[環境変化を踏まえた将来の酒類業の姿は]

1. 環境の変化等

(1) 酒類の特性とその変化

  1. イ.嗜好品である
    • ・ 酒類は代表的な嗜好品。
       昔から「酒は百薬の長」といわれ、飲酒の効用として、ストレスや疲れの解消、コミュニケーションの潤滑油、仲間との連帯感等がいわれている。
    • ・ 多様な飲食料品が生産、販売、消費されるようになってきており、酒類以外の嗜好品も多くなってきている。
    • ・ 酒類は日常的な飲料となってきており、酒類のメリットを活かしデメリットを十分認識した飲み方を啓発する(プラスの飲酒教育)必要性が拡大している。
  2. ロ.文化・伝統性を有する
    • ・ 酒類はその国の食文化とつながっている伝統性を有する飲料。
       食べながら飲むことや地酒(地域性のある飲料)と食文化とのつながりがあることの認識が希薄化してきているので、これを再認識する必要がある。
    • ・ 地域毎に特色のある酒類が生産され、祭りやハレの日に飲むことで飲酒文化が育ち、飲酒教育があった。文化・伝統性を認識することで無茶飲み(一気飲み、アルコール依存)の抑止の効果が期待できる。
    • ・ 今日酒の文化・伝統性を国民や諸外国に対し、どう訴え得るかが課題になっている。
  3. ハ.アルコール飲料である(致酔性、習慣性がある)
    • ・ 酒類は致酔性飲料であり、これまでも、過度の飲酒及び販売姿勢等は事件、事故、トラブルの原因として、事が起きる度に問題視されてきた。
    • ・ 過度の飲酒を助長することは、習慣性→依存性→健康への影響(生活習慣病の発症)=医療費等社会的コストの増につながることを認識する必要がある。
       「我が国のアルコール関連問題の現状」(厚生省保健医療局精神保健課監修)によれば、我が国のアルコール関連問題の社会的費用(1987年)は約6兆6千億円と推計されている。
    • ・ 酒類は大人の飲み物等として未成年者の興味を引きやすい飲料(背伸び=大人のイメージ、ファッション性)。アクセスの容易化、一般商品化に伴い、未成年者の飲酒問題、健康への影響の問題に一層の配慮を求める必要性が拡大しつつある。
    • ・ 酒類を飲む場が家庭内や職場から外部や仲間内になり未成年者飲酒問題も拡大してきている。
  4. ニ.課税物資である
    • ・ 清酒の酒税負担率(酒税額÷小売価格)は昭和25年が約77%、平成14年が約18%、ビールは昭和25年が約77%、平成14年が約46%(平成14年は消費税を含む。)。
    • ・ 租税収入に占める酒税収入のウエイトは低下しているが、依然として財政上重要な地位を占めている。
    • ・ 酒税収入は平成12年度決算額で約1兆8千2百億円
    • ・ 租税収入に占める酒税収入の割合は平成12年度決算で約3.4%
    • ・ 酒税は、他の税に比べ徴税コストが低い
    • ・ 酒税の負担者は消費者であり預かり金的な性格がある。酒税負担の消費者への円滑な転嫁、回収確保のシステム維持は今後とも重要。

(2) 酒類を巡る環境の変化

 酒類を巡る環境は大きく変化しており、市場の変化と消費者側の対応の変化が新しい問題を惹起している。

  1. イ.消費面での成熟化・変化
     規制緩和により、酒販店数が増加し、酒類売場の有り様も様変わりした。アクセス面で消費者利便は増大し、酒類の価格も下がったが、酒類の消費量は頭打ちの状況にある。
    1. (イ) 酒類の消費数量の推移
      • ・  成人一人当たりの飲酒量は減少。
        •    実数ベース 100.7リットル(平6)→95.3リットル(平11)
            純アルコール換算ベース 8.7リットル(平6)→8.3リットル(平11)
      • ・ 人口増により、総量は横バイを維持。
          成人人口95,753千人(平6)→100,289千人(平11)
          消費数量 9,642千kリットル(平6)→9,554千kリットル(平11)
      • ・  種類間の選好・盛衰の変化が著しい。
      • ・  消費量の変化(平6→平11)
        •   清酒  1,257千kリットル →1,030千kリットル
        •   ビール 7,057千kリットル →5,508千kリットル
        •   果実酒 123千kリットル → 278千kリットル
        •   リキュール類  193千kリットル → 344千kリットル
        •   発泡酒  17千kリットル  →1,278千kリットル
    2. (ロ)  価格競争、広告宣伝、販促活動の激化など
      • ・  小売市場においては、酒販店数、特に新業態店の増加により、顧客獲得のための低価格競争が激化している(安売り訴求のチラシの配付、酒類売場の様変わり、酒類が目玉商品化)。

        (注) 新業態店とは、スーパーマーケット、コンビニエンスストアのほか、酒類、ドラッグ、家電、ホーム用品等の量販店をいう。

      • ・ 料飲店市場においては、チェーン組織の料飲店を中心に、酒類の提供価格の低廉化競争が激化している。

        (注) 国税庁における実態調査において、主な酒類の酒税負担率は、ビールが希望小売価格比で35.6%のものが52.9%、しょうちゅう甲類が34.2%のものが67.1%となっている例がある。

      • ・ 一方、特に大手製造者によるシェア獲得のための消費者向けの過剰な広告宣伝、販促活動が激しくなっており、こうした競争の激化は、消費者の商品選択に大きく影響し、また、酒類の消費は価格の安い酒類にシフトしている。
  2. ロ.供給面での変化
     酒類市場は、消費量が頭打ちであるのに対し、過去の設備投資による生産力及び供給力が過剰の状態にあり、また、酒類業者及び商品の退出入(流動化)が激しい。
    1. (イ) 酒類の輸入数量の増加
      • ・ 酒類の輸入量に制限はなく、低価格の外国産ワイン・しょうちゅう甲類の輸入量が増加している。今後更にボーダーレス化が進むものと思われる。
      • ・ 輸入酒の割合(平成11年度課税数量)
         ワイン 約57%(主な輸入国1フランス、2イタリア)
         しょうちゅう甲類 約13%(主な輸入国 韓国)

        (参考) 清酒の輸入量130kリットル(0%)(主な輸入国1韓国、2オーストラリア)

      • ・ 酒類の供給過剰は、製造業の供給力過剰に加えて、国際化(輸入量の増加)も要因の一つ。
    2. (ロ) 製造者や酒販店の大幅な退出入
      • ・ 製造者段階では清酒製造者が大幅に退出し、地ビール製造者が多数参入している(退出も始まっている)。
      • ・ 退出入の状況
        •  小売業 新規免許付与件数  約13,900場(平10年度〜12年度)
        •      免許取消・消滅件数 約9,600場
        • 地ビール免許場数 261場(平12年12月末現在)
      • ・ 総需要量の頭打ち、供給力の過剰に伴い、シェア獲得のための広告宣伝、販促活動等の競争の激化に加え、値引き、リベート等の供与による体力勝負的な商流(新業態店及びチェーン化された料飲店等)の激しい奪い合いが繰り広げられている。
      • ・ 小売段階では小売業免許の規制緩和に伴い新業態店が大幅に増加する一方で市場の変化が激しいため、一般酒販店は大幅に退出している。

        (注) 小売免許場数(全酒類)は、平成8年度末に比べ、コンビニエンスストアは約1万件、スーパーマーケットは約4千件増加している。
         また、卸売段階においては顧客取引先の維持及び新たな得意先獲得のため、体力勝負的な競争を強いられており、地方酒類卸売業者の転廃業、大手卸売業者との業務提携などが多発している。

      • ・ 規制緩和の進展により特に小売段階において、必ずしも酒類は特殊な商品ではないとの認識の販売業者が増加している。
    3. (ハ) その他
      • ・ 外資系大規模小売業が進出してきており、酒類の小売市場は更なる競争激化の様相を呈している。
      • ・  外食産業の発達等により、酒類を飲む場が家庭内や職場から外部や仲間内へと変化してきている。
  3. ハ.酒類(=商品)の変化
    1. (イ) 酒類の多様化
      • ・ 酒類の多様化に伴い分かりにくい商品が増加しているが、商品特性や品質の消費者訴求力が低く、パッケージも酒らしくないものが販売されている。
      • ・  若者向け低アルコールかつ低価格の発泡酒、チューハイ等の開発は未成年者飲酒を助長しているとの指摘がある。
      • ・ 安さを売り物にした商品のウェイトが大きくなっており(例えば、発泡酒は、平成6年度に酒類全体の消費数量の約0.2%であったものが、平成11年度では13.4%を占めるに至っている。)、品質の高い酒類を消費者に分かりやすく説明して供給するというメーカーや小売店の機能が発揮できていないのではないか。
    2. (ロ) 酒類の一般商品化、ライフサイクルの短縮化
      • ・ 新業態店を始めとする酒類の販売店の増加及びアクセスの容易化による激しい販売競争等もあり、酒類が一般商品化しつつある(消費者にとって酒類は特殊な飲料ではないとの意識の拡がりに問題)。

(3) 酒類業の特性

 これまでは伝統性、地域性などで酒類製造業が捉えられ、全体としては中小企業性が強調されているが、これを今後どのように活かしていくか。

  1. イ.伝統性、地域性
    • ・ 酒類の主な原材料は国産穀類、果実等の農産品及び水。
    • ・ 殊に清酒等は、伝統文化、食文化としての意味合いからも捉え、地域性を活かした個性のある商品を提供(地域へ還元)していくことが必須。
    • ・ 酒類を供給する側の製造者及び販売業者には、酒類の飲み方の提案、飲酒教育、啓発が求められているが、対応は十分か。
  2. ロ.中小企業性
    • ・ 生販三層共に少数の大企業と大多数の中小企業で構成されており、高コスト構造の改革、経営革新が喫緊の課題となっている。
    • ・ これまでも各酒類業界において中小企業近代化促進法に基づく近代化、構造改善事業に取り組んできており、中小企業経営革新支援法においても清酒製造業及び酒類卸売業が特定業種に指定され現在経営基盤の強化のための各種事業に取り組み(清酒製造業)あるいは計画を策定している(酒類卸売業)ところである。
  3. ハ.課税物資の取扱業者であること
     酒類業者は、課税物資たる酒類を適切に流通させ、その過程で、酒税の消費者への円滑な転嫁、回収を確保するため、免許業種として位置づけられているが、これは今後も重要な役割。
  4. ニ.酒類を扱う業者としての社会的責任
     規制(免許制度)の存在理由(規制目的)が、課税物資であること以外で顕在化してきており、これまでのような酒税保全のための需給調整の観点から、今後は更に広く社会的要請からの取り組みが求められてきている。
     酒税確保のための規制(免許制度)が緩和されていく中で、免許事業者として、酒類の特性を踏まえた社会的要請、例えば、1酒類の品質安全性の確保、2リサイクル社会への貢献、3未成年者の飲酒防止、4飲酒に起因する各種の事件、事故、トラブル、健康障害の発生防止、5自由かつ公正な取引の実現、6効率的な酒類の提供及び酒税の確保、7酒類の広告についてはマナー広告の実施等、その役割を発揮できる事業としての再構築が必要ではないか。
  5. ホ.酒類業のあるべき姿
     今後の酒類業は、商品・サービスについての市場原理による競争を確保しつつ、これと酒類の特性や社会的要請を踏まえた商品・サービスなどのあり方との調和を図り、消費者に訴えていく透明度の高い事業を展開していく必要がある。しかし、現状は、市場の成熟化、アクセス機会の拡大等により激しい競争が繰り広げられており、未成年者の飲酒防止、社会秩序の維持等への影響等、競争と販売管理などとの調和が取れていない。そのため、それが可能となるよう、以下の事項について行政も含めたシステム作りを進める必要があるのではないか。
    1. (イ) 消費者ニーズに応えた商品(安全で品質の高い酒類)の供給と情報の消費者への積極的な提供、表示の適正化(消費者に分かり易い表示)
    2. (ロ) 酒類の販売管理などのあり方
      1. A 未成年者の飲酒防止
      2. B 適正飲酒、良好な飲酒環境維持の啓発
        • ・ 酒類のメリット、デメリットの啓発
        • ・ 国民の健康維持や飲酒に伴う、事件、事故、トラブルの未然防止
        • ・ 経営者及び従事者のモラルの高揚を図り、利便性の追求、一般商品化等による弊害への対応
        • ・ 販売従事者のモラルの高揚
      3. C リサイクル、環境美化に関する責任の遂行
      4. D 料飲店による取組の必要性
         酒類の販売管理のあり方を考える場合に、酒販店と料飲店の両方を視野に入れる必要があり、指導する行政庁が異なるとしても同様な対応が適当。
    3. (ハ) 生産の効率化、流通コストの縮減と公正な競争の確保のための「指針」や「ガイドライン」の遵守等による自由かつ公正な競争の確保

(4) その他

  1. イ 国税庁等における酒類産業行政の運営体制の整備
  2. ロ (次項以下は酒類の小売販売業免許等のあり方について論ずることの頭出し)

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