1. 事業種類別の問題・課題と対応方向

(3) 得意先強化事業

1 具体的事業の内容
得意先強化・得意先の実態把握に関し、酒類卸売業者が実施する具体的事業として以下の4つがある。
1) 全国酒類卸売業協同組合が策定した基本的指導マニュアルに基づき、酒類卸売業者が自ら得意先小売業の実態把握をする。
2) 基本的指導マニュアル及び1)に基づき、得意先別・年度別リテールサポート実施計画を策定する。
3) リテールサポートの基本とその考え方・サポート方法を習得する。
  • リテールサポートの実施方法を研究・検討する。
  • 計画を策定する。
4) 重点得意先等から順次リテールサポートを実施する。
  1. 得意先をグループ化したリテールサポートの実施
    • ・経営形態別に区分けする。
    • ・区分け別に小グループを結成する。
    • ・小グループ別研究会を実施する。
    • ・連鎖化を研究(実施)する。
  2. 各店毎のリテールサポートの実施
    • ・各店毎のリテールサポートポイントを抽出する。
    • ・上記の、月別リテールサポートスケジュールを作成し、実施する。
    • ・連鎖化を研究(実施)する。
2 事業の効果
得意先強化・得意先の実態把握に関する事業の効果は、1)小売業者にとっての効果、2)自社(卸売業者)にとっての効果の2点が確認できた。
1) 小売業者にとっての効果
小売業者にとっての効果としては、以下のようなことが確認できた。
  • 売上増・利益増に寄与した。
  • 既存顧客の引き留めに寄与した。
  • 受注センターの開設により、欠品率が大幅に減少した。
  • 従業員の活気が出てきた。
2) 自社にとっての効果
自社にとっての効果としては、以下のようなことが確認できた。
  • 業態別の粗利益が把握できたことで、より客観的な損益計画の立案が可能になった。得意先選択の判定資料としても活用できるようになった。
  • 各種施策の実施により、施策実施店における自社のインストアシェアがアップし、得意先の囲い込みができた。
  • 有力な得意先の販売会議に参加し、ともに検討することで、自社の方針・施策に対する理解等が深まった。
  • 自社社員の接客・応対態度が改善した。
  • 自社社員のモチベーションが向上した。
3 実施上の問題点/実施しない理由
得意先強化・得意先の実態把握を行う際の問題点、及び実施しなかった理由としては、1)主として小売業者側に起因する問題、2)主として自社(卸売業者)側に起因する問題、の2つが確認できた。
1) 小売業者側に起因する問題
小売業者側における問題としては、以下のようなことが確認できた。
  • 経営者の高齢化が進み、特に後継者がいない場合は取組みに意欲的でない企業が多い。
2) 自社側に起因する問題
自社側における問題としては、以下のようなことが確認できた。
  • 得意先に占める自社のシェアが低いため、行き届いたサポートができない。
  • 自社の取扱商品の構成が狭いため、複数商品の帳合を持つ大手総合卸売業者のサポート内容に対抗できない。
  • 優良小売業者には、大手卸売業者や他県の卸売業者が攻勢をかけてくる。
  • リテールサポートのノウハウがない。
  • OJTがベースになっており、店舗管理等の基礎研修ができていない。
  • リテールサポートを行う組織体制が整備されていない。
  • リテールサポートを行う必要性や、卸売業の役割についての意識が、従業員に根付いていない。
4 対応の方向
得意先強化・得意先の実態把握に関する対応の方向としては、以下のような事項が必要である。
1) 売上ABC分析等の実施による得意先小売業の実態把握と貢献度評価
得意先の実態を把握し、各得意先が自社にどれくらいの売上及び利益貢献があるか把握する。その重要性を考慮した上で、リテールサポートを実施する。 得意先別貢献度を把握する方法としては、1売上、2原価、3粗利益、4直接労務費、5直接配送費、6限界利益、7作業時間、8距離、9効率、10順位、等の項目からなる効率分析表等を作ることが有効である。さらに債権保全のための、信用調査機関を活用したり、登記簿を閲覧したりするなど、得意先のおかれた状況を的確に把握する必要がある。
 実際に得意先強化・得意先の実態把握を行うため、例えば全国酒類卸売業協会が作成した「経営基盤強化計画推進のための得意先強化の『考え方』と『手引き』(平成16年4月)」等を活用することも極めて有用である。その内容を簡単に紹介すると以下のようになる。小売業の実態把握に関しては、A. 自社内資料で分かるもの、B. 相手企業へのヒアリング等にて分かるもの、の2つを掲げている。
  1. 自社(卸売業)内にある資料で分かること
    • ・自社からの販売実績、その推移
    • ・販売期待水準の達成度合い
    • ・粗利益確保への貢献状況
    • ・代金回収状況
    • ・諸企画、イベント等に対する協力度
    • ・物流業務、当社(卸売業)への発注等諸業務の合理化、近代化への理解と協力度合
    • ・納入商品の返品率
    • ・値引き、リベート等の要求の有無
    • ・トラブルの有無
  2. 相手(小売業者)にヒアリング等して分かること
    • ・店主(経営者)とその配偶者の人柄、考え方、経営能力。商売熱心かどうか
    • ・後継者の有無とその能力レベル
    • ・店のコンセプトは明確になっているか
    • ・従業員(家族、パート、バイト等)の数と質、特に接客対応の良し悪し、電話応対状況
    • ・店売りと電話受注販売、その他の割合
    • ・店主以下全員(バイト、パートを含む)の一人当たり販売高
    • ・主要顧客先の状況、特に料飲店等業務用取引先
    • ・販促企画力とその実施状況
    • ・品揃えと商品知識、及び推奨力
    • ・マーケットシェアと、当社商品のインストアシェア状況及びその推移
    • ・立地条件
    • ・売場面積
    • ・店舗状況、店内演出力
    • ・在庫量の適正保持とその管理状況
    • ・仕入基準の有無と仕入管理状況
    • ・配達状況
    • ・空容器等の整理状況
    • ・資金繰り状況
    • ・財務内容
    • ・店舗の土地、建物の所有者名と担保設定状況
    • ・経営体は個人か法人か
    • ・酒販免許の名義人
2) 得意先に真に必要とされるリテールサポートの実施
人材やコスト面等の制約から、行き届いたリテールサポートができない場合、その内容を絞って真に必要とされる取組みから実施していく。例えば、1支援を強化すれば取引額が増加すると思われる店、2支援を続けても取引額の増加が見込めない店、3近く廃業が見込まれる店、といったように店舗を分類し、分類ごとに支援策を定めて実施することが重要である。さらには21に引き上げる努力等も併せて、行わなければならない。
 具体的なリテールサポートの内容としては、商圏を超えて営業活動を行っている小売業者の事例紹介等市場情報のさらなる提供や、得意先小売業が他業態と差別化できる対応の指導・サポートが考えられる。後者については、例えば衛生面への配慮や缶ビール1本でもにこやかな対応をする等である。さらに酒類以外の品揃えの強化に関しても、積極的にその可能性を検討するところまで含まれる。
 中央職業能力開発協会が作成した『職業能力評価基準〜食品・菓子・日用品等卸売業編』(平成19年3月)では、リテールサポートの具体的な内容として、以下のような項目を掲げているので参考にされたい。
 また、リテールサポートの実施方法としては個別の課題に随時対応する方法もあるが、得意先を対象にした研究会・勉強会を定期的に実施し、取引先企業との関係を強化する方法も検討したい。
図表2-3 リテールサポートの体系
  1. 商品調達支援
    • ・商品調達(仕入先開拓等)
    • ・PB商品の生産・企画・開発(委託を含む)
  2. 小売業の販売支援
    • ・品揃えやプロモーションなどマーチャンダイジングに関する支援
    • ・各種情報(商品情報、カテゴリー情報、商圏情報等)の提供
    • ・荷受・検品・補充・品出しなどの付随業務への協力
    • ・店舗設計・店内レイアウトの提案
    • ・店舗設計・店内レイアウトの提案
  3. 小売業の経営支援
    • ・経営戦略など経営上の相談・指導
    • ・人材教育・セミナー等の支援
    • ・各種情報システムの設計・運営に関する支援
3) リテールサポート実施体制の整備
効果的なリテールサポートができるよう、社内の体制を整備する必要がある。
 まず、リテールサポートが必要であるという意識を社内に植え付けるため、現状(例えば特定ビールメーカーの特約店であるなど)に対する危機感を社内で共有し、社長自ら取り組む姿勢を見せる等が必要である。そのうえで、実際に実施する営業担当者のルーチンワーク等の負担を軽減し、リテールサポートに注力できるような組織的なバックアップ体制を整える。社内メールや携帯電話等のツールは積極的に活用し、社内における情報共有のレベルを上げることも効果がある。
さらに、リテールサポートのためには棚割り(プラノグラム)作成、チラシ作成、POPやエンド作成など、個別サポート内容のノウハウを習得する必要があるが、加えて、販売士資格の取得等の営業担当者の能力が不可欠である。国・県・市町村レベルで各種の中小企業支援策が用意されており、企業側の費用負担なしで専門家の支援が受けられるようになっているため、こうした外部資源も有効活用を図りたい。