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第1章 モデル事業の研究・サポート報告

図表1−2−1 各モデル事業のテーマと概要一覧
No 名称 テーマ 概要 事業目標 実行体制
1 A酒販協同組合 ・共同販売促進強化
・定番商品の共同購買事業の活性化
 海洋深層水を利用した観光客向け土産品のPB1商品 開発(清酒及び乙類焼酎) ・組合のスケールメリットを活用できる魅力的商品の開発
・組合の累積損失の解消
 理事長中心に販売企画・商品開発委員会内で取組、今年度より新メンバー参加
2 B酒販協同組合連合会 ・共同販売促進強化
・定番商品の共同購買事業の活性化
 消費者ニーズの多様化に対応するため、2県連・21単協組の広域な販売管理、受発注・物流の効率化等を目指す ・積極的な共同購入の再開と活性化
・競争力あるNB商品仕入を組合員及び加盟検討の酒販組合に広報
・正副会長3名及び理事で諸活動展開
・実質稼動の中小酒類小売業者は1,000者
3 C小売酒販組合 ・共同販売促進強化  地元清酒メーカー4社の特定名称酒セットの販売促進、及び組合員店舗の活性化 ・地元清酒メーカー4社の特定名称酒セットの販売数量目標3,000セット  経営活性化委員会が主導、若手登用で委員会運営
4 D酒販協同組合 ・経営ビジョンの策定
・定番商品の共同購買事業の活性化
 組合員間の意識格差是正のため、当組合のビジョンづくり等をゴールとしたプロジェクトを展開 ・自らビジョン策定に参画することを通した組合の経営改善・活性化  地区代表や意欲の高い若手中心
5 E酒販協同組合 ・共同販売促進強化
・第二弾PB商品開発の準備
 PB商品の開発(地域限定オリジナル焼酎)が成功し、第二弾のPB商品開発に着手 ・第一弾PB商品の年間販売総本数1万本(1,800ml換算)
・組合の活性化
 若手組合員6名によるプロジェクト・チーム

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第1項 PB商品で共同購買事業の活性化を図るA酒販協同組合

1. モデル事業の具体的取組み内容

 本モデル事業は、A組合の共同購買事業の見直し及びPB商品開発について、中長期的な計画作りと実行支援を基盤としてスタートした。
 当組合の共同購買事業の取扱商品は、酒類全般と食品など約300アイテムである。また、PB商品の開発を積極的に行っており、現在は6種類の商品がある。しかし、これまでの積極的な活動の反面、PB商品の寿命は短く、開発後3年で販売額が半減した。また組合員数の減少、各店の販売力の低下など、共同購買事業全体の落ち込みが続いている。
 このような中、モデル事業スタート時点の当組合の課題として、既存PB商品のリニューアル、新規PB商品の開発推進、組合活動の今後のビジョン構築等を挙げ、中小企業診断士が支援を実施した。

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2. モデル事業の取組みに至った外部環境と経営環境

 売上低迷の要因となった外部環境は、観光客の土産ニーズと商品コンセプトの不一致、低価格販売の店舗の増加、ホテル売店など非組合員の存在などが挙げられる。特に、A組合で扱うPB商品の主なターゲットは、観光客である。そのため、観光土産の酒は、小さなビンが好まれており、組合員からは販売しにくいという意見が出ている。
 一方、当組合の経営環境上の問題点として、組合員数の減少や販売企画力の弱さなどを挙げることができる。組合の内部経営環境の強みは、商品開発に積極的に取組んでいること、収益事業として確立していること及び意欲の高いメンバーがいることである。一方弱みは、組合独自のビジョン、方針が確立していないことや、組合活動に対して組合員の意欲(参加意識)が低いことなどが挙げられる。

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3. モデル事業の取組み状況

 モデル事業の推進に当たって、当初現在のPB商品開発のリニューアルを中心にした支援を計画していたが、単に新商品の開発を行っても短期的な効果に終わってしまう懸念があった。そのため、当組合の強みを生かしつつ、長期的な視点での組合事業の活性化を視野に入れた支援を計画した。

  1. (1) 実施体制
     モデル事業は、販売企画・商品開発委員会内で取組んでいる。これまで原則年2回開催していたが、委員会の開催回数を増やした。
  2. (2) 取組みステップ
    • イ 組合の現状把握と共有化
       組合活動の現状についてのヒアリング、ディスカッションを行った。その上で、組合の強みや弱み、今後の課題についての共有化を図った。
    • ロ 組合活動に関する「平等」に対する意識の変革
       委員は、組合活動に関して「平等=全員が一緒に活動すること」という意識が高かった。そのため、平等とは、「参加意欲のあるメンバーがいつでも参加できる仕組みづくり」であることを伝えた。
    • ハ 他の組合活動の紹介
       他のモデル事業および、成功している組合の事例を紹介した。
    • ニ アンケートの実施
       組合員に対して、現状の組合活動への満足度、今後の活動への期待などに関するアンケートを実施した。
    • ホ 長期的な組合活動の方向性の決定
       組合の活動方針など、長期的な活動方針を決定した。
    • ヘ 具体的活動計画の立案
       PB商品の販売促進計画などについて、具体的な活動計画についてのディスカッションを実施した。
  3. (3) 克服すべき問題点と課題(中小企業診断士のアドバイス)
     モデル事業の取組みが進展する中で、顕在化した問題点・課題は、組合活動に関する内容とPB商品開発に関する内容に集約できる。
     組合活動に関して、第1ステップを実施する前の組合の状況は、「平等=全員が一緒に活動すること」と考えており、組合全体の体力低下を招いていた。これに対し、「平等=自由意志で参加できる体制を作ること」という見解を示した。
     PB商品開発の問題点は2点ある。第一は、アルコールの種類や観光資源にとらわれすぎ、柔軟な視点で商品開発ができていなかったことである。第二は、これまでの商品開発は、観光資源を中心に、生産志向(作りやすさやアイデアの出しやすさ)を中心に考えていたことである。
  4. (4) 取組み後の効果
     支援初期の段階では、組織としての統一感はなかったが、支援後期の段階では、徐々に仲間意識が出来上がりつつある。また、商品開発に関しても、商品の育成・販売の強化に関する具体的なアイデアを交換し、具体的な行動ができるようになった。
  5. (5) 今後の課題
     モデル事業では、組合の現状把握と活動の情報収集を目的に、アンケートを実施した。アンケート提出を促すことにより、「組合活動」に対しての意識向上のためのスタート地点に立った。今後は、アンケート結果を組合員にフィードバックするとともに、それを受けて具体的にビジョンを確立し、組合員間でビジョンの共有化を図ることが不可欠である。
     当組合の活性化に向けての活動は、準備段階に過ぎない。今回のモデル事業で計画した内容を、具体的な行動に落としていくことが成果につなげる大前提である。また、実際の活動に関しては、目的を明確にするとともに、成果を検証し、次の活動につなげていく計画、実行、検証のサイクルを回すことが必要である。特に、販売促進活動は、短期的な効果が出にくいこともあるため、一度実施するだけではなく、長期的な視点で改善を重ねながら実施することが重要である。
     また、今後の具体的な活動計画としては、売場や顧客視点のPB商品開発・リニューアルの実施、ホームページの作成による情報発信の強化、組合員に情報を効果的に伝達する情報網の確立などによって、組合活動がより効果的かつ円滑に行われる仕組みづくりが不可欠である。

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◆A酒販協同組合の事例に見る活性化のポイント◆

■ポイント1 問題を正しく認識し、小さなことから改善
 組合活動への参加者の減少、共同購買事業の販売額低迷などの問題に対して、ただやみくもに活動を行うだけでは、効果は出にくい。組合員が何に不満を持っているのか、なぜ共同購買事業の販売額が低下するのかなど、問題が発生した原因を掘り起こして考える必要がある。その上で、できることから一つずつ解決していくことが必要である。
 まずは、組合が抱える問題は何なのかを、具体的に正しく認識することが解決の第一歩である。
 「問題の認識、改善を実施する」

  • 何が原因で問題が発生したのかを、「なぜ」を繰り返して発見する
  • 過去にこだわらず、広い視点で考えを膨らませる
  • 具体的にできそうなことから改善する

■ポイント2 意欲の高いメンバー中心の活動
 組合は、個人事業主の集まりである。そのため、効果が薄いと感じた活動に関しては参加意欲が極端に低くなり、積極的に活動している組合員の足かせになることが多い。組合の活動ビジョンや、具体的な活動計画、結果報告などの情報をオープンにすることは絶対条件であるが、一方で具体的な活動に関しては意欲の高いメンバーを中心に、小さく始める方が効果は出やすい。
 活動の効果が目に見えるようになれば、徐々に参加者は増える。まず、意欲の高いメンバーを中心に活動することが、組合活動活性化のポイントである。
 「意識の高いメンバーを中心の活動」

  • メリット1 意思決定から行動までの流れがスムーズになる
  • メリット2 積極的な活動ができるため、効果が出やすい
  • メリット3 効果が出ると徐々に参加者が増え、結果的に規模が拡大する

■ポイント3 売りたい・売りやすい商品の開発
 PB商品開発のポイントは、計画、製造、販売の3つの段階を常に意識して実施することである。3つの段階の中でも、販売を計画的に行うことが重要である。
 しかし、店舗コンセプトに合わない、客層との不一致など、「売りたくない、売りにくい」商品では、販売に力が入らない。そのため、計画、製造段階から、組合員の販売現場や顧客を意識し、売りたい・売りやすい商品を開発することが不可欠である。
 「売りたい・売りやすい商品を開発」

  • 酒や地場商材にこだわらず、売りたい商品は何かを考える
  • 常に顧客ニーズを意識する
  • 販売する現場を意識して、商品を開発する

(中小企業診断士 竹山 芳絵)

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