1 適正・公平な課税の推進

〜 悪質な納税者には厳正な調査を実施する一方で、その他の納税者には簡易な接触も実施 〜

 国税庁では、様々な角度から情報の分析を行い、不正に税金の負担を逃れようとする悪質な納税者に対しては、適切な調査体制を編成し、厳正な調査を実施することとしています。
 一方で、その他の納税者に対しては、文書や電話等による簡易な接触も行うなど、限られた人員等をバランスよく配分し、効果的・効率的な事務運営を心掛けています。

実地調査の件数(単位:千件)
  事務年度
R元 R2 R3
税目 申告所得税 60 24 31
法人税 76 25 41
消費税 105 36 57
相続税 11 5 6
実地調査における追徴税額(単位:億円)
  事務年度
R元 R2 R3
税目 申告所得税 992 533 804
法人税 1,644 1,207 1,438
消費税 1,004 862 1,110
相続税 681 482 560

〜 データ活用の取組強化 〜

 国税庁では、様々なデータの中から必要な情報を抽出・加工・分析し、データ間の整合性・関連性・傾向等を把握することにより、潜在的な高リスク納税者を抽出する予測モデルの構築に取り組んでおり、構築した予測モデルと国税組織が保有する様々な資料情報等を組み合わせ、課税事務の効率化・高度化に努めています。

(1)調査において重点的に取り組んでいる事項

〜 消費税の適正課税の確保のため、十分な審査と調査を実施 〜

 消費税は、国の租税収入のうち最も金額が大きい税目であり、国民の関心も極めて高いことから、一層の適正な執行に努めています。
 特に、虚偽の申告により不正に還付金を得ようとするケースについては、調査などを通じて還付原因となる事実関係を確認し、不正還付防止に努めています。
 また、輸出物品販売場制度を悪用して、不正に消費税免税物品の売買等を行った者への対応については、税関当局とも連携し、厳正な課税処理に努めています。

◎ 消費税の調査事例

  • ● 高額な固定資産の購入を装い架空の課税仕入れを計上していた事実を把握
  • ● 輸出物品販売場で消費税免税物品を大量に購入していたが、購入した物品を国外に輸出せず、不正に消費税の免税を受けていた事実を把握

〜 資産運用の多様化・国際化を念頭に置いた調査を実施 〜

 増加する海外への投資や海外取引などについて、国外送金等調書をはじめとする資料や海外当局との租税条約等に基づく情報交換制度のほか、共通報告基準(CRS)によって得た情報を効果的に活用し、実態解明を行い、深度ある調査を実施しています。
 特に、富裕層については、多様化・国際化する資産運用から生じる運用益に対して適正に課税するとともに、将来の相続税の適正課税に向けて情報の蓄積を図っています。

◎ 海外資産等の申告除外・国際的租税回避を把握した事例

  • ● 租税条約等に基づく情報交換制度によって、海外銀行の代表者名義預金に売上代金を入金させ、売上げを適正に申告していなかった事実を把握
  • ● CRS情報を端緒に、相続税の申告において海外預金と海外不動産を申告していなかった事実を把握

〜 資料情報を活用し、的確に無申告者を把握 〜

 無申告は、適正な申告をしている納税者に強い不公平感をもたらすことになるため、資料情報などから的確に把握し、積極的に調査を実施しています。

無申告の調査状況(所得税・相続税・法人税)

所得税、相続税、法人税の無申告の調査状況のグラフ
令和がん事務年度は、調査件数10,367件、追徴税額335億円。
令和2事務年度は、調査件数4,871件、追徴税額199億円。
令和3事務年度は、調査件数5,886件、追徴税額355億円。

◎ 無申告の調査事例

  • ● 動画配信により多額の利益を得ていたが、当該利益を隠蔽し、申告をしなかった事実を把握
  • ● いわゆる「ギャラ飲み」による多額の収益を得ており、所得税の申告が必要であったが、申告をしなかった事実を把握
  • ● 被相続人の銀行口座から生前に出金して自宅に保管していた多額の現金があり、相続税の申告が必要であると認識しながら、申告をしなかった事実を把握

〜 シェアリングエコノミー等新分野の経済活動1への的確な対応 〜

 シェアリングエコノミーなどの新分野の経済活動については、業界団体や仲介事業者などを通じて 利用者(納税者)へ適正申告を呼びかけるなど、適正申告のための環境作りに努めています。また、情報収集・分析の充実に努め、課税上の問題があると見込まれる納税者を的確に把握し、行政指導や税務調査を行っています。
 こうした取組の詳しい内容は、国税庁ホームページ「シェアリングエコノミー等新分野の経済活動への的確な対応」をご覧ください。

  •  1 「シェアリングエコノミー等新分野の経済活動」とは、シェアリングビジネス・サービス、暗号資産(仮想通貨)取引、ネット広告(アフィリエイト等)、デジタルコンテンツ、ネット通販・ネットオークションその他新たな経済取引を総称するものとして使用しています。

〜 納税者の主張を正確に把握し、適正な課税処理を遂行 〜

 調査に当たっては、納税者の主張を正確に把握し、的確な事実認定に基づいて十分に法令面の検討を行った上で、適正な課税処理を行うよう努めるとともに、法令に定められた手続に従うことを徹底しています。

(2)調査以外の手法の活用

〜 実地調査以外にも様々な取組を実施 〜

 国税庁では、限られた人員等の中で適正かつ公平な課税を確保するため、実地調査以外にも様々な取組を実施し、幅広い納税者に自発的な適正申告を促すなど、効果的・効率的な事務運営に努めています。

◎ 納税者の自発的な納税義務の履行を確保するための取組

  • ● 審査の結果、計算誤りや法令の適用誤りがあると思われる者や、国税庁の蓄積情報などから無申告が想定される者に対し、文書や電話での連絡を行い、申告書の自主的な見直しや提出を呼び掛ける取組
  • ● 申告においてご留意いただきたい事項を、国税庁ホームページなどにより周知し、適正申告を促す取組

協力的手法による取組

 大企業の適正申告に向けた自発的な取組を後押しするため、協力的手法による税務コンプライアンスの維持・向上を図る取組を実施しています。

● 税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組

 大企業に対する調査の機会を利用して、税務に関するコーポレートガバナンスの状況を確認するとともに、国税局幹部と経営責任者等の間で意見交換を行い効果的な取組事例を紹介するなど、その充実に向けた働き掛けを行っています。
 大企業の税務に関するコーポレートガバナンスの充実を促すことにより、自発的な適正申告が期待できる法人を増加させ、申告水準の維持・向上を図っています。
 この取組により、国税庁では限られた人員をより効果的に活用できるようになるとともに、企業側では不適切な税務処理の発生リスクや税務調査対応の負担の軽減効果が期待されます。
 本取組に関する詳しい内容は、国税庁ホームページ「税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組について(調査課所管法人の皆様へ)」をご覧ください。

● 大規模法人の「申告書の自主点検と税務上の自主監査」を推進
〜 国税局調査部の申告書チェック項目などを公表 〜

 国税局が行う申告書のチェックや税務調査の結果から、誤りが生じやすい事項を表形式に取りまとめた「申告書確認表」及び「大規模法人における税務上の要注意項目確認表」を国税庁ホームページ「『申告書の自主点検と税務上の自主監査』に関する情報(調査課所管法人の皆様へ)」に掲載しています。
 提出直前の申告書の自主点検、申告書作成前の決算・申告調整事項の把握漏れなどの自主監査に活用することにより、申告誤りの防止が図られ、調査で処理誤りが指摘されるリスクの軽減効果が期待されます。

● 移転価格税制に関する相談窓口を試行的に設置

 大企業の移転価格税制に関する税務コンプライアンスの維持・向上を目的として、国税局(所)に「移転価格税制に関する相談窓口」を試行的に設置し、移転価格税制に係る一般的質疑の他、同時文書化対象取引となる個別の国外関連取引等の具体的な相談に対して、適用関係に関する当局の考え方や留意点をお答えしています。

(3)資料情報

〜 的確な調査・指導に活用するため、あらゆる機会を通じて資料情報を収集 〜

 国税庁では、給与所得の源泉徴収票や配当等の支払調書などの法定調書のほか、情報照会手続に基づいて収集した情報や調査の際に把握した情報など、あらゆる機会を通じて様々な資料情報の収集を行い、調査・指導に活用しています。

資料情報の収集枚数

資料情報の収集枚数のグラフ。
令和がん事務年度は、法定資料36,976万枚、その他の資料10,875万枚。
令和2事務年度は、法定資料43,486万枚、その他の資料27,122万枚。
令和3事務年度は、法定資料46,606万枚、その他の資料32,260万枚。

(4)査察

〜 悪質な脱税者の刑事責任を追及 〜

 査察制度は、悪質な脱税者に対して刑事責任を追及し、それにより多くの人に注意を促す一罰百戒の効果を通じて、適正・公平な課税の実現と申告納税制度の維持に資することを目的としています。

〜 社会的波及効果の高い事案への積極的な取組 〜

 令和4 (2022)年度においては、査察制度の目的に鑑み、特に、消費税事案、無申告事案、国際事案、時流に即した事案などの社会的波及効果が高いと見込まれる事案を重点事案として積極的に取り組みました。
 その結果、消費税事案では、輸出物品販売場を営む法人が国内で仕入れた化粧品を外国人観光客に販売したように装い架空の課税仕入れ及び架空の輸出免税売上げを計上した事案や、複数の法人がパワーストーンの仕入れがあったように装い架空の課税仕入れを計上した事案などの不正受還付事案を多数告発したほか、外国法人を利用して不正を行っていた大規模な国際事案、SNSを利用して多数の給与所得者に所得税の不正還付を指南していた事案などを告発しました。

査察広報用パンフレット

査察広報用パンフレットイメージ

 税に関する講演会や租税教育に活用するなど、広報にも積極的に取り組んでいます。

◎ 令和4(2022)年度の告発事例
外国法人を利用して不正を行っていた大規模な国際事案を告発

 複数の納税義務者が不正加担者と共謀し、同人が日本における代表者を務める外国法人に架空の支払手数料等を計上する、あるいは暗号資産を取引所で譲渡した取引の主体を外国法人に仮装する方法などで、法人税又は所得税を免れていた事案について、各納税義務者のほか、不正加担者についても併せて告発。

査察調査の状況
  着手件数 処理件数 告発件数 脱税総額
(うち告発分)
1件当たり脱税額
(うち告発分)
令和3年度 116件 103件 75件 10,212百万円
  (6,074百万円)
99百万円
(81百万円)
令和4年度 145件 139件 103件 12,760百万円
  (10,019百万円)
92百万円
(97百万円)
  • ※ 脱税額には、加算税を含みます。
査察事件の一審判決の状況
  判決件数1 有罪件数2 有罪率21 実刑判決
人数3
1件当たり
犯則税額4
1件当たり
懲役月数5
1人(社)当たり
罰金額6
令和3年度 内5 内5 100.0% 内3 64百万円 15.7月 15百万円
117件 117件 5人
令和4年度 内2 内5 100.0% 内1 47百万円 13.6月 12百万円
61件 61件 3人
  • ※1 表中の内書は他犯罪との併合事件を示しています。
  • ※2 46は、他の犯罪との併合事件を除いてカウントしています。

◎ 令和4(2022)年度中に判決が出された事例
FX取引利益の無申告ほ脱犯の再犯者に実刑判決

 他人名義でFX取引を行うことにより所得を秘匿し、確定申告書を提出することなく法定納期限を徒過させ所得税を免れた者(無申告ほ脱犯の再犯者)に対して、懲役1年4月の実刑判決が出されました。

査察調査により把握した隠し財産の事例

床下に置かれた袋の中から現金を発見。

■ Web-TAX-TV「 脱税を見逃さない!〜国税査察官の仕事〜」

Web-TAX-TV「 脱税を見逃さない!〜国税査察官の仕事〜」画像

 国税庁のインターネット番組「Web-TAX-TV」では、脱税者を摘発するために日々努力している国税査察官の仕事をドラマ仕立てで紹介しています。
 是非ご覧ください。