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非居住者課税における居住性判定の在り方−出国税(Exit Tax)等の導入も視野に入れて−

原 武彦
税務大学校
研究部教授


要約

1 研究の目的(問題の所在)

 我が国では、個人の納税者については、1国内に住所を有する個人又は2国内に現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人を居住者とし(所法21三)、居住者以外の個人を非居住者として(所法21五)、居住形態に応じた課税が行われているところであるが、近年、出国(1)して非居住者となることにより一定の財産や所得についての我が国での免税又は軽減を受けるという事例が発生しているほか、数か国にわたり居住地を転々とする「永遠の旅人」に対する課税の問題も指摘されている。これは、1居住者、非居住者の居住形態の判定方法の問題及び2非居住者になった後に課税されないこととなる所得等についてこのままの課税方法でよいかという問題等を含んでいる。
これらの問題に関して、諸外国の制度に目を向けると、1の居住性の判定等の問題については、例えば、米国では、「市民」及び「永住権保持者」に対して居住地にかかわらず全世界所得課税を行う制度を採用しており、また、2の出国後の課税の問題について、米国では、一定の自国の元市民又は元長期居住者に対し、米国に居住していない場合でも、通常の非居住者に対する課税方法とは異なる方法で課税を行うが、最近では、国籍離脱者・永住権放棄者に対するみなし譲渡益の時価評価課税制度を創設するなどの対応をしているほか、主要国においても出国に係る税(出国税等)を採用している国がある。
そこで、出国や国籍離脱等を契機とした居住性等の変更に当たり、我が国とは異なる制度を採用している米国や主要国の制度を参考として、我が国における居住性の判定や出国に係る課税の在り方について検討するものである。
検討に当たっては、まず、日米及び主要国の個人の納税者について、居住性の判定と課税所得の範囲を確認するとともに、課税を巡って国内における住所の有無等が争われた最近の裁判例を確認し、課税上の問題点を検討する。更に、出国等に伴う個人の所得課税等について、我が国の制度と米国及び主要国の制度を比較し、出国に係る税等を我が国に導入する場合の論点や考え方について検討する。これらの検討に当たっては、国内法及び租税条約との関係や二重課税の調整、執行可能性等の観点からも考察する。

(1) 本稿でいう「出国」は、一時的なものを含まず、居住形態の変更につながるもの(住所・居所を有しないこととなるもの)を指す。

2 研究の概要

(1)居住性の判定と居住形態等に応じた課税方法

イ 日本
国内の住所又は居所の有無等に基づいて、個人の納税者を「居住者」と「非居住者」に区分し、居住者を更に「非永住者」と「非永住者以外の居住者」(以下「永住者」という。)に区分している(所法21三〜五、51、71一〜三、161、164、所令17)。
非居住者課税上の問題として、例えば、国内に恒久的施設を有しない非居住者の株式等の譲渡に係る所得は、1株式等の買集めによる譲渡所得等、2内国法人の特殊関係株主等の譲渡に係る所得、3不動産化体株式の譲渡に係る所得、4ゴルフ会員権の譲渡に係る所得、5国内で行う譲渡に係る所得に課税対象が限定されており(所法161一、1641四、所令2802、2911三〜五、210)、更に、国内法上課税となる場合でも、租税条約締結国の居住者の場合には、我が国では免税となる場合が多いことを利用した租税回避はその典型的な例であると考える。

ロ 米国
米国では個人の納税者は、米国市民及び米国市民以外の外国人に分かれ、外国人は更に居住外国人と非居住外国人とに区分される(内国歳入法7701(b))。居住外国人とは、1米国の永住権を与えられた者(グリーン・カード保持者)、2実質的滞在要件(年間の滞在日数等が183日以上等が要件)を満たす者である。
市民は、全世界所得が課税対象となり(内国歳入法61)、国内に居住しているか否かは問わない。居住外国人もすべての所得が課税対象となる(内国歳入法規則1.871−1)。

ハ 主要国
諸外国における個人の納税者の区分方法は様々であるが、一般的には、居住者と非居住者に区分し、課税範囲を定めている。また、居住者の定義も一様ではないが、課税年度において183日以上滞在することを居住者の要件の一つとしている国が多い(英国、フランス、イタリア、スペイン等)。また、居住者は全世界所得、非居住者は国内源泉所得を課税対象とするのが一般的であるが、日本のような非永住者制度に類似した制度を採用している国(中国、英国)や居住者についても国外源泉所得を非課税としている国・地域(シンガポール、香港)もある。

(2)最近の裁判例
課税を巡って国内における住所の有無等が争われた以下の二つの最近の事件について確認し、出国した後の一定の所得等が課税対象外となることの問題点等について整理した。

イ 東京高裁平成19年(行コ)第215号贈与税決定処分取消請求控訴事件(2)(高裁で国側勝訴、上告中)

ロ 東京高裁平成19年(行コ)第342号所得税決定処分取消等請求控訴事件(3)(地裁、高裁ともに国側敗訴、確定)

(3)出国時の申告納税(通常の申告納税の期限を出国時に早めるもので出国税等とは異なる。)

イ 日本
1申告書を提出すべき者が納税管理人を定めずに出国する場合又は2申告書を提出すべき非居住者(分離課税)が居所を有しないこととなる場合には、出国又は居所を有しなくなる時までに申告と納税を行う必要がある(所法21四十二、1261、1271、130、166、172)。

ロ 米国
一定の外国人は、出国する前に所定の申告書等を提出し、納税額のある者は納税を済ませて出国許可を入手しなければならない(内国歳入法6851、同規則1.6851−1〜1.6851−3)。

ハ 主要国
主要国の中でも、「出国時の申告納税」制度を導入している国がある(4)

(4)出国税等(出国に係る税)の課税等

イ 米国

(イ)旧制度(2008年6月16日以前(5)の国籍離脱・永住権放棄)(内国歳入法877)
国籍離脱・永住権放棄者が、1過去5年間における年間の平均所得金額が一定金額以上(例:2008年は139,000ドル)、2正味の財産が200万ドル以上、3過去5年間の米国連邦税の納税義務履行について宣誓証明していないことのいずれかに該当すれば、国籍離脱・永住権放棄後10年間にわたり、拡大した国内源泉所得に対してネット・ベースでの累進税率による課税と通常の非居住外国人に対する課税のいずれか大きい方を課税対象とする(非居住外国人として課税)。

(ロ)新制度(2008年6月17日以後の国籍離脱・永住権放棄)(内国歳入法877A)
要件は旧制度と同様であるが、新制度では国籍離脱・永住権放棄する前の日の時価により財産が売却されたものとして、時価評価課税を行う点で大きく異なる。

ロ 主要国(6)

(イ)出国側の国での出国税等の課税
主要国での出国に係る税については、1「出国税」(「一般出国税」及び「制限出国税」)方式、2「拡大した納税義務」(「無制限な拡大した納税義務」及び「限定的な拡大した納税義務」)方式及び3「経費又は繰延べの取戻し」方式(7)の三つに大別することができる(以下、このうち1及び2を中心に検討する。)。
「出国税」方式は、居住性の変更を課税の機会として、出国直前の居住者に対して出国直前に資産を譲渡したものとみなして時価評価課税を行うものであり、資産一般を対象とするものが「一般出国税(8)」、株式等に限定するものが「制限出国税(9)」である。
なお、一定の資産等が課税管轄権から離脱する場合に課税するもの(10)もある。
一方、「拡大した納税義務」方式は、出国してからも一定期間特別な課税を行うものであるが、引き続き居住者として課税するものが「無制限な拡大した納税義務(11)」方式、課税対象とする国内源泉所得の範囲を拡大して非居住者として課税するものが「限定的な拡大した納税義務(12)」方式である。英国及びニュー・ジーランドは、出国者が5年以内に再入国して居住者となった時点で、国外で実現した所得に対して課税する(13)

(ロ)出国側の国での出国税等と入国側の国での課税の対応的調整
出国側の国で出国税等が課税され、入国側の国でも同一の所得に対して課税が起こる場合に、二重課税の問題が生じる。一般的に、所得の源泉地国(非居住者である国)と居住地国において同一の所得に対して二重課税が生じた場合には、国内法又は租税条約で居住地国において外国税額控除等によりこれを調整しているが、出国税等についても出国側の国と入国側の国で二重課税が生じた場合に、国内法又は租税条約によりこれを調整している例がある。

A 出国側の国の出国税等への入国側の国での対応的調整
出国側の国の出国税等への入国側の国での対応(二重課税の調整)として、1取得価額の引上げ(14)2外国税額控除(15)及び3所得免除がある。

B 入国側の国での課税に対する出国側の国での外国税額控除(逆の税額控除)
自国の「出国税」から後に入国側の国で課された税を控除する例は、カナダ等で見られる(16)。自国の「無制限な拡大した納税義務」から入国側の国で課される税を控除する例は、課税時の状況により外国税額控除として起こり得るが、自国の「限定的な拡大した納税義務」からの税額控除を租税条約により対応している国もある(17)

(5)非居住者課税における居住性判定の在り方
米国の市民課税は、米国独特の課税方法であり、我が国の制度としてはなじまないと考える。また、いわゆる183日ルールの導入も考えられるが、単純な日数基準でのみ居住形態を判定することや課税年度終了まで判定が未確定となるなどの問題があり、現行制度の維持がふさわしいと考える。
容易に非居住者となることを防止する観点からは、出国しても一定の場合には、引き続き居住者とみなす「無制限な拡大した納税義務」方式があり、すべての実質的なつながりが終了するまでは引き続き居住者とみなす北欧方式(18)やタックス・ヘイブンへ出国する場合には引き続き居住者とみなすスペイン・イタリア方式等があるが、相手国との双方居住者となり、結局は相手国の居住者と判定される可能性が高いこと及びより深刻な二重課税の問題を惹起することが想定されることから、この方式の導入は適当ではないと考える。

(6)出国税等を我が国に導入する場合の論点と考え方等
出国により一定の所得、とりわけ株式等の譲渡益が課税対象から外れることへの対応としては、出国に係る税の導入が有効である。このうち「出国税」方式は、居住者の段階で課税する制度であることから、租税条約上の株式等の譲渡に係る所得に対する規定は改正する必要がない点で優れていると考えられるが、出国税を課す出国側の国としては、1時価評価課税を行うことの是非(それぞれの国の租税政策の問題であると考えるが、未実現段階で課税する場合には一定の対応が必要であると考えられる。)、譲渡益等が未実現の段階で課税であるため、2譲渡が行われなかった場合への対応や3譲渡時に出国時よりも価額が下落している場合への対応、4納税資金に対する手当て等が課題であると考える。
「拡大した納税義務」方式は、所得が実現(譲渡)した時に課税することから、時価評価課税のような問題は生じないが、反面、非居住者になってから通常の非居住者よりも重い課税を行うことから、租税条約の締結国との関係では、租税条約の改正の必要が生じるほか、国外滞在時に発生する所得への課税という点で執行可能性の問題があると考える。
国内法のみの対応で導入可能な制度であることが望ましく、そのためには、居住者段階で課税する「出国税」方式、その中で株式等の譲渡に係る所得に重点を置く観点から「制限出国税」方式又は再入国課税制度が適当であると考える。ただし、「出国税」方式は未実現段階での時価評価税であることから、このことから生じる上述の問題を解決するとともに、二重課税への対応措置の具備が必要であると考えるが、これらを満たす制度として、次の方式が考えられる(19)

1 出国税課税・事後調整方式(期間限定、実現利益との調整、逆の外国税額控除)
出国によって非居住者となることにより譲渡による所得が課税対象から外れることを防止し、出国時に時価評価課税するが、譲渡までの納税猶予制度を認容し、一定期間(例:5年)以内に実際に譲渡がなされない時は課税せず(又は還付し)、また、譲渡時の所得が出国税課税時の時価評価税を下回る場合にはこれを調整することにより、未実現時点での課税を補う。また、入国側の国の課税については、出国側の国で逆の外国税額控除(20)により調整する。2007年から導入されたノルウェーの「制限出国税」方式はこれに該当する。

2 出国税課税・取得価額の引上げ等方式(取得価額の引上げまでの間は逆の外国税額控除)
出国する者についてその国に居住していた間に相当する値上り益は、その居住していた国で課税することを主な目的とし、出国時に時価評価課税(納税猶予制度を認容)するとともに出国税課税時の時価を入国側の国での取得価額の引上げの認容を求め、入国側の国での取得価額の引上げの受入れまでの間は、出国側の国で逆の外国税額控除を行う。カナダの「一般出国税」方式がこれに該当するが、対象を株式等に限定すれば、「制限出国税」方式となる。入国側の国で取得価額の引上げが認容されれば、出国側の国での居住期間に相当する値上り益に対する課税を出国側の国で確保できる。

3 再入国時課税方式(期間限定、再入国時の課税、外国税額控除)
出国によって非居住者となることにより譲渡による所得が課税対象から外れることを防止するものであるが、出国時には課税せず、一定期間(例:5年)以内に再入国(帰国)した納税者に、出国中に譲渡所得が発生した場合に、再入国後の譲渡所得とみなして課税する。二重課税については外国税額控除により調整する。英国の再入国課税がこれに該当する(「限定的な拡大した納税義務」方式に分類されているが、居住者として課税する点で他の国の制度と異なっている。)。
また、いずれの方式でも、1対象者の基準(国籍要件又は一定年(5年ないし10年)超長期居住者の要件を付し、短期居住者は除外する。)、2金額基準(21)(所得基準や資産基準を設定し、少額なものは対象外とする。)などを定めて適用除外基準を設けるとともに、3担保提供その他の一定の要件を設定し、譲渡時(又は一定の年限)までの納税の猶予制度(低利)を導入する、また、執行可能性を高める施策として、4居住形態が変更となる出国情報について、市区町村等から税務署への通知制度や5一定の適用除外対象者の税務署への事前届出制度の導入を提案する。
米国の国籍離脱・永住権放棄に係る課税は、これを我が国では「居住形態の変更」の場合に置き換えることにより、参考とすることが有益である。
なお、出国税を課された納税者が我が国に入国し、出国税の課税対象となった所得が我が国でも課税される場合、相手国の出国税は我が国での非居住者期間の外国の税であることから外国税額控除の対象とはならない。また、「拡大した納税義務」方式の場合には、その所得が我が国の国外源泉所得であること等の要件を満たせば、外国税額控除の対象となる余地があるが、出国側、入国側の国のいずれにおいても二重課税の調整ができない課税については問題があると考える。そこで、租税条約相手国との関係では、二重課税調整の措置が講じられるような国際的ルールの構築が必要であると考える。例えば、EU理事会は、2008年11月に出国税の調整についての解決策(22)を発表しているが、例えばOECDにおいて出国税等についての一定の国際的ルールが確立された場合には、我が国もそれを尊重し、租税条約の改正も含めて調整や制度の構築を行うことが望ましいと考える。
出国許可制度については、米国の例が参考となるが、米国のように出国許可を有しない者についての出国を禁止する権限を創設するよりは、例えば、一定の納税義務者が出国する場合には、申告納税又は納税管理人の届出を出国許可の要件とし、課税当局と出入国管理当局との情報交換及び連携を行う制度の導入が適当であると考える。

(2) 第1審:東京地裁平成19年5月23日判決・訟務月報55巻2号267頁(国内に住所なしとの判断)、控訴審:東京高裁平成20年1月23日判決・訟務月報55巻2号244頁、判例タイムズ1283号119頁(国内に住所ありとの判断)。
子供が国外に移転し、その後、親の財産を国外に移転することにより、我が国の相続税や贈与税の負担を回避する手法に対しては、平成12年の租税特別措置法の改正及び平成15年の相続税法の改正により、一定の対応がなされている。

(3) 第1審:東京地裁平成19年9月14日判決・判例タイムズ1277号173頁、控訴審:東京高裁平成20年2月28日判決・判例タイムズ1278号163頁(ともに国内に住所なしとの判断)。

(4) オーストラリア、インド、韓国、ノルウェー及びスイス(例:ジュネーヴ州)等。

(5) 旧制度は、更に12004年6月3日以前と22004年6月4日から2008年6月16日までの国籍離脱・永住権放棄に分かれるが、要件は類似していることから、ここでは2008年6月16日以前のものを旧制度として説明している。

(6) International Fiscal Association (2002),“Tax treatment of transfer of residence by individuals : 56th Congress of International Fiscal Association (Cahiers de droit Fiscal International Vol. 87b)” Kluwer Law Internationalの中のProf. Luc de BroeのGeneral Report(23〜78頁)の分類及び説明を基にしている。

(7) フィンランド、スウェーデン、ドイツ、オランダ、フランス、デンマーク及びベルギー等。

(8) カナダ、オーストラリア、米国(新制度)。

(9) ドイツ、デンマーク、オーストリア、ニュー・ジーランド、米国(旧制度の一部)、オランダ及びフランス。

(10) オーストリア、米国(旧制度の一部)、2009年から導入されたノルウェーの新制度。

(11) スウェーデン、フィンランド及びノルウェーは、自国との実質的なつながりが完全には遮断されていない場合その他一定の場合には居住者とみなして一定期間(3年から5年)無制限納税義務を課す。スペイン及びイタリアは、タックス・ヘイブン国へ移動する市民に無制限納税義務を課す。

(12) 米国(旧制度)、ドイツ(軽課税国への移転)、オーストラリア(一般出国税との選択)、英国及びニュー・ジーランド(帰国者への課税)、ノルウェー及びスウェーデン。「Trailing tax」(追掛課税、後追い税)として分類する例もある。

(13) 英国では、一定の長期居住者が出国時に有していた資産を出国後に譲渡し、5年以内に英国に戻った場合に譲渡所得税を課す。

(14) オーストラリア、カナダ、デンマーク、オーストリア、オランダ及びニュー・ジーランド、限定的な状況で認容する国として米国及びイスラエル。

(15) 出国税:英国及びブラジル、拡大した納税義務:フィンランド。

(16) デンマーク、フランス及びオランダ。

(17) デンマーク、フランス及びオランダ。

(18) ノルウェーは、10年以上居住者であった個人について、国外へ移動後も3年間は居住者とする制度を導入した。

(19) これら三つのうち、1及び3は、一定の株式等の譲渡による所得について、軽課税(非課税を含む。)国へ出国することにより、軽減又は免除を図ることに対抗するものであると言え、2は、それぞれの国の居住者であった期間の株式等の値上り益について、それぞれ居住者であった国で課税を確保することを主な目的としていると言える。

(20) 外国税額控除を行う結果として、出国税の課税よりも出国中に譲渡が実現した場合の課税が軽課税(非課税を含む。)となっている場合に、その差額について出国側の国(3の場合は再入国側の国)で課税を確保することとなる。2及び3の外国税額控除においても同様である。

(21) 上記米国の例のほか、例えば、カナダでは出国時の資産の時価が25,000カナダドル(約2,200万円)超を申告の対象とし(10,000カナダドル未満の生活用資産は除外)、ノルウェーでは、値上り益の合計額が500,000ノルウェークローネ(約700万円)以下の場合は出国税を課税しない。

(22) 出国側の国で未実現利益に対して出国税を課税する場合、入国側の国における譲渡時に取得価額の引上げを行うこと、出国側の国と入国側の国とで移動時における市場価額について合意に至らない場合には適切な手続によって解決すること、出国側の国で納税者が出国税を課された場合には、入国側の国は納税者に対して出国税が課されたことの証拠書類等の提供を求めることができることなどのガイドラインを加国が採用するよう提案している。

3 結論

 非居住者における居住性の判定(居住者・非居住者の判定)方法については、現行の制度を維持することが適当であると考える。
国内法又は租税条約の規定により、出国後に株式等の譲渡による所得等が我が国の課税対象から外れることを利用した租税回避は問題であるが、これに対する対応策としては、出国に係る税の導入が効果的である。
そして、我が国に導入する場合に、1租税条約の改訂を行わずに国内法による対応で実施可能であること、2出国側の課税と入国側の課税の二重課税の調整を行うこと、3「出国税」方式の場合には、未実現段階での課税であることから、一定期間内に譲渡が行われなかったときや価額の下落に対する措置を行うこと及び4納税資金に対する手当て等の必要があることを考慮すると、上記の三つの方式が候補として考えられる。
この場合、いずれの方式でも、上述のとおり、一定の適用除外基準を設けるとともに、執行可能性を高める上述の施策を講じることが適当であると言える。
また、出国税等については、二重課税の調整等、国際的なルールの構築が必要であり、我が国もそのルールに沿った制度の確立が望ましい。


目次

項目 ページ
はじめに 17
第1章 我が国における個人納税者の所得課税等 20
第1節 居住形態 20
1 居住者 20
2 非居住者 22
第2節 居住形態 22
1 国内に住所を有する者と推定する場合 23
2 国内に住所を有しない者と推定する場合 23
3 住所の推定規定についての取扱い 23
4 住所・居所を巡る問題等 24
第3節 居住形態に関する租税条約の規定 24
1 双方居住者の振分け 24
2 米国市民及び米国の永住権保持者の取扱い 25
第4節 課税所得の範囲 25
1 永住者の場合 25
2 非永住者の場合 26
3 非居住者の場合 27
4 年の中途で居住形態が変わった場合 27
第5節 非居住者課税の問題点 28
1 概要 28
2 国内に恒久的施設を有しない非居住者の株式等の譲渡 28
第6節 最近の裁判例 30
1 東京高裁平成19年(行コ)第215号贈与税決定処分取消請求控訴事件 31
2 東京高裁平成19年(行コ)第342号所得税決定処分取消等請求控訴事件 36
3 二つの事件からの教訓 40
第2章 我が国における個人納税者の出国時の所得課税 42
第1節 確定申告書を提出すべき者等が出国をする場合の確定申告等 42
1 確定申告書を提出すべき者等が出国をする場合 42
2 年の中途で出国をする場合の確定申告 42
3 給与等につき源泉徴収を受けない場合の申告納税等(非居住者) 43
第2節 納税管理人の意義と効果 43
1 納税管理人の意義 43
2 納税管理人選任の効果 44
第3章 米国における個人納税者の所得課税 45
第1節 米国の個人納税者の区分 45
1 個人納税者の区分 45
2 居住外国人 45
3 非居住外国人 46
第2節 米国の課税所得の範囲 46
1 米国市民 46
2 居住外国人 46
3 非居住外国人 46
第4章 米国における個人納税者の出国時の課税等 47
第1節 出国許可制度 47
1 概要 47
2 提出すべき様式 47
3 手続のための書類等 49
4 納税及び還付金の受領 51
5 支払の保証 51
6 米国の所得税の年次申告書の提出 51
7 出国許可の入手を必要としない外国人 52
第2節 国籍離脱者・永住権放棄者に対する課税 54
1 概要 54
2 2004年6月3日以前 55
3 2004年6月4日から2008年6月16日まで 56
4 2008年6月17日以後 60
5 租税条約による対応 63
第5章 主要国における個人納税者の出国時の課税等 65
第1節 出国者への課税(出国側の国での課税) 65
1 出国に係る税の導入 65
2 早期納税制度(出国に係る税以外) 66
3 「一般出国税」(General exit taxes)方式 66
4 「制限出国税」(Limited exit taxes)方式 67
5 「無制限な拡大した納税義務」(Unlimited extended tax liability)方式 69
6 「限定的な拡大した納税義務」(Limited extended tax liability)方式 70
7 「過去に利用した課税の繰延べ及び経費算入の取戻し」(Recapture of previously enjoyed deferrals and deductions)方式 73
第2節 入国者への課税(入国側の国での課税) 74
1 国際的二重課税及び非課税 74
2 入国側の国における「取得価額の引上げ」 75
3 出国側の国の課税についての入国側の国における「外国税額控除」 76
第3節 入国側の国の課税についての出国側の国での外国税額控除(逆の税額控除) 78
1 自国の「出国税」からの控除 78
2 自国の「拡大した納税義務」からの控除 80
3 自国の「取戻し」からの控除 80
第6章 非居住者課税における居住性の判定 82
第1節 主要国の個人の納税者の区分と課税所得の範囲 82
1 個人の納税者の区分(居住形態) 82
2 課税所得の範囲 82
第2節 居住性判定の在り方 83
1 米国における市民課税等 83
2 183日基準の検討 83
3 「無制限な拡大した納税義務」方式の検討 85
4 非居住者課税における居住性の判定 86
第7章 出国に係る税を我が国に導入する場合の論点等 87
第1節 我が国に導入する場合の論点 87
1 概要 87
2 租税条約との関係 89
3 二重課税の調整 90
第2節 我が国へ導入する方式の検討 92
1 概要 92
2 論点の検討と対応策 93
3 具体的な選択肢 96
第3節 出国許可 99
結びに代えて 100

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