した。この制度は、農産物の原料や栽培方法、飼育方法、味覚による区別化を行うことにより、生産者が「長野県で生産・製造されたもの」を自信と責任を持って消費者にアピールしていくとともに、生産意欲の醸成を図ることを目的としたものであり、長野県産農産物のブランド化を目指したものである。清酒についても平成15年から認定を開始しており、長野らしい清酒の品質について明確化することに貢献してきた。
このように、官民・地域一体となって人材育成と醸造技術の向上の取組を行ってきたことにより、特性の維持・向上が図られてきた。
イ 米及び米こうじに、長野県内で収穫した玄米(農産物検査法(昭和26年法律第144号)により3等以上に格付けされたものに限る。)の精米(長野県内で玄米のぬか層の全部又は一部を取り除いたものに限る。)のみを用いたものであること。
ロ 水に長野県内で採水した水のみを用いたものであること。
ハ 酒税法第3条第7号に規定する「清酒」の原料を用いたものであること。
ただし、酒税法施行令第2条に規定する清酒の原料のうち、アルコール(原料中、アルコールの重量が米(こうじ米を含む。)の重量の100分の50を超えない量で用いる場合に限る。)以外は用いることができないものとする。
イ 酒税法第3条第7号イ又はロに規定する清酒の製造方法により、長野県内において製造したものであること。
ロ 製造工程上、貯蔵する場合は長野県内で行うこと。
ハ 消費者に引き渡すことを予定した容器に長野県内で詰めること。
地理的表示「長野」を使用するためには、当該使用する酒類を酒類の製造場(酒税法(昭和28年法律第6号)第28条第6項又は第28条の3第4項の規定により酒類の製造免許を受けた製造場とみなされた場所を含む。)から移出(酒税法第28条第1項の規定の適用を受けるものを除く。)するまでに、当該使用する酒類が「酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性に関する事項」及び「酒類の原料及び製法に関する事項」を満たしていることについて、次の団体(以下「管理機関」という。)により、当該管理機関が作成する業務実施要領に基づく確認を受ける必要がある。
管理機関の名称:長野県原産地呼称管理委員会
住所:長野市大字南長野字幅下692番2 日本酒・ワイン振興室内
電話番号:026-235-7126
清酒