<< 第1項へ | 第3項へ >>

第1章 モデル事業の研究・サポート報告

第2項 大きな共同購買組織の確立で競争力を高めるB酒販協同組合連合会

1. モデル事業の具体的取組み内容
 構想された取組みは、国税局管内の各酒販協同組合が、県連単位で組織を構成し、組合員個店へ商品を卸していくものである。一括発注で個別納品、これを仕入価格、物流価格の低減の源泉にすれば、中小酒類小売業者も価格競争力がつく。参加表明した県連や単位協同組合の役員を中心に、組織のあり方や運営方法、取扱商品の選定と条件等を検討した。しかし、短期間で構築した組織のため、経営理念やビジョンについての認識に隔たりがあり、意識統一、方針の明確化がなされないままスタートした。結果、満足のいく事業展開ができず、迷走を余儀なくされた。
 B連合会の活動は、初回の共同仕入ロットを消化した段階であるが、同じビジョンを共有できる協働意識の高い幹部に変わり、積極的な共同購買に取組み始めた。

このページのトップへ

2. モデル事業の取組みに至った外部環境と経営環境
 外部環境として、競合業者である組織小売業は、組織の購買力を活用して、仕入コストの低減や有利な仕入条件を獲得し、低価格販売を継続展開している。消費者の購買動向も、組織小売業で酒類を購入することが一般的な傾向となっている。
 低価格の発泡酒やリキュール、清酒や焼酎では大容量の経済酒の人気は高い。これらはナショナルブランド商品(全国的に知名度のある商品、以下「NB商品」と略す)であり、組織小売業や大規模専門店が、メーカーとの交渉上優位に取引を進められる商品群である。このような状況を打破するために、規模の利益を発揮できない中小酒類小売業者は、組織小売業に対抗できる競争力を求めている。
 中小酒類小売業者の経営環境は、売上高が総じて低下傾向にあり、転業・廃業を検討しなければならない店舗も少なくない。単位協同組合は、それぞれが努力しPB商品を開発・販売している組織も存在するが、販売シェアは低く、経営の安定化を促進したり、収益性を大幅に改善したりできるような状態には至っていなかった。

このページのトップへ

3. モデル事業の取組み状況
 現在の共同購買参加店は定番とも言えるNB商品を、極めて安価な価格で購買することが可能となり、さらには各店への個別配送を実現している。
 当初、当共同購買に半信半疑であった組合も、大型の共同購買事業が現実的かつ有利なものと判断し、取組みを前提とした相談が増えてきている。

(1) 実施体制
 会長及び副会長2名、理事を合わせた15人で意思決定を行っている。現在は正副会長3名が中心となって、委員会で諸活動を推進している。

(2) 取組みステップ

イ 課題の抽出
 問題点を冷静に判断し、取組むべき課題を参加者で確認した。

ロ 当面のビジョン設定
 共同購買の意味を理解し、共通のメリット獲得を目的とした。

ハ 運営の体制づくり
 正副会長を中心に、委員会による意思決定を行うこととした。

ニ 参加しやすいプログラムづくり
 参加店すべてが、無理せず購買できる仕組みと配送方法を確立した。

(3) 克服すべき問題点と課題(中小企業診断士のアドバイス)
 誕生したばかりの組織であり、結束力が弱いことが最大の問題である。
 企画開発力や交渉力も発揮できていない。早急に解決しなくてはならない問題は山積している。
 まず、明確な指針の確立が急務である。組織の志を一つにまとめる長期ビジョンづくりと、共通の目的設定に取組まなくてはならない。
 当組織のスムーズな運営のために、専任スタッフが必要になる。事務局は、商談や仕入、広報その他すべての業務を調整する必要がある。組織体制を見直し、活動を一層活性化しなくてはならない。
 組織の存在意義についての広報活動も、併せて展開していかなくてはならない。当事業を理解していない不参加協同組合は多い。誤解を払拭し、大きな目標を共有できるようなコミュニケーションが欠かせない。

(4) 取組み後の効果
 共同購買参加店は、増加している。取扱商品に、大手ビールメーカー4社のNB商品が低価格で入手できるようになったことは、大きな成果である。

(5) 今後の課題
 残念なのは、3県にまたがるネットワークだが、1県は提携している卸売業の事情によりスタートが滞っていることである。
 今後はPB商品を開発し、価格以外の差別化商品を武器とした競争力を維持していかなくてはならない。
 組織として動くためには、もう少し多くの協力者を得て、役割を分担の上、集中的に企画を推進していかなくてはならない。そのためには、3年後や5年後のビジョンを明確に打ち出し、その達成に関わる戦略を構築することが求められる。
 また、活動には透明性を持たせ、未加入の単位協同組合がいつでも参加できるような仕掛けを用意しておかなくてはならない。併せて、具体的な活動が魅力的に見えないと感じる参加者や参加見込み者が多く、目に見える形で活動をPRし続ける必要がある。
 今後、組織を成長させていくためには、以下の課題を検討する必要がある。
 「長期展開に向けての実働組織づくり」、「しっかりとしたNB商品仕入計画づくり」、「独自性あるPB商品開発計画づくり」、「開かれた情報発信機能づくり」、これら4つの課題は、どれも大きな費用がかかるものではない。誰かが、自らやるという意識を持ち、取組み始めればそのまま進み出すものである。のんびりと構えている余裕はない。外部ブレーンを活用しても、早急に4つの課題をクリアできる計画づくりに着手しなくてはならない。

このページのトップへ

◆B酒販協同組合連合会の事例に見る活性化のポイント◆

■ポイント1 規模の経済を追求する視点
 中小酒類小売業者も、数が集まれば購買力は大きくなる。「共同化によるメリットづくり」という基本的なテーマに正面から取組んでいるモデルであり、継続して購買活動を展開していけば、より大きな力を発揮することができることを証明している。特に、規模が大きければ大きいほど、NB商品ですら低価格仕入が実現できることが実証された。「共同化によるメリットづくり」の発想の下、付加価値の高いPB商品を開発供給すれば、量販店やディスカウトストアに負けない競争力を持つことができる。
 「共同化によるメリットづくり」

  • メリット1 共同化によって、安価に仕入を行うことができる
  • メリット2 共同化によって、新しいものを創り出すことができる
  • メリット3 共同化によって、情報の発信力を高められる

■ポイント2 外部ブレーンの協力
 準備段階では外部コンサルタントを活用していたが、実際の運営段階では自力だけで取組み、明確な戦略や計画が確立できないままのスタートであった。
 メーカーとの商談も価格交渉のみで、差別性を模索できないままであった。再度専門家の活用を検討し、各種ノウハウを習得すれば、活動は一層活性化する。
 外部ブレーンは、多面的な視点からアドバイスを行うことができるため、固定概念に縛られ、革新を起こしづらい状況を打破するためには大変有効である。
 状況にあった能力を持つ外部ブレーンを有効活用することが、活性化のポイントである。
 「求められる外部ブレーン」

  • マーケティング領域:販売促進や市場動向の把握等への取組み強化
  • 教育領域:人材育成や経営ノウハウ獲得への取組み強化
  • IT領域:情報収集や発信、事業効率化への取組み強化

■ポイント3 分かりやすい広報を展開
 当組織が設立された理由、価値ある活動の内容、会員が得られるメリットなどを分かりやすく記したパンフレットの製作がやっと完了した。早期に明確な情報発信を行うツールがあれば、組合員の誤解も少なく、もっと早い速度で組織率を高めていくことができたはずである。新しい組織が何を目指しているのか、どのような取組みを行っていくのかを、組合員に分かりやすく伝えることが重要なことを当事例は示している。
 「分かりやすい広報」

  • 求められる情報:組合員や顧客にメリットある情報を積極配信
  • タイムリーな発信:極力定期的に展開、良い情報は随時号外的に
  • 双方向性の重視:受け手の反応が得られる仕組みづくりが重要

(中小企業診断士 伊藤 嘉基)

<< 第2節へ | 第3項へ >>