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任意整理における租税徴収の諸問題

 
竹下 進一

税務大学校
研究部教授


要約

1 研究の目的

 企業倒産の処理は、破産、民事再生、会社更生などの法的整理の制度が整備されているにもかかわらず、その多くが債務者と債権者とが話し合いによって負債の整理を行ういわゆる任意整理によって行われている。
任意整理の多くは、有力な債権者を中心とした債権者委員会によって行われてきたが、最近においては、弁護士に任意整理を委任する場合が多くなっている。
任意整理は租税を排除して行われることが多く、任意整理が弁護士に委任された場合には、租税の徴収上、次の問題がある。すなわち、倒産企業の資金が入金された弁護士名義預金が倒産企業に帰属するのか、名義人である弁護士に帰属するのかについて争いがある。また、弁護士に帰属する預り金口座に入金された倒産企業の資金はどのように追及するのか。更には、任意整理の配当財源を確保するために弁護士に売掛金等が信託的に譲渡された場合、詐害行為として取消請求ができるかという問題がある。
そこで、本稿は、任意整理を弁護士に委任した場合における上記の問題について考察することとした。

2 研究の内容

(1) 任意整理における弁護士名義預金の帰属認定
 任意整理が行われた場合の弁護士名義預金には、1倒産企業の資金等を原資として開設された預金、21の預金に倒産企業以外の者の資金が入金された場合、3弁護士の預り金口座に倒産企業の資金が入金された場合、の三つの形態がみられる。
この三つの形態の裁判例を通して、弁護士名義預金の帰属認定について考察した。

(2) 弁護士の預り金口座に入金された資金の追及
 弁護士が自ら出捐し開設している預り金口座に債権者に対する弁済(配当)資金として倒産企業の資金が入金された場合、その入金額は既存の残高と合計され、残高全部が弁護士に帰属することになる。そこで、「預り金の返還請求権」を差し押えて、取立権によって任意整理委任契約を解除した上で取り立てることが考えられる。
取立権により任意整理委任契約を解除することの可否と、みなし成功報酬特約による報酬債権と被差押債権との相殺の可否を考察した。

(3) 信託的債権譲渡に対する詐害行為取消しの問題
 任意整理の配当財源を確保するための信託的債権譲渡であっても詐害行為に該当するか、租税からの詐害行為取消請求が権利の濫用となることはないか、信託的債権譲渡を受けた弁護士から弁済(配当)を受けた債権者を転得者として追及できるか、という問題について考察した。

3 結論

(1) 任意整理における弁護士名義預金の帰属認定
 倒産企業から任意整理の受任弁護士に交付された資金を原資とする弁護士名義預金は、次の点を勘案して帰属認定を行うことになると考える。

1 預金の出捐者はだれか。
 預金原資の実質的な拠出者が出捐者であるとすれば、出捐者は倒産企業となり、倒産企業が預金者であるということになるが、倒産企業から任意整理の事務処理費用として前払いされた金員は弁護士に帰属するから、その預金は弁護士に帰属するという考え方もあろう。預金開設の経緯や23等の事実をも併せて判断することになろう。

2 倒産企業が弁護士に資金を交付する趣旨は何か。
 弁護士に交付された資金は任意整理の弁済(配当)資金であるから、倒産企業の預金として管理させるのが倒産企業の意思であろうが、交付された資金は弁護士に管理処分が委ねられており、その保管のために預金された場合には、その預金は預入者の預金であるという考え方もある。倒産企業の合理的意思、その他の事実を勘案して判断することになろう。

3 弁護士が出捐した少額の趣旨は何か。
 預入行為者である弁護士が少額を出捐して口座を開設した場合、この少額は任意整理の受任に伴う立替金とみるべきであろうが、自己の預金とする意思で出捐して預金開設することもあろう。弁護士の合理的意思、預金開設の経緯等の事実を勘案して判断することになろう。

(2) 弁護士の預り金口座に入金された資金の追及
 任意整理の受任弁護士の預り金口座に倒産企業の資金が入金された場合は、「預り金の返還請求権」を条件付の将来債権として差し押えた上で、差押えの取立権によって任意整理委任契約を解除して、差し押えた「預り金の返還請求権」を取り立てることができる。
差押えの取立権による任意整理委任契約の解除は、差し押えた「預り金の返還請求権」を現実化するために必要不可欠の行為であり、かつ、優先債権である租税を排除した任意整理を行ったことに基因するものであるから、租税債権者が任意整理委任契約を解除することに合理的な理由がないとはいえず、みなし成功報酬の特約による約定報酬全額の請求は認められないであろう。ただし、履行の割合に応じた報酬と被差押債権との相殺は認められる。

(3) 信託的債権譲渡に対する詐害行為取消しの問題
 任意整理の配当財源を確保するための信託的債権譲渡が行われた場合において、一般債権者については公正かつ公平な任意整理が行われているとしても、優先債権である租税の徴収が困難になれば、租税債権者に対する関係においては、その信託的債権譲渡は詐害行為となる。
譲渡された売掛金等を譲受人である弁護士が取り立てて、債権者に弁済(配当)した後において、その信託的債権譲渡が詐害行為として取り消された場合は、取り立てて弁済(配当)した金銭相当額を弁護士個人が賠償しなければならないが、そのことは信託的債権譲渡を受けた時に予測できたことであり、租税を納付することによって回避可能であったことから、やむを得ないことである。したがって、弁護士が債権者への弁済(配当)した後において、租税債権者が詐害行為の取消請求をしても権利の濫用となることはない。
任意整理における債権者の関心は、配当財源がどれだけあり、自分がどれだけの弁済(配当)を受けられるかであり、債務者が租税を滞納していることや、売掛金等の信託的譲渡によって租税の徴収が困難になっていることには関心がなく、債務者又は受任弁護士からの説明がない限り知りえないのが通常である。したがって、一般的には、転得者である債権者は租税を害する認識がないということになり、弁済を受けた債権者に対する追及は困難であろう。

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