令和3年1月22日指定

1 酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性に関する事項

(1)酒類の特性について

 利根沼田の清酒は、総じて透明感のある味わいの中に、適度な旨味を感じることができる酒質である。
 口当たりには、爽やかな酸味や旨味を伴ったコクを与える苦みを感じながらも、その後に、この地域で収穫された原料米特有のまろやかな旨味や甘みが膨らむとともに、アルコール感の切れが良いためアルコール度数に比してアルコール感を感じないことから、透明感がある味わいであると言える。
 また、余韻には雑味の無い旨味や甘みに加え、締まりを与えるほのかな苦みが感じられることから、苦み、旨味や酸味を中心とする味の食材との相性がよい。
 香りはつきたての餅のような米由来の香りの他、酵母により形成されるグレープフルーツ、白桃、黄色いリンゴ、バナナ、メロンやライチを中心とする果実様の香りに加え、杏仁豆腐様の風味を感じることができる。さらに、味わいの余韻と一体となって、青草や新緑を連想させる香りも感じることができる。
 色調は、総じて透明感のある淡いゴールドがかったクリスタルを基調とする。
 余韻で感じる苦みが春野菜を連想させ、この地域で収穫される蕗のとう及びタラの芽等の山菜並びに青物野菜が持つ苦みとの相性がとても良い。また、利根沼田の清酒由来のアミノ酸は、この地域の特産品である畜産物(豚肉、牛肉、鶏肉)を用いた料理の動物性タンパク質由来の旨味と相まって料理の味を引き立てる。

(2)酒類の特性が酒類の産地に主として帰せられることについて

イ 自然的要因

(イ) 水質

産地の範囲である利根沼田地域は、群馬県の北部にあり、北部の武尊山や谷川岳を中心とする三国山脈と、南部の日光白根、赤城や浅間等の火山が形成するラインに挟まれた地域に位置している。
 この地域は、約15万年前に存在した「古沼田湖」に堆積した土砂により形成された河岸段丘を特徴とし、武尊山、谷川岳などへの降水が、「古沼田湖」の湖底に堆積した砂礫・泥礫層を通ることにより、この地域に豊富な川水及び伏流水をもたらしている。この砂礫・泥礫層を通った水は軟水となり、利根沼田の清酒に透明感のある味わいや色調を与える要因となっている。

(ロ) 気候

この地域は、「日本海型(北陸・山陰型)気候区」に属し、冬には季節風を伴ってしばしば雪や雨が降り、寒さが厳しい。
 群馬県の中では降水量が多く、米の生育期での日照時間も長い地域である。また、一日の中での寒暖の差が大きく、8月の日中の最高気温は30℃を超える日が度々ある一方、最低気温は20℃以下まで下がる。これらの要因により、日中の光合成で生成されたデンプンが夜間に効果的に蓄えられることから、この地域では豊満で登熟が良好な、酒造に適した米が収穫できると言われている。
 また、豊富な川水及び伏流水を張ることで水田の温度を一定に保つことができるため、酷暑での高温障害を防ぐことにも有効と言われており、品質の良い米の安定した収穫が期待できる。
 さらに冬の厳しい寒さは、酒造りの環境としても適している。

ロ 人的要因
 利根沼田地域において本格的な清酒造りが行われるようになったのは江戸時代に入ってからと言われている。文化6年(1809年)には酒造屋が26軒あった事が記録されており、「酒師仲間」を結成して、醸造や販売の基本的事項等の規定遵守に関する取決めを行うなど、この頃から今に続く地域の酒蔵同士の緊密な交流があったことが伺える。
 古くは越後杜氏を中心として酒造が行われており、その醸造技術は杜氏固有のものとして酒蔵間で共有されることは稀であった。しかし、現在では、全ての酒蔵において蔵元杜氏・社員杜氏の体制に移行したことにより、酒師仲間の結成以来の伝統である酒蔵同士の緊密な交流の一環として、地域内の杜氏同士での定期的な情報交換等や研究が行われるようになり、利根沼田の清酒の特性が一層明瞭になってきたといえる。
 特に、この地域特有の酵母の開発や、その酵母に適した米作りや酒造りのノウハウの研究・蓄積を通じて、この地域特有の酒質の維持・向上に努めている。
 また、地域内の全ての酒蔵が、この地域の自然環境の保全が酒質を維持する上で重要と考えていることから、環境保全への取組も積極的に行っている。
 さらに、ワインやビールの製造事業者も参画する「利根沼田酒蔵ツーリズム連絡協議会」の活動を通じて、酒造りを基軸とする地域の活性化も行っている。

2 酒類の原料及び製法に関する事項

(1)原料

イ 米及び米こうじには、産地の範囲内において収穫された次の商標又は品種の米のみを用いること。

  • ・ 雪ほたか
     (株式会社雪ほたかにおいて、「雪ほたか」の商標を付すにあたり、同社の定める基準等を満たし、「雪ほたか」の商標が付された米をいう。)
  • ・ 五百万石
  • ・ コシヒカリ

ロ 水には、産地の範囲内で採水し、沈殿及び濾過以外の物理的及び化学的処理を行っていない水のみを用いること。

ハ 発酵に用いる酵母には、次のもののみを用いること。

  • ・ 群馬KAZE酵母
  • ・ 群馬G2酵母
  • ・ 産地の範囲内において採取及び培養した酵母(蔵付き酵母)

ニ 酒税法第3条第7号ロに規定する「清酒」の原料については、「清酒」以外は用いることができないものとする。

ホ 水の代わりに清酒を用いる場合には、上記イ、ロ、ハの原料によってのみ製造された清酒を用いること。

(2)製法

イ 酒税法第3条第7号イ及びロに規定する清酒の製造方法により、産地の範囲内において製造したものであること。

ロ 製造工程上、貯蔵する場合は産地の範囲内で行うこと。

ハ 消費者に引き渡すことを予定した容器に産地の範囲内で詰めること。

3 酒類の特性を維持するための管理に関する事項

(1) 「管理機関」の役割と所在

地理的表示「利根沼田」を使用するためには、当該使用する酒類の製造場(酒税法(昭和28年法律第6号)第28条第6項または第28条の3第4項の規定により酒類の製造免許を受けた製造場とみなされた場所を含む。)から移出(酒税法第28条第1項の規定の適用を受けるものを除く。)するまでに、当該使用する酒類が「1 酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性に関する事項」及び「2 酒類の原料及び製法に関する事項」を満たしていることについて、次の団体(以下「管理機関」という。)により、当該管理機関が作成する業務実施要領に基づく確認を受ける必要がある。

管理機関の名称:GI利根沼田協議会
住所:群馬県沼田市白沢町高平1306番2号
連絡方法:電話番号 0278-53-2334(大利根酒造 内)
  FAX  0278-53-2335

(2) 「発酵に用いる酵母」の管理

GI利根沼田の原料として規定する「発酵に用いる酵母」については、その特性が変化しないよう、業務実施要領に基づき管理機関が管理を行う。

(3) 「醸造年度」の表示

地理的表示「利根沼田」の使用と併せて「醸造年度(BY)」(「ビンテージ(Vintage)」等の類似の表示を含む。)を表示する場合は、業務実施要領に基づき表示することとする。

4 酒類の品目に関する事項

 清酒