1. 事業種類別の問題・課題と対応方向

(2) 人材養成及び組織管理事業

1 具体的事業の内容
酒類卸売業者が実施する具体的事業としては研修・教育等の人材養成と人事・給与等の組織管理の2つがある。
1) 人材養成
  • 全国酒類卸売業協同組合及び同支部単位、グループ単位及び個別の企業単位で、経営幹部、管理者、営業担当者、物流担当者別等に研修を実施する。
  • 独立行政法人雇用・能力開発機構と提携して研修を実施する。
2) 組織管理
  • 人事評価システム・組織体系及び給与体系のモデルを策定する。
  • 策定したモデルにより、人事・組織・給与を改革する。
2 事業の効果
事業を実施した効果としては、1)職員の能力・意識の向上、と2)コスト削減があげられる。
1) 職員の能力・意識の向上
  • 研修によって能力が向上し、仕事の進め方が効率的になった。
  • 酒類メーカーでの研修により、取扱商品に対する理解と愛着が深まり、安易な値引き販売に流されないようになった。
  • 個人の売り上げ目標を数値で設定することにより、業務に取り組む意識が向上した。
2) コスト削減
  • 評価体系、給与体系を見直し、コストを抑えることができた。
  • 人員配置を見直すことによってコストが削減できた。
3 実施上の問題点/実施しない理由
事業実施する上で課題となるのは次の項目である。
1) 研修の不足
  • 酒類メーカーの方針転換により酒類メーカー主催の研修がなくなり、代わりが見つからない。
  • 酒類卸売業に関係する業務を習得するための研修が職員のレベル別に用意されている状況にはなっていない。
2) 体系的な研修計画の不在
  • 経営者の側に職員をどのように育成していくかという教育体系が存在しないため、現在の業務に必要なテーマの研修を実施するのみとなっている。結果として、経営幹部となるために必要な能力をもつ職員が育ちにくくなっている可能性がある。
3) 職員の年齢構成の偏り
  • 組織管理(リストラ)を実施したために職員の年齢構成が偏る場合がある。
4 対応の方向
人材養成、組織管理を効果的に実施するためには、個別企業で対応できる事項と業界全体で対応すべき事項がある。項目別に整理すると以下のとおりである。
1) 人材養成体系の整理とマスタープランの作成
個々の酒類卸売業者は、自社の経営戦略に基づき従業員にはどのような能力が必要か、また将来的にどのような能力を身につけて成長させるかというプランを持つ必要がある。
 このようなプランは、詳細な部分は個々の企業ごとに作成する必要があるが、酒類卸売業という業種にとって必要な能力・知識は共通のものである。したがって、業界全体で酒類卸売業にとって必要となる業務と、その業務を遂行するために必要な能力を職位別に整理し、個々の酒類卸売業者は自社の事業戦略に照らし合わせて必要な業務を選択できるようにすることが望ましい。
 具体的には、卸売業者に必要な機能はメーカーサポート、リテールサポート、ロジスティクスの3つに区分できる。そして、それぞれの分野で必要な能力・知識があり、整理すると図表2-2のようになる。
 なお、自社でプログラム作成が困難な場合は、経営相談窓口等の活用が有効であると考える。
図表2-2 卸売業が果たしている機能
2) 研修情報の共有
人材養成のマスタープランを作成した酒類卸売業者は、それに沿って適切な研修・教育を実施する必要がある。しかし、研修の実施主体は全国酒類卸売業協同組合の場合もあれば商工会議所等の場合もある。また、メーカーが提供する研修も活用できる。このような活用できる研修については、酒類卸売業協同組合、およびその支部において情報を集約し、組合員に提供していくことが有効である。
3) 研修の開発
また、必要な研修であっても既存のプログラムが存在していない場合もある。内容に応じて全国酒類卸売業協同組合で開発する、あるいは経営指導員が個別プログラムとして実施する等の対応が必要であろう。
4) 経営指標の活用支援
組織管理事業を実施する場合、人事制度を変更する場合は昇格・昇給の基準としてどのような目標をどのような水準に設定するかが重要となる。厳しい目標とすると、かえって職員のモチベーションの低下や能力向上の機会を奪う恐れもあるからである。給与制度の考え方、人事考課の方法等は専門のコンサルタント等が豊富な事例を有しているためその活用が有効である。一方で自社の経営への影響は、粗利益率、一般管理費率、経常利益率等の経営指標で把握する必要がある。このような経営指標に関しては、国税庁が実施している酒類卸売業実態調査等の指標と比較し、自社の位置を相対的に把握したうえで判断することも必要となる。