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第2章 モデル事業推進に向けて

1. 共通する問題点

 モデル事業で見られる問題点は、中小酒類小売業者の共同化・連鎖化事業共通の問題点でもある。成果を出しているモデル事業は、様々な問題を克服し共同化・連鎖化事業を行っている。
 共同化・連鎖化事業の問題点を列挙すると、次のようになる。

(1) 経営者の問題意識の希薄さ
 組合の「つきあい」で、共同化・連鎖化事業へ参加するように感じている参加者も見られる。共同化・連鎖化事業は、自店の経営改善のために行うものである。
 自店が参加することで、経営改善のきっかけにしようというものである。「つきあい」で行うものではなく、主体的に行うものである。
 共同化・連鎖化事業に参加したくないという組合員の中には、共同化・連鎖化事業の意義を理解していないメンバーが多い。これは、日頃から自らの経営に真剣に向き合っていないことの現れである。このような経営者は、問題意識が希薄で、流れに身を任せていることが多い。

(2) 組合と参加組合員のコミュニケーションが十分でない
 共同化・連鎖化事業については、組合と参加組合員との間のコミュニケーションが不十分なため、様々な問題が発生している。
 たとえば、この種の事業に対して、最初から斜に構える、あるいは、「必ず効果が出れば参加する」、「まずはお手並み拝見」といった傍観者的な態度、リスクを負担したくないという理由で一歩を踏み出せないでいる経営者が多い。各地の共同化・連鎖化事業で共通に見られる問題点である。こういった参加組合員の態度に対して、理解不足とか、意識の低さを指摘することはたやすい。
 コミュニケーションは双方向で行うものであり、一方的に組合員を非難できない。それは、組合から組合員に対してのコミュニケーションが十分でないからである。
 共同化・連鎖化事業は、事業の先行き不透明な段階において、参加者に必要資金の出資を求めるものである。したがって、十分な説明責任が必要なことはいうまでもない。
 家族経営が主体の零細な中小酒類小売業者では、共同化・連鎖化事業を受け入れるだけの人的、資金的余裕がなくなっている店が多く、新たな出費に対しては慎重にならざるを得ないのは当然である。

(3) 経営資源の過小性
 共同化・連鎖化事業は、経営資源の不足する個別企業・個別店舗の経営力を強化するために行う。共同化・連鎖化事業の効果を上げるためには、まとまった資金が必要である。しかし、組合員の共同化・連鎖化事業への出資金は非常に少額であり、効果的活動ができないというジレンマがある。
 また、共同購買事業においては、個店の販売力が弱く、決められた数量をこなせないという問題がある。各店の販売力低下は、共同化・連鎖化事業全体の落ち込みとなる。

(4) PB商品に対する理解が浅い

1 PB商品開発の意図が浸透していない
 共同化・連鎖化事業の内容としては、どの組合もPB商品開発を中心に据えている。しかし、組合員が何のためにPB商品を開発して、販売するのかを明確にしないまま、開発だけが先行するケースが多い。PB商品を開発しても、販売の段階でつまずいている場合が多い。
 A酒販協同組合では6種類の商品を抱えているが、商品寿命が短く定番商品が生まれていない。直接開発に携わったメンバーは商品に対する愛着があるので、熱心に販売している。しかし、他のメンバーは、つきあいで参加しているといった意識が強く、積極的に販売していこうとする意欲が薄い。このため、決められた数量を消化できないといった問題が発生している。

2 PB商品をどのように販売していくか、育成していくかという視点の欠落
 PB商品は完全買い取りが基本であり、個店レベルでは、通常は一定数量以上の仕入義務が生じる。自分たちが企画・開発した商品であり、本来は個店の実情にあわせて、導入されるべきものである。従って、売れないと嘆くのは本末転倒である。PB商品を積極的に育成する姿勢が重要である。
 NB商品のように、メーカーが宣伝してくれるわけではないので、自分たちが積極的に販売し、消費者に対しての認知度を高め、売れる商品として育成していかねばならない。開発したはいいが、その後は各店まかせの成り行き管理では、PB商品を育てることはできない。

3 PB商品そのものに対する理解不足
 PB商品の育成には、PB商品に対する理解が欠かせない。PB商品について、どのような位置づけの商品なのかを明確にしないままスタートしているケースが目立つ。個店にとって、何が必要なのか、どんな商品が必要なのかという本質論を議論せず、どのようなPB商品を作るのかという手法論ばかりが議論されている。
 どんな商品が必要かということは、PB商品を販売して、どのような目標を達成するのかということである。つまり、売上高向上を目指すのか、利益率向上を目指すのか、来店客数向上を目指すのか、来店頻度向上を目指すのかを明確にする。PB商品販売の目的を十分に議論して、開発に当たらねばならない。

(5) 組合組織の問題

1 親睦会的組織
 酒類販売業者は国の財政物資を扱かっており、安定的な酒税確保という理由で、酒販免許制度のもとに経営が行われてきた。多くの中小酒類小売業者は酒販免許制度を既存業者の経営の安定ととらえ、急激に変化する経営環境への対応の重要性を深く認識していなかった。
 酒類業特有の環境は、中小酒類小売業者の行動や思考に大きな影響を与え、「古い価値観」を形成してきた。そして組合の性格にも大きく影響を与えている。
 堺屋太一氏は『組織の盛衰』(PHP研究所)の中で、組織についての研究を行い、次のように述べている。
 「組織には共同体と機能体の2種類があり、本来この二つは構造も機能も目的も違う。よって、組織の管理運営に当たっては、この区別を明確に意識する必要がある。」という。
 共同体とは家族、地域社会など、構成員の満足追求を目的とした組織であり、親睦会的な体質を持っている。一方、機能体組織は、外的な目的を達成するための組織である。組織内部の構成員の満足や親交は手段であり、本来の目的は利潤の追求や一つのプロジェクトの完成など、目的を達成することである。
 共同化・連鎖化事業は、ある目的を達成するために行われるのであるが、共同化・連鎖化事業運営の主体となる組合は共同体の特徴を色濃く持っている。
 酒類業組合は親睦会的組織であるから、平等や公平性が最優先される。組合活動は合議制が原則であり、組織としての理想は居心地の良さである。競争は悪であるから、競争によって切磋琢磨するという発想はない。競争はあくまでも節度ある範囲で行われるべきもので、突出した業績をあげることは好まれない。
 何かにつけ、全員参加に固執する点も、共同体的な特徴である。組織の構成員が幸せであるためには、みんなが気楽に組織に安住し、収益と権限を分け与える状態が理想的である。規制緩和以前の酒類業界は、まさにこの状態であった。
 共同体的な特徴が色濃い酒販組合の中で、ある酒販協同組合は特異な存在である。その組合の理事長は、「“組合活動は合議制が原則”あるいは“組合は利益追求よりも組合員への還元が優先”といった酒販協同組合に関しての既成概念が、組合発展の大きな障害になってきたと言う。これらが原因となって生まれる、もたれあい的な体質から脱却できなければ酒販協同組合の未来は極めて暗い。また、当組合は弱体化する中小酒類小売業者を経済的に支援するためには、組合自体が事業体として成功しなければならないという確固たる方針」を貫いてきた。組合の共同体的な体質を批判し、機能体組織への変革を指向し、共同化・連鎖化事業を成功に導いたのである。

図表 2−1−1 組織体の特徴

  共同体 機能体
典型 家族・地域社会
趣味の会・社交クラブ
企業・官公庁・軍隊
目的 構成員の心地良さ
(好みの充足)
外的目的の達成
(利潤・行政・勝利)
良い組織の尺度 固さ(結束力・仲間意識) 強さ(目的達成力)
理想の状態 公平性と安住感 最小の負担で目的達成
人材評価の尺度 内的評価による人格 外的評価による能力と実績

(出所:堺屋太一著 『組織の盛衰―何が企業の命運を決めるのか』 p111)

2 組合員の心理的抵抗
 組合については、組合員自身の心理的抵抗が問題である。例えば、中小企業診断士が共同化・連鎖化事業に対して協力を申し出た時に、組合員自身の心理的抵抗にあって、申し出を拒まれるといったケースが発生している。
 一つは他律に対する抵抗であり「自分たちのことは自分たちが一番良く知っている」とか、「組合員でもない外部の者にあれこれいわれる筋合いはない」といったケースである。これは、プライドが高く、専門性に自信を持っている者に見られる傾向である。「外部の人間に組合をひっかき回されたくない。」という思いが先立ち、改革を拒否するパターンである。
 事業の内容が理解できないため、拒否するケースもある。これは高齢者に多い。今までと違った物の見方や考え方を受けつける力が失われて、理解できないものは間違っていると決めつけてしまうのである。特に、ITなど情報化の分野で共同化・連鎖化事業を行う時に出やすい。組合のトップが柔軟性に欠けていると、共同化・連鎖化事業の目的達成は難しい。

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2. 解決方法(提言)

(1) スタート段階で成果を出す
 共同化・連鎖化事業を成功に導くためには、参加者が高い意欲を持って事業当たることが重要である。次に、集団の団結である。そして、部分最適ではなく、全体最適に向けての共通の理念を持つことが重要である。
 共同化・連鎖化事業は、経営者の意識改革は避けて通れない問題である。多くの参加者は出資金や預託金を出す等のリスクを負いたくないが、共同化・連鎖化事業からは大きなメリットを享受したいと考えている。事業が成功してからでも遅くはないと、様子見を決め込む経営者もいる。彼らの中には販売力がある店舗もあるので、共同化・連鎖化事業の全体の発展には欠かせない。なぜなら、共同化・連鎖化事業は、一定数量の販売がなければ事業そのものが成り立たないからである。様子見を決め込んでいるからといって、簡単には切り捨てられないのである。
 できるだけ多くの参加者を集めることが望ましく、そのためには、スタート段階での成功が特に重要である。成果を出すことで、共同化・連鎖化事業に対する否定的な態度を、好意的な態度へ変容させることも期待できるからである。
  E酒販協同組合は、PB商品の発売前から消費者を巻き込んだコミュニケーション活動を展開し、商品認知度の向上に努め、積極的な宣伝で、スタートで弾みをつけた。スタート時の成功が地元メディアの注目を集め、メンバーにやる気と自信をつけた。
 スタート段階では、小さくても良いから成果を出すことが重要である。
 このため、1若手で意欲のある者だけのグループをつくる、2プロジェクト運営を行う、3リーダーは組合の役職にこだわらず、有能で熱意あふれる人材を選ぶことから始めるべきである。その上で、4外部ブレーンを活用する、ことが共同化・連鎖化事業の成功のポイントである。

1 若手で意欲のある者だけでプロジェクト・チームを編成
 組合の大部分は親睦会的組織となっており、何か目的を達成するための組織ではない。構成員の心地よさを追求する組織や、積極性の欠ける者に対しても公平性と安住感を重視する組織であってはならない。酒類業界は以前のような環境にはない。各企業・各店舗の経営は苦しく、単独では生き残りが難しい時代になっている。
 従来の考えでは、全員参加に固執しがちであるが、従来の枠組みにとらわれていては、組合の存続さえも危うくなる。組合員意識の面でも、組織体制の面でも、目的を達成する組織へと、変えていかねばならない。
 新しいことに挑戦しようと意欲に燃える集団の中に、やる気のない者が入ると、たちまち意欲の低下を招く。場合によってはスタート段階で頓挫してしまい、共同化・連鎖化事業の崩壊へとつながりかねない。
 従って、このような事態を避けるために、スタート時点は、本当にやる気のある者だけで始めることが望ましい。数にはこだわらず、少数精鋭のプロジェクト・チームを編成し、柔軟で意思決定の早い目的達成型の組織をつくることが重要である。

2 若手主導のプロジェクト運営
 すでに第一線から身を引いている高齢者ではなく、組合の次代の担い手である若手に経験を積んでもらうことが、これからの組合活動にとって重要である。
 共同化・連鎖化事業の推進役には、何もしなくても売れた規制緩和以前の経験を持っている高齢者ではなく、これから中小酒類小売業を経営し、生活していかなくてはならない若手にプロジェクトを任せるべきである。
 彼らは工夫しないと売れないと肌で感じており、真剣さもある。また、個店の目標と集団の目標を一致させる柔軟性も持ち合わせている。

3 熱意あるリーダーを選ぶ
 プロジェクトリーダーの選任にあたっては、組合の役職にはこだわらず、メンバーからの人望が厚く、能力の高い者を選ぶ。組合のリーダーは名誉職であってはならない。絶えざる経営環境の変化に対して舵取りを行っていかねばならない。
 変化にどう対応してゆくかが、リーダーとしての責任である。それゆえ、リーダーとは組織の目的を達成する人でなければならない。それには絶えず「組織の目的は何か」を明確にさせなくてはならない。「何を実現するためにリーダーとして存在しているのか」を自らに問いかけなければならないのである。
 目的が明確になったら、そのために何をなすべきかを考えなければならない。しかし、何もしないリーダーや、何をやればよいのか分からないリーダーが多数いることは誠に残念である。スタート段階では、様々な苦労を伴うので、自分の利益は度外視しても、グループ全体の利益を優先するぐらいの気概のある者を選任しなければならない。

4 外部ブレーンの活用
 共同化・連鎖化事業成功のためには、中小企業診断士など外部ブレーンを持つことが重要である。外部ブレーンがいれば、偏った知識や経験だけに頼らず、客観的、公平かつ具体的な計画を立案することができる。必要に応じて、行政や業界団体、商工団体、デザインなどの専門家のアドバイスを求めるべきである。

(2)事業についての十分な説明を行う
 共同化・連鎖化事業を行うにあたっては、単に事業の概要説明だけでなく、何のためにこの事業を始めるのか、この事業は各組合員の経営にどのような影響を与えるのか、当面のプラス面とマイナス面にはどのようなものがあって、事業を継続していくことで何が達成されるのか、事業の詳細を繰り返し説明しなければならない。
 事業の説明の仕方も工夫しなければならない。参加組合員の実情にあわせて、わかりやすく、相手の目線で話さなければならない。大人が子供に話をする時は、立って話すのではなく、膝を折り曲げ、子供と視線の高さを同じにして話すが、それと同じように、相手に配慮することが大切である。同じものを見ても、違う角度だと感じ方が違うので、相手と気持ちを共有するためにも、目線の高さを同じ様にすることが大切である。
 各地のモデル事業の結果を見ても、しっかりと、時間をかけて説明した共同化・連鎖化事業は順調に推移している。
 しかし、単に事業の概要を説明しただけで、早急に事業を立ち上げた組合は事業の立ち上げ後に苦労している。また、立ち上げがスムーズにいった事業でも、売上不振で参加者が減少するなどの事態に陥っているケースもある。

(3)PB商品の本質を理解する
  PB商品については、根本的な問いかけがなされず、事業が進行している場合が多い。従って、組合員が何のためにPB商品を開発して、販売するのかを明確にしておくことが重要である。
 個店の経営改善という目的がかすんでしまい、いつのまにかPB商品をつくることが目的となってしまっているケースもある。
 参加者の中には、PB商品とは清酒をオリジナルのラベルに貼り替えたものと誤解している者もいる。したがって、PB商品とNB商品を比較し、それぞれのメリット、デメリットを理解した上で、事業に取組まねばならない。

 PB商品とは、
・小売店が
・顧客のために
・自らのリスクで
・商品企画を立て、製造加工を行い(あるいは製造を委託)
・販売するブランド商品
であり、“店の顔”となる商品のことである。

 PB商品は、メーカーが生産するNB商品との対比で使われる。価格、品質、味、などの面で、NB商品にはない特徴がなければ意味がない。
 競争の激化により、各業態がPB商品開発に力を入れている第一の理由は、利益の確保である。
 NB商品は顧客の信頼と強い需要があるが、価格競争で利益が確保できなくなっている。そのため、粗利ミックスの観点からPB商品の重要性が増している。
 粗利ミックスとは、粗利益率の高い商品と低い商品をミックスし、売場全体で利益率をコントロールする考え方である。PB商品など高い粗利益率の商品の売上構成比を高めることによって、全体の粗利益額を確保する。一方で、売上構成比が低い低粗利益率の商品を前面に出すことにより、安さを演出し、顧客を誘引する。その結果、売場全体として目標粗利益率を達成することができる。
 第二の理由は、差別化とひいきにしてくれる顧客づくりの観点からである。PB商品は、自社でしか販売しないブランドである。競合との差別化になるだけでなく、自店をひいきにしてくれる顧客を作るのに役立つ。

図表 2−1−2 PB商品とNB商品の比較

PB商品のメリット NB商品のメリット
  • 価格設定が自由にできる
  • 他店にはない商品なので、自由に価格を設定することができる
  • 製品の質、レベル、生産量のコントロールができる
  • 自分達が必要なタイプの商品を自らの意見で作ることができる
  • 独占販売なので店のオリジナリティが打ち出せる
  • 高い利益率が確保できる
  • 消費者はメーカーを信頼して購入する
  • 広告宣伝費はメーカーが負担する
  • 売りやすい
  • ナショナルブランドは大量の宣伝をするので、広く消費者に認知され、小売店で宣伝しなくても売れる
PB商品のデメリット NB商品のデメリット
  • 売りにくい(ブランド育成が必要)
  • 一般的にPB商品に比べて利益率が低い
  • 店の独自性を出しにくい

(4)組合の体質改善
 共同化・連鎖化事業は、自己の利益だけでなく、全体の視点も必要になってくる。つまり、全体最適が求められる。少なからず自己の利益の犠牲を伴うこともある。したがって、一方的に強制するだけでは組合員の心理的抵抗を強めるだけなので、共同化・連鎖化事業の意義とその方法について自ら考え、選択し、行動できる状況を作り出し、心理的な抵抗を緩和していくべきである。
 心理的な抵抗を緩和する方法として、D酒販協同組合が実施しているワークショップ形式(検討会形式)が参考になる。
 B酒販協同組合連合会は、設立当初、オブザーバーとして中小企業診断士からアドバイスを受けていたが、幹部の一部が助言を不要としたため、事業の進捗が遅れてしまった。リーダーやアドバイザーは一気呵成に進むのではなく、焦らずにおおらかな態度で見守り、論理と感情の両面から粘り強く周囲を説得することが大切である。

(5)PDCAサイクルの導入
 共同化・連鎖化事業でPB商品を開発したが、その後続かず、市場から消えていったPB商品は数多い。失敗の要因として、PB商品をどのように育成していくのかノウハウを持っていないことがある。勢いで開発してしまい、その後は各店まかせの成り行き管理でPB商品が販売されている例も見られる。
 共同化・連鎖化事業を実りあるものにするためには、PB商品の育成が不可欠であり、その育成にはPDCAサイクルの導入が効果的である。
 PDCAサイクルとは、「Plan(計画)」、「Do(実施)」、「Check(点検)」「Action(是正処置)」のイニシャルをとったものであり、経営管理サイクルのことである。
 つまり、事業を行う際にまず計画(Plan)を立て、それを実施(Do)し、計画内容通りに実行されたかどうか点検し(Check)、問題や改善点があれば是正処置を(Action)施すという一連の流れであり、方針及び目標を定め、それを達成していこうという考え方である。
 NB商品の製造業者は、販売業者を対象にした販売促進策など、さまざまなノウハウを持っている。その中でも頻繁に使われる手法が、コンテストである。自社製品を取り扱う販売店を対象としたコンテストによって、販売店の販売意識を高め、自社製品の拡販を図ろうとするものである。コンテストの手法をPB商品の育成に取り入れ、PDCAサイクルで回していこうというのである。
 コンテストとは、PB商品の参加店舗を対象として、一定期間、主に販売量や陳列技術に関する競争を行い、その中で成績優秀な得意先に賞を出す方法である。コンテストの種類は、売上コンテスト、陳列コンテスト、接客コンテスト、POPコンテスト、チラシ・コンテストなどがある。よく使われるコンテストは、売上コンテストと陳列コンテストである。売上コンテストは、コンテスト期間中の販売量で競争するもので、売上増進効果が期待できる。陳列コンテストは、対象商品の陳列量と、陳列技術を評価基準とする。売上コンテストと陳列コンテストを併用しても良い。手順は次のようになる。

1 Plan(計画)
 コンテストは、組合事務局など共同化・連鎖化事業の中心メンバーだけのものではない。企画内容よりも、いかに組合員に受け入れられるかがポイントである。したがって、できるだけ多くの組合員にアピールし、企画段階からコンテストを盛り上げていくことが望ましい。コンテストの狙い、実施要領などの主旨を参加店に説明し、積極的に協力を求めていくことが大切である。このため、企画段階から広く意見を吸収して企画へ反映させることである。
 事前の準備として、売場展開案モデルの作成、コンテスト実施計画を作成する。また、実施にあたって必要となる、陳列や販売に関するマニュアルを作成する。陳列・装飾に手間をかけすぎると、PB商品の販売数量の増加など、事業本来の目的が達成されない。したがって、容易で手間のかからないツールを開発、準備する。

2 Do(実行)
  ・ 参加店募集活動
 コンテストは、参加店を多くする工夫が大切である。多くの参加店を巻き込んでいけるように、個々の販売店の実情に沿って参加できるような仕組みをつくる。例えば、参加店を規模別、業態別、売場面積別に区分し、その区分ごとに賞の優劣が決められるような仕組みを考える。
 ・ 決起集会
 参加者に、コンテストの開始を宣言するための集まりを指す。コンテストや共同化・連鎖化事業計画の詳細などを説明するとともに、参加への動機づけを行い、PB商品を売ろうという意欲を増進させる。
 ・ コンテストの実施
 コンテストは、賞金や景品の魅力により、参加店の販売・陳列努力を引き出すものである。参加者のコンテスト参加意欲を高めるために、販売量アップなどの達成目標を明確にする。

3 Check(点検)
 コンテスト優秀店舗の表彰
 表彰によって、各店の努力を讃え、一大イベントとして開催する。参加店の士気が上がるように工夫する。コンテストの審査員には、中小企業診断士など外部ブレーンを活用すると良い。

4 「Action(是正処置)」各店舗の実績の振り返り、次年度計画の作成
 コンテストの実施によって得た参加店の創意工夫の事例は、反省会を開催し、冊子としてまとめ、全参加店にフィードバックする。
 コンテストは1回限りではなく、継続し、情報共有化によって共同化・連鎖化事業に血を通わせることが肝要である。

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