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法人税法の損金経理要件について

 
前原 真一

税務大学校
研究部教授


要約

1 研究の目的

 法人税の課税所得の計算上、損金の額に算入するためには、法人がその確定した決算において費用又は損失として経理すること(以下「損金経理」という)を要件としているものがある。これは、法人の「意思」は確定決算における処理によって判断するのが適当であるという考え方に基づいている。
ところが、企業組織再編税制等では確定した決算による損金経理とは異なる損金経理の考え方が導入されており、そこから生ずる問題点がある。
そこで、本研究は、法人税法において「損金経理」を要件とする規定について、近年の法人税法の改正により生ずる問題点を抽出し、その問題を解決するために、法人税法は、法人の意思を確定決算における損金経理要件によって判断するのか、それとも、確定申告書の記載若しくは他の方法によって確認すべきなのかを検討することとした。

2 研究の概要

(1) 損金経理要件の意義
「損金経理」とは、法人税法第2条(定義)第二十五号において、「法人がその確定した決算において費用又は損失として経理することをいう。」と定義されている。つまり、企業会計において費用又は損失として処理することを指している。
そして、法人税法は償却等の一定の内部意思決定を必要とする費用については確定した決算において損金経理を要求し、また役員退職給与等の特定の外部取引については損金経理または所定の経理を要求することとなっている。
しかも、これらの事項については、確定した決算において損金経理を行った金額が課税所得の計算の基礎となるのであるから、法人が申告に際し、これを変更して申告調整を行うことは認められないことになる。

(2) 損金経理要件を巡る法人税法上の諸問題

イ みなし損金経理
非適格合併等により被合併法人等が移転する資産については、その非適格合併等の時の価額により譲渡を行ったものとされている。このため、内国法人が非適格合併等により移転を受けた減価償却資産の償却限度額の計算の基礎となる取得価額は、その非適格合併等の時の価額にその移転に係る付随費用及び事業の用に供するために直接要した費用の額を加算した金額となる。
しかし、内国法人がこれらの減価償却資産の価額として会計帳簿に記載した金額が、その償却限度額の計算の基礎となる取得価額に満たない場合には、その満たない部分の金額についてはその後に損金経理ができないことになる。
そこで、平成16年度の税制改正において、その満たない部分の金額を損金経理額とみなすことにより、その満たない部分の金額についても、償却費として損金の額に算入することとされた。
この取扱いの趣旨は、減価償却費の損金算入は、損金経理が要件とされているが、法人が、確定した決算において損金経理をすることができないので、損金経理をしたものとみなすというものである。

ロ 役員退職給与を現物で支給した場合
役員が住んでいた社宅の土地及び建物を、役員退職給与として支給する場合、税法は、時価により評価した金額を現物支給したものとして取り扱う。したがって、例えば土地及び建物の帳簿価額は2,000万円、時価相当額は3,000万円であるとすると、税法上は、3,000万円の役員退職給与を支給したものとして取り扱う。そこで法人としては、その時価相当額3,000万円を役員退職給与として損金経理する必要がある。
ところで、土地及び建物の時価相当額は3,000万円ですが、法人は、それを2,800万円と認識して役員退職給与を損金経理していたということもあり得る。
この場合、時価相当額と法人が役員退職給与として評価した額との差額に相当する金額200万円をどのように取り扱うかという問題がある。法人の評価額と時価相当額との間に相違があったとしても、それはあくまでも評価上の問題であり、役員退職給与の損金性の問題とは次元を異にする。法人の意思は、土地及び建物を損金経理により役員退職給与として支給することである。したがって、時価相当額と法人が役員退職給与として評価した額との差額に相当する金額200万円は役員退職給与として支給したものと認められる。
しかしながら、法人税法では、時価相当額との差額に相当する金額200万円については、損金経理が行われていないので、役員退職給与として損金の額に算入することが認められないこととなる。
ところで、法人が、この差額部分について確定した決算において損金経理をすることができないのは、前述したイのみなす損金経理の場合と同じである。

ハ 3年償却制度とIT投資促進税制との選択適用
法人が、一括償却資産の3年償却制度(法人税法施行令第133条の2)の対象となる取得価額20万円未満の減価償却資産について、確定した決算において損金経理により減価償却費を計上しておきながら、申告においてその規定の適用を受けることを選択せず、普通償却限度額を超える部分の金額を自己否認して申告加算することが認められている。そして、これらの減価償却資産が、IT投資促進税制(租税特別措置法第42条の11)の対象要件を満たすものであれば、法人は、申告において、これらを同税制による法人税額の税額控除の対象とすることができる。
この処理が認められる理由は、一括償却資産の3年償却制度を適用するためには、確定申告書における意思表示が要件となっているからである。
したがって、法人は、一括償却資産の3年償却制度を適用するために、確定した決算において、これらの制度の対象資産について損金経理をしていても、申告による意思表示をせず、これらの制度の適用を選択しないことができるのである。
法人が、一括償却資産の3年償却制度及びIT投資促進税制の適用の意思表示をするのは、確定申告ということになる。すなわち、損金経理要件が法人の意思表示の確認のために規定されているのではない。

ニ 利益積立金を取り崩して役員退職給与を支給した場合
役員退職引当金を取り崩して役員退職給与を支給した場合(まる1の仕訳)は、損金経理が行われていないので、これを損金の額に算入しない。法人が支給した役員退職給与を損金の額に算入し、利益積立金を利益に戻し入れてその補てんに充てた場合(まる2の仕訳)は、損金経理したものとして取り扱う。

まる1 役員退職引当金から直接支出する経理
(借方)役員退職引当金 800万円(貸方)現金預金 800万円

まる2 支給額は損金経理し、役員退職積立金を利益に戻し入れる経理
(借方)役員退職金 800万円(貸方)現金預金 800万円
(借方)役員退職引当金 800万円(貸方)役員退職引当金取崩益 800万円

ところで、上記まる2の仕訳を前提として、上記まる2の仕訳に、次の仕訳を追加した場合にも、帳簿記録には損金経理をしたことを認めている。
(借方)役員退職引当金取崩益800万円 (貸方)役員退職金800万円
この場合は、税務当局に提出する決算書等に注記することにより、税務当局に対して会社の損金経理の意思表示を明確にすれば認められる。
この仕訳は、結果として、上記まる1の仕訳と同じだと思われる。そうであれば、上記まる1の仕訳の場合にも、税務当局に提出する決算書等に注記することにより、税務当局に対して法人の損金経理の意思表示を明確にすれば、法人の処理を認める必要があると思われる。

3 結論

 法人の意思を確認する損金経理要件に限って言えば、法人税法も、いつまでも厳格な損金経理要件を採用するのではなく、申告調整により法人の意思を確認してもよいのではないかと考える。
たとえば、減価償却費、評価損等は、税法が限度額を決めているのであり、その限度額までを損金と認め、確定した決算に計上しなくても申告調整を認めるという考え方があると思われる。

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