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我が国タックス・ヘイブン税制と租税条約の関係
−租税条約締結国に所在する子会社への参加に起因する所得に対するタックス・ヘイブン課税の適用の可否−

 
橋本 秀法

税務大学校
研究部教授


要約

1 研究の目的

 タックス・ヘイブン対策税制は、軽課税の国や地域等いわゆるタックス・ヘイブンを利用した国際的租税回避の防止を目的として1962年に米国において最初に導入され、その後、72年西独、78年(昭和53年)日本、80年仏、そして84年英において導入された。
我が国のタックス・ヘイブン対策税制は、租税の負担が著しく低い外国法人で我が国の法人又は居住者により株式等の保有を通じて支配されているとみなされるものの留保所得を我が国株主の持分に応じてその所得に加算して課税するというものである。ただし、所在地国において独立企業としての実体を備え、かつ、それぞれの業態に応じ、その地において事業活動を行うことに十分な経済合理性があると認められる海外子会社等は適用除外とされる(以下、タックス・ヘイブン対策税制一般を「CFC(Controlled Foreign Company)税制」と、我が国のCFC税制を「タックス・ヘイブン税制」と、また、同税制に基づく所得計算を「タックス・ヘイブン課税」という。なお、ここでは主に法人株主(法人税)を対象として記載した。)。
このようなタックス・ヘイブン税制が我が国に導入されて30年近く経つなか、俄かに、タックス・ヘイブン税制は租税条約に違反するとした趣旨の論文が公表された。
タックス・ヘイブン税制は、わが国の法令に基づきわが国の法人に対して課税する規定である。このように、国内法による内国法人課税がなぜ租税条約に違反するというのか検討を要するところである。また、現在、シンガポールなど租税条約締結国に存する外国子会社の留保所得に対してタックス・ヘイブン課税をする内国株主が多数存在すると想定されるところ、タックス・ヘイブン税制が租税条約に違反するか否かは我が国の税制及び執行において深刻な問題となる。そこで、タックス・ヘイブン税制と租税条約の関係について研究することとする。

2 研究の概要

(1) 租税条約違反論の要旨

イ タックス・ヘイブン税制の本質と租税条約違反
OECDモデル租税条約(以下「モデル条約」という。)7条1項では、「一方の締約国の企業の利得に対しては、その企業が他方の締約国内にある恒久的施設(PErmanent Establishment。以下「PE」という。)を通じて当該他方の国内において事業を行わない限り、当該一方の国においてのみ租税を課することができる」と規定され、日本にPEを有しない外国法人の事業所得に対しては日本で課税することはできない。
一方、タックス・ヘイブン税制の本質は、外国法人を内国法人の海外支店と同様に扱い、タックス・へイブン子会社の事業所得を親会社に帰属させて課税するものであり、外国法人に対する事業所得課税である。
 そのため、日本にPEがない外国法人に対するタックス・ヘイブン課税は租税条約に違反する。

ロ フランス行政最高裁判所判決
フランスにおける行政最高裁判所(国務院)は、フランスのCFC税制である一般租税法典209条B(以下「209条B」という。)を適用した課税の取消し訴訟において、209条Bは対スイス租税条約の事業所得条項に違反すると判断した(この判決を以下「シュナイダー判決」という)。フランスとタックス・ヘイブン税制の構造が似ている日本は、シュナイダー判決の論理を参考にする必要がある。

(2) 租税条約違反についての各国の判断

イ フランス(シュナイダー判決)の判断
シュナイダー判決では、1209条Bの目的は外国法人の事業運営から生ずる利益をフランスで課税すること、2対スイス租税条約の事業所得条項に規定する利益と209条Bに規定する利益は同一であり、フランスにPEを有しないスイス子会社の所得に対して課税する209条Bは租税条約に違反すること、3同一所得に対するフランスとスイスでの課税は租税条約の目的である二重課税の排除に反することなどを理由として、209条Bは租税条約に違反すると判断した。

ロ ドイツの議論
ドイツにおけるCFC税制(以下「加算課税」という。)の性格については、子会社の留保所得を株主に配当したと擬制する「配当モデル」と、外国会社の所得を内国株主に帰属させるとする「帰属モデル」とに対立した。通説は配当モデルである。なお、ドイツでは税制改正により、加算課税の対象所得が居住者の国外事業所得にまで拡大したことから、租税条約は国外所得免除であるにもかかわらず、国内法では国外所得を課税対象とすることとなった。その結果、国外所得課税について抵触が生じた。この問題は、その後の国内法や租税条約の改正によって解決された。

ハ フィンランドの判決
フィンランドの最高裁判所は、OECDモデル租税条約コメンタリー(以下「条約コメンタリー」という。)はCFC税制を容認していることから、ベルギー子会社に対するCFC税制の適用はベルギーとの租税条約に適合すると判断した。

(3) シュナイダー判決の評価

イ フランスにおける法人税制の特徴
フランスの税制は国外所得免除方式を採用しており、国外事業所得は非課税である。ただし、外国支店所得に対して209条Bが適用される場合など国外所得免除方式の例外規定がある。また、フランスでは国の内外を問わず子会社からの配当について収入の95%は非課税である。
そして、シュナイダー判決において問題となった209条Bでは、1フランス株主による出資がわずか10%を超えれば課税対象の外国関係会社となり、また、2課税は他の所得と分離して行なわれていた。それから、3外国子会社からの受取配当の95%が益金不算入となるため、209条Bの性格を配当モデル(子会社留保所得の株主への配当擬制)に求めることは困難であった。さらに、4当時のスイスとの租税条約では国外所得を非課税としているにもかかわらず、国内法では209条Bで国外所得を課税するとしていたことから、既に国内法と租税条約との抵触が生じていた。

ロ シュナイダー判決の特殊性
シュナイダー判決は209条Bが租税条約に違反するとしたが、この判断は上記イに記載したフランスにおける法人税制を前提としたものであり、これらの点についてフランスと異なる税制を有する国、例えばフィンランドや日本では参考にならない。
なお、フランスにおける上記12及び4の規定はシュナイダー判決を受けて我が国の規定と同様の規定に改正された。

(4) 租税条約からの検討

イ 租税条約の目的
租税条約の目的は、1国際的な二重課税の排除、2締約国間の課税権の配分、3国際的な租税回避・脱税の防止を主要な目的とするものであり、CFC税制は国際的な租税回避を防止する規定として租税条約の目的に合致する。

ロ 事業所得条項の解釈
CFC税制は自国の企業に対する自国の課税である。そして、モデル条約7条1項(事業所得条項)においても、一方の締約国の企業に対してその国が課税することを制限する規定はない。また、条約の解釈の基礎とされる条約法に関するウィーン条約の31条《解釈に関する一般的な規則》1項では「条約は、文脈(context)によりかつその趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味に従い、誠実に解釈するものとする」と規定し、条約コメンタリー1条パラ23においても、モデル条約7条1項の規定をその文脈(context)において読めば、当該規定は「従属外国法人の規定」(CFC税制)に抵触しないとする。
このように、モデル条約7条1項は文脈からCFC税制に抵触しないと解されることから、事業所得条項がモデル条約における規定と同じ規定の租税条約の場合、条約相手国がOECD未加盟であったとしても「従属外国法人の規定」はモデル条約7条1項に抵触しないと解するのが条約の一般的な解釈と考えられる。

(5) タックス・ヘイブン税制からの検討

イ タックス・ヘイブン税制
タックス・ヘイブン税制は、軽課税の外国子会社等を利用した国際的租税回避に対処することを目的とした税制である。なお、正常な海外投資活動を阻害しないための適用除外規定が設けられている。

ロ 擬制収益に対する課税
課税対象留保金額は「内国法人の収益とみなして…その内国法人の…益金の額に算入する(措置法66の61)」と規定されている。そして、課税対象留保金額は、外国子会社が納付することとなる法人税や支払い配当等の額を控除して算出される。このように、タックス・ヘイブン税制は外国子会社の所得に対する外国法人課税ではなく、外国子会社の留保所得のうちの内国法人持分相当額(課税対象留保金額)を内国法人の収益と擬制して内国法人に課税する制度である。

ハ 実質所得者課税の原則
タックス・ヘイブン税制は、出資割合が50%を超える支配関係のある外国子会社等に適用対象を限定した制度である。また、課税対象留保金額は内国法人の利益積立金額に含まれず(措令39の204)、内国法人の留保(税務上の資産)とは認識されない。一方、実質所得者課税は資本持分に関係せずに、所得の帰属を実質に即して判断すべきとする制度である。また、課税対象となる留保された所得は利益積立金額となる。
このように、タックス・ヘイブン税制は実質所得者課税とは独立した別個の規定であり、外国子会社の所得を日本の親会社に帰属させて課税するものではない。

ニ 国外所得課税方式及び二重課税の排除
我が国の法人税法及び租税条約は、全世界所得課税主義を採用していることから、国外所得に対する課税について、タックス・ヘイブン税制は租税条約と抵触しない。また、租税条約で扱っている二重課税は、同一の所得が二以上の国によって同一の者に対して課税される場合の法的二重課税であり、タックス・ヘイブン税制ではこのような法的二重課税は生じない。
したがって、タックス・ヘイブン税制は国外所得に対する課税や二重課税の排除においても租税条約に違反しない。

3 結論

 タックス・ヘイブン税制は、租税の負担が著しく低い外国子会社等で内国法人等に出資の50%超を保有され従属しているものの留保所得相当額を内国法人等の収益と擬制して出資持分に応じて内国法人等に課税するものである。そして、同税制では正常な海外投資活動を阻害しないように適用除外規定が設けられている。このように、タックス・ヘイブン税制は外国子会社等の所得を日本の親会社等に帰属させて課税するものではなく、租税回避防止の目的で軽課税の外国子会社等に係る留保利益相当額を内国法人等の擬制収益として課税する制度である。
また、タックス・ヘイブン税制は二重課税の排除や国外所得課税についても租税条約と整合する。さらに、モデル条約型の事業所得条項を持つ我が国の租税条約は、その文脈からみてもタックス・ヘイブン税制と抵触しない。
したがって、我が国タックス・ヘイブン税制は租税条約に抵触・違反することはない。

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